1948年、浜松の小さな町工場で自転車用補助エンジンの製造からスタートした本田技研工業(本社:東京都港区/八郷隆弘社長/以下ホンダ)。今では国内シェア2位(2017年販売台数)、世界でも7位(同)の世界有数の自動車メーカーとして存在感を発揮している。
過去には世界初のカーナビシステム「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」の商品化やF1での大躍進、二足歩行を可能にした人間型ロボット「ASIMO」の開発など、その時々の最新技術で新たな道を切り開いてきた。
新規性あふれる技術を有するホンダは、現在の安全運転支援システムから今後到来する完全自動運転時代に向け、どのような戦略で立ち向かうのか。ホンダの今と今後を探ってみた。
■ホンダの自動運転戦略
自動運転領域:ホンダセンシング標準装備化へ
先進安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダセンシング)」のさらなる普及に取り組み、2018年秋発売予定の新型「N-BOX」から軽自動車への標準装備化を開始する。今後は、日本においては全ての新型モデルで標準装備化し、北米や中国、欧州など他の地域でも適用を拡大していく方針。
自動運転技術を通じて「全ての人に交通事故ゼロと自由な移動の喜びを提供する」ことを目指しており、①事故にあわない社会の実現②誰もがいつまでも自由に移動できるモビリティの提供③移動が楽しくなる自由な時間と空間の創出―を柱に据える。
2020年に高速道路における自動運転技術を実現し、その後一般道に拡大し、より広いエリアで使えるようにしていく。高速道路における自動運転については、ドライバーの指示なしで複数車線の自動走行を可能とする自動車線変更機能や、渋滞時にドライバーが周辺監視を行う必要がない自動運転の実用化を目指す。さらに、パーソナルカーユースに向けた自動運転レベル4(高度運転自動化)について、2025年ごろをめどに技術的な確立を目指すこととしている。
電動化領域:燃料電池自動車に加えEV開発を強化
2030年に世界販売の3分の2を電動化することを目指している。ハイブリッドモデルの拡大はもとより、ハイブリッドをベースとした独自の高効率プラグイン・ハイブリッドシステムを生かしたモデルを今後の開発の中心として取り組む。また、燃料電池自動車に加えEV(電気自動車)の開発を強化していく。
二輪車においてもコミューターでの電動化を目指しており、2018年に電動スクーターの投入を予定。着脱式で簡単に交換や充電ができるモバイルバッテリーを用いた電動コミューターシステムを研究開発している。
自動運転や電動化をめぐる動き:WaymoやGMと協力体制構築
2016年12月に米Google傘下の自動運転研究開発会社Waymo(ウェイモ)と、米国において自動運転領域の共同研究に向けた検討を開始。2017年1月には、業界初となる先進の燃料電池システムの量産をおこなう合弁子会社を米GM(ゼネラルモーターズ)とともに設立することを発表した。
2017年3月には、日立オートモーティブ・システムズ社と電動車両用モーターの開発・製造・販売を事業として行う合弁会社設立に向けた契約を締結した。2017年4月には、ロボット技術やモビリティシステム、エネルギーマネジメントといった新価値領域における研究開発の強化に向け、本田技術研究所が新設した「R&DセンターX」が稼働を始めている。
設備投資や研究開発:2018年度は研究開発費9.4%増 選択と集中進める
設備投資では、生産能力が不足している中国において、東風本田汽車有限公司の第三工場を2019年稼働開始に向け建設を進めている。拡大が想定される電動化対応については、電動車両用モーター領域や燃料電池システムの共同開発・量産などのアライアンスも検討するとともに、経営資源を有効活用し、設備投資額の増加を抑制していく。
研究開発については、技術者が自由闊達に研究開発活動を行い、先進の技術によって個性的で競争力のある商品を生み出すことができるよう、主要な研究開発部門を子会社として独立させている。2017年3月期の研究開発支出は前年度比4.8%減の6853億円となったが、2018年3月期は同9.4%増の7500億円を計画している。
