モビリティの課題は?(2022年最新版)

変革期を迎えるモビリティ社会

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自動運転や空飛ぶクルマなどの次世代モビリティが、まもなく本格的な社会実装期を迎えようとしている。バスやタクシー、自家用車といった既存モビリティをはじめとする交通社会が、変革の時を迎えているのだ。

新たなモビリティの導入には課題がつきものだが、各モビリティはどのような課題を克服しなければならないのか。既存モビリティを含め、2022年11月時点の情報をもとに、各モビリティが抱える課題に迫る。

■自動車
自動車全般では交通安全の向上や環境対策が課題に

多くの人にとって最も身近なモビリティは自動車だ。乗用車やバス、トラックなどさまざまな種類があるが、圧倒的な数を誇るのはやはり自家用車だ。国内における自家用車の保有台数は、2020年3月末時点で7,975万台に及ぶ。普通車・小型車といった一般的な自家用車に限っても6,159万台だ。

見ない日はないほど日常的な存在だが、それゆえ交通事故も後を絶たない。警察庁によると、2021年に発生した交通事故は30万5,425件で、負傷者数36万1,768人、死者数2,636人となっている。ピークの2004年の95万2,720件と比較すると大きく減少しているものの、依然多いことに変わりはない。

事故の9割以上はヒューマンエラーに起因しており、ドライバーの運転意識や技術の向上を図っていくことが何より肝要だが、別のアプローチとして効果を発揮しているのがADAS(先進運転支援システム)の普及だ。

事故削減と被害軽減効果が期待されるため、いっそうの技術向上と搭載率の向上がカギとなる。

また、環境問題への意識も年々高まっており、排気ガス抑制に向けたエコ運転をはじめ、ハイブリッド、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(完全バッテリー式の電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)の普及なども重要性を増している。バッテリー技術の向上や充電インフラの充実、再生可能エネルギーの利活用なども求められるところだ。

バスなどは運転手不足や赤字の慢性化が課題

バスやタクシー、トラックなど移動や輸送を担う商用分野では、共通してドライバー不足が長年の課題となっている。特に物流業界では小口多頻度化が進行しており、経営を圧迫している。国土交通省によると、2021年度の宅配便取扱個数は49億5,000万個に上る。メール便を含めると100億個を超える。

労働環境の改善は当然として、再配達の低減など社会全体で取り組むべき課題も含んでいる。高度なADASや自動運転レベル3、隊列走行などによる運転負担の軽減や、レベル4以降の自動運転技術によるドライバーレス化なども今後重要となりそうだ。

乗合バス事業では、地方を中心に赤字収支が慢性化しつつある。国土交通省によると、2019年度の一般乗合バス事業(保有車両30両以上)の収支状況は民営219事業者のうち154事業者が赤字で、公営16事業者は全て赤字となっている。全体の約7割が赤字なのだ。

地域別では、大都市部が77事業者中4割弱の30事業者、その他地域では158事業者中9割弱の140事業者がそれぞれ赤字となっている。地方では特に公共交通の要となっているため、赤字前提の運営が迫られている。

オンデマンド運行やMaaSの概念の導入、自動運転による無人化などの導入により、いかにサービスの質を維持しながら効率的な運営体制を構築していくかが求められることになりそうだ。

【参考】交通事業者が抱える課題については「移動革命が起きないことによる「最悪のシナリオ」…地方バス消滅?配送業界はパンク?」も参照。

■カーシェア
ワンウェイ方式の拡大など利便性向上がカギ

近年急成長を遂げたカーシェア。交通エコロジー・モビリティ財団によると、2021年3月時点における国内カーシェアのステーション数は1万9,346カ所、車両台数4万3,460台、会員数2,24万5,156人と、伸びは鈍化しているものの依然右肩上がりの成長が続いているようだ。

さらなる市場拡大に向けては、借りたステーションとは異なるステーションに返却可能なワンウェイ方式の浸透が1つのポイントとなりそうだ。現在主流となっているのは、借りたステーションにそのままクルマを戻すラウンドトリップ方式だが、目的地の近場で返却できないといった不満の声がくすぶっている。

一部では、新たな取り組みも始まっている。JXTGエネルギーは2019年10月、配送スタッフが利用者の元へ車両を届けるデリバリー型カーシェアの実証を行った。返却時も引き取りに来てくれるため、自宅でドアtoドアのサービスを受けることができる。

借りたステーションにクルマを戻すラウンドトリップ方式が主流だが、借りた場所とは別のステーションに返却可能なワンウェイ方式も徐々に広がっており、サービスの利便性は高まっている。また、個人間カーシェアなどのサービスを展開する動きも出ている。

【参考】デリバリー型カーシェアについては「自動運転時代を先取り!「お届けカーシェア」の有望性」も参照。

また、米国ではスタートアップのHalo Carが遠隔操作による運転で利用者の元へクルマを運ぶカーシェアサービスを2022年後半にもスタートする予定という。自動運転時代を見据えた取り組みと言えそうだ。

【参考】Halo Carの取り組みについては「カーシェア車両、遠隔運転で「無人でお届け」!米で革新的サービス」も参照。

ライドシェア
日本での営利ライドシェアは結論出せず?

