普及間近!?「自動運転×宅配」、最近の潮流を考察

国内で実証から実用化の流れが加速

B!
楽天・西友・横須賀市が行う自動配送ロボットによる商品配送サービス=出典:西友プレスリリース

EC大手の楽天と西友、神奈川県横須賀市は、2021年3月から4月にかけて公道を走行する自動配送ロボットによる商品配送サービスを実施する。宅配ロボットが公道を走行し、不特定多数の住民に対しサービスを提供するのは国内初となる。

宅配ロボット実用化に向けた動きはこの1年で大きく加速し、期間限定ではあるものの実用的なサービスを実施する段階にまで至ったのだ。

この記事では、宅配ロボットに関するこれまでの国や民間の取り組みを時系列ベースにまとめ、その潮流を考察していく。

■国・政府の取り組み
2019年:本格的な検討に着手

国による自動運転×宅配を見据えた取り組みは、乗用車と同じ車道を走行する自動運転車を活用した自動運転配送からスタートしている。2017年度には、中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスの実証を全国各地で開始し、この中で貨客混載などの取り組みを実施してきた。

こうした車道走行を前提とした取り組みから、歩道走行の道が開かれ始めたのは2018年に入ってからだ。同年6月に発表された「未来投資戦略2018」において、従来型の「車」の自動運転に加え、宅配ロボットや自動運転車椅子といったパーソナルモビリティについても実証を踏まえつつ交通ルール上の取り扱いについて検討を進めることが明記された。

官民ITS構想・ロードマップでは、2019年度版で「ロボット宅配」の文字が初めて登場し、2020年度版では「公共交通が普及している都市部における2030年の将来像」の中で、物流中継拠点から配送先のラストマイル物流において自動走行ロボットなどを活用するビジョンが示されたほか、「自動運転技術の応用例」として自動走行ロボットが取り上げられている。

本格的な議論は2019年にスタートした。経済産業省主幹のもと「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」が設置され、自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた検討が本格化した。

メンバーは日本郵便やヤマト運輸などの事業者をはじめ、EC大手の楽天、ZMPらロボット開発事業者で構成し、ラストワンマイルを担う自動走行ロボットの導入により、人手不足の解消や交通環境の向上、生産性の向上、消費者利得の向上などを目指し協議を進めていくこととしている。

その後、協議会とは別途ワーキンググループを設置し、事業化に向けたユースケースの明確化やロボットの仕様に関する安全性評価や安全な運用に関わる検討、実証データの項目整理などを進めている。

2020年:安倍元首相の発言を契機に政府内の取り組みが加速

新型コロナウイルスが蔓延し始めた2020年には、取り組みがいっそう加速する。未来投資会議で感染症拡大への対応とともにコンタクトレス配送を見据え低速・小型の自動配送ロボットが議題に上がり、当時の安倍晋三首相から早期実現を促す発言が飛び出した。

安倍元首相は「宅配需要の急増に対し、人手を介さない配送ニーズが高まっている。低速・小型の自動配送ロボットについて、遠隔監視・操作の公道走行実証を年内、可能な限り早期に実行する」と述べ、具体的検討を進めるよう関係各大臣に指示を出した。

【参考】安倍元首相の発言については「首相が喝!自動運転配送ロボの公道実証「2020年、可能な限り早期に」」も参照。

未来投資会議の2週間後に開催された「第2回 自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」では、これまでにまとめた自動走行ロボットの位置付けやユースケースなどが示されたほか、今後の進め方についても案が示された。

具体的には、自動走行ロボットを以下のように位置付けた。

ユースケースとしては、走行場所とサービスを組み合わせて分類する方針で、走行場所は以下などを想定しているようだ。

今後の進め方については、安倍元首相の意向に同調し、さまざまな自動走行ロボットの活用や非公道走行も視野に、課題の整理やロードマップの策定などの検討、事業者による実証を加速していくこととし、2020年度中に遠隔監視・操作型の公道実証に向けた枠組みの整理やロードマップを策定する目標を掲げた。

また、警察庁が近接監視・操作型の自動走行ロボットにおける公道実証実験の手順を示したほか、国土交通省は実証に向けた基準緩和認定手続きなどを示した。2020年9月には、遠隔監視・操作型の歩道走行を含めた公道実証ができる枠組みが整備され、実証実験への道が大きく開いた。

2021年:「低速・小型」の制度化に向けた検討へ

2021年3月に開催された同官民協議会では、現在の個別の道路使用許可などによる実証実験段階から、第一段階として「低速・小型の配送ロボット」の制度化・実用化に向けた検討を進めることとしている。

制度化に関しては、公道走行実証の結果を踏まえ、2021年春を目途に遠隔で多数台の低速・小型自動配送ロボットを用いたサービスが可能となるよう制度の基本方針を決定し、2021年度早期に関連法案の提出を行う予定としている。

【参考】自動走行ロボットに関する最新動向については「自動運転宅配ロボ、公道走行を2021年度中に解禁か」も参照。

ドローン配送も着々と進行中

自動走行ロボットは別に、ドローン配送を含む小型無人機の運用ルールや利活用を検討する「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が2015年度から開催されており、空の産業革命に向けたロードマップなどを策定している。

