【ルポ・北海道地震】交通マヒ、AI自動運転なら防げた悲劇 自動車イノベーションと災害大国・日本の関係

AIは動揺しない、タクシー運転手も家族のもとへ



午前6時ごろの北海道札幌市内の交差点=撮影:自動運転ラボ

奇妙な音で目が覚めた。午前3時過ぎ、iPhone 8の緊急地震速報が鳴った。それとほぼ同時に、真っ暗闇の中で身体がベッドの上で大きく揺さぶられた。北海道札幌市で震度7の地震に遭い、その後、食料と移動の足を確保するための戦いが始まった。

住んでいるマンションに大きな被害は無かった。住んでいたのは5階だ。ドアから外に出ても、廊下に飛び出している人の姿はまだ見当たらなかった。エレベータは危険だと感じ、初めて使う非常階段を使って5階から地上に降りた。信号は点いていた。


しかし、信号は消えた。消える瞬間、どこからともなく「ばすっ」という音がした。信号と同時に周囲のマンションから一瞬光が消えたが、すぐ非常用照明がついたようで、真っ暗闇というわけでは無かった。しかし、信号は消えたままだった。

一度部屋に戻って、真っ暗の中、冷蔵庫をあけた。スマホの動画撮影モードでフラッシュをつけっぱなしにして中をのぞくと、引っ越したばかりだったこともあり、部屋には前の日に買ったタコのお刺身しかなく、これはすぐ駄目になると思った。すぐコンビニへ行く必要性を感じ、着の身着のまま、また外に出た。

最寄りのコンビニまでは徒歩5分。遠くはないが、自宅前の片側2車線の幹線道路を横切る必要があった。交通量が割と多い地域だったこともあり、実際道路を横切るだけでも5分ほどタイミングを見計らった。コンビニは真っ暗だったが営業をしていた。レジには既に10人ほどが並んでいた。

パンと飲み物、iPhone用の乾電池式充電器などをカゴに入れてレジに並んだ。自分の番が来る前に一騒動起きた。「何とかなりませんか?」「申し訳ありません」という客とレジの人の会話。その客はクレジットカードが使えず、現金を持ち合わせていなかった。


たまたま自分は8000円ほど財布に現金が入っていた。とりあえず5000円分ほどの買い物をし、部屋に戻った。

午前5時ごろの北海道札幌市内のコンビニ「セイコーマート」の店内=撮影:自動運転ラボ
■交通は混乱、現金をおろしタクシーを拾う

部屋に戻るとまだ停電は続いていた。停電が続くかもしれないという懸念から、なるべくスマホのウェブブラウザでのニュース検索は控えた。スマホの通信契約は「LINEモバイル」の月上限3GBというものだったため、使い放題のLINEアプリからLINEニュースで情報を集めるようにした。

「ピー」「ピッピ—」。午後6時すぎ、既に明るくなっていた外から笛の音が聞こえた。5階の部屋から自宅前の交差点を見ると、警察官が交差点で交通誘導を行っていた。信号はバックアップ電源などですぐ復旧しているわけではなく、相変わらず消えたままだった。

けたたましいサイレンの音が聞こえることも増えた。近くにある札幌市立病院へ向かう救急車のようだった。「道を空けて下さい!」と救急隊員の怒号に近い声が何度も聞こえた。


そのころ、実家に向かおうと考えるようになった。しかしニュースによれば、JRもバスも全線運休となっており、車も所有していないため、約20キロ離れた自宅にすぐ向かう方法を考え、途方に暮れた。「そうだ、タクシーだ」。そう思いついたが現金がない。ネットで動いているATMを調べると、札幌市立病院のATMが非常用電源で動いているとの情報を得た。

ATMまで約30分かけて歩き、10万円を引き出して自宅に戻った。そして実家へ向かう準備をして、タクシーを拾おうと非常階段で地上に下り、流しのタクシーを探した。たまたまタイミングよくタクシーを拾えたのは幸運だったと思う。

