自動運転業界のジョブズ、超性能センサーを中国に「100万台以上」

CEOが発言、中国内での生産に着手



スティーブ・ジョブズ氏(左)とオースティン・ラッセル氏(右)=出典:Flickr : Matthew Yohe (CC BY-SA 3.0) /Luminarプレスリリース

LiDAR開発を手掛ける米Luminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)は2023年4月、上海モーターショーでタッチパネル大手の台湾TPKとのパートナーシップを発表した。中国内に新たな工場を建設し、高まるアジア市場の需要に応えていく構えだ。

同社は「現在の契約だけで、この10年間にアジア全体で数百万台の車両にルミナー製品が搭載される」との観測を示している。米メディアのTechCrunchによると、同社CEO(最高経営責任者)のAustin Russell氏は「2028年までに100万台以上のルミナー製品搭載車が中国で走行する」旨発言したようだ。ちなみにRussell氏が若くして起業し、そのバイタリティから自動運転業界のスティーブ・ジョブズだと呼ぶ人もいる。


LiDARの搭載はもはや自動運転車などの特定車両に限定されず、広範に浸透していくといった見通しのもと、着実にパートナー獲得と生産体制の構築を進めているようだ。

株式市場ではあまり評価されていない感が強いルミナーだが、そろそろその成長力や将来性が正しく評価され、企業価値を高めていってもおかしくはなさそうだ。

この記事では、ルミナーの最新動向とともに同社のポテンシャルに触れていく。

出典:Trading View
■Luminar Technologiesの最新動向
中国に4拠点目となる生産工場建設へ

ルミナーは、アジアで急速に高まる需要に後押しされ、大量生産工場を追加建設すると発表した。後述するが、生産工場は米国やメキシコ、タイに次ぐ4カ所目となるようだ。


パートナーを組むTPKは自動製造機能を有しているようで、年間最大60万個のLiDAR生産を後押しするようだ。また、TPKはルミナー株の購入も計画に入れている。同工場で生産したLiDARは、メルセデス・ベンツをはじめとする自動車メーカーに供給するとしている。

ルミナーによると、同社製LiDARの搭載を予定している20以上の生産車両モデルのうち、大部分は中国市場向けに販売される計画という。上海モーターショーでボルボ・カーズが発表したBEV(完全電気自動車)のフラッグシップSUV「EX90エクセレンス」にも、ルミナーのLiDAR「Iris」が標準装備されている。

パートナー50社超、LiDAR採用事例も続々

パートナー関連では、2017年にトヨタ系列のTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)が自動運転試験車両にルミナー製LiDARを採用したほか、2018年にボルボ・カーズやフォルクスワーゲングループのAID(Autonomous Intelligent Driving)、2020年にダイムラートラックスやモービルアイ、2021年に上海汽車やPony.ai――など、市場を選ばず販路を拡大し続けている。業界パートナーは50社を超えるという。

特に、中国市場へのアプローチは必見だ。米中貿易摩擦が過熱し、またHESAI TechnologyやRoboSenseといった中国企業が台頭する中、同国での基盤を拡大するのは容易ではないはずだ。しかし、着実にパートナー網を拡大し、世界最大の市場に刺さり込んでいる事実は見逃せない。


2023年2月に開催された技術説明会における発表によると、同社製LiDARを採用した車種は20を超え、今後5年間は毎年少なくとも3桁の収益成長を期待しているという。

2023年1月には、ハードディスクドライブ開発大手SeagateのLiDARプログラムを買収し、LiDAR関連IPを取得して次世代LiDARの開発や製造、コスト削減に向けた取り組みを強化した。

2月には、多国籍EMS企業Celesticaと共同で建設を進めているメキシコ生産工場が2023 年第2四半期にも稼働することや、タイの拠点では契約製造パートナーであるFabrinetとともに光学サブアセンブリ用の生産施設を拡大したことを発表している。

