Apple Car搭載のLiDAR、調達先はLuminar有力?自動運転向けセンサー

供給をめぐり複数の開発企業と協議か

B!

米アップルの自動運転プロジェクトをめぐる報道が依然過熱している。「Apple Car(アップルカー)」を生産するのは果たしてどの企業なのか、世界的な注目が集まっているようだ。

同様に注目を集めているのが、アップルカーに搭載される「LiDAR(ライダー)」の供給先だ。アップルカーのLiDARに関しては、2019年にロイター通信が関係者筋の話として「供給元候補として少なくとも4社と協議している」旨を報道するなど、早くから供給先を探る動きが出ていた。

アップルとの取引を手中に収めるのは、最終的にどのLiDAR企業になるのか。アップルのLiDAR関連情報とともに、アップルが協議を進めていそうな有力LiDAR企業を探ってみよう。

■アップルのLiDARをめぐる報道

ロイター通信は2019年4月、アップルがLiDAR供給をめぐり4社以上と協議していることを報じた。合わせて、革新的なデザインを要求している点や、自社開発を進めていることなども関係者の話として明かしている。

その後、iPadなどへのLiDAR搭載とともに自社開発を推進する動きが明らかとなり、自動運転向けの車載LiDARも自社開発するのでは――といった憶測・推測が一部で強くなった。

しかし2021年2月、ブルームバーグが関係者筋の話として、ハードウエアについては外部から供給を受ける考えで、LiDAR供給をめぐり複数の開発企業と協議に入っていることを報じている。

アップルは依然口を閉ざしており、車体の生産同様、しばらくはLiDAR供給をめぐる報道も続くことになりそうだ。

■公道試験車両から見るアップルのLiDAR

カリフォルニア州の公道実証で目撃されているアップルの試験車両には、ルーフ上に「これでもか」と言わんばかりの多数のセンサーが配置されている。LiDARだけでも8基ほど搭載されているように見える。

このゴツゴツした仕様はあくまで試験向けだ。アップルカー製品化の際は間違いなくデザイン性を重視し、ボディと一体化した洗練された姿で世に送り出すはずだ。

そのためには、小型でフレキシブルな活用が可能なモデルか、あるいはアップル専用に設計されたLiDARが必要となる。

価格や性能面のみならず、こういった観点もアップルカー向けLiDARには求められることになるだろう。

■調達先として考えられるLiDAR企業
Luminar Technologies:世界が注目する新興LiDAR企業

有力候補筆頭は米Luminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)だ。世界の自動車メーカートップ10にランクインする7社を含む50以上のパートナー企業を獲得し、2020年12月には米ナスダック市場への上場を果たすなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を遂げている。

トヨタやボルボ・カーズなどは早くから同社の技術に注目し、出資や同社製品の採用を決めている。上場直前には、イスラエルMobileyeが生産する自動運転車向けにLiDARを供給する契約を交わしたことも発表されている。

量産化に適した低価格帯のLiDAR開発に力を入れており、低コストパッケージ「Iris」は車両のルーフラインに統合できるスリムなデザインで水平視野角120度、垂直視野角30度、最大500メートルの検知を可能にしている。1基あたりの価格は10万円を切るという。

製品のラインアップはまだ少ないが、アップルと取引することにより、バリエーションを増やす機会につなげられる。勢いに乗るルミナーの次の一手に注目だ。

【参考】Luminarについては「LiDAR企業のLuminar上場!株価急上昇、自動運転の「目」を開発」も参照。

Aeva:創業者は元アップル FMCW LiDARを開発

2021年内に米株式市場に上場予定の米Aeva(エヴァ)も有力候補だ。創業者は元アップルのエンジニアで、ある意味手の内を知り尽くした関係とも言える。

LiDARは、照射したレーザー光が反射して返ってくるまでの時間によって距離や方向を計測するTOF方式が主流となっているが、同社は周波数を変化させながらレーザー光を照射し、物体からの反射波と送信波の周波数の変化を読み取ることで物体の移動速度も計測可能なFMCW方式の4D LiDARを開発している。

2020年に自動車部品大手の独ZFと量産化に向けた提携を交わしたほか、2021年1月にはデンソーとも共同開発を進めていくことを発表している。独ポルシェが出資しているほか、自動運転トラックを開発する中国のTuSimpleが同社製LiDARの導入を決めているようだ。

