コネクテッドカー、読んでおきたい論文11選

セキュリティや救急医療への応用、テレマティクス保険…

B!

実用化始まったコネクテッドサービス。自動車が「コネクテッドカー」(つながるクルマ)となり、高速・大容量の移動通信技術などが自動運転やさまざまな車内サービスに活用されることになる。

そこで今回は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営する電子ジャーナルの無料公開システム「J-STAGE」を活用し、コネクテッド技術に関連する論文を厳選した。

誰でも閲覧可能なものに限定し、11論文を紹介する。

【参考】関連記事としては「自動運転、読んでおきたい論文15選」「MaaS、読んでおきたい論文11選」も参照。

■交通社会におけるコネクティビティ技術の動向/大月誠氏

自動車関連技術の進化の歩みを交えながらコネクティビティ技術によってどのような価値やサービスが実現してきたか、また、現在の取り組みや必要とされるコネクティビティ技術についてどのような検討がなされているかを概観しており、コネクテッドカーの全体像を把握しやすい内容となっている。

世界に先駆けて実用化したVICSなどの道路交通情報提供システムをはじめ、路車間通信(V2I)や車車間通信(V2V)の実証実験などに触れ、大容量データ通信やクラウド処理技術、クラウド処理ORエッジ処理など、インターネット関連技術で進化してきた環境を用いた技術開発やサービスの構築が必要になってきた点など、クルマを取り巻く通信環境の変化などを指摘している。

コネクテッドカーを実現するコア技術としては、車載機器システムの統合マネジメントやモバイル機器の活用などを挙げたほか、世界と日本の動き、シェアサービスやMaaSといった新しいサービス、災害時のデータ連携、などに言及し、抜本的な移動システムの在り方やデータ利活用基盤の構築、具体的なサービス創出に向けた取り組みへの期待を述べている。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iatssreview/43/3/43_128/_pdf/-char/ja

■CPSの観点からみた車載組込みシステムの発展と課題/高田広章氏

組込みシステムがネットワークで接続され、さらにサイバー空間とつながったものと解されるサイバーフィジカルシステム(CPS)の観点から、自動運転開発やコネクテッド化が進む今後の車載組込みシステムの在り方について論じた内容となっている。

電子制御装置(ECU)の進化に触れながら、今後はV2IやV2Vで車両の周辺状況を共有することや複数の車両を協調制御するサービスの登場などが期待されるとし、自動車や信号機などが外部情報を含め協調制御される段階まで達すればCPSと呼ぶにふさわしいシステムが確立するとし、また人の移動を変えることで交通制御を行うサイバーフィジカルソーシャルシステム(CPSS)にも言及している。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrpim/32/3/32_309/_pdf/-char/ja

■救急医療へのコネクテッド機能の活用/有嶋拓郎氏

救急医療ではさまざまな形で情報共有化が進められており、ICT技術によってビッグデータを活用し、病院選定などに応用する動きもあるとし、コネクテッド技術の応用に期待が持たれている。そうした見地から、救急医療へのコネクテッド機能の利用促進を期待する論文となっている。

先進事故自動通報(AACN)では、ドクターヘリやドクターカーの早期出動要請と連動することで救命率向上を目指すサービス(D-Call Net)が構築されつつあるほか、災害時に都道府県を越えて災害医療にかかわる情報を集約・提供する広域災害救急医療情報システム(EMIS)などを紹介し、コネクテッドカーは救急医療をも紐づけした自動車であり、救急医療体制を変える推進役の一つになることも期待されるとしている。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iatssreview/43/3/43_164/_pdf/-char/ja

■自動車を取り巻くIoTセキュリティーとその課題/倉地亮氏

自動車を取り巻くIoTと情報セキュリティーの課題について概説した内容で、コネクテッドカーのサイバーセキュリティーの現状と今後について解説している。

CANプロトコルを悪用した車載システムへのアタックをはじめ、無線通信プロトコルやIVIユニットで使用されるCDやUSBなどのメディアを利用するアタックなどを例示し、自動車においてはECU、車載ネットワーク、車両レベル(システムアーキテクチャー)、車車間通信レベルの4段階に分類したうえで、各階層でそれぞれのセキュリティー強化を行う必要があるとしている。

