大手総合電機メーカーの株式会社東芝(本社:東京都港区/代表執行役社長CEO:島田太郎)は2023年10月2日までに、精度99.9%で物体を追跡するLiDAR技術を開発したことを発表した。
さらに、LiDARの取得データのみで精度98.9%で物体を認識することや、耐環境性能および計測範囲の柔軟性を大幅に高めることに成功した。同社によると、現時点でこれらの技術は全て「世界初」になるという。
LiDAR開発も手掛ける東芝だが、この技術開発によりLiDARの可能性がさらに拡大し、自動運転のほかあらゆる産業の効率化などにも活用が進みそうだ。
■「空間のデジタルツイン」構築にも活用
LiDARは自動運転としての用途のほか、カメラと併用して「空間のデジタルツイン」を構築し、空間上のあらゆるモビリティの自動化や、製造や物流ラインの全体最適化などのために活用する取り組みが進められている。しかし、カメラとLiDARの取得データの活用では、両データの空間的・時間的なずれによる認識精度の劣化が大きな課題になっていたという。
そこで、東芝はLiDARのみで得られる2次元データと3次元データを高精度に融合する「2D・3DフュージョンAI」を開発し、カメラを使わずに物体を世界最高精度の98.9%で認識し、99.9%で追跡することに成功した。空間のデジタルツインの構築においては、従来は大量のカメラの設置が必要であったが、それが不要になる可能性もある。
また「雨・霧除去アルゴリズム」を開発し、猛烈な雨・濃霧環境下での検知距離を2倍以上改善した。さらに「計測範囲可変技術」により、これまでの技術に比べ計測距離を大幅に伸ばすことにも成功した。
■東芝が開発した3つの新技術とは?
1つ目の「2D・3DフュージョンAI」は、カメラを用いずLiDARの取得データのみで物体の高精度な認識・追跡を実現する技術だ。LiDARで得た2次元データと3次元データを融合(フュージョン)してAIを適用・学習することで物体を認識・追跡できる。
2次元データと3次元データは、LiDARの同一の画素から同一のタイミングで読み込まれたデータのため、合わせ込みが不要で認識精度が劣化する懸念が無いという。この技術により、夜間でもカメラを用いずに車両や人などの物体を世界最高精度の98.9%で認識し、99.9%で追跡することが可能になった。
2つ目は「雨・霧除去アルゴリズム」だ。LiDARの計測精度を劣化させる雨や霧による影響を最大限緩和する技術になる。このアルゴリズムを適用したLiDARを用いて、実環境を模擬した実験設備で検知可能距離を計測したところ、1時間80ミリの猛烈な雨環境では20メートルから40メートルへ、視程40メートルの霧環境では17メートルから35メートルへと、従来の2倍以上に向上することができたという。
3つ目は「計測範囲可変技術」で、設置場所に応じLiDARの距離と画角によって決まる計測範囲を自在に変更することを可能にするものだ。従来技術に比べ計測距離を350メートルまで伸長しつつ、約6倍の画角で120メートルの計測距離を実現した。長距離計測が求められる道路や線路などのインフラ監視に加えて、広角性能が求められる工場や倉庫内のAGV(自動搬送ロボット)など、空間のデジタルツインでの適用を拡大できるという。
■東芝×LiDARの取り組みに注目
東芝は、今回開発した技術により同社のLiDARのポテンシャルを大幅に向上することができ、LiDARを用いた空間のデジタルツインの構築に大きく貢献するとしている。
今後は耐環境性能の研究開発をさらに推進し、2025年度にソリッドステート式LiDARを実用化することを目指すという。同社の技術開発に今後も注目していきたい。
【参考】関連記事としては「東芝のLiDAR、「超小型」で世界に勝つ!「自動運転の目」の開発競争激化」も参照。