今後の電動化技術や先進安全技術などの導入に向けて研究開発費用の増加が見込まれていることから、既存分野の開発効率をさらに高め、オープンイノベーションを積極活用することにより研究開発領域の選択と集中を進め、効率的な研究開発活動を推進していく方針。
■ホンダのADAS・自動運転機能
新型車への標準搭載を進めているホンダの安全運転支援システム「ホンダセンシング」は、ミリ波レーダーと単眼カメラとコントロールユニットで構成されており、2種類のセンサーを組み合わせることで、クルマの周囲の状況をより高い精度で認識することができる。
衝突軽減ブレーキ(CMBS)
センサーで前走車や歩行者を検知し、衝突するおそれがある場合、音とメーター内の表示で警告し注意を促す。さらに接近した場合は軽いブレーキングを行い、衝突のおそれが高まった場合は強いブレーキングを行い、衝突回避・被害軽減を支援する。
誤発信抑制機能
停車時や時速10キロメートル以下で走行中、自車のほぼ真正面の近距離に車両などの障害物があるにもかかわらずアクセルペダルを踏み込んだ場合に、エンジンやモーターなどのパワーシステム出力を抑制し、急な発進を防止するとともに、音とメーター内の表示で接近を知らせる。
歩行者事故低減ステアリング
歩行者側の車線を逸脱し、歩行者と衝突のおそれがある場合において、音とメーター内の表示で警告する。さらに車道方向へのステアリング操作を支援することで、ドライバーの回避操作を促す。
路外逸脱抑制機能
単眼カメラで車線(実線や破線)を検知し、メーター内の表示とステアリング振動の警告で注意を促すとともに、車線内へ戻るようにステアリング操作を支援する。それでも道路から大きく逸れそうな場合は、ステアリング操作の支援に加えて自動的にブレーキによる減速を行い、車線内へ戻るように支援を行う。時速60~100キロメートルで作動する。
アダプティブクルーズコントロール(ACC)
あらかじめ設定した車速内でクルマが自動的に加減速を行い、前走車との適切な車間距離を維持しながら追従走行し、ドライバーの運転負荷を軽減する。前に車が割り込んで来た際は自動的にそのクルマに追従走行し、前走車が車線変更などでいなくなった際は設定速度まで自動的に加速する。
渋滞追従機能付きのシステムは、前走車が停止したら自車も自動的に停止し、前走車が走り出した際はスイッチ操作やアクセルで追従走行を再開する。時速30キロメートル以上(渋滞追従機能付は0キロメートル以上)で作動する。
車線維持支援システム(LKAS)
高速道路を走行する際、単眼カメラで車線を検知し、クルマが車線の中央付近を維持して走行するようにステアリング操作を支援する。車線をはみ出しそうになると、ステアリング振動の警告で注意を促すとともに、車線中央付近へ戻すようにステアリング操作を支援する。時速65キロメートル以上で作動する。
先行車発進お知らせ機能
信号待ちなどの停車時に、ミリ波レーダーが前走車の発進を検知し、ドライバーがアクセルを踏まなかった場合は、音とメーター内の表示で前走車の発進を知らせる。
標識認識機能
単眼カメラで道路標識を認識し、適切なタイミングでメーター内に表示し、標識への注意を促す。
後方誤発進抑制機能
停車時や時速10キロメートル以下の低速後退時、センサーがほぼ真後ろの近距離にある壁などの障害物を検知し、ドライバーがアクセルペダルを踏み込んだ場合の急な発進を抑制する。
オートハイビーム
夜間など暗い道をロービームで走行中、単眼カメラで前方の状況を検知し、街灯などがなくて暗い場所では見やすいように自動でハイビームに切り替え、前走車や対向車を検知するとロービームに切り替える。時速30キロメートル以上で作動する。
■ホンダの関連ニュース
AI(人工知能)分野で京都大学、ボストン大学と共同研究を開始
ホンダの研究開発子会社であるホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンが2017年4月、AI研究を加速するため京都大学大学院情報学研究科とプロジェクトチームを立ち上げ共同研究を開始したことを発表した。