メキシコ工場は4月に稼働した。年間50万個のセンサー生産が可能で、当初は25万個を生産していくという。

また、AI(人工知能)開発企業Scale AIとパートナーシップを結び、機械学習ベースの「Luminar AI Engine」を強化していくことも発表している。

Pony.aiとは、2025年までの量産を目指す次世代商用トラックやロボタクシープラットフォームに向け提携を交わしており、ハードウェア・ソフトウェア両面で契約を交わしたようだ。

メルセデス・ベンツともパートナーシップを大幅に拡大し、次世代Iris LiDARと関連ソフトウェア技術を次世代生産車両ラインに幅広く統合していく計画を発表した。

さらに、受信機やレーザー、処理チップ技術の高度化促進に向け、チップ設計子会社のブラックフォレストエンジニアリング、オプトグレーション、フリーダムフォトニクスを統合し、ルミナーセミコンダクターを設立したことも発表している。

LiDAR開発や設備投資意欲も盛んで、今後しばらくの間成長し続けることは間違いなさそうだ。

【参考】メルセデスとのパートナーシップについては「数十億ドルの巨額契約!自動運転、メルセデスとルミナーが急接近」も参照。

■株式市場におけるLuminar Technologies
一般投資家からの支持もそろそろ上向きに…?

ルミナーはLiDAR開発企業の中でも優等生の部類で、安価かつ高性能なLiDAR開発を掲げ、ボルボ・カーズを筆頭とする多くの自動車メーカーなどと手を結んでいる。2020年12月にはいち早くナスダック市場へのSPAC上場も果たした。

上場後の売上高も、2020年12月期1,395万ドル、2021年12月期3,194万ドル、2022年12月期4,070万ドルと着実に伸ばしている。投資段階が続いているためまだ通年赤字を抜け出せていないが、着実に生産能力やLiDAR性能の向上を図っている印象だ。

前途有望なルミナーだが、そのポテンシャルへの期待は株価に反映されていない。2020年の上場時は初値23.65ドルをつけ、一時40ドル台まで値を上げたがその後は低迷し、一桁台が続いているのだ。

メルセデス・ベンツやSwiss Re、Pony.aiとの新たな契約が発表された2023年2月に上昇の動きを見せたものの、株価は安定せずその後下降している。

SPAC上場により一般投資家から敬遠されている点やライバル企業の台頭、世界経済低迷の影響も大きいものと思われるが、もっと評価されてしかるべき──とする声も少なくない。

しかし、着実にパートナーを獲得し、生産能力を向上させている事実と、レベル2+やレベル3などの自家用車への搭載拡大が見込まれる今後の市場動向を踏まえれば、そろそろ株式市場からも正当な評価を得ても良いのではないだろうか。

確実に基盤を固めつつあるルミナー。同社の成長力に期待する声は日増しに高まっていきそうだ。

■Luminar TechnologiesのLiDAR製品
主力LiDAR「Iris」とフルスタックソリューション「Sentinel」

主力製品のLiDAR「Iris」はバージョンアップを重ね、最大射程600メートル、夜間においても最大250メートル離れた暗い物体を検知可能という。水平視野120度、垂直視野は28度となっている。

フレームレートを損なうことなく、特定領域で劇的に高いポイント密度を作成するライン分布制御を可能にする最初のテクノロジーなどが搭載されているという。

このほか、LiDARと認識ソフトウェア、HDマッピングテクノロジー、Proactive Safetyと高速道路における自動運転を可能にするソフトウェアを備えたフルスタックソリューション「Sentinel」も提供している。

【参考】Luminar Technologiesについては「Luminarの年表!自動運転の目「LiDAR」を開発」も参照。

■【まとめ】自動車メーカーとのパートナーシップが大きな武器に

投資家の選り好みはさておき、同社が着実にステップアップしていることは誰も否定できないだろう。競合する他社との技術面・価格面での競り合いが今後激化することが予想されるが、大型契約が期待される自動車メーカーとのパートナーシップは大きな武器となる。

企業として着実にバージョンアップを重ねるルミナー。今後のさらなる飛躍に期待したい。

▼Luminar Technologies公式サイト
https://www.luminartech.com/

【参考】関連記事としては「サービス売上が139%増!自動運転向けLiDAR開発の米Luminar」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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