自動運転時代の「コンビニ」「郵便局」、ラストワンマイルの物流コア拠点に

スターシップがサービス先行、追随組も続々

B!

インターネットなどを介した通信販売全盛の昨今、ラストワンマイル問題の解決に向け、海外では自動配送ロボットの開発・実証・実用化が急速に進んでいる。国内では、ZMPなどが小型タイプの実証を重ね、実用化に向け大きく気を吐いている。

このラストワンマイルを担う配送ロボットの実用化に際しては、機体の開発とともに重要となるのが集配拠点の整備だ。各戸へ細やかに宅配することを考えれば、小規模の集配拠点を分散して配置することが望ましい。

この集配拠点を効率的に整備するため、既存のインフラを利活用できないだろうか。今回は、こういった観点のもと集配拠点に対し考察するとともに、配送ロボットの開発状況をまとめてみた。

【参考】ラストワンマイルについては「ラストワンマイルとは? 課題解決に向け自動運転技術など活用」も参照。

■注目される「郵便局」や「コンビニ」

ラストワンマイルを担う配送ロボットは、通常の自動車サイズの大型ロボットと屋内外を走行できる小型サイズに大別できる。大型ロボットは自動運転車と同等の性能が必要なため実証段階だが、小型ロボットはすでに実用化の域に達しているようだ。配送ロボットの開発を手掛ける米スターシップ・テクノロジーズがイギリスのミルトン・キーンズで2018年4月からサービスを開始している。

小型ロボットの活躍の場は屋内外や特定の敷地内に限定されると思われがちだが、スターシップ・テクノロジーズが2019年4月に発表した運用実績によると、宅配サービスの回数が5万回を超え、総走行距離は20万マイル(約32万キロメートル)を超えたという。1回の宅配あたり6キロメートル強の距離を走行している計算で、配送拠点から比較的近距離までの宅配を実現している。

【参考】スターシップ・テクノロジーズの配送ロボットについては「米スターシップ・テクノロジーズ、イギリスで自動運転ロボットによる商品配送スタート」も参照。

歩道を含めた公道を走行するにあたり一定の許可が必要になりそうだが、数キロメートルの範囲をカバーできるのであれば、エリア密度の高い配送拠点さえ用意できれば日本国内においてもサービスの実現はそう遠いものではなさそうだ。

そこで注目されるのが、全国津々浦々に店舗を構える郵便局やコンビニだ。大げさかもしれないが、配送ロボットの実用化によってコンビニの売買の場は店舗販売から通販形態に徐々にシフトしていく。郵便局も、配達はもちろん預貯金の預け入れや引き出し、窓口業務の一部などある程度の用事は配送ロボットが担うことが可能になる。

来店者数が減少し、将来的に店舗の統廃合が進む可能性も考えられるが、逆に空いた店舗を配送拠点として活用することで、新たな活路を切り開くことができる。自社商品だけでなく、他の業種の配送商品も引き受けることが可能で、1店舗当たり半径数キロメートルをカバーできれば、ラストワンマイルの拠点としてかなり重要な存在となるだろう。

■ラストワンマイル向けロボットの開発状況
日本国内ではZMPが先行、サービス実用化に向け加速

国内では、ロボットベンチャーのZMPが最も精力的に開発・実証を進めている。同社の宅配ロボット「CarriRo Deli(キャリロデリ)」は、LiDAR(ライダー)とカメラで周囲360度を認識しながら、最大時速6キロで自動走行することが可能できる。多少の段差や登坂もできる。最大12時間ほど稼働可能で、65×95×96センチメートルの小ぶりなサイズに最大50キログラムの荷物を積載できる。

これまでに、宅配寿司「銀のさら」との実証実験をはじめ、六本木ヒルズでの配達サービス実証実験、日本郵便との複数拠点間配達の実証実験、電通国際情報サービスとの品川エリアでの社会実証実験などに取り組んでおり、2019年1月には、ローソンと慶應義塾大学SFC研究所の協力のもと、同大湘南藤沢キャンパス内で世界初となるコンビニ商品の無人配送サービス実証実験を実施した。

同年3月には、キャリロデリの限定先行販売を開始しており、サービスの実用化はすぐ目の前まで迫っている印象だ。

中国では京東集団の「超影」、同社の配送ステーションで実用化

中国EC大手の京東集団は、同国で自動運転開発を手掛ける2017年創業のスタートアップ「Go Further AI」と共同で無人配送ロボット「超影」を開発し、すでに自社の配送ステーションで実用化している。

超影は高さ1.6メートルのやや縦長のボックスタイプで、最高時速は15~18キロメートル、最大200キロまで積載することができる大型タイプだ。

2019年2月には、日本のEC大手の楽天株式会社と物流分野で提携することを発表している。京東が開発した超影やドローンを、楽天が日本国内で構築する無人配送ソリューションに導入する。導入するロボットは、縦1.7×高さ1.6×幅0.75メートルのサイズで、最大積載量は50キログラム。

