世界新車販売台数で3年連続首位となったトヨタ。2022年はトヨタ・レクサスが約957万台、ダイハツ・日野を含めると1,048万台の販売実績となった。業界が軒並み部品不足に悩まされる中、しっかりとシェアを確保した格好だ。
ただ、新車販売台数はそう遠くない将来、先進国を中心に減少に転じることが予測されている。途上国などを含めた世界全体ではまだまだ伸びを見せそうだが、自動車メーカー各社は戦略の転換を求められることになりそうだ。
事業分野としては、モビリティ関連サービス分野に注目が集まる。モビリティカンパニーへの進化を図るトヨタも、モビリティに関わるあらゆるサービスの開発・提供に取り組んでいるところだ。
自動車販売が好調なトヨタだが、将来、トヨタの事業や収益の半分をサービス業が占める――という時代が到来してもおかしくないのではないだろうか。
この記事では、成長領域であるモビリティサービスの可能性とともに、同領域におけるトヨタの取り組みについて解説していく。
記事の目次
■モビリティサービスの可能性
先進国では自家用車販売が頭打ちに
トヨタの関連会社で自動車系シンクタンクの現代文化研究所は、市区町村ごとに登録乗用車と軽乗用車の保有台数の中長期予測を発表している。このレポートによると、分析対象とした1733市区町村の総計で、2020年の乗用車保有台数6,174万台に対し、2025年に5,921万台、2030年に5,697万台、2035年に5,493万台と減少するという。
2035年は、2020年比でマイナス11%という値だ。日本の人口そのものが減少傾向にあるため納得の数字だが、MaaSの進展などで公共交通をはじめとした移動サービスが充実・効率化し、自家用車への依存率が徐々に下がっていくことなども考えられる。
脱炭素化の観点から先進国の多くはMaaS関連事業に力を入れており、人口減少の影響を抜きに考えても遅かれ早かれ先進国の多くでは自家用車需要が減退していく可能性が高そうだ。かつての自動車製造から販売、アフターサービスに至るビジネスモデルは成長を止めることになる。
MaaSや自動運転技術がモビリティサービスを成長させる
MaaSはさまざまな移動手段を効率的かつ効果的に組み合わせ、移動に利便性をもたらす概念だ。日本では、地域の飲食や観光、病院など異業種と結び付ける取り組みが盛んで、移動需要の喚起と経済効果を両立させようとさまざまなアイデアが導入されている。
【参考】MaaSについては「MaaSとは?(2023年最新版)」も参照。
収益事業としては未知数な点が多いが、富士経済の調査によると、国内のMaaS市場は2030年に2兆8,658億円に達し、2018年比で約3.5倍まで拡大するという。
また、無人運転を実現する自動運転技術は、従来の移動サービスに不可欠だったドライバーの人件費を大きく抑制することが可能になる。運営コストの低下がサービスの充実や料金の低減などにつながり、ひいては移動サービスの需要を増大させていく。
このように、MaaSや自動運転技術によりモビリティ関連のサービスは多様化し、さまざまな面で収益を生み出す。
自動車メーカーは、製造・販売という従来のモデルに固執することなく、さまざまなモビリティサービスの可能性を模索し、事業の多角化を図りながら次の時代へシフトしていかなければならないのかもしれない。
【参考】自動運転サービスのコストについては「タクシー運賃、自動運転化で10分の1 2030年に1000兆円市場に 米アーク・インベストメントが予想」も参照。
■モビリティサービス領域の取り組み
2016年ごろからモビリティサービス事業を加速
こうした業界における変革に対し、トヨタはいち早く事業の再構築に着手している。2016年ごろからモビリティサービスを意識した取り組みが大きく加速している印象だ。
同年、マイクロソフトとともに米国に合弁Toyota Connectedを設立し、新たなモビリティサービスを見越したビッグデータの活用に本格着手したほか、米国でカーシェア事業を展開するGetaroundと協業し、モビリティサービス・プラットフォーム「MSPF」の構築を推進している。
配車サービス大手の米Uber Technologiesへの出資もこの年だ。その後、トヨタは東南アジアのGrabや中国のDidi Chuxing(滴滴出行)ともパートナーシップを交わすなど、配車サービス企業との結び付きを強めている。
2017年には、NTTとコネクテッドカー領域における技術開発や技術検証、それらの標準化を目的に協業を開始し、新たなモビリティサービスの提供に必要となる技術の研究開発に取り組んでいる。
また、100%子会社のトヨタフリートリースと100%孫会社のトヨタレンタリース東京を2018年に統合し、新たにトヨタモビリティサービスを設立することも発表した。従来の法人向けリースやレンタカー事業の強化に加え、モビリティ社会を見据えた新たなモビリティサービスの創造・提供に取り組むこととしている。
