Amazon Web Services(AWS)はこのほど、新たなクラウドサービス「AWS IoT FleetWise」を発表した。高効率な車両のデータ収集とクラウド転送を実現するサービスで、コネクテッドカーや自動運転開発などを主なターゲットに据えている。
クラウドサービスをめぐる競争が激化する中、アマゾンは新たな一手でシェア拡大を推進していく構えだ。この記事では、AWS IoT FleetWiseの概要について解説していく。
記事の目次
■AWS IoT FleetWiseの概要
AWS IoT FleetWiseは、円滑な車両データの収集とニアリアルタイム(準リアルタイム)のクラウド転送を高効率で可能にする新サービスだ。フリートのデータを手軽にクラウドに収集し、そのデータを即座に活用することができる。転送するデータの選択や、各種データフォーマットの標準化も可能としている点がポイントだ。
自動車メーカーなどの開発者は、車両のモデルを問わずあらゆるフォーマットのデータを効率的に収集・一元管理することが可能で、データ形式を標準化することでクラウドにおけるデータ分析も容易に行うことができる。
コネクテッドカーの開発や自動運転開発、製品設計・エンジニアリング、製造、サプライチェーンなど、目的別ツールとして幅広く利用できるようだ。
AWS IoT FleetWiseには、①ルールベースのデータ収集②車両モデリング③エッジエージェント④リモートでの設定展開⑤グローバルシグナルカタログ⑥データエンジン――といった各機能が備わっている。
機能①:ルールベースのデータ収集
AWS IoT FleetWiseでは、価値の高いデータシグナルのみをクラウドに転送することができる。まず、安全装置のデータやカメラのデータ、その他センサーで生成されたデータなど、転送するデータをフィルタリングする。その後、天候や場所、車両タイプなどのパラメータに基づいて、データを転送するタイミングのルールとイベントを定義する。
この機能により、不要なデータを省きながら効率的にクラウドにデータ転送することが可能になり、コスト削減や労力を減らすことができる。
機能②:車両モデリング
クラウド上で車両の仮想的な表現を構築し、共通のデータフォーマットを適用して車両の属性やセンサー、信号を構造化し、ラベル付けすることができる。
VSS(Vehicle Signal Specification)を使用して車両モデリングを標準化する。モデル化後は、標準的なCANデータベース(DBC)やAUTOSAR XML(ARXML)ファイルをアップロードすることで、車両のCANバスを介して送信される独自のデータ信号を読み取ることができる。
機能③:エッジエージェント
AWS IoT FleetWise Edge Agentは、車両とクラウド間の通信を容易にする。車両の走行中、AWS IoT FleetWiseからのデータ収集スキームを継続的に受信し、それに応じてデータを収集してクラウドに転送する。データの所有と機密情報の管理を保全することができる。
機能④:リモートでの設定展開
AWS IoT FleetWiseでは、クラウドベースのデータ収集スキームを車両に展開し、車両がスキームを受信できることを確認し、受信できない場合にアクションを起こすこともできる。例えば、地下駐車場で車両が一時的に未接続となった場合、AWS IoT FleetWiseは、車両が応答するまで一定間隔でメッセージを再送信し続ける。
機能⑤:グローバルシグナルカタログ
すべての車両モデルの一元化されたリポジトリから、固有の車両センサーと信号を選択し標準化する。
機能⑥:データエンジン
AWS IoT FleetWiseは、収集した車両データをメタデータと車両属性で強化する。例えば、急ブレーキ時におけるシートベルトのデータ信号を収集した場合、車両モデルとドア数を付加することでデータを充実させ、クラウドにおけるイベントデータの分析を容易にする。
料金は従量課金制
AWS IoT FleetWiseを利用するための事前作業は不必要で、利用した分のサービス費用のみが課金される。2021年12月現在の価格は、車両1台あたり月0.6ドル、データ通信コストは100万メッセージあたり1.75ドルとなっている。その他、ほかのAWSサービスを併用すれば別途費用が発生する場合がある。
まず、米国バージニア州北部と欧州のフランクフルトでプレビュー版の提供を開始し、その他の地域に拡大していく。最先端のカメラセンサーによるデータ収集は、2022年前半に利用可能になるという。
■コネクテッドカーや自動運転車が生成するデータ