大御所アマゾンも配送ロボット開発に本格着手

EC最大手の米アマゾンも、2019年1月に配送ロボット「Amazon Scout」の開発・実証に本格着手している。6つの車輪がついた40センチ四方程度の小型タイプで、アマゾンで注文された商品を自動で顧客の元まで届ける。アプリと連動し、配達先に到着するとアマゾン・スカウトの上部にあるカバーが開き、利用者が注文品を取ると自動で閉まる設計という。

他社に出遅れた感は否めないが、配送需要と圧倒的なシェアを誇るアマゾン。一気に追い上げ、主導権を握る可能性もありそうだ。

屋内向けデリバリーロボット「Relay」、ホテルで採用進む

敷居の低い屋内向けの配送ロボットはすでに実用例が多い。米Savioke社が開発した「Relay」は、高さ92センチ、幅51センチのボディに容量21リットルの格納スペースを持ったロボットで、搭載する各種センサーにより自動で障害物を避けながら目的地まで自律搬送することができる。エレベーターを制御し、マルチフロアの移動も可能にしている。

これまでに北米のホテルを中心に100台以上が導入されており、40万回以上の搬送実績があるという。シンガポールや日本の大手ホテルでも採用されているようだ。

【参考】関連記事としては「ラストワンマイル向けの物流・配送ロボット10選」も参照。

■「小売業界×自動運転」の連携事例

通販形態のECサイトや物流業者の取り組みが幅を利かせている配送ロボット事業だが、対面販売主体の小売業界にも動きが見られる。

米クローガー×Nuro ソフトバンクが出資 サービス拡大へ

配送用自動運転車「R1」の開発を進める米スタートアップのNuroは、2018年6月に米スーパー大手のクローガーと協力し、R1などで無人配達を行うプロジェクトに着手することを発表している。宅配サービスの範囲は、店舗から1マイル(約1.6キロメートル)ほど。

2019年2月には、ソフトバンクビジョンファンド(SVF)から9.4億ドル(約104億円)の資金調達を行ったことが報じられている。これをもとに配送サービスの拡大などを図っていく構えのようだ。

米ウォルマート&ピザハット×フェデックス 今夏配送ロボットの実証開始

米ウォルマートはこれまでにトラックの荷降ろしや在庫管理といった倉庫部門のオートメーション化を推し進めているが、2019年2月に、米物流大手のフェデックスと配送ロボットの実用化に向けた提携を結んだことが報じられている。

ラストワンマイルにかかる輸送コストを下げることが目的で、米DEKA Reserach & Developmentと共同開発した「SameDay Bot」が活用される見込み。DEKAは、2輪電動車「セグウェイ」の生みの親として知られるDean Kamen氏が共同設立した企業。開発力には定評がある。

なお、セグウェイの製造を手掛けているSegway社は2015年に中国の輸送ロボット企業Ninebotに売却されているが、Segway-Ninebotも配送ロボットの開発を進めており、米ラスベガスで開催されたCES2019で「Loomo Delivery」を出展している。

仏フランプリ×ツインズホイール 配送ロボット実証実験に着手

フランスでスーパーチェーンを展開するフランプリが、仏スタートアップのツインズホイールと配送ロボットの実証実験を行うことをロイターが報じている。

当面は顧客に伴走する形式で購入された商品を自宅まで運ぶ。「付いてきて」というボタンを押すことでロボットが視覚認識によって顧客とペアリングされ、店や路上で顧客の後をついてくる仕組みのようだ。

現時点で単独での公道走行はできないため、オペレーターが必要という。

■【まとめ】日本政府もガイドライン策定へ

国内対面販売主体の小売では、セブン‐イレブン・ジャパンとトヨタ自動車が2019年から共同プロジェクトに着手するが、燃料電池(FC)の活用などによって環境負荷軽減を図ることが主目的で、今のところ配送ロボットの話はないようだ。

ただ、海外では配送ロボットの開発・実用化は非常に熱い分野となっており、スタートアップも次々と参戦している。乗り遅れることがないよう、日本政府も2019年夏頃に策定する成長戦略に自動配送ロボットに関する指針を盛り込む予定とみられ、一定のガイドラインが策定される見込みだ。

配送ロボットの実用化は、喫緊の課題となっているラストワンマイル問題の解決のみならず、新たなサービス展開を生む可能性も高い。近い将来、大きく動き出す分野として要注目だ。

【参考】配送ロボットに関する政府の方針については「自動運転配送ロボット、政府が実証実験のガイドライン策定へ」も参照。

B!
関連記事