米グーグル系のウェイモ社が自動運転タクシーによる商用サービスを2018年末に開始してから、早1年半が経とうとしている。同社はセーフティドライバーなしの自動運転も達成し、事実上レベル4を実用化したことになる。
ウェイモに続けと言わんばかりに開発が加速し、まもなく世界各地で自動運転タクシーサービスが産声を上げる見込みだが、自動運転の導入によって実際にどれほどコストは下がるのか。
ドライバー不足の観点もあるが、自動運転タクシーの導入における最大の利点は、事業者にとってはコストの低下、乗客にとっては料金の低下に集約される。
今回は、乗客が負担するコスト、つまり料金に注目し、自動運転技術の導入がもたらすインパクトに触れていこう。
【参考】関連記事としては「AI自動運転タクシー、「2020年目標」はGM・Tesla・Uber・ZMP 気になるトヨタの動向」も参照。
記事の目次
■自動運転タクシーのコストはどのくらい?
消費者コストは10分の1以下に
ドライバーが介在しない無人の自動運転タクシーにかかるコストはどれくらいか。運行管理に係るシステム費用や諸経費など、正確かつ詳細な情報はつかみきれないため、ここでは素直に調査会社などが試算した数字を利用する。
米調査会社のARK Investment(アーク・インベストメント)が2019年に発表した「BIG IDEAS 2019」によると、消費者が支払う1マイル当たりの移動コストは、従来のタクシーが3.5ドルであるのに対し、自動運転タクシーは約13分の1となる0.26ドルとしている。
▼ARKに資料
https://www.nikkoam.com/files/sp/ark/docs/ark-invest-big-ideas-2019-taxi.pdf
なお、2017年に発表した以前の調査では同0.35ドルと予測しており、今回の調査では遠隔オペレーターにかかるコストや割引率などを要因にコストが低下したようだ。
一方、米EV(電気自動車)大手のテスラは、2019年4月開催の技術説明会の中で「Robotaxi(ロボタクシー)」構想を発表した際、ライドシェアサービスに自動運転を導入すると1マイル当たりの運営コストは10分の1以下の0.18ドルに下がるとしている。
このほか、米コロンビア大学の試算では、ニューヨーク州のマンハッタンに自動運転タクシーを導入した場合、乗客にかかるコストは1マイル当たり0.5ドルとしている。
地域性や試算根拠などにばらつきがあるため一概には言えないものの、自動運転タクシーにおいて消費者が負担するコストは現在のタクシーと比較し10~15分の1に低下し、1マイル当たり0.2~0.5ドルとなる見方が強いようだ。
【参考】関連記事としては「ロボットタクシーとは?自動運転技術で無人化、テスラなど参入」も参照。
ロボットタクシーとは?自動運転技術で無人化、テスラなど参入 AI技術やIoT技術も搭載 https://t.co/l6QFiPOr78 @jidountenlab #ロボットタクシー #自動運転 #テスラ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) May 20, 2019
■1万円でどこまでいける?
1万円で可能な移動距離は約600キロ
自動運転タクシーの乗車料金は格段に低下することがわかった。では、1万円あればどれほど遠くまで行けるのか。
アーク・インベストメントによる試算「1マイル当たり0.26ドル」を適用し、1万円で何キロ走行できるかを計算してみよう。
まず、この数値をキロ/円に直すと、1マイル=1.6キロ、1ドル100円換算で1キロ当たり約16.3円となる。これは消費者が支払うコスト、つまり料金であるため、運営コストなど諸々を含めたうえでの料金とみなすことができる。
調査ではコストの詳細は明らかにされていないが、EVでエネルギー効率も高まればより少ないコストで長い距離を走行できるようになる。
この16.3円/キロで単純計算すると、1万円で約613キロ走行することが可能になる。仮に1ドル107円で換算しても、17.5円/キロで571キロ走行することが可能だ。海外データを参考にしているため単純計算では為替相場などに左右されてしまうが、参考数値としておおよそ600キロと考えることができる。
東京から大阪への移動が可能に
日本国内で600キロというと、果たしてどのくらいの移動に相当するのか。一般道の走行を前提とし、東京駅を起点にすると、大阪駅までの距離が約520キロとなる。神戸駅まで約560キロ、姫路駅まで約610キロだ。
北進すると、仙台駅まで約350キロ、盛岡駅まで約540キロ、秋田駅まで約560キロとなる。北陸方面では、新潟駅まで約350キロ、富山駅まで約400キロ、金沢駅まで約460キロだ。能登半島の輪島市(約510キロ)に行くことも可能だ。
参考までに、青森県青森駅から山口県下関駅までは約1500キロのため、あくまで単純計算だが2万5000円で本州を横断することができる計算となる。
少なからず、東京から大阪まで行くことはできそうだ。あくまで単純計算だが、4人乗車すれば1人当たり2500円を切る計算で、高速道路(新東名高速道路経由で約1万2000円)を使用しても、1人当たり約5000円となる。
■自動運転長距離タクシーの存在意義は?
