空飛ぶクルマの開発と社会実装に向けた取り組みが世界各地で進む中、国内でも新たな動きが飛び出した。専門職大学院の事業構想大学院大学と空飛ぶクルマ関連事業を手掛けるエアモビリティが連携し、事業構想研究会を開講する。
1年間のプロジェクト研究を通じてビジネスモデルを構築・実現するための事業構想を練るとともに、各組織を牽引するようなスペシャリストの育成を目指す方針だ。
事業構想研究会はどのような取り組みを行っていくのか、その内容に迫る。
記事の目次
■事業構想研究会の概要
プロジェクト期間は1年間
事業構想研究会は、2040年の「空飛ぶクルマ社会」に向け、社会実装を推進するためのビジネスモデル策定やそれを達成するための事業構想構築を目的に据えている。1年間のプロジェクトで、事業構想大学院大学の修士課程カリキュラムの要素を活用して事業を進めていく。
原則10~15人の研究員で構成し、担当教授が年間を通じてコーディネートとファシリテーションを行いながら研究を推進していく。
プロジェクト期間は2023年5月から2024年3月で、月2回ペースで計24回開催する。多彩なゲスト講師を招き、研究員の視野を広めながら、各自の知の探索を通じた事業構想を構築していくという。
運営は事業構想大学院大学が担う。会場は事業構想大学院大学大阪校とオンラインで行う。
10社が研究会に参画
自社の社員を研究員として派遣する研究会参画企業には、センコー、阪急阪神ホールディングス、竹中工務店、日本特殊陶業、大日本印刷、サッポロホールディングス、パスコ、ピンスポット、パナソニック、パナソニックオペレーショナルエクセレンスが名を連ねている。
多種多様な企業が参画しており、関連ビジネス・サービスの可能性を大きく広げていくことに期待が高まるところだ。
■研究事例
空飛ぶクルマを活用した地方創生プロジェクト研究
空飛ぶクルマは、地上の既存インフラに左右されにくい新たな空のインフラとして、都市に負けない利便性と可能性を地方にもたらすことに期待が持たれる。デジタル田園都市国家構想の理念と合致するところだ。
新しい社会基盤の構築を進め、交通・観光・生活・物流などさまざまな分野に内包される地域課題の解決を図り、地方における新ビジネスの創出について研究していく方向性も考えられるとしている。
関連業種としては、地方行政機関・保険・物流・通信・旅行会社・小売・ITサービス・金融機関各社などが挙げられている。
空飛ぶクルマを実装した社会インフラ構想研究
空飛ぶクルマは、まちづくりや地域における交通網をはじめとする社会インフラ、MaaSとの親和性が非常に高い。実装には、離発着場を核とする周辺地域の開発をはじめ、航空や鉄道、バス、ライドシェアなど他の交通モードとの連携が必須となるため、社会インフラやMaaSなどと一体となったサービス提供の可能性について研究することも可能という。
関連業種としては、鉄道・バス・航空・自動車・不動産・建設・物流・ITサービス各社などが挙げられている。
空飛ぶクルマを活用する防災・医療システム研究
空飛ぶクルマは、飛行機やヘリコプターと比較し、離発着所や天候などの制限が少なく機動性が高い交通機関と言える。この特性を生かし、災害時の被災地への飛行による物資や医師、被害者の輸送や、事故現場や病院への飛行による緊急医療対応に関するビジネスを研究するという切り口もあるとしている。
関連業種としては、地方行政機関・病院・医療機器・薬品・交通各社などが挙げられている。
■空飛ぶクルマ開発の背景
新たなモビリティの実装にはビジネスモデル構築が必須
開発フェーズ真っ只中の空飛ぶクルマ分野では、機体の開発に焦点を当てた研究開発が主体となっている。新規格のエアモビリティを技術的に実現することが前提となるため当然のことだが、こうした新たな製品やサービスを社会の中で生かすには、ビジネスモデルの構築が必須となる。
多くの場合、まずはエアタクシーとしての活用を想定した開発が進められているが、このほかにどのようなサービスが可能か、どのような需要があるのか、どのような社会課題の解決に適しているか――など、さまざまな観点から可能性を模索し、ビジネスの道を拡大していかなければならない。
こうしたビジネスモデルの模索・構築は、機体の開発事業者のみならず第三者が参入することで本格化する。多様な業種が可能性を追求し、エアモビリティ産業のすそ野を拡大していくことでビジネス性が高まり、開発・生産効率の上昇や需要の創出に結びついていくことになる。
このような流れは、地上における自動運転車も同様だ。多くの場合、公共交通の維持やドライバー不足といった課題解決に向け、バスやタクシー、自家用車といった既存モビリティに自動運転技術を活用し、ドライバーレスによる無人自律走行を実現することが目標とされているが、自動運転技術のポテンシャルはこれらにとどまらない。
技術が確立し、社会実装のハードルが下がれば、無人移動販売などのように「サービスを移動」させるような活用方法が続々と生み出されていくものと思われる。移動ホテル、移動カラオケ、移動レストラン、移動会議スペース……など、不動産・店舗ありきの各種サービスと移動を結び付けることで、新たなビジネスモデルが誕生するのだ。
現時点において、「空の移動」を必要とする新たなサービスは限られ、当面はヒトやモノの輸送が主体となる見込みだが、混雑することのない空を活用することで、短~中距離輸送にイノベーションをもたらすことが可能になる。
数十年後、当たり前のようにエアモビリティが空を飛行する社会を想像し、バーティポートをはじめとした地上インフラの効果的な在り方を模索していくのも非常に重要で、大きなビジネスとなり得る。
国内では2025年目標に商用運航実現
国内では、大阪関西万博が開催される2025年ごろをめどに空飛ぶクルマの商用運航実現を目指す方針で、その後徐々に運航エリアを拡大し、並行して自律飛行が可能なモデルの実用化も推進していくロードマップが掲げられている。
本格的なビジネス展開はまだ先の話だが、実用化はすぐ目の前に迫っているのだ。今後、事業構想研究会のような新たな取り組みや枠組みが続発することも考えられそうだ。
【参考】空飛ぶクルマについては「空飛ぶクルマとは?(2023年最新版)」も参照。
空飛ぶクルマとは(2022年最新版) https://t.co/V7XYyKOY7V @jidountenlab #空飛ぶクルマ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) October 21, 2022
■【まとめ】イニシアチブ獲得に向け早期参入を
多彩なメンバーが集まる事業構想研究会で、1年後にどのような成果が上がってくるのか、今から楽しみだ。
自動運転車も同様だが、商用運航の開始により空飛ぶクルマを実際に目にする機会が増えることで機運が一気に高まり、関連ビジネスへの新規参入を目指す動きが活発化することが予想される。
イニシアチブをしっかりと握るためにも、こうした新分野への参入を早期に進めることも肝要だ。今後、どのような動きが飛び出すのか、各社の動向に注目したい。
【参考】関連記事としては「世界初!日本で4月「EV&自動運転」専門職大学が開学へ」も参照。