モビリティサービス専用自動運転車「e-Palette」
米国で行われた技術見本市「CES 2018」では、モビリティサービス専用の自動運転車「e-Palette(イー・パレット)」が発表された。Autono-MaaSビジネスアプリケーションに対するトヨタのビジョンを示した一例で、多用途化が見込まれる自動運転モビリティのあり方を象徴するコンセプト車両だ。
【参考】e-Paletteについては「トヨタのe-Palette(イーパレット)とは?自動運転EV、東京五輪で事故」も参照。
トヨタは「モビリティ・カンパニー」へ
2018年3月期の決算説明会では、豊田章男社長が「トヨタを“自動車をつくる会社”から、“モビリティ・カンパニー”にモデルチェンジする」ことを決断したと発表した。モビリティ・カンパニーは「世界中の人々の移動に関わるあらゆるサービスを提供する会社」と位置付けており、モビリティサービス領域への注力を明示した格好となった。
2018年にはこのほか、パーク24とMSPFを活用した新たなサービス開発を視野にカーシェアをトライアル実施していくことに合意している。
コネクテッド関係では、TOYOTA Connected Europeを設立し、北米に続き欧州でもモビリティサービス事業やビッグデータ事業を本格化させている。また、国内では新型クラウンと新型車カローラスポーツの販売を機にコネクテッドカーの本格展開を開始した。
タクシー関連では、JapanTaxi(現Mobility Technologies)とタクシー事業者向けサービスの共同開発を検討することに合意したほか、KDDIとアクセンチュアを加えた4社でAI(人工知能)を活用した配車支援システムの試験導入を開始したことを発表している。
ソフトバンクと合弁MONET Technologies設立
同年8月には、東京都内にモビリティサービスの体感・発信拠点「TOYOTA MOBILITY SHOWROOM」を開設した。10月には、ソフトバンクと新しいモビリティサービスの構築に向け戦略的提携を交わし、新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」を設立すると発表した。
【参考】MONET Technologiesについては「【独占インタビュー】新時代は「サービスを運ぶ」!MONET Technologies」も参照。
MaaSアプリ「my route」を広域展開
同年11月には、西日本鉄道とともにマルチモーダルモビリティサービス「my route」の実証を福岡県福岡市で開始した。いわゆるMaaSアプリで、翌2019年にJR九州を交え福岡市・北九州市を皮切りに本格展開をスタートしている。2023年1月現在、九州や神奈川県横浜市など12エリアでサービスを提供している。
【参考】my routeについては「トヨタのMaaSアプリ「my route」、展開拡大!九州・沖縄含め10県で」も参照。
KINTO設立、サブスク中心にサービスを多角化
2019年1月には、人とクルマとの新しい関係を提案する愛車サブスクリプションサービスの運営を目指し、新会社KINTOを設立した。KINTOはその後、単純なリース形態のサブスクサービスにとどまらず、愛車をアップグレードやカスタマイズするKINTO FACTORYサービスを開始するなど、新たな展開を見せている。
カーシェア事業にも本格着手
同年10月には、トヨタ販売店やレンタリース店によるカーシェアサービス「TOYOTA SHARE」と、無人貸出レンタカーサービス「チョクノリ!」の全国展開を開始した。
両サービスは2023年2月に統合し、それぞれのメリットを取りいれた新しい「TOYOTA SHARE」としてリニューアルされる。2023年1月現在、ステーション数は47都道府県で1,180件に上る。
スマホ決済サービスも登場
トヨタは同年11月、トヨタファイナンシャルサービスとトヨタファイナンスの3社でスマートフォン決済アプリ「TOYOTA Wallet」を開発し、提供を開始した。
コネクテッドサービスやMaaSなどにおいて決済機会が増すことを想定した金融サービスで、自動運転サービスやMaaSなどが加速する今後のモビリティサービスにおいて、必要不可欠な収益事業となりそうだ。
■【まとめ】多角的事業を展開するトヨタホールディングスが誕生?
トヨタはこの5年ほどで明らかにモビリティサービス領域における事業展開を拡大していることが分かった。5年10年後の話ではないが、サービス事業の割合が50%を超すこともあながち夢物語ではなさそうだ。
将来、トヨタは「メーカー」という製造業にとどまらず、多角的なサービスを展開する一大グループとして、本体のトヨタ自動車をも傘下に置くトヨタホールディングスとなるかもしれない……。
【参考】関連記事としては「トヨタと自動運転(2023年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)