タクシーの運転手と色々話をした。タクシーの運転手によれば、今回、私を乗せるのが今日の最後に営業になるらしかった。ある程度遠くにいく場合、戻ってくるタクシー用のガスも必要になるため、この日はそれ以上の営業が難しいということだった。ガスを入れる拠点も軒並み閉鎖していたからだ。

運転手によれば、その少し前に交通事故の瞬間を目撃したという。信号が消えていた交差点で、自転車に乗った小学生くらいの子供が乗用車にはねられたという。「車を運転していたドライバーも、自然災害が無ければ事故は起こしてなかったのかもしれないね」。タクシーの運転手がそう言っていた。

タクシーの運転手も、早く自宅に戻りたいと言っていた。さらに大きな地震が来る可能性も考えると、家族のことが心配でならないという。そんな会話をしながら約50分タクシーに乗り、無事実家の両親と合流した。

■災害大国・日本と自動運転技術の進化

自動運転という次世代イノベーションは、こうした災害時にどのような影響を与えるのだろうか。そのことを考えた。

自動運転車の動力が確保され、正常に人工知能(AI)が動いているという前提で考えると、私がコンビニへ行こうと幹線道路を横切ろうというとき、自動運転車は暗闇の中でも光センサーのLiDAR(ライダー)や高精度カメラで私を検知し、止まってくれたかもしれない。そして私はもう少し早くコンビニ着けたかもしれない。

LiDARは、デンソーやボッシュなどのサプライヤーのほか、世界各国のスタートアップ企業も開発合戦に名乗りを上げ、日々その技術が進化を遂げている。こうした技術の進化が、より災害時の命に関わる対応を迅速化してくれるかもしれない。

しかし、そもそも停電の影響で自動運転車がクラウド上から交通情報などを得られず、自車位置特定に何らかの悪影響も出たら、自動運転車はそもそも走行できないかもしれない。5段階に分けられる自動運転レベルレベル4(高度運転自動化)以上では、ハンドルやブレーキが車両に搭載されない。そのため手動での運転もできなくなり、人々は移動の足を失うかもしれない。

タクシーの運転手が見た交通事故も防げたのかもしれない。災害時、人は少なからず動揺する。動揺すれば注意力も散漫になり、事故につながる。しかし、AIには「動揺」がない。人が動揺するような事態でも平時と変わらない検知能力を発揮してくれる。

日本では名古屋大学発のティアフォーが自動運転ソフトウェアを開発している。こうしたソフトウェアが搭載された自動運転車であれば、地震によるこうした二次災害を減らすことにつながるかもしれない。

タクシーに自動運転機能が搭載されるようになれば、タクシーの運転手はその機能をオンにして自動でタクシー営業を車両にさせれば、災害時に働く必要がなくなる。その時間、家族の近くにいることができる。たまたま出会ったタクシーの運転手の望みが適う。

自動運転タクシーは日本国内では自動運転ベンチャーのZMPが世界初の実証実験を東京でスタートさせた。2020年までの実現を目指し、さらなる技術発展に努めている。ZMPの自動運転タクシーには、こうしたタクシー業界で働く運転手に災害時に貢献することになる。

地震発生後、救急車が何度も自宅前を通っていた。自動運転車が普及すれば、救急車を自動運転車が検知して、速やかに道を譲るようなことが実現されるかもしれない。そうすればより多くの命が救われることにもつながる。

■自動運転エンジニアの貢献度は大きい

北海道で発生した震度7の巨大地震。それに伴う交通の混乱は、21世紀最大のイノベーションと言われる「自動運転化」を改めて考える契機になりそうだ。こうした災害時の課題を解消する意味でも、自動運転開発に関わるエンジニアの貢献度は大きい。

災害大国・日本と自動運転。その関係性を、日本国民は真剣に考えなければならないときが来ているのかもしれない。

【参考】緊急時と自動運転車について考える記事としては「自動運転のAIは救急車のピーポー音をどう認識するか LiDARやカメラは「音」は守備範囲外|自動運転ラボ」も参照。


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