2019年度までに離島や山間部などにおける荷物配送ビジネスモデルの構築を進めたほか、2021年度までにビジネスの実用化を推進し、持続可能な事業形態を整理していくという計画だ。

2022年度以降は、陸上輸送が困難な地域で生活物品や医薬品を配送するなど、都市を含む地域における荷物配送を実現していく方針だ。

■民間の取り組み
民間ではZMPや日本郵便、楽天が先行

民間では、ロボット開発を手掛けるZMPが2017年、国に先駆けて宅配ロボットの実証に着手している。同社は2017年、宅配ロボット「CarriRo Delivery(現DeliRo)」の実証を六本木ヒルズで実施した。ビル内の物流センターや店舗などから森タワー内オフィスに向け、エレベーターを使用して書類などの荷物を配達したようだ。

2019年には、慶應義塾大学SFC研究所とローソンの協力のもと、大学キャンパス内でコンビニ商品を無人配送するサービス実証を行ったほか、韓国でも屋外ロボット配送の実証を行った。2020年8月には、JR東日本スタートアップとともにTakanawa Gateway Fest内の広場で無人デリバリーサービスの実証実験も実施している。

一方、日本郵便は2016年にドローン配送の実証に着手したほか、2017 年には福島県南相馬市スポーツセンターで拠点間輸送やラストワンマイルにおける配送ロボットによる無人配送実証を実施した。2019年には、福島県南相馬市などの協力のもと、実際の環境に近い実証として自動車学校や災害公営住宅で配送実証を行った。2020年3月には、日本郵便本社でエレベーターを活用した社内便配送の実証なども行っている。

EC大手の楽天も2016年にドローン配送の実証に着手したほか、宅配ロボットの実証も2019年に開始している。2019年5月に千葉大学構内で配送実験を行ったのを皮切りに、同年9~10月には神奈川県横須賀市の公園で西友の商品を配送する屋外実証、2020年には東急リゾーツ&ステイで宿泊者を対象にした配送実証をそれぞれ実施している。

2020年9月以降、公道実証も本格化

遠隔監視・操作型の公道実証環境が整った2020年9月以降、実証は大きく加速している。冒頭紹介した楽天のほか、ティアフォーも小型自動搬送ロボット「Logiee S1(ロージー・エスワン)」の開発を2020年12月に発表し、岡山県玉野市で遠隔監視・操作による公道実証に着手している。

一方、国の事業も大きく動き始めた。「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」がスタートし、自動走行ロボットを市街地や商業施設、工業地帯などで走行させる以下の10事業が採択された。

■2022年までに宅配ロボットが制度化される?

2021年には、公道実証がますます加速するものと思われる。多数台の低速・小型自動配送ロボットを遠隔監視・操作する新制度の枠組みが固まり、予定通り関連法案が提出されれば、遅くとも2022年には正式なサービスとして宅配ロボットが世に出回り始めることになりそうだ。

関連法の改正案に向けた動きをいち早く報じた読売新聞によると、自動配送ロボットは数10キロまでの荷物を収納して運べる規模で、速度は人間の歩行速度と同程度の時速約4~6キロとする方向で調整しているという。

安全に配慮した数字となっているが、こうした積載容量や速度は配送コストに直結する。繁華街などで歩道を走行する際は妥当だが、人通りの少ない市街地などで車道や路側帯を中心に走行する場合なども一律に制限されるのか気になるところだ。

自動走行ロボットと「速度」

米国では、自動走行ロボットの公道走行を認める各州によって規制は異なり、ワシントンDCやヴァージニア州やアイダホ州、フロリダ州、アリゾナ州など大半は時速16キロ以内と定めるほか、カリフォルニア州のサンフランシスコでは時速4.8キロまでとなっている。ロボット大国エストニアでは時速6キロ以内と定めているようだ。

ロボット別では、歩道走行を前提としたStarshipTechnologiesの宅配ロボットが時速約6.4キロ、車道走行を前提としたNuroの自動運転配送車両「R2」が時速約40キロで走行可能だ。

国内では、ZMPのDeliRoが時速6キロ、パナソニックの小型搬送ロボットが時速4キロ、ティアフォーのLogieeS1が時速3キロ(岡山県玉野市での実証時における仕様)となっている。

なお、福祉用途の電動車いすは、警察庁通達で時速6キロ未満となっている。歩道走行を前提とするならば、やはり6キロが1つの基準となるのだろうか。

■【まとめ】宅配ロボットのサービスインが間近に迫る

予定通りであれば、低速・小型の配送ロボットの制度化・実用化に向けた基本方針がまもなく発表され、法整備に向けた動きも本格化することとなる。実証と並行して進められていることを考えれば、異例とも言えるスピードだ。

今後、楽天のように実用域のサービスを提供する実用実証もますます加速していくことが予想され、そのままサービスインするような形で本格実用化が始まる可能性もある。政府の取り組み、民間の取り組み共に要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事