国土交通省はこのほど、空港内における自動運転技術の導入を目指し実証を進めているトーイングトラクター自動走行実証実験の進捗報告を発表した。
自動運転の早期実現において最有力候補に名を連ねる空港。広い敷地と管理が行き届いた制限区域は、初期の自動運転実現に最も適していると言っても過言ではない。
この空港において、どのような実証が行われているのか。報告書の中身を見ていこう。
▼令和元年度トーイングトラクター自動走行実証実験 進捗報告(国土交通省航空局)
https://www.mlit.go.jp/koku/network/content/001319870.pdf
記事の目次
■実証実験の概要:労働力不足の課題解消目指し
機能強化が求められる空港においても労働力不足が顕在化しており、航空局は官民が役割分担しながらIoTやAI、自動化技術などの先端技術を活用した航空イノベーションを推進していく方針を打ち出し、2018年1月に「航空イノベーション推進官民連絡会」を設立した。
この中で、特に労働力不足が深刻化している地上支援業務については省力化や自動化が強く求められているため、2020年までに省力化技術を導入することを目標に「空港制限区域内の自動走行に係る実証実験検討委員会」を設置し、実証実験を進めることとしている。
実証実験ではA(全日本空輸/豊田自動織機)、B(日本航空)、C(AIRO/日本航空協力)D(AIRO/スイスポートジャパン協力)の4グループが採用され、概ね2019年9月~2020年2月の期間にトーイングトラクターの自動走行確立に向け各空港敷地内で取り組みを進めている。
■全日空と日航が既に実証に着手
Aグループ(全日本空輸/豊田自動織機)の進捗について
Aグループは、SIMAI社製トーイングトラクターを活用し、九州佐賀国際空港で9月30日から10月11日の期間に実証実験を行った。
車両には、路面パターンマッチング用カメラ1基、遠隔監視用カメラ4基、LiDAR3基、IMU1基、GPS1基を搭載し、路面パターンマッチングやGPS、IMUなどから得られるセンサー情報を統合して自己位置を推定するほか、LiDARによって車両周辺の障害物や車両、人を検知する自律走行を可能にした。
実証では、貨物上屋前やソーティングエリアから前後方の貨物室までなど6つルートを延べ152往復、総走行距離53.8キロ中自動運転で52.8キロを走行した。
予定外の手動操作介入回数は6回で、1キロあたり0.11回の計算。内訳は、「車両通行帯付近の作業者回避」と「駐停車車両回避」がそれぞれ2回、「センサーの死角箇所からの歩行者回避」と「走行経路のずれ」がそれぞれ1回となっている。
車両通行帯付近の作業者回避では、通行帯通過時に作業者を発見したため手動でブレーキを行った。作業者を経路上にない障害物として検出しており、経路から十分距離もあるため、自動走行は継続できたと推定している。
駐停車車両回避では、ベルトローダーが所定位置より走行経路寄りに駐車などされていたため手動でブレーキを行った。経路上にない障害物として検出しており、こちらも自動走行は継続できたと推定している。
センサーの死角箇所からの歩行者回避では、柱の間から出てきた作業者が走行経路を横断したため、ドライバーがとっさにブレーキ操作を行った。柱の陰から出てきた時点で歩行者を検出しており、自動走行は継続できたと推定している。
走行経路のずれでは、走行中に所定経路からの左方ずれ量が大きすぎるとドライバーが認識し、カーブ進入直前区間であったため手動介入した。路面パターンマッチングしない区間が継続しており、経路逸脱判定は正常に動作していたため、介入がなければ自動停止機能が動作したと推定している。
実証の結果、自己位置認識技術に大きな問題はなく、雨天時など路面が濡れている状況におけるコンクリート路面での自己位置認識安定性の向上を課題に挙げたほか、障害物検知では大きな水たまりや雨粒を障害物として誤検知する事象が発生しており、アルゴリズム改良や別センサーとの組み合わせによる検知手法の開発を進めるとしている。
今後、2020年2月にも中部国際空港で実証実験を行う予定。
Bグループ(日本航空)の進捗について
Bグループの日本航空は、LiDAR5基、GPSアンテナ、4G/LTEアンテナなどを搭載したTLD社製の「TractEasy」を使用し、10月31日から11月13日の期間、成田国際空港で実証実験を実施。総走行距離99.9キロ中68.2キロで自動走行を行い、手動操作の介入回数は7回、1キロあたり0.1回の結果となった。
このうち、路面段差による停止や先行車両の不認識など障害物検知に関わるものが4回あり、スピードの調整やソフトウェアの修正などで対応している。
C・Dグループ(AIRO)の進捗について
グループC・DのAIROは、2020年6~7月に成田国際空港、同年10月に関西国際空港でそれぞれ実証する予定で、ZMP製のトーイングトラクターをベースに改良した実験車両を用いる。GPSとLiDARで自己位置推定を実施し、センサーなどを利用してシステムが加減速や停止、右左折などを制御する自立走行型だ。
■【まとめ】空港制限区域内は自動運転実現の適地 2020年度も実証続く
空港における実証では、このほかにも全日空が先進モビリティやSBドライブなどの協力のもと、またAIROがスイスポートジャパンの協力のもとそれぞれ自動運転バスの実証実験を進めている。
空港制限区域はそもそも厳重な管理体制が敷かれているため、自動運転技術の導入には非常に適した環境といえる一方、軽微なミスや事故が重大な案件につながる恐れもあるため、より厳格なシステム構成が必要とされる。
ロードマップでは、トーインググトラクターなどの牽引車や空港内送迎バス(ランプバス)の自動運転化は、2019年度までに自動運転レベル3を実装し、2020年度からレベル4~5の完全自動運転の実証や試験運用を進めていくこととしている。
こうした取り組みが自動運転の実績となり、公道を含めたさまざま場所での自動運転導入を後押しすることにもつながる。自動運転技術が空港内でしっかりと成就し、そして飛び立つことに期待したい。
【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。