また、車載LANのセキュリティー強化技術や車車間連携に関する取り組みなどを紹介したうえで、自動車のサイバーセキュリティは現状議論が不足していることを指摘し、直近の課題から確実に解決していくことが求められるとしている。

なお、同氏の論文には「自動車のサイバーセキュリティの現状」といったものもあるので、リンクのみ併記する。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/60/10/60_690/_pdf/-char/ja
「自動車のサイバーセキュリティの現状」はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/reajshinrai/39/2/39_68/_pdf/-char/ja

■テレマティクスを活用した自動車保険/金子敬行氏

コネクテッド技術を活用したテレマティクス自動車保険について、欧米での取り組みや日本における検討・開発状況、普及に向けた課題などを概観した内容となっている。

テレマティクスによって入手可能な情報やテレマティクス機器、保険料算定への活用、保険会社による各種サービスへの活用、保険会社による各種サービスへの活用などの説明をはじめ、英国や米国における動向などを紹介している。米国では、テレマティクス機器におけるGPS機能がプライバシーの侵害にあたる懸念から、GPS情報を保険会社が入手することへの抵抗がいまだに強いとしている。

テレマティクス自動車保険の課題・懸念では、プライバシーの問題やデータの信頼性、リスク評価上の課題、既存制度との整合性、商品提供に係る各種スキームの構築・運営上の負担、先進運転システムのさらなる発展との整合性や自動車ユーザーの納得感を挙げている。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iatssreview/43/3/43_171/_pdf/-char/ja

■日本郵便車両を活用した見守りサービスの取り組み/大石康夫・関根太郎氏

兵庫県加古川市における官民連携ICTを活用した安心・安全なまちづくり社会実験におけるコネクテッド技術搭載郵便車両の利活用例を報告した内容となっている。

加古川市では、安全確保の観点から小学校周辺や通学路交差点などに計1500台の見守りカメラの整備を進めているが、より広範なエリアをカバーするため、日本郵便の配達車両に搭載したV2X機器を活用したきめ細かい見守りサービスの実現をはじめ、複数分野のデータの収集分析を行うプラットフォーム「FIWARE」の整備、行政情報ダッシュボードの公開による市保有データの可視化・共有化の実現を目指す取り組みを推進している。

論文では、V2X機器・システムの詳細を説明し、今後のコネクテッド技術の利用展開として働くクルマを活用するうえでの課題やスマートシティ化、自動運転向けのダイナミックマップ用データの提供など、今後のステップに向けた課題や解決策などを提示している。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iatssreview/43/3/43_181/_pdf/-char/ja

■サービス指向ソフトウェアプラットフォームを実現するサービスバス設計方法の提案と評価/青山幹雄・濱野真伍氏

ソフトウェアの機能をサービスと見立て、そのサービスをネットワーク上で連携・組み合わせてシステムの全体を構築していく「サービス指向アーキテクチャ(Service-Oriented Architecture/SOA)」の設計方法を提案する専門的な論考となっている。

自動運転やコネクテッド化により自動車ソフトウェアアーキテクチャにも変革が求められており、WEBシステムを起源とするSOAを車載システムに導入する研究の一環だ。

非機能要求を詳細化した特性と設計概念からなるADパターンを用いた実証実験によって段階的設計方法論QDDM4SOAを提案し、その有効性を示している。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeronbun/50/4/50_20194584/_pdf/-char/ja

■SIP自動走行システムにおけるコネクテッド・ビークルへの取り組み/小川伯文氏

SIP「自動走行システム」における車車間通信や路車間通信、歩車間通信と車・ネットワーク通信の取り組みや研究を紹介する内容で、クルマを取り巻く通信システムの現状や課題が分かりやすくまとめられている。

