自動運転車を活用した移動サービスなどを実際に展開するためには、当然ではあるが「安全運行」や「安定走行」の実現が求められる。ただそれだけではない。安全に走行できても赤字運営では事業は継続できない。国や自治体との折衝も必要となってくる。
今回は、自動運転など先進モビリティ領域に注力するマクニカのイノベーション戦略事業本部モビリティソリューション事業部課長である季開氏にインタビューし、自動運転車を活用したサービスの事業化に求められることや、マクニカが提供しているサポート内容に迫る。
記事の目次
■一番大事なのは「事故を起こさないこと」
Q 一般道での事業化を成功させるためには、どのような視点やノウハウが求められますか? そしてそうした視点やノウハウに優先順位をつけるのであれば、何が最も重要なカギとなりますか?
自動運転車を一般道で移動サービスとして実運用する際には、「時間通りに来ること」「事故を起こさないこと」「万が一事故が起きてもすぐにリカバリーできること」など、さまざまな評価ポイントがあります。それと同時に、走行車両の改造や実証実験の実施に関しては、警察や自治体など関係部門との調整も必要です。
また現状はセーフティドライバーの同乗が必要で、その分、導入コストが高くつきます。そのため、そのコストに見合う価値を創出することもポイントです。単に車両を走らせるだけではなく、交通弱者の救済や地場の交通業者との連携、車内空間の利活用など、事業化を成功させるためにはこうした点も考慮しなければなりません。
とはいえ、一般道における運用で一番大事なのは、やはり「事故を起こさないこと」です。
Q 御社はすでに自動運転の実証実験を重ね、企業や自治体とともに国内で移動サービスをサービスインさせていますが、事故を起こさないためにどのような工夫をしていますか?
事故を防ぐためには、自動運転システムの作動条件となる「ODD」(運行設計領域)の設計において、安全性を一番に重視してさまざまなシナリオを検証し、そして万が一想定外のことが起きてもすぐリカバリーできるような設定にしています。
また事故の防止だけではなく、車両のメンテナンスやフリートマネジメントシステム(運行管理システム)との連携もキーとなります。弊社はディーラーのように、定期点検やセンサーのキャリブレーション(調整・補正)、ソフトウェアをネット経由で更新する「OTA」(Over The Air)などを担うこともできます。
また、車両の状態をクラウド側で確認できるようにしており、車両側で緊急停止ボタンが押された際にはどんなトラブルが起きたかがすぐ把握でき、担当者が車両に駆け付けたあと現場で迅速に対応できるようにしています。
ちなみに自動運転車の車内にワンプッシュで管制センターとつながる24時間対応のホットラインを設け、いつでも管制センター側の担当者と会話ができる仕組みも備えています。
自動運転に関する技術開発を行う企業や、自動運転車両そのものを開発・提供する企業は今後も増えていきますが、実際に移動サービスとして自動運転車を運行することを実現するためには、このような車両保守・運用からや管制センター的なサービスも含め、かなり幅広いサービスを利用する必要があります。
そういう意味で、特に日本国内においては、弊社はこのような総合的な「自動運転を用いた移動サービス化支援」を一元的なサービスとして提供できる立場として、稀有な存在ではないか考えております。
■「運転席無人」のサービスでカギとなることは?
Q 先ほどセーフティドライバーの話がありましたが、国も目標として掲げているように、2023年ごろには運転席無人の自動運転バスが公道を一定ルートで走行するサービスが始まる見通しです。運転席無人でサービスを実現するためには、どのような点が重要になってきますか?
セーフティドライバーが同乗しない自動運転車をサービスとして展開する際には、管制センターの担当者が遠隔で自動運転車を操作できる仕組みが求められます。ただオペレーター1人に対して車両1台をケアする形式ですと人的コストがかさむため、オペレーター1人で複数の車両をケアできる体制が不可欠です。
また、車両とフリートマネジメントシステムは通信によって接続されますが、管制センター側に車両の操作権限を与えすぎると、通信がハッキングされた際に車両そのものが乗っ取られるリスクが高まります。そのため、管制センター側にどこまで権限を与えるかを見極めることも重要です。
こういった議論は意外と表立ってはされていない印象ですが、実際に公道での無人走行に関する実証実験に多く関わっている弊社では、そのような管制センターに関する体制整備についても知見が溜まっていっております。
■一気通貫のサポート提供でプロジェクトを全方位から支援
Q 自動運転技術を活用した移動サービスなどを実用化するためには、最適な車両のインテグレーションはもちろん、運行管理やメンテナンス、自治体との折衝などさまざまな要素が必要になり、実用化のハードルが高いのが実情です。こうした課題に御社はどう対応していますか。
一般道でもクローズドなエリアでも、商用化や運行管理、メンテナンスも含め、一気通貫のサポートを提供できるのは、国内では弊社だけだと自負しています。また、公道における走行を前提としている場合には、事業者さんとともに警察や関連省庁、自治体と折衝しながら自主ルールなども含めて一緒に作っています。
また、今後は海外の自動運転系企業の日本参入も増えます。そうした企業が日本国内で海外の自動運転車などのモビリティを商用展開する際には、運行管理や車両そのものの保守運用なども含めた一気通貫のサービス提供ができる弊社のような日本側のパートナーがいないと、現実的には難しいでしょう。
