【インタビュー】タクシー相乗りアプリ開発、「駅の行列」きっかけ NearMe社・髙原幸一郎社長

「途中から相乗り」サービスも



自動運転ラボのインタビューに応じるNearMe社の髙原幸一郎社長=撮影:自動運転ラボ

コストシェア型のライドシェアやタクシー配車アプリなど、日本で「移動」に関するさまざまな新サービスが盛り上がりを見せるなか、同じ方向に向かう人同士でタクシーに相乗りする、という新たなアプローチでアプリを展開している企業がある。楽天出身の髙原幸一郎氏が2017年7月に設立した株式会社NearMeだ。

同じ方向に向かう人がタクシーに一緒に乗れば、1人当たりの運賃は安くなるという非常に明解な仕組みだ。タクシーの運転手は関与せず、乗客同士でサービスの利用が完結するのも特徴で、ユーザー間での運賃のシェアもクレジット決済で完結する。


同社は2018年初旬、日本生命子会社による起業支援プログラムを通じて5000万円の資金調達を実施し、6月にこの仕組みを実装したスマートフォン向けアプリ「nearMe.」をリリースした。その後も相乗りの予約機能を追加するなど、どんどんアプリを進化させている。

自動運転ラボはNearMe社の髙原社長にインタビューし、起業のきっかけや今後の展望について聞いた。

【代表取締役社長・髙原幸一郎氏プロフィール】たかはら・こういちろう 東京出身。シカゴ大学経営大学院卒。2012年に楽天株式会社に入社。グループ会社であるケンコーコム執行役員、米OverDrive社の副社長/取締役、仏Aquafadas社のCEOを歴任し、2018年1月から現職。

■自分の原体験がきっかけに…タクシーの行列を根本的に解決
Q 髙原社長が起業された経緯を教えて下さい。

私は学生時代は起業に対する強い気持ちは持っていませんでしたが、2012年に楽天に入社したことが転機となり、結果としていまの会社を起業することにつながったと考えています。楽天は事業内容が多岐に渡り、新規事業も多かったので、会社員をしながらスタートアップを疑似体験できた感覚です。


楽天が買収した企業のマネージメントの方々と仕事をさせて頂くことが多かったのですが、そうした人たちは事業への想いや会社へのコミットメントの深さは、他の方と全く異なっていました。

こうした体験や環境が背中を押してくれて起業に至ったというのもありますし、普段生活している環境の中で色々な課題を原体験を通じて認識しておりまして、その課題を解決するために起業したという面もあります。

Q 相乗りアプリの構想は元々あったんでしょうか。

2018年6月末にリリースした相乗りアプリ(nearMe.)のコンセプトは、自分の原体験から生まれました。

私は郊外に住んでおり、駅から自宅方面への最終バスが出てしまったあとは、帰宅にタクシーを使う必要があったのですが、そのときタクシー乗り場にはいつも行列ができていました。


雨の中や寒い日に行列に並んでいるとき、よく「同じ方向に行く人が絶対にいるのに…」と思っていました。ほとんどの場合、タクシー1台に乗車する人数は1人でした。これは非効率過ぎるのではないかな、と思ったんです。この課題を解決するのがミッションだと感じました。

また、私が住んでいる地域には、車が無いとスーパーや病院など生活に欠かせない場所に行けないという課題があります。公団住宅に暮らしているお年寄りも多く、公共交通機関がない中での移動というのは本当に大変だということを目の当たりにして、この移動に関する課題の解決に取り組みたいとも考えていました。

不謹慎かもしれないですが、有事や災害などあった場合にはそれこそ「移動難民」になってしまいます。移動に関する課題解決から取り組み始めるのが、地域や社会に大きく貢献できる方法だと思いました。

■日本らしい「ライドシェア」の形を模索
Q 従来の海外型ライドシェア方式と違った形をとったのはなぜですか。

私は海外で仕事もしていたので、(ウーバーやリフトなどの)ライドシェアは生活の一部のようになっていました。ただ海外型のライドシェアの仕組みだと、日本の法規制に引っ掛かってしまいますので、日本らしい、日本に一番適した仕組みはないかと探していました。

そんな中、既存のタクシーを活用しつつ、「人」にフォーカスしたマッチングが一番スケールしやすいのではないかと思い、現在のモデルに行き着きました。タクシー会社を問わずに利用できる、タクシー代が安くなる、などの利用者側のメリットは多く、実車率が低いと言われている日本のタクシー業界にも貢献できていると思います。

Q このビジネスモデルは特許も出願中なんですか?

