KNT-CTホールディングス傘下の近畿日本ツーリストが、中学校など2校向けの修学旅行用のバスを確保できない事態が起き、大きな注目を集めている。バス会社に手配を依頼したが最終的に全て断られた格好だ。運転手不足という根本的な原因により、バス会社は依頼を受けることができなかった。
今回の事態は細かくみれば、複数の要因が絡んで起きている。日本全体で起きている少子化に伴う人材不足、ドライバーの時間外労働に年間960時間という上限が設けられたことによる「物流2024年問題」、そして円安によって海外旅行のコストが上がり、修学旅行を海外にしていた学校が国内旅行に切り替えるケースが起きたことなどだ。
こうした一つ一つの課題の解消・解決は簡単にはいかない。そのため、今回のような修学旅行向けのバスを確保できないトラブルは、今後も続出する可能性がある。
そこで注目してほしいのが、「自動運転技術」だ。自動運転化されたバスが普及すれば、(複数台のバスをまとめて監視する遠隔管制センターで働く人員は必要になるものの)、バスの確保はかなり容易になる。ドライバーという労働力が無くても、修学旅行の移動ニーズを果たすことができるからだ。
■進むシャトル・バスの自動運転化
日本におけるバスの自動運転化の現状を説明しよう。シャトル型の小型バスの無人化は、ここ数年、かなり進んできた。例えばソフトバンク系のBOLDLYは茨城県境町や北海道上士幌町、羽田イノベーションシティなどで自動運転バスを社会実装し、運行を続けている。
いわゆる「路線バス」で使用しやすいサイズの車両の自動運転化の取り組みも進んでいる。自動運転ベンチャーのティアフォーはMinibusを開発し、千葉県横芝光町や石川県小松市で運行が始まっている。
地面に敷設した磁気マーカーを読み込みながら走行する電磁誘導型の自動運転バスの社会実装も進んでいる。
ただし、技術的には「自動運転レベル4」(高度運転自動化)、すなわち現場での人間による介入が全く不要な水準まで無人走行技術を高めていても、実際に、磁気マーカーも使わず、車内に安全要員(セーフティドライバー)も全く配置していない状況での自動運転は、商用サービスとしてはまだ展開できていない。
【参考】関連記事としては「自動運転バス・シャトルの移動サービス一覧(2024年最新版)」も参照。
■海外でも中型〜大型の無人化はこれから
ただ、中型〜大型バスの自動運転化の分野においては、日本が特段、海外に比べて遅れをとっているわけではない、という点は念頭に置いておきたい。
自動運転タクシーの分野ではGoogle系Waymoが2018年12月に商用サービスを世界で初めて展開して以降、まだ自動運転タクシーが商用展開されていない日本との差は広まるばかりだが、自動運転バスに関しては海外で実用化事例はあるものの、日常利用で本格的に普及しているエリアはほぼない。
小型シャトル型の車両での移動サービスは徐々に日本と海外でも普及しつつあるが、修学旅行で必要とされるのは、ある程度大きなサイズのバスだ。この分野の自動運転化で日本がリードしていけるのか、注目したいところだ。
■ガイドや車掌をデジタル化する取り組みも
ちなみにバスの自動運転化と合わせて、車掌のデジタル化や遠隔化に向けた技術開発も進みつつある。バスガイドや車掌の役割をアニメーションキャラクターやアバターに担わせ、ドライバーだけではなく、ガイド用の人材もデジタルやAI(人工知能)の技術を使って間に合わせようという取り組みだ。
【参考】関連記事としては「自動運転バスに「イケメンAI車掌」!ChatGPT活用して返答」も参照。
バスガイドのプロフェッショナルによる人間味溢れる案内をアバターで完全に代替するまでは難しいかもしれないが、案内・ガイドという基本的な役割を一定程度果たしてくれるはずだ。
また、遠隔地にいる実際の人間のバスガイドをアバターとしてバスの車内に登場させ、案内を行うようにできれば、バスガイドの技能を有した人材の労働効率は上がり、ガイドの人材不足の課題も多少緩和されるのは確実だ。
■「修学旅行のバス不足」は今後も続く?
「修学旅行のバス不足」という課題が、自動運転化やアバター技術などの進展によって、今後どのような展開となっていくのか、関心を持って注視していきたいところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転バス・シャトルの車種一覧(2024年最新版)」も参照。