ライドシェア世界最大手Uber、ついに日本で「本業」を本格展開へ

石川県加賀市と包括連携協定



出典:加賀市公式サイト

配車プラットフォーマーのUber Japanは2024年3月、石川県加賀市と包括連携協定を交わし、加賀市版ライドシェアの本格運行を開始したと発表した。2023年12月に行われた自家用有償旅客運送の規制緩和以降、同社が初めて自治体と協同して提供する運送サービスとなる。

自家用車活用事業やライドシェアをめぐる議論が加速する中、現行制度化においてもUberが存在感を発揮し始めたようだ。Uberは移動サービスに関しては、日本ではこれまでタクシー配車アプリビジネスに事業範囲がとどまっていたが、ついに「本業」であるライドシェアの展開が本格化する。


Uber Japanの取り組みをはじめ、自家用有償旅客運送制度や自家用車活用事業、ライドシェア新法をめぐる動きについてまとめてみた。

■Uber Japanの取り組み

加賀市版ライドシェア開始

出典:Uber Japanプレスリリース

加賀市は移動・交通手段の確保を重要課題の1つとして捉え、国家戦略特区制度のもと乗合タクシーを高度化したAI(人工知能)オンデマンド交通や子ども向けの交通無償化とスクールバスの拡充、そして加賀市版ライドシェアの実現を施策に挙げている。

加賀市版ライドシェア実現に向けては、人材と車両といった地域資源を総動員し、市民をはじめ観光客など誰もが簡単・便利に移動できる交通体系として、自家用有償旅客運送制度の導入に向け調整を進めていた。

Uber Japanは2024年2月、石川県加賀市が開始する「加賀市版ライドシェア」の導入を支援することを表明し、同年3月に加賀市との包括連携協定のもと本格運行を開始したことを発表した。


一般社団法人加賀市観光交流機構を実施主体にUber Japanがアプリを提供し、地域のタクシー事業者である加賀第一交通が運行管理を行う。対象エリアは市内全域で、運賃はタクシー料金の8割としている。

▼加賀市版ライドシェアを開始しました!|加賀市
https://www.city.kaga.ishikawa.jp/soshiki/seisaku_senryaku/seisaku_suishin/5/11941.html

出典:加賀市公式サイト

規制緩和でタクシー料金の8割相当の運賃徴収が可能に

この「運賃はタクシー料金の8割」がポイントだ。これまでの自家用有償旅客運送制度では、客から収受する対価は「旅客の運送に要する燃料費や人件費等の実費の範囲内であると認められること」「合理的な方法により定められ、かつ旅客にとって明確であること」が求められ、路線型は乗合バス運賃を目安に、タクシーのように運行区域を定めて行う運送は近隣のタクシー運賃の2分の1が目安とされてきた。

しかし、この金額水準ではサービスの維持が難しいケースが出ていることから、デジタル行財政改革会議における議論を経て2023年12月に目安を8割に引き上げ、ドライバーへの適正報酬を確保する方針が発表された。


この規制緩和以降に、Uber Japanが初めて自治体と提供する自家用有償旅客運送が「加賀市版ライドシェア」だ。

第一弾の取り組みは京丹後市

Uberアプリを活用した自家用有償旅客運送は、公式発表ベースではこれが2例目となる。1例目は京都府京丹後市で、同市とUber Japanは2016年5月、道路運送法第78条第2号に基づく「公共交通空白地有償運送(現交通空白地有償運送)」サービスを開始している。

乗車エリアは同市内の丹後町内で、降車は京丹後市全域で可能だ。運賃は最初の1.5キロまで480円で、それ以後キロ当たり120円を加算する。概ねタクシー料金の半額となっている。支払いはクレジットカードのほか現金にも対応している。

スマートフォンでUberアプリを使って即時配車するほか、スマートフォンを持っていない高齢者などに対応するため、電話での依頼も受け付けている。ドライバーは地元住民16人が登録しているようだ。

課題としては、丹後町外からの往復運行や隣接市外観光地への運行、運賃の高さ感の緩和などが挙げられている。丹後町エリアから市内全域に移動できるものの、帰りは一部の病院以外は対応しておらず、エリア外から乗車できない。また、市外への移動もできないため、観光ニーズにも対応しきれないようだ。

運賃については受益者負担を重く感じている利用者がいるようで、市は免許返納時の無料クーポン券や高齢者外出支援割引券、福祉タクシー利用券などの発行で対応している。

なお、国土交通省によると、運送区域については原則運営協議会などを管轄する市町村または都道府県の区域のうち協議により定められた区域としているが、運営協議会などを複数の市町村などで開催することも可能としている。エリア外からの乗車はもとより、市外対応も近隣市町村と連携することで可能になるようだ。

【参考】京丹後市における取り組みについては「地域ライドシェアを「Uberアプリ」で配車!人口4,500人の町で独創的試み」も参照。

かつては福岡市で実証も……

京丹後市での取り組み以前にも、Uber Japanはライドシェア実証を行っていた。2015年に福岡県福岡市でライドシェア実証「みんなのUber」に着手したが、国土交通省から「白タク行為」と指摘され中止に追い込まれた経緯がある。

いわゆる米国流ライドシェアには待ったをかけられることとなり、以後タクシー配車サービスが事業の中心となっていたが、自家用有償旅客運送制度に活路を見出した格好だ。

国は同制度におけるアプリ導入を推進しているほか、後述する自家用車活用事業やライドシェア案などの議論も進めている。Uberが自社本来の強みを生かす環境が徐々に整いつつあるようだ。