はい、現在出願中です。

このマッチングサービスは、相乗りするお客様にとっては料金が最大40%もお得になります。またアプリ自体も、相乗りして(負担料金が)安くなる時にしかユーザー同士をマッチングさせないアルゴリズムにしています。事前に各ユーザーの料金を割り勘機能で算出し、タクシー乗車後の清算はクレジットカードで行われます。

アプリを開いていないときでも、マッチングされるとプッシュ通知が届きます。写真や性別などの簡単なプロフィールは、「合意」前に分かるのでユーザーも安心して使うことができます。メッセージのやりとり向けにテンプレートも用意してあり、送信も簡単です。

待ち合わせ場所などの目印になる対象物を撮影して、メッセージで送ることもできます。また最後に会うときには大体が電話になると思うのですが、アプリ内通話ができますので、相手に電話番号を知らせずに通話することも可能です。

Q サービスを始めて、トラブルなどは発生したことはありますか?

タクシーの運転手は元々関与していないので、今後もトラブルはほぼ発生しないと考えています。ユーザー同士のマッチングにおいては、事前の合意の上、メッセージのやり取り後もキャンセルもできますし、通報や報告もできます。もしユーザー同士のトラブルがあった場合には、それ以降はマッチさせない、それ以上ひどい場合には退会していただく、という方法をとります。ただ実際に現時点までにそのようなクレームはないですね。

■「途中から乗れる」サービス展開も目指して
Q ユーザー数の伸びやユーザーの獲得方法について教えて下さい。

リリース以降は順調に伸びています。オフライン(ビラ配りなど)とオンライン(Web告知)の両方でユーザーを獲得しています。

このオンライン時代においても、実際に課題が起きている場所、すなわち行列ができているタクシー乗り場や、行列のできやすい地域にアプローチする営業方法の方が、(ユーザー獲得という点において)早いこともあります。

私ももちろんビラ配りをしました。新宿や渋谷、立川、吉祥寺、青葉台、溝の口などで朝の通勤中の方々に手渡したり、深夜22時から2時ごろまで渋谷や新宿で実際にタクシー待ちをしている方に配ったりしました。なかなか楽しい作業でした。

また我々のアプリは、やみくもにインストール数を増やすというわけではなく、同じタイミングで同じエリアでアプリを使うユーザーを増やさないといけません。ユーザーが増えれば増えるほど便利になるという仕組みになっています。

今後は、(タクシーに乗車している人がアプリを使っていると)途中からでもユーザーが乗車できるような仕組みになりますので、そうするとマッチング率が5倍以上増えると見込んでいます。

■魅力溢れる地域の食や観光などとのマッチングも
Q 「NearMe」という社名にはどのような思いがこめられているのですか?

社名には、私の周りをもっと良くする、便利にする、という思いを込めました。

弊社は「社会のあらゆる非効率を、テクノロジーを活用したプラットフォームを提供することで解決し、サスティナブルで楽しい社会・地域を実現すること」というミッションを掲げています。現時点ではタクシー相乗りマッチングという移動に特化したサービスのみを提供していますが、それ以上のものを含め、包括的な地域活性化プラットフォーム作りを目指しています。

Q アプリでの今後の展開については?

私は仕事柄、出張で海外や地方に行く機会が多かったのですが、現地でその場所ならではの食べ物やイベントなどを体験したいと思っていても、情報を集めたり、実際にその場に足を運んだりすることに時間がかかることに悩ましさを感じていました。しかしその土地でしか味わえない味や体験にはとても感動しますし、貴重な時間です。

そこで今、そうした「モノ」「コト」を発見しやすいプラットフォームづくりを目指しています。例えば、リアルタイムの位置情報を活用した地域情報とユーザーの需要のマッチングです。イベントやレストラン、観光、地域の情報などがアプリに自動的で追加されていくような展開を、さまざま企業や行政などとタッグを組みながら目指していきたいと考えています。

■タクシー実車率向上にも貢献できる補完関係

現在、さまざまな企業がタクシー会社を巻き込んで配車アプリを開発している。その中では”異端”とも言える戦略を掲げるNearMe社。髙原社長が目指す地域の資産やコンテンツなどもマッチングさせるプラットフォーム構想にも期待しながら、同社の事業展開に今後も注目していきたい。

【参考】nearMe社については「nearMe.でタクシー相乗りマッチング 元楽天の起業家が新アプリ ライドシェアがNGなら…」、「タクシー相乗りを事前予約、アプリ「nearMe.」に新機能 東京都内など首都圏で展開」も参照。


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