自動運転時代、中古車ビジネス崩壊か 搭載センサー、数年で時代遅れに

サービス用車両と自家用車両で考察

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出典:メルセデス・プレスリリース

着実な進化とともにサービス提供エリアを拡大し続ける自動運転技術。市場拡大とともに量産化に向けた体制も整い始め、世に送り出される自動運転車の数は大きく伸び始めている。

自家用車向けの自動運転レベル3の実装やレベル4開発も進んでおり、近い将来、中古車市場に自動運転車が登場することになりそうだ。

ここで一つの疑問が浮上する。自動運転車の場合、中古車の価値はどのようなものになるのか。希少なため高い価値が認められるのか。それとも、中古車に搭載された旧式センサーはアップデートされた自動運転ソフトで使えないため、中古車の価値はゼロになるのか。

この記事では、自動運転車の中古価値について考察していく。

■サービス系自動運転車のケース
高額な自動運転車のリセールバリューは?

創成期の自動運転バスは1台数千万円と言われており、仏NavyaのARMAで1台5,000万円ほどとされる。量産体制が不完全な初期において、特にARMAのようなオリジナルモデルはどうしても車両そのものの価格が高額となる。

自家用車などの既存車両をベースに自動運転システムを統合したタイプは比較的価格を抑えることができそうだが、それでも軽く1,000万円を超えるものと思われる。最新のSoCやLiDARといった各ソリューションの価格に加え、莫大なコストをかけて開発した自動運転システムの元をとるためには、まだまだ需要が追いついておらず、単価が高くなるのだ。

レベル4での走行が可能な仏Navya製の自動運転シャトル=出典:Navyaニュースルーム
わずか数年でハードウェアが陳腐化?

では、こうした自動運転車のリセールバリューは高いのか?と言うと、おそらくそうはいかないだろう。高い・低い以前に、価格を付けられない可能性が高い。

仮に3~5年使用した自動運転タクシーを売却する場合を想定する。タクシー用途で使用しているため走行距離など相当伸びているが、それを差し引いても価格は暴落しているはずだ。

理由の1つは、システムの陳腐化だ。現在の自動運転開発において、3~5年というスパンは非常に大きく、そのころには明らかに高性能化を果たした新モデルが登場している。

OTA(無線アップデート)によってソフトウェアを最新のものに更新することで自動運転機能を向上させることができるが、SoCやLiDARといったハードウェアも日進月歩で進化しているため、ハードウェアを更新しなければソフトウェアの進化に追い付いていけない事態が想定される。

イメージとしては、2000年代初頭のデジカメやパソコンのような感じだ。ソフトウェアの向上のみならずハードウェアの進化も著しいため、3年前のモデルは瞬く間に陳腐化する。高速処理を必要とするソフトウェアに対しハードウェアの機能が不足するなど、要件を満たせなくなるのだ。

現在のパソコンや自家用車などのように、ハードウェアが成熟期に達しソフトウェア更新で長期間使用できるようになるまでには、まだまだ時間を要することになりそうだ。

【参考】関連記事としては「Over The Air(OTA)技術とは?」も参照。

ハードウェア交換は専門知識が必須

では、こうしたハードウェア類も交換すれば良いのでは?と思うところだが、こうした最新のソリューションは当然ながら高額となる。また、交換には専門知識・技術が必要不可欠となる。センサー類は、取付位置や角度が0.1ミリずれただけで正確性を失う。こうした調整を行うことができるのは、開発事業者とごく一部の認定整備事業者に限られるだろう。

さらに、レベル4の自動運転バスや自動運転タクシーはODD(運行設計領域)が設定されており、基本的に無人走行可能なエリアが限られている。自動運転としての汎用性が低いのだ。別のエリアで使用する場合、改めて自動運転システムに学習させる必要があるが、こうした作業も、開発事業者とごく一部の専門技術を有する認定運営事業者に限られる。購入者がおいそれと改良できるものではないのだ。

【参考】関連記事としては「自動運転とODD」も参照。

サービス系自動運転車は価格を付けられない?