マクニカはもともと半導体から出発した企業です。自動運転のECU(電子制御ユニット)の知見もあり、ソフトウェアやセンサーを開発・提供する国内外の企業の代理店でもあります。さらに社内には車の整備士もいることから、こうした一気通貫のサポートを可能にしています。
また、例えば自動運転のための地図1つに関しても、個別の案件ごとに最適な対応が可能です。弊社でデータを収集してマップデータを作製できることはもちろんですが、対象物が少なすぎて自動運転向けのマップデータとしては使いにくいケースでも、走行環境内に目印になる対象物を置くといった工夫をして、安定走行を可能にします。
また、実際にマップデータを作製して車両を走行させても、初期段階ではうまくいかないケースもあります。こうした課題は調整やチューニングを繰り返して解決します。マップデータを作製し、調整やチューニングまで対応できることが弊社のサービスの特徴です。
■サービス黒字化に向けたKPI設定やシミュレーションでも貢献
Q 先ほどおっしゃっていた「商用化」は非常に重要なキーワードだと思います。仮に走行の安全性が確保できても、採算がとれなければ実サービスとして継続していくことが難しいからです。そのため事業者側には黒字化に向けた事業戦略策定において一定以上の知見やアイデアが求められますが、御社はどのようなアプローチで収益化を支援していますか。
先ほども少し触れましたが、公道で自動運転サービスを導入する場合、現在は車両に同乗するセーフティドライバーや保安要員が必要となり、導入してすぐにこうした人的コストを削減するのは難しいのが現状です。そこで、車中や車外のデータに付加価値をつけて活用・展開し、乗客から頂く運賃収入以外のマネタイズポイントを設計するなど、中長期的にサービスが黒字化するよう支援しています。
一方で、工場や空港、大学キャンパスなどのクローズドな私有地であれば「完全無人」の実現が可能であるため、人的コストが抑えられ、より黒字化が実現しやすくなってきます。こうしたケースでは、5〜6年程度で黒字化するシナリオを車両の導入台数に合わせてシミュレーションし、運用効率などのKPI(数値目標)の設定と達成に向けた知見も提供しつつ、事業者の戦略策定をサポートしています。
将来的には、固定で発生するような自動運転の運行管理費用などを頂かずに、KPIを100%達成した際に成功報酬をいただく、というビジネスモデルも検討しています。
Q 現在は具体的にはどのような事業者からどのような内容の引き合いが多いですか?
弊社のソリューションは、地方自治体も絡んで取り組まれている、バスを筆頭とする公共交通機関の自動運転化といった王道のテーマはもちろんのこと、重い部品を運ぶトラクターや工場や商業施設内などでのシャトルサービスなど、広い敷地における導入の際に特に力を発揮します。
そんな中で、例えば大手の建機メーカーさんからはトラクターを自動運転化したいといったお声掛けを頂いているほか、自動車のOEM(完成車メーカー)さんからは工場内での完成車両の輸送のために自動牽引サービスを導入したいという引き合いを頂いています。
■地場パートナーとタッグを組み地方の自動運転プロジェクトも支援
Q 最後になりますが、公道における実用化は地方から始まる流れになっていますが、御社は横浜に本社を置いていることもあり、距離的な理由からフォローがしにくいと思います。地方におけるプロジェクトのフォローはどのように対応していく考えですか?
弊社の強みは「技術商社」というバックボーンによる、日本全国での強力なパートナーネットワークです。そのようなネットワークを駆使し、支援サービスの提供に共同で取り組んで頂けるパートナー企業様を各地方で探しており、すでに一緒になって取り組んでいるケースもあります。
パートナー企業様に必要なスキルや知見を身に付けてもらうために、弊社側でトレーニングプログラムも用意しており、自動運転に必要なメンテナンスやサポートに関する試験をパスした企業様とパートナーシップを組む形をとっています。
このようなタッグを組んで地方の自動運転プロジェクトの支援に取り組むケースでは、自動運転車や運行に問題や不具合が起きた場合、クラウドを活用した不具合処理アプリを通じて同じ情報を弊社とパートナー企業様で等しく共有し、必要な措置の難易度に合わせてパートナー企業様か弊社側のどちらかが対応する形にしています。
要するに、そういったシステムを使用して保守運用体制をしっかり整えることで、現地パートナー企業によるスピーディなオンサイト(現場)での対応が必要なケースと、技術的・専門性が問われる検証が必要なトラブルなどで弊社側から専門人材を動員して対応すべきケースを、それぞれ切り分けて対応できるような体制・仕組みがあるからこそ、あらゆる状況に最適な対応ができるようになっています。
■取材を終えて
自動運転サービスの事業化は決して簡単ではない。センサーやソフトウェアの選定を含む車両のインテグレーションのほか、安全性に関することや法律に関すること、そしてビジネスとして成立させるために採算性を確保することなど、事業者が乗り越えなければならないハードルは多い。
そんな中で横断的に自動運転サービスの事業化を支援するマクニカは、事業者にとっては非常に心強い存在だと感じた。
>>第1回:自動運転の「頼りになる相談役」!開発から実装まで
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