また、同年5月には、連結子会社であるホンダ・リサーチ・インスティチュートが米ボストン大学とAIの情報セキュリティー領域において共同研究を開始することに合意したと発表している。
【参考】詳細はホンダ公式ニュースリリース「京都大学 大学院情報学研究科と人工知能の新たな共同研究を開始」やホンダ公式ニュースリリース「人工知能の情報セキュリティー領域でボストン大学と共同研究を開始」を参照。
ソフトバンクと5G環境下で共同研究
ソフトバンクと本田技術研究所が、第5世代移動通信システム「5G」の普及を想定し、新たな体験や価値を提供するコネクテッドカー技術の強化を目的とした共同研究の検討を開始したことを2017年11月に発表した。
2018年度にソフトバンクが本田技術研究所の鷹栖プルービンググラウンドに5G実験用基地局を設置し、5G環境下での共同研究を本格化する予定。
【参考】詳細はホンダ公式ニュースリリース「ソフトバンクとHondaが第5世代移動通信システムを活用したコネクテッドカー技術の共同研究を開始」を参照。
クルーズ・GMと無人ライドシェアサービス用車両の開発で協業
GMクルーズホールディングスLLC、及びGMと、自動運転技術を活用したモビリティの変革に向けて協業することを2018年10月に発表した。
ホンダは、さまざまな使用形態に対応するクルーズ向けの無人ライドシェアサービス専用車の共同開発を行う。協業に向け、クルーズへ7.5億ドル(約850億円)出資するほか、今後12年に渡る事業資金約20億ドル(約2200億円)を支出する予定。
【参考】クルーズとの提携については「ホンダ、米GMと自動運転開発で提携 無人ライドシェア用車両を開発へ 子会社クルーズに850億円出資」も参照。
救急自動通報システム「D-Call Net」本格運用へ
ホンダは2018年6月、認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク、トヨタ自動車株式会社、株式会社日本緊急通報サービスと、救急自動通報システム「D-Call Net」の本格運用を開始したことを発表した。
D-Call Netは、車両のコネクテッド技術を活用した救急自動通報システムの一つで、交通事故発生時の車両のデータを国内の事故データ約280万件をベースとしたアルゴリズムに基づき自動で分析し、死亡重症確率を推定して消防本部や協力病院に通報するシステム。
2015年11月から試験運用を行っており、このほど協力するドクターヘリ基地病院に加え、全国約730カ所の全消防本部に車両の死亡重症確率データを伝達する体制が整備されたことを受け、本格運用を開始した。
ホンダセンシング搭載車 米国で100万台突破
ホンダは2018年4月、米国におけるホンダセンシング搭載車の累計販売台数が100万台を突破したことを発表した。
米国内での搭載車販売台数は、2017年には月間平均5万台以上と前年同期に比べて倍増しており、2018年モデルにおける搭載率は69%に達している。2020年には95%以上で標準装備化を達成する予定という。
【参考】ホンダセンシングについては「米国でのホンダセンシング搭載車、累計販売100万台突破 自動運転実現への注目技術」も参照。
■ホンダセンシングにはASIMOのDNAが受け継がれている
ホンダがセンシング技術を開発していくうえで生かされたのが、二足歩行ロボット「ASIMO」で培った技術だ。現在地や周囲の状況を認識しながら机や椅子などを自律的に避けながら歩くASIMOには、高度な制御技術やセンサー技術、メカトロニクスなどを融合したロボティクスの最先端技術が活用されており、このASIMOの開発スタッフが自動運転技術の開発にも携わっているという。
こうした技術が脈々と受け継がれる土壌こそがホンダの武器であり、新時代を勝ち抜くアドバンテージになっていくのである。
【参考】関連記事としては「自動運転車とは? 定義や仕組み、必要な技術やセンサーをゼロからまとめて解説|自動運転ラボ」も参照。