鉄道やバスとの比較は?
参考までに、東京から大阪まで従来のタクシーを利用するといくらかかるのか。経路検索サイト「NAVITIME」で調べて見ると、予想価格約18万4000円(高速道路料金込み)と出た。交渉の余地がありそうだが、それでも10万~15万円といったところだろうか。なお、所要時間は高速道路利用で約6時間、一般道で約12時間となっている。
JRを利用した場合、新幹線利用で約1万3900円(約3時間)、特急利用で9000~1万3000円(約9時間)、高速バス利用で約9000円(約9時間)かかるようだ。
電車やバスといった他のモビリティと比較すると、「自動運転タクシーに乗ってわざわざ東京から大阪まで行くメリットがあるのか」……と考える方も多いのではないかと思う。自動運転に限らず、タクシーは基本的に短中距離の移動を想定したサービスだからだ。
ただ電車やバスは基本的に「出発時刻」が決められており、運行していない時間帯もある。そんなときには、東京・大阪間であったとしてもタクシーは有用だ。またタクシーは「ドアtoドア」の移動サービスのため、出発地から目的地に乗り継ぎをせずにダイレクトに移動できるというメリットもある。
タクシーであればパーソナルな移動で途中下車の旅も楽しめる。自動運転タクシーを貸切ることになり、もはや自動運転レンタカーと化すが、気の赴くまま寄り道を楽しみながら遠方に出かけることができそうだ。
自動運転が移動×Xサービスを可能にする
また、長距離タクシーを「タクシー」という枠ではなく「新たな移動サービス」として捉えた場合、この低コストモビリティの応用形が見えてくる。
例えば、自動運転車を活用したホテルだ。サイズ上カプセルホテル相当の無人サービスとなるが、夜間、長距離を移動しながらパーソナルな空間でゆっくり休憩をとることができる。移動サービスと宿泊サービスを合わせることで、新たな付加価値が生まれるのだ。
深夜の長距離高速バスを自動運転化した場合と比較すると、自動運転バスではパーソナルな空間の確保に限界があるほか、コストを押し下げるドライバーレスの効果も総乗客数で案分されるため、自動運転導入による消費者一人当たりのコストが10分の1まで下がることはない。ここに新たな需要の余地が生まれるのだ。
自動運転ホテルタクシーの需要が実際にどれほど見込めるかは未知数だが、自動運転による移動サービスをあらゆるサービスと結び付けてビジネス性を持たせていくことが、真の意味でモビリティ革命をなし得るのではないだろうか。
■【まとめ】自動運転が移動に付加価値をもたらす
自動運転タクシーの乗車料金の低下が、通常の近距離移動におけるタクシー需要を大きく喚起するのは言うまでもないことだ。
注目したいのは、移動コストの低下が新たなサービスを呼び起こす点だ。タクシーサービスそのものも既成概念の枠を超え、新たな移動サービスに進化する可能性がある。
自動運転は、移動コストを低下させると同時に、移動に付加価値を結び付けるきっかけを与える。この付加価値こそが移動革命を引き起こすのだ。
【参考】関連記事としては「【最新版】自動運転車の実現はいつから?世界・日本の主要メーカーの展望に迫る|自動運転ラボ」も参照。