「2040年以降は信号機がなくなり、駐車場はオープンスペースになる」――。米国で都市調査などを手掛ける団体「Regional Plan Association(RPA/地域計画協会)」が2017年10月に発表したリポート「New Mobility Autonomous Vehicles and the Region」が興味深い。自律走行可能な完全自動運転車が普及する将来、どのように都市構造が変化するかを4つのフェーズに分けて予測している。
時代とともに変化し続ける道路インフラをはじめとした都市構造。かつて、交通事故が激増した時期には横断歩道橋が全国各地に設置され、マイカー需要の増加とともに道路が拡張されるなど、その時代を反映した規格へと徐々に作り替えられている。
自律走行可能な完全自動運転車が普及する将来、都市構造はどのように変わるのか。RPAのリポートなどを参照し、将来の交通環境を予測してみた。
記事の目次
■リポート「New Mobility Autonomous Vehicles and the Region」の概要
RPAのリポートによると、2017年以降、柔軟性が高く多人数が乗車できる乗り合い型デマンド交通が発達し、アプリを使ったオンデマンドサービスの利用も促進される。配車サービスを手掛けるTNC(Transportation Network Company)事業者と自動車メーカーが協力し、自動運転レベル3の自律型オンデマンドサービスの試走も始まる。
2022年以降は、一部のデマンド交通が自動化され、シェア乗車の際のコストが下がる。自動運転レベル4で運行するタクシーもさまざまな都市で運行を開始している。貨物車両の隊列走行も高速道路で始まり、輸送が効率化・簡素化される。
この頃には、荷物の収容やオンデマンドサービス向けに、積み込みゾーンや乗り降りゾーンといった新しいスペースが必要になってくる。
2027年以降は、シェアサービスや自動運転車両の増加に伴い、総交通台数の減少や自動運転車同士による車間距離の縮減などが図られ、交通量が減少。道路右端の駐車スペースや車線は、オープンスペースや自転車専用レーンなどに変換され始める。
また、電気自動車(EV)の充電ステーションも道路沿いなどに設置され、V2I(路車間通信)技術に組み込まれていく。街路の自転車や歩行者らが携行するスマートフォンなどのデバイスも、自動運転車両と通信することで安全性をより向上させる。
2040年以降は、交通機関が需要に柔軟に対応したサービスを提供するのが当たり前となる。ドライバーはこれまで移動に要していた時間を有効活用できるようになるほか、交通事故は90%減少する。
自動運転車の普及やコネクテッド化に伴い、交差点などの信号機は取り除かれる。駐車場の必要量も大幅に縮小し、オープンスペースや住宅開発など再開発が進むこととしている。
以上はあくまで予測であり、都心部を想定したものと思われるが、自動運転普及の過渡期においては説得力の高いものが多い印象だ。
■自動運転実用化に伴い移動手段が変化
自動運転がバスなどの公共交通へ導入されることにより、資格が必要な運転士を削減でき、公共交通運行に係る人件費の削減やドライバー不足の解消が図られる。この結果、運行頻度の維持や増強などサービス向上が図られる可能性がある。
運行頻度が向上することで利便性が増し、自動車利用から公共交通利用への転換が促進され、公共交通利用者数が増加する。これにより自動車交通量が減少し、主要幹線道路や中心市街地で道路混雑の緩和が進むことが想定される。
既存の公共交通と連携しつつ自動運転技術を導入することで、街路空間を再編し、さまざまなモードの公共交通が効率的に混在する走行空間整備を図るなど、街路空間を効率的に活用できる可能性がある。
また、個人所有からカーシェアリングへの移行が進むことも想定される。これにより、自動車保有台数が減少する可能性も指摘されている。
■街路・道路空間への影響
乗用車利用から公共交通利用へシフトすることにより交通量が減少するのは言うまでもない。また、V2I、V2V(車車間通信)によりブレーキ動作など自動運転車の制御が容易になり、自動運転車同士の車間距離の縮小や維持も可能になる。コロンビア大学の研究によると、従来30メートル必要だった車間距離が自動運転車同士では5メートルで済み、高速道路上では交通容量が約273%拡大すると予測されている。
