NTTが自動運転に本格参入へ 最難関エリアで実証実験

2030年代1,000台、数百億円規模の売上を想定



NTT東日本、東京都の武蔵野市、自動運転専業会社のNTTモビリティ(エヌ・ティ・ティ モビリティ)が、地域公共交通への自動運転導入に向けた連携協定を結んだ。舞台となるのは、住宅密集地に幅の狭い生活道路が入り組む武蔵野市。自動運転にとって国内でも最難関クラスの環境である。


協定が締結されたのは2026年6月16日。三者は2026年度下期に、武蔵野市役所と吉祥寺駅を結ぶルートでの自動運転実証と、武蔵境駅周辺でのインフラ協調実証に着手する。将来的には、市のコミュニティバス「ムーバス」への技術活用も見据える。NTTグループとしては全国で実証を重ねてきたが、自動運転を専業とする会社を核に、社会実装へ本腰を入れる局面に入ったと言える。

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■最難関エリア武蔵野市で始まる自動運転実証

なぜ武蔵野市が「最難関エリア」なのか。市自身がその難しさを認めている。武蔵野市の市街地は住宅密集地に幅の狭い生活道路が広がり、自動運転の実装には高度な技術的検証が必要となる。歩行者、自転車、バイクといった多様な交通が入り混じり、見通しの悪い道も多い。整備された広い幹線道路を走るのとは、難しさの次元が違う。

背景にあるのは、全国共通の構造的な課題だ。バス乗務員の不足による減便が深刻化し、高齢化の進行や移動ニーズの多様化も進む。持続可能な地域公共交通をどう確保するか。武蔵野市はこの課題に対し、自動運転やAI、ビッグデータを活用した交通分野のデジタル化で応えようとしている。今回の連携協定は、その実現に向けた最初の一歩と位置づけられる。

つまり武蔵野市の挑戦は、難しい場所をあえて選んだというより、生活に密着した交通課題を解くには、この複雑な環境で自動運転を成立させる必要があるという現実の裏返しである。だからこそ、ここでの検証が持つ意味は大きい。


【自動運転ラボの視点】
生活道路が入り組む武蔵野市は自動運転の実装が最も難しい部類に入る。ここで成立すれば他地域への横展開の説得力は一気に高まる。難所での実証という一点に、この協定の戦略的な狙いが表れている。

■自動運転とインフラ協調の2つを実証

三者が2026年度に取り組む実証は2つある。

1つ目は、複数車両を活用した市役所〜吉祥寺駅間の自動運転実証だ。NTTモビリティが企画・運営する共創拠点「Co-Creation Hub(コ・クリエーション ハブ)」の活動の一環として、複数車種による走行技術検証を行う。交通需要の高い市役所と吉祥寺駅を結ぶルートを予定し、地域の交通事業者とも連携する。

2つ目は、武蔵境駅周辺でのインフラ協調の実証である。歩行者や自転車、バイクなどが混在する複雑な交通環境で、道路脇に設置するスマートポールを活用する。人、車両、インフラが三位一体で連携する協調型自動運転の有用性を検証する狙いだ。車両側のセンサーだけに頼らず、インフラ側からも走行を支える。狭い道での安全性を高めるアプローチと言える。


いずれの実証も、開始時期は2026年度下期を予定する。1つ目が車両側の走行技術を磨く検証、2つ目がインフラとの協調を試す検証。狙いの異なる2本立てで、複雑な交通環境への対応力を確かめる構図だ。三者は将来的に、市のコミュニティバス「ムーバス」や既存のバス路線への技術活用も見据えている。

【参考】関連記事としては「新卒に「破格の年収2000万」!?東京の自動運転ベンチャー」も参照。

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■NTTグループの自動運転戦略 西日本のNavyaから専業会社NTTモビリティへ

今回の協定は、NTTグループが進めてきた自動運転戦略の延長線上にある。グループとしての実績は浅くない。NTT東日本、NTT西日本、NTTドコモ、NTTドコモビジネスといった各社が、2年間で全国35件以上の自動運転実証に取り組んできた。今回のニュースは、突然の新規参入ではなく、積み上げてきた知見を社会実装へ進める節目である。

車両調達の面で象徴的なのが、NTT西日本の動きだ。NTT西日本はマクニカと組み、フランスの自動運転技術企業Navya Mobility(ナヴィア モビリティ)に出資している。出資比率はNTT西日本が29.15%、マクニカが70.85%。Navyaは15人乗りの自動運転EVバス「ARMA(アルマ)」や「EVO(エヴォ)」を手掛ける。実際にこのEVOは、島根県美郷町でのグループの実証で車両として稼働しており、出資が現場で活きている。

こうしたグループ各社の知見を1社に束ねたのが、自動運転専業会社のNTTモビリティである。NTTが100%を出資し、資本金は14億3000万円。2025年12月に設立され、社長には山下航太氏が就いた。武蔵野市の共創拠点Co-Creation Hubは、この会社が企画・運営する実証フィールドで、2026年6月に稼働を始めている。車両を自社開発せず、複数の自動運転キットを使い分ける方針も特徴だ。バラバラだった取り組みを集約し、通信とAIという本業の強みで支える。それがNTTモビリティの立ち位置である。

【参考】関連記事としては「Google、東京で「年収1億円!?」な自動運転求人」も参照。

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■2030年代1,000台へ NTTモビリティが描くレベル4のロードマップ

NTTモビリティは、明確な段階目標を掲げている。まず2028年度までに、これまで積んできた自動運転レベル2の実証を、自動運転レベル4へと引き上げる。対象は路線バスの領域が中心だ。米自動車技術会SAEが定める自動運転レベル4は、特定の条件下でシステムが運転操作のすべてを担う段階を指す。運転手のいない運行が視野に入る。

その先の絵姿はさらに大きい。2028年以降に全国展開へ移り、2030年代には1000台以上の自動運転車両の運行支援を目指す。売上高では数百億円規模を想定する。政府も、自動運転移動サービスを2027年度までに100か所以上の地域で実現する目標を掲げており、NTTモビリティはこの流れに乗る形だ。

この長期ロードマップの中で、武蔵野市の実証はどこに位置づけられるのか。狭い生活道路という難条件でレベル4へ近づくための技術検証の場であり、全国展開に向けた試金石である。遠隔監視や統合モニタリング、安定した通信といったNTTの強みを、最も厳しい環境で試す。武蔵野市はその舞台なのだ。

■最難関エリア武蔵野市の挑戦が問う自動運転の実力

武蔵野市が直面する交通課題は、この街に固有のものではない。乗務員不足、減便、高齢化。多くの自治体が共通して抱える構造的な課題である。だからこそ、住宅密集地に狭い生活道路が広がる武蔵野市という最難関エリアで自動運転が成立すれば、その成果は他の地域へ横展開できる説得力を持つ。

最も難しい場所で通用するなら、どこでも通用する。今回の実証は、その仮説を検証する挑戦だと言える。市役所〜吉祥寺駅間の走行技術検証と、武蔵境駅周辺のインフラ協調。2つの実証を経て見据えるのは、コミュニティバス「ムーバス」への技術活用であり、その先に広がる全国の地域交通である。武蔵野市の挑戦は、自動運転の実力を問う試金石になる。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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