アップルが求める技術・製品に対する需要を読み違えなければ、現在はスタートアップ企業のAevaが一躍メジャーな存在になることも考えられそうだ。

AEye:1000メートル先を検知可能なLiDAR開発

2021年中の上場を目指す米AEyeも面白い。AI技術やMEMSに関する独自の特許技術などにより、高性能で小型、低価格を実現するLiDARを開発している。

2020年7月にリリースされた「4Sight」は最大1,000メートル先を検知可能で、200メートル先の歩行者や120メートル先のタイヤの破片やレンガといった小さく反射率の低い物体の検出も可能という。

2018年のシリーズBラウンドにはSUBARU-SBIファンドが参加しているほか、2019年にはアイシンも出資している。海外勢では、米インテルや独コンチネンタルなどもパートナー企業に名を連ねている。

Aeva同様新進気鋭のスタートアップで、アップルの意向を汲みやすい開発環境にあるものと思われる。年内上場に向け、アップルとの協業でスタートダッシュを飾りたいところだ。

Velodyne Lidar:LiDAR開発パイオニアも存在感

自動運転向けLiDARのパイオニアである米Velodyne Lidar(ベロダインライダー)も当然有力視される。アップルの試験車両に搭載されたLiDARはベロダイン製だ。

開発当初は360度視野角を持つパトランプのようなサラウンドセンサーモデルが主流で、価格も1基数百万円と言われていたが、低価格化が進む近年は、小型化しやすく搭載場所に汎用性のあるソリッドステート式を複数基搭載する流れが強くなっている。

同社もソリッドステート式の小型低価格モデルの開発にも力を入れており、ラインアップも拡充している。開発パートナーには、米フォードや韓国ヒュンダイ、中国の百度、スウェーデンのボルボ・カーズなどが名を連ねており、実績も豊富だ。

【参考】Velodyneについては「ベロダインライダー(Velodyne Lidar)を徹底解説! 「自動運転の目」で世界大手」も参照。

■iPadやiPhoneのLiDAR製造企業も候補?

アップルは2020年、新型のiPad ProやiPhoneのハイエンドモデルにLiDARを搭載した。専用に設計されたLiDARは、ダイレクト・タイムオブフライト(dToF)方式を利用し、屋内外で最大5メートル先から反射した光を測定する。

自動運転車に搭載されるLiDARと比較すると、測距距離などが短くAR(拡張現実)コンテンツなどに向けた作りとなっているが、このLiDAR製造にはソニーが関わり、CMOSイメージセンサーなどを提供しているようだ。

高度なセンシング技術を誇るソニーは、車載分野でセンサーフュージョン技術の開発とともにソリッドステート式LiDARの開発なども進めている。

2021年2月には、業界初となるSPAD(Single Photon Avalanche Diode)画素を用いた車載LiDAR向けの積層型直接 Time of Flight(dToF)方式の測距センサーを開発したと発表した。

CMOSイメージセンサー開発で培ってきた技術を活用することで、最大300メートルの距離を15センチ間隔で高精度かつ高速に測定できる。1チップ化によるLiDARの低コスト化も可能で、本開発品を搭載したMEMS式LiDARを評価用として開発し、顧客やパートナーに向け提供開始している。

「VISION-S」で自動車産業を一から見つめ直し、LiDAR開発にも本腰を入れ始めたソニー。iPadなどの縁もあり、車載LiDARについても水面下で協議が進められている可能性も否定できない。

【参考】iPad Pro搭載のLiDARについては「LiDAR搭載によるiPad Proの進化、「自動運転のおかげ」説」も参照。ソニーの取り組みについては「自動運転視野のソニーVISION-S、公道実証開始!AImotiveと協力も」も参照。

■【まとめ】自社製品と他社製品のミックスも?

米国特許商標庁は2020年12月、アップルによる新たな特許「Three-dimensional object detection」を公開した。LiDARを活用した3次元物体検出に関する特許で、アップルのLiDAR開発に対する意欲がうかがえる。

自動運転車には、近距離、中距離、遠距離を360度センシングするため複数のLiDARを搭載するのがスタンダードになりつつあることを考慮すれば、例えば近距離LiDARは自社製品でまかない、遠距離LiDARに他社製品を採用し、ソフトウェアで統合を図ることなども考えられそうだ。

LiDARは、まもなく本格化する自動運転レベル3車両の量産化とともに飛躍的に注目度が増す。ホンダのレジェンドが採用するのはどの企業か――といったイメージだ。アップルカーに限らず、各車が採用するLiDARにもしっかり注目していきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事