これらを背景に道路交通容量に余裕が生まれ、片側3車線道路を2車線にするなど有効なスペースを創出することが可能になる。
この空いた1車線分を、歩道の拡張や自転車専用道路の設置、EV用の充電ステーションやオンデマンド交通用の乗降スペースなど、さまざまな方法で有効に活用することができるだろう。自動運転車普及の過渡期においては、この1車線を自動運転車専用レーンにすることなども想定される。
また、仮に自動運転車の普及が100%に達した場合、信号機もその役割を終えることになる。V2Iにより走行中の自動運転車全てを制御することができるほか、交差点を渡る歩行者はスマートフォンや道路脇に設置された横断用ボタンを押すことで歩行者の存在を周囲の自動運転車に伝達し、一時的に制御することも可能になる可能性なども否定できないだろう。
■バス停や駅前広場への影響
自動運転バスの実用化に際し、バス停への正着性の向上やバリアフリー対応などが進み、より安全で円滑な利用や乗り換えが可能な環境が構築されていく。また、基幹公共交通軸や幹線バス路線を中心に高頻度での運行が可能となるため、施設容量や車外精算・キャッシュレス決済の導入など迅速に乗降が可能な環境も整備されていくことになる。
駅前広場などについても、自動運転バスなどの運行頻度の増強とともに主要駅や主要な結節点では乗り換え需要が増加することから、施設の円滑な乗り換え機能の確保が求められることになる。複数の交通機関を乗り継ぐ際の移動距離や待ち時間の短縮などが図られるほか、MaaS(移動のサービス化)の進展により予約から決済に至るまでワンストップで利用可能となり、従来の乗り継ぎの不便性なども解消されていくことになるだろう。
また、駅付近の駐車スペースの大半は不要となり、代わりに自動運転タクシーなどに乗降するための停車スペースが多く必要になりそうだ。
一般車両向けの駐車場需要も激減し、自動運転タクシーなどの待機場所も最寄りの場所に設置する必要がなくなるため、待機スペースの自由度も高まる。従来の駐車場や駅前のタクシープールなどのスペースを有効活用することが可能になる。
■想定される問題点は?
乗用車から公共交通へのシフトが進むとする見方が強い一方で、自動運転車の普及により、これまで免許を持たなかった人や自動車による移動をしなかった人が徒歩や自転車、公共交通から転換し、自動車を利用する可能性が増すことなども指摘されている。ドアツードアによる移動利便性の向上により移動制約者を含め外出機会が増加し、移動量全体が増加する可能性なども指摘されている。
この場合、中心市街地などにおける自動車交通量の増加や停車車両の増加による渋滞など道路環境は悪化することになる。道路環境の悪化により公共交通の定時性・走行性などサービスが低下し、公共交通軸の機能低下、公共交通の利用者数減少など、負のスパイラルも想定される。
また、過渡期には都市部と地方で開発度合いの差が拡大し、全く異なる交通環境が混在する可能性もありそうだ。
■近い将来都市構造の変革に向けた実証実験など必要に
自動運転車の普及により交通容量に余裕が生まれ、余剰化した道路の有効活用として公共交通や自動運転タクシーをはじめとしたMaaSに配慮した新しいインフラ整備の余地が生まれる。また、極論だが、信号機をはじめとした交通標識などもすべて撤廃される可能性もあるだろう。
インフラ設備の大きな変革には慎重さが必要で、研究開発にはまだまだ多くの時間を要するだろう。こういった際に、中国の自動運転シティ構想に代表される大規模な都市計画を打ち出せると、開発スピードは飛躍的に増す。国家戦略のもとモデル地域として名乗りを挙げれば、日本が誇る自動運転都市として大幅な地域活性化も見込めそうだ。
現在、自動運転技術やサービスの開発に向け各地で実証実験が進められているが、近い将来、都市構造の変革に向けたインフラ面における大規模な実証実験も行われる可能性は高そうだ。
【参考】中国の自動運転シティ構想については「日本は中国を見習うべきか…自動運転の環境整備、躊躇一切なし」も参照。