米国や中国などではスタンダードなモビリティサービスへと成長を遂げたライドシェアだが、日本では依然として禁止されている。

ライドシェアは、同一方向に向かう人が相乗りするカープール型と、アプリでマッチングを図るTNCサービス型などがある。純粋な相乗りで必要経費を分担する形式や、一定の許可のもと公共交通や福祉目的で行う有償ライドシェアは日本でも認められているが、営利目的は実質的に白タク行為とみなされている。

国内では、一般社団法人新経済連盟のようにライドシェア導入を目指す動きがあるものの、タクシー業界の激しい反対などもあり、今のところ規制緩和の動きは見られない。

自家用車や個人の空き時間を有効活用するプラスの観点と、安全性の不担保といったマイナスの観点など論点はさまざまあり、簡単に結論は出せない状況だ。

【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?日本で解禁される? デメリットやトラブルは?」も参照。

■電動キックボード
安全確保に向けた交通ルールが必須

2022年4月に可決された改正道路交通法において「特定小型原動機付自転車」という新たな区分が設けられた。電動キックボードがこの区分に分類され、改正法施行後は一定要件を満たした車両に免許不要で乗車することが可能になる。改正法は公布から2年以内に施行される。

現行は原付に近い扱いで、普通免許や普通二輪免許などが必要なほか、ヘルメットの着用義務や保安基準を満たした装備が必要となる。なお、現在行われている公道実証ではヘルメット着用義務などが緩和されているケースもある。

自転車のような取り回しやすさと労力のいらない電動仕様、そして目新しさが大きな関心を集める一方、歩道走行や信号無視、酒気帯びなど交通ルールを守らない一部のユーザーが問題視され、良くも悪くも話題となっている。

比較的軽量なモビリティとは言え、歩行者との衝突が危険であることは言うまでもなく、また人力ではないが故にバランスを崩しやすく、車道の自動車との衝突も危ぶまれる。

全面的な解禁に向け、今後交通ルールや罰則、保安基準などが煮詰められていくことになるが、安全性をどのように担保するかが大きな課題となりそうだ。

■自動運転モビリティ
社会全体として安全性を高める取り組みが必要

国内ではまだ実証段階だが、2023年4月までに施行される改正道路交通法で無人運転を可能とするレベル4が認可される運びとなり、今後社会実装が一気に加速する可能性が高い。

当面は安全性を重視した低速走行が中心になるが、徐々に複雑な交通環境への対応も進み、ODD(運行設計領域)を拡大していくものと思われる。

自動運転の安全性は、基本的には手動運転と比べ高い水準にあるが、各社が開発を進める自動運転システムの精度にはばらつきが生じるため、どのような基準で認可していくか、また万が一事故を起こした場合、認可の取り消し・停止処分などどのように線引きしていくか――など、いろいろと詰めなければならない課題がありそうだ。

このほかにも、自動運転の精度を高める道路インフラの在り方・整備や、サイバーセキュリティ対策、社会受容性の向上など、さまざまな課題が残っている。実用化後に新たに浮き彫りとなる課題なども出てくるだろう。

社会全体として安全性を高める取り組みは実用化後も継続して行わなければならないようだ。

【参考】自動運転の課題については「自動運転の課題」も参照。

■自動配送ロボット
各種トラブルに巻き込まれない対策を

改正道路交通法には、歩道を走行する自動配送ロボットを念頭に置いた「遠隔操作型小型車」も新たに設けられる。いわゆる宅配ロボットの社会実装がいよいよ本格化することになりそうだ。

各ロボットは歩行者らに危害を加えることがないよう設計されているが、複雑な交通環境下を走行するため、想定外の事態が発生することは避けられない。例えば、横断歩道を横切る際に猛スピードの自転車と接触する可能性もある。

ロボットが停止していても、歩きスマホの歩行者が気付かずぶつかってくることもある。宅配ロボットを狙った「当たり屋」が湧いて出てくる可能性もある。

安全第一であることはもちろんのこと、各種トラブルに巻き込まれないようさまざまなケースを想定した対策が必要になりそうだ。

【参考】自動配送ロボットについては「新規参入相次ぐ!自動配送ロボット、国内プレーヤーの最新動向まとめ」も参照。

■空飛ぶクルマやドローン
新たな法規制や飛行ルールの策定が必須
出典:国土交通省/経済産業省

人やモノの輸送を担う空飛ぶクルマやドローンといったエアモビリティも今後社会実装が推し進められていくことになる。

こうした新たなモビリティは現行の法的枠組みに収まらないため、新たな法規制や飛行ルールの策定が欠かせない。

河野太郎デジタル担当相らが2022年10月、茨城県境町で行われているドローン物流の実証を視察した際、「低空飛行のドローンは道路交通法が適用されるのか」などの疑問が上がったようだ。

各モビリティがどのような空域を飛行するのか、リスクを最小限に抑えるため冗長性をどのように確保すべきか、遠隔操縦を含むパイロットにはどのような要件が求められるか、複数の機体が同一空域を飛行する際のルールは――など、一つひとつを丹念に議論し、確定していかなければならない。

【参考】空飛ぶクルマについては「空飛ぶクルマとは」も参照。

■【まとめ】未来に向けた各社の取り組みに期待

自動車をはじめとした既存モビリティが時代に合わせた変革を迫られる一方、次世代モビリティは安全確保と円滑な交通形成に向けたルール作りが第一歩目の課題となっているようだ。

こうした一つひとつの課題を解決していくことでより良い交通社会が誕生する。未来に向けた関係各社の取り組みに引き続きエールを送りたい。

【参考】関連記事としては「モビリティとは?意味や定義は?」も参照。

■関連FAQ

(初稿公開日:2022年10月26日/最終更新日:2022年11月21日)

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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