自動運転レベル3(条件付運転自動化)搭載車がいよいよ市場に登場し始め、運転を支援するシステムから完全自動運転へまた一歩前進した。法整備や国際的なルールづくりも待ったなしの状況で、より高レベルな自動運転車の実用化も現実味を帯びてきた。
そこで、自動運転車が普及することによりどのようなメリットが想定されるか考察してみた。
記事の目次
■メリットその1:交通事故の減少
真っ先に挙げられるメリットが交通事故の抑止効果だ。警察庁交通局が発表した統計をみると、2017年中に発生した交通事故は47万2165件あり、このうち信号無視や漫然運転などの法令違反は44万7089件だった。
運転に関する法令違反は、基本的に自動車が犯すものではなく、故意かどうかはともかく、ドライバーが犯す人為的なものだ。このドライバーの役割が人からシステムへ移行することで、故意や不注意といった原因が排除され、交通事故の大幅な減少に期待が持たれる。
また、現在普及が進んでいるレベル1(運転支援)とレベル2(部分運転自動化)の自動運転においても、事故の未然防止や被害を最小限にとどめる効果が認められている。
【参考】自動運転レベルの各レベルの詳しい定義や技術水準については「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説|自動運転ラボ
■メリットその2:渋滞の緩和
渋滞の発生原因として、先行車のブレーキ操作が後続車へ連鎖して広がっていくケースや、道路工事や事故などで物理的に交通そのものがストップしているケース、年末年始や大型連休などのときに道路の輸送キャパシティを大きく超えてしまうケースなどが挙げられる。
自動追従システムに代表されるように、コンピューターが速度制御を正確に行ったり、リアルタイムで混雑情報などを収集し、効率的な行程管理を行ったりすることで渋滞緩和が期待されるというメリットがある。
【参考】自動運転車と渋滞の関係については「自動運転車が渋滞を緩和させるワケ 米ミシガン大学の研究「たった1台でも軽減」|自動運転ラボ
■メリットその3:運転からの解放
車間距離を一定に保つACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)などにより、運転に関わるドライバーへの負担はすでに軽減されているが、完全自動運転が実現すれば、ドライバーは運転そのものから解放される。
長距離運転時の疲れや見知らぬ土地を走行する際の緊張などが軽減されるだけでなく、極論すれば、電車やタクシーに乗っている状態と変わりないため、食事をしたり仕事をしたりしながら移動することができる。こうして、車内で過ごす時間を有効に活用することができるのは大きなメリットだ。
【参考】ACCを含むさまざまな技術の集大成により、自動運転車が普及する未来が実現する。自働運転社会の実現のために求められる技術などは「自動運転に必須の7つの先端技術 認識・予測技術や位置特定技術、AI技術…|自働運転ラボ
■メリットその4:保険料が安くなる
交通事故の減少に呼応する形で自動車保険が安くなることも想定される。また完全自動運転の場合、万が一の事故時における法的責任の所在が自動車メーカーに移ることも考えられる。
【参考】自動運転車と保険に関するニュースとしては「自動運転車へのサイバーリスクに対応 東京海上日動、保険商品開発へ|自動運転ラボ
■メリットその5:物流コストの低減
インターネット通販の普及や拡大に伴い、物流業界における人手不足が深刻化しているのは周知のところだ。急速な需要の拡大と「送料無料」や「当日配達」といった通販業者のサービス戦争に巻き込まれ、本来喜ぶはずの大口契約を業者側が受けられないケースなども出ている。
このような状況下だが、物流業界も黙っているわけではない。業界として国土交通省や経済産業省の協力のもと、「トラックの隊列走行」の実現に取り組んでいる。有人の先頭車に無人の後続車が隊列を組んで追従する枠組みで、実現すれば物流業界の人手不足を補うとともに、コスト減による恩恵が消費者側にもめぐってくるかもしれない。
■メリットその6:公共交通への応用
無人での自動運転は、定められた道を定められた時間に定期運行する公共交通機関との相性が良い。コスト減による運賃の値下げも期待できるが、赤字運営が前提となっている地方の路線バスなどで特に強みを発揮し、地方の公共サービス存続に貢献する観点からも注目が集まっている。
国土交通省は、住民の高齢化が進む郊外のニュータウンなどでバスやタクシーなど公共交通機関に自動運転システムを導入する実証実験にすでに乗り出している。
なお日本国内においては、神戸新交通が運営するポートアイランド線(通称ポートライナー)が1981年から自動無人運転方式で運行しているという先例もある。
【参考】自動運転バスなどを過疎地に導入する実証実験は日本各地でも実施されている。関連ニュースとしては「長野で実施の自動運転バス実験、反対住民わずか1% 自動運転レベル2、自動運転レベル4で走行|自動運転ラボ
■メリットその7:カーシェア・ライドシェアの利便性アップ
自動運転技術の進展により、カーシェアやライドシェアの利便性も高まる。運転に不慣れなペーパードライバーも気軽に利用でき、「スマートフォン1つで車を呼び出して目的地へ」といった使い方も想定される。ICT(情報通信技術)機能を搭載したコネクテッドカーの技術も高まるにつれ、利用者同士の情報も共有され、より効率的な配車も可能となる。
都市部においては、特に駐車場を1カ所確保するのにも苦労することが多い。自家用車を持たず必要な時にだけ車をシェアするライフスタイルが浸透するかもしれない。
■メリットその8:駐車場不足の緩和
カーシェアリングの項でも触れたが、都市部においては特に駐車場問題は大きな課題だ。そんな中、自動運転により車が自ら駐車可能なスペースを探し、降車後に自動的に駐車する機能が備われば、多少離れた場所に駐車場を確保することもできるようになる。また、駐車場を効率的にシェアすることも可能となる。
ここまでの機能はまだ実用化の段階には至っていないものの、ドイツのBMW社は乗員の乗り降りが難しい幅の狭い駐車場において、車外から車を遠隔操作して駐車を完了させる「リモート・パーキング」システムをすでに導入している。このように自動車業界では、一部エリアでの駐車場不足などを背景に、さまざまな技術が生まれつつある。
■メリットその9:運転免許資格の緩和
運転に要するスキルのハードルが低くなれば、年齢による制限や身体的な制限など免許取得に関する基準が変わる可能性もある。車が必要な高齢者や身体障がい者にとっては朗報となるだろうし、そもそも免許を必要としないケースも出てくるかもしれない。
過去には、オートマチック車(AT車)の普及を背景に1991年に道路交通法が改正され、運転免許コースにAT車限定が新設されたが、これも自動運転により予測される変革と同種のものと言える。
■メリットその10:上限速度制限の緩和
自動運転により道路状況や天候などさまざまな環境に応じた正確な運転が可能となれば、高規格道路などを中心に速度制限が緩和されることも想定される。これにより、遠隔地への移動時間が大幅に短縮される可能性もある。
以上10個のメリットを紹介したが、一般車以外の分野においても、GPS(全地球測位システム)を基に無人で動く農作業車がすでに実用化されていたり、雪国においては道路除雪車への運転支援システム導入の試行が進められていたりするなど、応用の幅は実に広い。
このほかにも、大規模災害時など人が立ち入ることのできない場所に無人車両で救援にいくなど、さまざまな活用方法が想定され、上記のメリットを複合的に組み合わせた新たなサービスの展開にも期待が持たれる。
【参考】これらのメリットは自動運転車が実用化されて初めてその恩恵を享受できるようになる。そのためにはさまざまな先端技術が必要だ。関連記事としては「【最新版】自動運転に必須の7つの先端技術 認識・予測技術や位置特定技術、AI技術…|自動運転ラボ