将来の自動車業界を象徴するCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)。それぞれの分野で開発が進み、市場が徐々に広がり始めている。特に、コネクテッドの分野はサービスの開拓が始まったばかりで、今後目覚ましい飛躍を遂げる可能性が高い。
現在は各自動車メーカーが事故や故障時の対応をはじめとしたサービスを展開しているが、これら基本的なサービスから発展し、さまざまな付加サービスが有料で提供される形式が主流になるものと思われる。
すでにコネクテッドカー向けの有料サービスも登場しており、これから熱くなるのが決済サービスだ。アマゾンやグーグルなどのEC(電子商取引)・IT系が豊富なコンテンツを武器に先陣を切りそうだが、自動車メーカーも負けてはいられないはずだ。トヨタ自動車が自前の決済手段「トヨタペイ」を誕生させる可能性も十分にあり得る。
コネクテッドカーにおける決済サービスの可能性を明らかにするとともに、今後の動向について探ってみよう。
- コネクテッドカー・つながるクルマとは? 意味や仕組みや定義は?
- 自動運転化・コネクテッド化が金融業界にもたらす変化とは? 新サービス続々登場で決済機会が増加
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記事の目次
■そもそもコネクテッドカーとは?
ICT端末としての機能を有する自動車のこと。車両の状態や周囲の道路状況などさまざまなデータをセンサーにより取得し、ネットワークを介して集積・分析することで、さまざまな価値を生み出す「つながるクルマ」を指す。
事故発生時の緊急通報システムやリモートメンテナンスサービス、セキュリティサービス、テレマティクス保険、運行管理システムなどの商用車向けサービス、盗難車両追跡システム、エンターテインメント機能といった自動車オーナー向けのサービスから、車車間通信や路車間通信など自動運転に関わる通信機能も含む。
【参考】コネクテッドカーについては「コネクテッドカー・つながるクルマとは? 意味や仕組みや定義は?」も参照。
■「車と決済」…そこに秘める可能性
すでに車内で行われている決済のわかりやすい例として、高速道路に乗る際、料金を自動で決済するETCが挙げられる。すでに当たり前のように車内決済は行われており、コネクテッドサービスの進化により、今後時間貸しの駐車場決済や観光施設の有料駐車場決済、カーシェア決済、ガソリンスタンドでの給油をはじめとした各種サービス、車検、ファストフードのドライブスルーなど、自動車にまつわるあらゆるサービスが対応する可能性がある。
さらに、音楽や映像、ゲーム配信、観光や飲食店情報などのエンターテインメント機能も将来的に普及することが見込まれるほか、一時的に利用するオプション的な自動車保険や地図の拡張情報、高精度なリアルタイム交通情報など、付加サービスはいろいろ考えられる。
乗車時に「あったらいいな」と思うサービスの大半は実現可能なものになり、そこに決済の機会が生まれることになる。
■先陣を切るEC・IT系の決済サービス
EC系大手やインターネットOS・プラットフォームを手掛ける大手はすでに独自の決済サービスを行っており、コネクテッドカー市場を視野に捉え各自動車メーカーと連携を果たしている。
独フォルクスワーゲン(VW)と提携している米マイクロソフトは、VW専用グローバルクラウドプラットフォームの共同開発を進めているほか、コネクテッドカー向けの特許ライセンスプログラムの提供を進めており、2017年にもトヨタ自動車などが採用を決めている。
中国のアリババは米フォード社と戦略的提携を交わし、ECやクラウド、コネクティビティの分野などで協業の在り方について模索しており、クラウドコンピューティングプラットフォームをはじめデジタルマーケティング、B2CショッピングなどにおいてAI(人工知能)やIoT(Internet of Things)の可能性を探ることとしている。
このほかにも、オンライン決済サービス「Amazon Pay」を有する米アマゾン、「Google Pay」を持つ米グーグル、「Apple Pay」を持つ米アップルなど、各社が自動運転の分野に参入しており、ECをはじめとしたさまざまなインターネットサービスを武器に今後コネクテッドサービスにおいても有料・無料コンテンツを充実させていくものと思われる。
【参考】自動運転とIT系の関わりについては「自動運転分野、日本や海外の「IT系×自動車メーカー」重要提携まとめ」も参照。
■日本が誇るトヨタ自動車にも動きが
コネクテッドサービス「T-Connect」を2018年6月に本格始動させたトヨタ自動車は、同年10月にキャッシュレス決済プラットフォーマーのOrigamiと資本業務提携を交わした。
