EV(電気自動車)新興メーカーの独Sono Motorsが興味深い協業を開始した。自動運転シャトルの開発を手掛ける仏EasyMileと提携し、「自動運転×太陽光発電」という新エネルギーコンセプトの研究に乗り出したのだ。
自動運転による無人化技術と、自然エネルギーの太陽光による発電技術は、人の手を介することなく車両をずっと走行し続けられる環境を生み出すことになるかもしれない。
この記事では、Sono Motorsの取り組みなどとともに、「自動運転×太陽光発電」のイノベーションについて考察していく。
記事の目次
■Sono Motorsの取り組み
特許取得済みのソーラー技術でEVを変革
Sono Motorsは、太陽光発電に焦点を当てたEV開発を進める2016年設立の新興企業で、2021年11月に親会社のSono Groupが米ナスダック市場への上場を果たしている。車両のルーフなどに太陽光発電設備を統合し、車両の動力をまかなう「ソーラーカー」開発を主力としている。
2023年に生産開始予定の「Sono Sion」は、航続距離約305キロを実現する第1弾モデルで、ボディに組み込まれた248個の太陽電池が自車発電を行うソーラーボディパネルを備えている。遠目には黒い塗装のボディに見えるが、ガラスの代わりに柔軟なポリマーに電池を統合する独自技術で、エクステリアの大部分をソーラーパネル化しているようだ。
1日平均だと16キロ分を太陽光で発電可能
家庭用電源ソケットなどからも給電可能だが、太陽光発電により年間平均5,800キロ、週平均で112キロ(最大245キロ)分を発電可能という。1日平均だと16キロだ。双方向充電器を使用することで、他のEVに給電することもできる。車両価格は2万8,500ユーロ(約373万円)となっている。
同社はオリジナルのEV開発のほか、バスやトレーラーなどの車体にソーラーパネルを統合する事業や、ソーラーボディパネルの技術をライセンス供与する事業などを計画している。
自動運転シャトル「EZ10」にソーラー技術を統合
EasyMileとの提携では、自動運転シャトル「EZ10」のプロトタイプに特許取得済みのソーラー技術を装備し、電気シャトルと無人シャトルという新たなコンセプトに取り組んでいる。
EZ10は、1回の充電で最大16時間走行することができるが、満充電には約6時間必要という。ここにソーラー技術を導入することで、充電時間を短縮することができるほか、駐停車中や走行中など場面を選ぶことなく純電することが可能となるため、充電インフラからの独立性を高めるとともに、航続距離を大幅に伸ばすことが可能になるという。
ソーラーボディパネルは、従来の充電方法に取って代わるように設計されていないが、充電回数の減少や高効率化に寄与する技術として今後注目が高まる可能性もありそうだ。
▼Sono Motors公式サイト
https://sonomotors.com/
ソーラーカー開発が過熱傾向に
こうした「ソーラーカー」の開発を進める企業はSono Motorsだけではない。米Aptera Motorsは、1回の充電で最大1,000マイル(約1,600キロ)、太陽光発電で1日あたり40マイル(約64キロ)走行可能な3輪ソーラーEVの予約販売を行っている。
オランダのLightyearも、1日最大70キロ分を充電可能なソーラーパネルを搭載したEV「Lightyear One」を開発し、2022年夏にも納入を開始する予定だ。同国のSquad Mobilityも1日最大20キロ分を充電可能なマイクロモビリティを製品化している。
国内では、自動運転のベース車両にも活用されているシンクトゥギャザーのEVミニバス「eCOM-4」などもオプションでルーフへのソーラーパネル設置を可能にしている。
▼Aptera Motors公式サイト
https://aptera.us/
▼Lightyear公式サイト
https://lightyear.one/
▼Squad Mobility公式サイト
https://www.squadmobility.com/
■ソーラーカーの現状
現状、一般的なEVが実現している数百キロの走行を、太陽光発電だけでまかなうことはまだ難しそうだ。ただ、Sono Motorsを例に挙げると、1日平均16キロという走行距離は、日常的な買い物用途など「ちょい乗り」するケースでは実用域に達しているとも言える。
ゴルフ場のカートや観光地におけるマイクロモビリティなど、使い方によっては特別な充電なしに運行し続けることができるかもしれない。
現状のソーラーカーはこのあたりの技術水準となっているようだが、EVの課題に挙げられる充電時間の短縮や航続距離の延長に貢献できる点は魅力的に感じる。
また、今後太陽光における発電効率にイノベーションが生じれば、モビリティにおける太陽光発電の導入に大きな注目が集まることは間違いない。移動体であるモビリティと、日照さえあれば場所を問わない太陽光発電の相性は非常に高いからだ。
充電関連のイノベーションでは、道路の下に電気が流れるコイルを敷設し、走行中の車両をワイヤレス充電する技術開発や実証なども行われている。太陽光発電同様、走行中に充電可能な仕組みが構築されれば、特別な充電時間を要することなく車両は走行し続けられるようになるほか、大きく重量のある車載バッテリーを小型化することも可能になる。
■【まとめ】ダブルイノベーションがモビリティに変革をもたらす
EVを取り巻く技術には、まだまだイノベーションの余地が多く残されているようだ。この電気関連のイノベーションと自動運転のイノベーションを組み合わせれば、モビリティに大きな変革が生じる。
ドライバー不在で無人運転を実現する自動運転車は、時間に縛られることなく走行し続けることが可能になる。日照不足や夜間などを想定した余力とメンテナンス時間が必要になるものの、ドライバーの疲れや長い充電時間に捉われることなく走行することができるのだ。
自動運転と、太陽光発電をはじめとした充電技術のダブルイノベーションがもたらす恩恵は大きい。研究開発の進展に期待大だ。
【参考】関連記事としては「「自動運転×3Dプリント」のダブルイノベーション!Local Motorsの正体」も参照。