コネクテッドカーや自動運転車では、周囲の状況を把握するLiDARやカメラなどのセンサーが生成するデータをはじめ、GPSなどの位置測定センサーや加速度センサー、車両の状態や走行状況を示すデータなど、膨大なデータが常時生成されている。
開発事業者やサービス事業者は、これらのデータを収集・分析し、コネクテッドサービスの提供や自動運転開発を進めているのだ。
AWSによると、最近ではこれまでにないレベルの高度なセンサーを搭載した車両も登場し、1 時間に最大2TB(テラバイト)のデータを生成する車両もあるという。こうした膨大なデータをクラウドへ転送するコストは莫大なものとなる。
開発の場面においては、いかに優れたコスト効率でデータの収集、標準化、クラウドへの転送を行うことができるかが重要性を増しているのだ。
また、さまざまな車両モデルに多種多様なセンサーが搭載された結果、異なる独自フォーマットで生成されるデータが増加し、複雑化も進んでいるという。こうした各種車両データを収集・転送し、クラウドで分析するためには、幅広いフォーマットをまたいでデータを標準化できるカスタムのデータ収集システムの構築が望まれる。
AWS IoT FleetWiseは、こうした課題を解決するソリューションとして大きな注目を集めそうだ。
■自動車業界におけるAWS
AWSは、自動車業界向けに「AWS for Automotive」を提供するなど、早くから同業界との関わりを深めている。AIやML、IoT、HPC、データ分析といった一連の機能をはじめ 、高いパフォーマンスとセキュリティで各企業のデジタル化を促進し、開発から製品の市場投入までの時間を短縮するという。
AWSを活用する企業は、トヨタやホンダ、フォルクスワーゲングループやBMWグループ、起亜、タタモーターズといったOEMをはじめ、UberやLyft、Grabなどの配車プラットフォーマー、デンソーやコンチネンタルといったティア1、TuSimpleなどの新興企業など広範に及ぶ。
AWSによると、国内ではウーブンプラネットグループ(旧TRI-AD)が自動地図生成プラットフォーム「AMP」を開発する際にAWSのサーバーレスアーキテクチャを活用した。
【参考】TRI-ADによるAWSの導入事例については「AWS 導入事例:トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社|AWS(外務サイト)」を参照。
パートナー各社とのPoCを実施するプロトタイプの開発において、AWSのサーバーレスアーキテクチャとマネージドサービスを採用し、データのリアルタイム収集や大量データのバッチアップロード、開発ポータルなどの機能を持つプラットフォームをわずか 2 カ月で立ち上げたという。
また、自動運転開発を手掛けるティアフォーも、自動運転車の運行に必要な各種サービスを搭載したプラットフォームをAWS IoT CoreやAWS Fargateなど多彩なマネージドサービスを用いて構築した。
【参考】ティアフォーによるAWSの導入事例については「AWS導入事例:株式会社ティアフォー|AWS(外部サイト)」を参照。
日立は、コネクテッドカーに搭載するソフトウェアを無線で更新するOTAサービスプラットフォームをAWSで構築した。
アマゾンのAIやクラウドサービスをはじめとしたAWSはすでにさまざまな開発領域で活用されているようだ。AWS IoT FleetWiseの登場により、今後はデータ収集・解析を必須とするコネクテッドカーや自動運転開発分野でいっそうシェアを拡大しそうだ。
■【まとめ】シェア拡大に向け各社がソリューション拡大へ
自動運転開発はもとより、コネクテッド化が進む自家用車においてもデータの多様化・大容量化が加速しており、クラウドを活用したデータの収集・分析はもはや必要不可欠な存在となっている。
クラウドサービスでは、AWSのほかグーグルのGCP(Google Cloud Platform)やマイクロソフトの「Microsoft Azure」、IBMの「IBM Cloud」などがメジャーな存在で、それぞれが自動車開発や自動運転開発をターゲットに据えている。
単純なクラウドサービスを提供するだけではシェア拡大は困難で、いかに次世代モビリティに向けた開発やサービスを意識したコンテンツを提供できるがカギを握る。引き続き各社のソリューション開発に注目したい。
▼Amazon Web Services公式サイト
https://aws.amazon.com/jp/
▼AWS IoT FleetWise
https://aws.amazon.com/jp/iot-fleetwise/
【参考】関連記事としては「自動運転ベンチャーの米Aurora、クラウドサービスにAWS採用!」も参照。