Origamiは、決済機能をパートナー企業のサービスに搭載できるオープンプラットフォーム「提携Pay」を手掛けており、同社が提供するSDK(Software Development Kit)をパートナー企業が自社アプリなどに組み込むことで、当該アプリのユーザーがOrigamiの加盟店ネットワークや多様な支払い手段を活用した決済が可能になる。
国内のキャッシュレス促進の機運の中、消費者からは便利で安心に使えるスマホ決済サービスなどのニーズが高まっており、一方の事業者からは、各社がそれぞれに決済サービスを新たに開発・実現するのではなく、共通して活用できるプラットフォームを求める声が多く、そこに目を付けたプラットフォームサービスとして注目が高まっている。
また、ホンダは決済サービス世界最大手の米Visaと共同で車載型商取引の開発を進めている。ラスベガスで開催されたCES2017で発表した「In-Vehicle Payment」システムは、ガソリンスタンドやコインパーキングなどで車に乗ったまま支払いを行うことができる技術で、キャッシュレス化を図るほか、給油用アプリを使用することで、給油ユニットの横に停車するだけで満タンに必要な給油量を的確に把握し、料金が計算することも可能という。
【参考】Origamiについては「“トヨタペイ(TOYOTA Pay)”誕生の布石か 700兆円MaaS市場見据え、スマホ決済導入か 自動運転実現で有望」も参照。
■サードパーティも続々とコネクテッド分野に進出
株式会社スマートサービスは、アクセサリーソケットやシガーソケットに差し込むだけの手軽な車載デバイスによるコネクテッドサービスを展開している。
位置情報や急加速・急ハンドルといった運転診断、運行距離や時間などの情報を通知する家族向けサービス「SmartDrive Families」や、毎月定額でコネクテッドカーに乗ることができる「SmartDrive Car」、運行管理者向けに各ドライバーの運転状況を知らせる「SmartDrive Fleet」などを手がけている。
また、クラウド・ホスティング事業やソリューション事業を手掛けるGMOクラウド株式会社も、車種を問わずに車両を「つながるクルマ」化する技術開発を進めている。
車載コネクタを通じて車両状態の自動解析と遠隔診断が行えるIoTソリューション「LINKDriveシステム」を開発しており、2018年9月には総合商社の双日株式会社と国内外におけるPR強化に向け業務提携を交わしている。
2018年10月からは、三井住友海上火災保険グループのエーシー企画株式会社との業務提携のもと、同グループとエーシー企画が支援する整備業組織「アドバンスクラブ」の会員企業に向け、GMOクラウドの自動車向けIoTソリューションの販売などを開始することも明らかにしている。
【参考】GMOクラウドについては「GMOクラウドのつながるクルマ事業、双日との提携で国内外で展開加速か」も参照。
■EC・IT系先行か 自動車メーカーの今後の展開に注目
すでに普及済みの決済サービスを持ち、エンターテインメントを中心に優れたコンテンツを有するECやIT系が、コネクテッドカーの決済サービス分野でも先行する可能性が高そうだ。
自動運転の分野に揃って顔を突っ込んでいるECやIT系は、グーグルのように自動運転車の開発そのものを手掛けるケースもあるが、目的の本質はMaaS(Mobility as a Service)にあり、自動運転車をどのようなサービスに結びつけるかといった観点を重要視している。その中の一つとして、当然コネクテッドサービスも含まれている。
一方の自動車メーカーも従来の製造業からの脱却を掲げており、例えばトヨタ自動車は「自動車をつくる会社から、世界中の人々の移動に関わるあらゆるサービスを提供するモビリティ・カンパニーへモデルチェンジを図る」こととしている。
モビリティ・カンパニーが象徴するものの代表格がMaaSだが、これはコネクテッドカーと表裏一体のものであり、あらゆるコネクテッドサービスを他社任せにしてしまうと本末転倒の結果につながりかねない。
スマートフォンがそうであるように、決済サービスはビジネスとして大きな魅力を持つ。自動車メーカー自らがIT系に負けない決済サービス機能を生み出し、「トヨタペイ」や「日産ペイ」などを誕生させることは決して眉唾ものではなく、むしろ従来の製造業からの脱却を象徴する未来の自動車メーカーの在り方といえる。
【参考】自動運転と金融の関わりについては「自動運転化・コネクテッド化が金融業界にもたらす変化とは? 新サービス続々登場で決済機会が増加」も参照。