【参考】Uberの動向については「ライドシェア解禁後、Uberに勝てる日本企業は存在するのか」も参照。

■自家用有償旅客運送制度の現況

自治体導入率は33%

自家用有償旅客運送制度は、交通空白地有償運送と福祉有償運送のみが認められている。国土交通省によると、2022年末時点で交通空白地有償運送が670団体4,304車両、福祉有償運送が 2470団体1万4,456車両が登録されているという。

交通空白地有償運送は全国1,741市区町村中572市区町村で導入されており、導入率は33%に上る。思いのほか多く全国各地で導入されている印象だ。

制度は2006年に始まり、これまで観光客対応や事業者協力型自家用有償旅客運送制度の創設など、随時改善を重ねてきた。2023年12月には、前述した旅客運送に要する対価の目安がタクシー運賃の50%から80%へと引き上げられた。

規制改革推進会議では、地域公共交通会議の透明性向上及び構成員の見直しや会議運営の迅速化、交通空白地を定義する際のエリアや時間帯の目安の明確化、事務手続の簡素化、ダイナミックプライシングの導入などを求める意見が出されている。

全国108の市町村長が2023年12月に設立した自治体ライドシェア研究会によると、新たに21自治体が自家用有償旅客運送の導入を検討しているという。

このうち、富山県南砺市、石川県小松市、京都府舞鶴市、大分県別府市、熊本県高森町の5市が事業を開始する見込みのようだ。

養父市「やぶくる」

自家用有償旅客運送の事例としては、兵庫県養父市の「やぶくる」が有名だ。国家戦略特区を活用した事業として2018年5月にスタートし、運行エリアをタクシー空白地に限定する形でサービスを提供している。

登録ドライバーは16人で、初乗り2キロまで600円、以後、750メートルごとに100円加算することを基準とした料金体系を設定している。利用者はアプリではなく電話で依頼する形を採用している。

市の事業費は100万円(2022年度)に抑えられているものの、利用者実績は2021年度425件、2022年度338件と伸び悩んでいる様子だ。

博報堂はMaaSソリューション「ノッカル」展開

博報堂は、地域の移動課題解決に向けたMaaSソリューションとして、マイカー乗り合い交通「ノッカル」サービスを展開している。

富山県朝日町や富山県高岡市で導入されているほか、静岡県浜松市で2024年1月に「ノッカル庄内」、2月に同県東伊豆町で「ノッカルひがしいず」、3月に山形県西川町で「ノッカルにしかわ」がそれぞれ運行を開始するなど、広がりを見せている。

自家用有償運送事業をシステマチックに導入するソリューションとして、Uber同様注目したい。

【参考】ノッカルについては「博報堂が「日本版ライドシェア」!Uberはダメなのになぜ?」も参照。

■自家用車活用事業の概要

タクシー不足背景に2024年度に新制度がスタート

インバウンド回復などを背景にタクシー需給がひっ迫していることを受け、現在制度化が進められているのが「自家用車活用事業」だ。

タクシー供給が追い付かない状態を道路運送法第78条第3号の「公共の福祉のためやむを得ない場合」に位置付け、エリアや時間帯などを客観的に指標化・特定し、タクシー事業者の管理のもと地域の自家用車や一般ドライバーによる有償運送サービス提供を可能にする。2024年4月に開始される予定だ。

国土交通省は2024年3月、タクシーが不足する地域・時期・時間帯と不足車両数についてタクシー配車アプリのデータなどに基づき算出した結果を公表した。

営業区域は①特別区・武三(特別区、武蔵野市、三鷹市)②京浜(横浜市、川崎市、横須賀市ほか)③名古屋(名古屋市、瀬戸市、日進市ほか)④京都市域(京都市、宇治市、長岡京市ほか)――の4エリアだ。

マッチング率90%を確保するために不足している車両数が、例えば①では土曜の00時~04時台2,540台、②では金土日曜の00時~05時台940台――といった具合に明示されている。

この4エリアで自家用車活用事業はスタートする形となる。今回公表対象とならなかった営業区域の不足車両数についても順次公表していく予定だ。

4月実施時点では、今回公表した不足車両数のうち5割を各社に配分し、残りの5割については以後3カ月ごとに一定数を各社に配分する。

タクシー事業者からの申請車両数の合計が当該エリアにおける不足車両数を超える場合は、申請車両数の比率に従って配分するという。

■ライドシェア解禁に向けた動向

本格ライドシェア解禁に向けた動きも

国は、自活用車活用事業とは別にタクシー事業者を介さないライドシェア解禁に向けた議論を進めている。自家用車活用事業の実施効果を検証しつつ、2024年6月までに一定の方針をまとめる予定だ。

現時点の方向性としては、ライドシェア事業者に対する徹底した安全確保に向けた規制の導入をはじめ、新たな働き方の尊重、副業・兼業の推進、自由度の高い料金規制、地域・時間帯・台数の不制限――などが示されている。

経済同友会などの推進派が2024年度中の新法制定を求める一方、タクシー業界を中心に猛反発する動きも強まっている。議論がやや拙速な感も否めず、事業化に向けた動きが紆余曲折する可能性が高そうだ。

■【まとめ】大都市と地方でそれぞれ導入が拡大へ

規制緩和とともに自家用有償旅客運送制度の利用も伸びそうだ。大都市や有力観光地などでは自家用車活用事業、その他地域では自家用有償旅客運送制度の導入が加速する可能性が高い。アプリを導入する動きも大きなものへと変わっていきそうだ。

本格ライドシェア解禁に向けては、推進派と反対派が真っ向からぶつかることとなり、どのような決着となるかは依然不透明だ。まずは2024年6月に取りまとめられる方針がどのような内容となるか、またそれまでにどのような動きがあるかに注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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