自動運転に必要な車車間通信・路車間通信技術の開発や、信号情報活用による運転支援高度化に向けた調査研究、自動走行支援通信のメッセージセットとプロトコルに関する調査、歩車間通信技術の開発、車両プローブ情報に関する研究開発や情報の活用などについて解説している。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iatssreview/43/3/43_139/_pdf/-char/ja

■自動運転と運転支援のためのITS無線通信システムとその動向/和田友孝氏

高度交通システム(ITS)を応用する形で開発が進められている自動運転やコネクテッド技術に関し、ITS無線通信システムに関する主な研究をはじめ、著者が取り組んでいる車両衝突回避支援システム(VCASS)や車両歩行者衝突回避支援システム(P-VCASS)の研究内容を紹介している。

VCASSは車載機器間通信を用いた車両同士の衝突回避を目的とするシステムで、それぞれの車両に搭載された通信機器によって車両の位置や速度などの情報を定期的に交換し、その情報をもとに衝突判定アルゴリズムなどで警告を行うという。

P-VCASSは、交通弱者である歩行者を守るためのシステムで、GPS受信機から取得した情報を車両と歩行者が交換することで、車両側は歩行者の存在を事前に認識することが可能となる。

VPEC(車両・歩行者間通信)では、消費電力やアクセス制御に関し歩行者が所持する通信端末への負担が増大となるとし、車両情報を受信したときのみ歩行者端末が送信を開始するリフレクト伝送方式を用いるなど、システムの有効性を実験車両を用いで実証しているようだ。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/essfr/12/4/12_248/_pdf/-char/ja

■世界無線通信会議に向けたテラヘルツ関係の議題の検討状況/網野尚子氏

国際電気通信連合が開催する世界無線通信会議(WRC)にまつわるトピックで、第5世代移動通信システム「5G」や高度交通システムにおける周波数利用の調和に向けた議題、テラヘルツ帯に関する議題など、WRCで議論される約30の議題を紹介し、検討状況などを解説している。

コネクテッドカー関連に直接言及した内容ではないが、通信分野における国際的な動向を知る一つの資料としてぜひ目を通しておきたい。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/12/3/12_248/_pdf/-char/ja

■5G網を利用した自由視点映像リアルタイム配信技術/野中敬介・渡邊良亮・塚本航平氏

コネクテッドカーに必要とされる第5世代移動通信システム「5G」を活用した新たな映像体験技術に関する論文で、自動車に言及した内容ではないが、さまざまな形で応用可能な技術のため紹介する。

5Gの到来を受けバーチャル・リアリティ(VR)などの映像体験ニーズが高まりを見せるなか、映像処理技術の一つ「自由視点映像合成」と呼ばれる技術において、著者らが開発したリアルタイム処理が可能な合成技術や5G網を用いた配信システムを紹介している。

従来、点群として表現していた被写体3DCGモデルの表現のフレームワークを見直し、平面単位で処理することでGPUに適したアルゴリズムを開発し、リアルタイム制作の課題を解決する手法などを紹介し、実際のスポーツシーンで5G網を利用した合成映像配信を行う実証実験を行っている。

VRや拡張現実(AR)技術などは、将来的にコネクテッド技術を生かして自動車・自動運転分野に導入される可能性が高いため、ぜひ目を通しておきたい。

論文(PDF)はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej/74/1/74_180/_pdf/-char/ja

■【まとめ】5Gスタートでコネクテッドサービスや自動運転技術が進化

コネクテッド技術は車内サービスに留まらず自動運転の根幹をなす技術であるため、V2IやV2Vといった自動運転技術に関するものから、テレマティクス保険やプローブ情報の活用など、多岐に渡る研究が進められている。

また、通信技術に由来するセキュリティ面の課題も顕在化しているため、最重要分野に位置づけ、官学民協働のもと研究開発に臨むことが求められる。

2020年には5Gサービスがスタートする予定で、コネクテッドサービスが徐々に拡大するほか、自動運転開発もいっそう弾みがつくことが予想される。コネクテッド技術に関連する研究も増加し、飛躍的に技術が進展することに期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事