こうした点を踏まえると、初期の自動運転バスや自動運転タクシーは、中古車市場にそぐわないことがわかる。開発事業者も、自社の自動運転車両が誰の手に渡り、どのように使用されるかを把握できなければ責任を果たせない。

数年経過した車両は、開発事業者らが最新車種と引き換えに回収し、改善・改良したうえで「認定中古車」としてODDが比較的緩い地域向けに販売するか、研究用途に回す…といった形になるのではないだろうか。

Waymoの自動運転タクシー=出典:Waymo公式サイト
新車価格の低下が中古価値を低くする

仮に中古車市場に自動運転車が出回るとしても、新車価格の低下が中古車の価値を引き下げることが考えられる。需要の増加とともに量産化が進み、新車そのものの価格が低下するのは世の常だ。他社との価格競争も激化の一途をたどるため、自動運転車の相場そのものが低くなっていく可能性が高い。

新車価格の低下が中古価格に影響するのは、テスラが好例だ。自動運転車ではないが、テスラは主力モデルのモデル3やモデルYの販売価格を数度にわたって引き下げている。

ロイターによると、テスラの中古車はバブルが崩壊したかのように価格が急落しているという。また、レンタカー大手の米Hertzや独Sixtなど、テスラ車の取り扱いを段階的に減らしていく動きも出ているようだ。

レンタカー各社はレンタル収入と車両売却時の収入をもとにビジネスモデルを構築しているが、両社はテスラの新車価格引き下げによる再販価格の低下を懸念し、テスラ車の取り扱いを減らす選択を行ったのだ。

事例としては異なるが、自動運転車も新車価格が低下すれば、それは中古価値に直結する。中古車より高いとはいえ、過去に比べ割安で新車が買えるのであればそちらを選ぶ事業者は多い。

こうした観点も踏まえると、やはりサービス系自動運転車の中古価値は、新車時の価値に比べ著しく落ちることになりそうだ。

【参考】自動運転車の低価格化については「中国で300万円の自動運転EV!トヨタ・プリウスより低価格に」も参照。

■自家用車における自動運転車のケース
自家用自動運転車はサブスクが主流に?

では、自家用車における自動運転車はどうだろうか。自家用車においては、ホンダやメルセデス・ベンツがレベル3実用化を果たしており、BMWなど各社も続いていく見込みだ。

レベル4はまだ実装されていないものの、高速道路限定などの形で開発を進める企業がおり、数年以内に実用化される可能性がある。

自家用車における自動運転機能は、オプション設定が主流となる可能性が高い。メルセデスのレベル3システム「DRIVE PILOT」は、ドイツ国内でオプション価格5,000ユーロ(約80万円)~7,430ユーロ(約117万円)で設定されている。北米ではサブスクリプション型式を採用する…といった報道も目にする。

テスラのADAS(先進運転支援システム)ソフトウェア「FSD」同様、自動運転機能はこうした形で実装が広がっていく可能性が高そうだ。この場合、ハードウェアはあらかじめ要件を満たすものが搭載されているか、オプション設定時に別途搭載することになる。

こうしたオプション設定は、オーナー変更により引き継がれるかが大きなポイントとなる。テスラのFSDは中古車購入者に引き継がれることはなく、2番目のオーナーは改めてFSDを購入しなければならない。メルセデスのケースは不明だが、レベル3に対応したハードウェアの料金も含まれているため、満額を支払う可能性は低いものと思われる。

サブスク型式であれば、中古車であってもサービスを受けたいオーナーがそれぞれ申し込めばよいものと思われる。モバイル通信も必須となるため、月額いくらのサブスク型式がしっくりきそうだ。

基本的には、中古車市場に出回る際にはハードウェアは自動運転に対応したものとなっているため、ソフトウェアやサービス部分を別途支払う形がスタンダードとなるのではないだろうか。

こうした観点から考えると、自家用自動運転車においては、中古であってもその価値を一定程度維持することができるものと思われる。

ハードウェアの陳腐化は避けられず?

ただし、大掛かりなアップデートにハードウェアが対応できるかどうかは不明だ。細かなソフトウェアアップデートは問題なさそうだが、例えばレベル3における上限速度が変わった際などだ。現行のレベル3は時速50キロなど渋滞時を前提としているが、これが制限速度まで拡大した際、ハードウェア更新が必要となるかもしれない。

サービス系自動運転車と比べれば進化の速度は安定していそうだが、自動運転そのものが日進月歩の成長を続けているため、やはりハードウェアの陳腐化も早いのだ。システムが一新されるようなブレイクスルーが起きる可能性も十分考えられる。

自動運転搭載モデルはフラッグシップ系モデルが中心となるため自動車としての価値は総体として高いが、プラスアルファとなる自動運転そのものの価値は急速に落ちていくものと考えられる。

【参考】自動運転車については「自動運転が可能な車種一覧」も参照。

■【まとめ】自動運転の進化はまだまだ続く

サービス系、自家用系ともども、今しばらくは自動運転の中古価値の急落は続くことになりそうだ。

たとえば、ある年にある自動運転車が100万円で販売されていても、2年後にはその車両の2倍の能力の車両が100万円で販売されれば、前モデルの価値は急落する。そういった状態がしばらく続く見込みだ。

どの段階でハードウェア・ソフトウェアともども一定水準に達し、安定した価値を生み出すのか。自動運転技術の進化は、こうした中古市場からもうかがえるのだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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