【全文】2020年3月期決算、孫正義氏スピーチ「新しい時代、新しい産業が加速」

ソフトバンクグループの決算説明会から



出典:ソフトバンクグループ

ソフトバンクグループの2020年3月期決算説明会が2020年5月18日にオンラインで開催された。

新型コロナウイルスの影響が世界的に拡大する中、会長兼社長の孫正義氏は自動運転なども視野に入れたとみられる「新産業」という言葉を使い、次世代技術や新サービスを手掛ける企業がアフターコロナの経済の回復を主導すると持論を展開した。







決算発表の内容については以下の記事で紹介したが、この記事では孫正義氏のスピーチ全文を書き下ろし、紹介していく。

▼孫正義氏、Afterコロナの回復「新規産業が牽引」と強調 ソフトバンクグループ
https://jidounten-lab.com/u_softbankgroup-2020-03

■新型コロナウイルス「大変な未曾有の危機」

孫でございます。最近なかなか大変ですね。世界中に毎日のようにやってくるいろいろな悲しいニュースを見ながら、私自身も人生観を何度も振り返っておりますけれども、多くの皆様も同じ思いではないかと思います。それでは早速決算発表の内容に入りたいと思います。

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1929年世界恐慌がありました。その時のNYダウ平均株価は10分の1に下がりました。世界大恐慌という状況です。

NYダウの平均株価が戻るのに25年かかりました。世界中に打撃を与える大恐慌でした。今回の新型コロナも同じような世界に大きな影響を与える出来事だったのだと思います。

累計の感染者数が世界で450万人になりました。自動車の出荷台数も5割近くダウン、全世界の労働人口の80%に影響を与えたという、大変な未曾有の危機だったと思います。

■「売上、営業利益、当期純利益は大きく影響を受けました」
出典:ソフトバンクグループ

このような背景の中で我々ソフトバンクもいろいろな影響を受けました。業績については、すでに数週間前から我々の業績予想を発表したばかりなので、皆様にはご存知の内容かと思います。すでに速報ベースで業績予想を公表した通りです。売上、営業利益、当期純利益は大きく影響を受けました。

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まず売上はご覧の通り大きな影響はありません。

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営業利益ですが、緑の部分は国内通信事業ですが、コンスタントに業績を伸ばしていますが、ブルーの部分であるビジョンファンドが大きくマイナスという形で経営の足を引っ張りました。

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当期純利益も大きくマイナスになっています。

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ビジョンファンド1でこれまで出資している企業は88社あります。累計での投資が1.4兆円の評価益プラス実現益です。濃いブルーが実現益、薄いブルーが評価益です。

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合わせて評価減が1.5兆円。評価増になったのが26社、評価減が47社です。前期、昨年は大きくプラスで2兆円の利益を出していたので、そこから比べれば今年は大幅な減益です。

ただ一方で、ビジョンファンドへの累積の投資額での評価益、評価減で見ると、累計投資額8.8兆円に対し評価減は0.1兆円にとどまっています。

■「ソフトバンクグループのIRRは成功報酬を加え-6%の成績」
出典:ソフトバンクグループ

この投資はソフトバンクの皆様から集めた資本金だけではなく、パートナーからの資金を集め投資を行っています。グレーが他のパートナーからの優先出資7%の定率分配(※分配金を払い出す割合が予め定まっていること)をしているところです。水色が成果型の分配で普通出資です。ソフトバンクは水色の中で濃いブルーがソフトバンクグループからの直接的な出資です。薄いブルーとグレーはパートナーからの資金調達です

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ビジョンファンド全体の成績は優先出資では7%の投資分配をします。普通出資は-7%。合計のブレンドした部分のIRR(内部収益率)は-1%です。これがファンド全体です。

ソフトバンクグループのIRRは成功報酬を加え-6%の成績です。これがビジョンファンドの成績です。ビジョンファンドの出資先の中では8社が上場しています。

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その8社の成績と言いますと、(a)が投資した額、(b)が投資に対するリターンで、その結果がブルーと赤い文字での損益です。上場済み8社に対し、3月末で締めたところ、プラス1500億円の益でした。

■「中国国内でのアリババの出荷も増え、業績も平常に戻りつつある状況」

その他の保有資産についてのご報告です。アリババは実はソフトバンクグループが保有している資産の中で今日現在一番大きなところです。アリババの株価を見ていただきますと、今年に入ってから先にコロナの影響を受けています。しかし見ていただいておわかりのように、一旦下げましたが下げ止まってむしろリバウンドしています。今日現在、中国国内でのアリババの出荷も増え、業績も平常に戻りつつある状況です。

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通信については4%増の売り上げ、営業利益は11%増で過去最大です。フリーキャッシュフローは2%像です。

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これに加え、Sprint(※ソフトバンク傘下の米携帯会社)については2020年4月1付けでTモバイル(※米携帯通信3位の会社)と合併が正式に完了しました。もしこの合併が完了していなければ、このコロナ状況下で経営の足を引っ張っていたと思われます。幸い4月1日付で合併が正式完了しました。

その結果、新しいTモバイルに対しソフトバンクグループは24%の株式を保有しています。合併後の株価は順調に推移しています。今後合併のシナジーが見込まれると楽しみにしています。

■「アームのチップの出荷は2次曲線で順調に伸びが継続しています」

もう一つの重要な資産にアーム社があります。アームのチップの出荷は二次曲線で順調に伸びが継続しています。

一方、アームを買収してすぐにエンジニアの数を倍増するため先行投資を行っています。買収直後にエンジニア数を倍増させようと先行投資をしようと公表しました。売上はすぐに倍増しませんので、営業上の利益は減っていますがコスト先行型です。しかし今後のアームの成長に大きく役立つと捉えています。

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現にアームはモバイルの携帯電話を中心としたところで大きく活用されていましたが、ソフトバンクが買収した後スマホが伸びたのはご存知の通りです。それに加えて、クラウドやデータセンターでアームベースのチップが続々と採用されています。

特にクラウドで世界ナンバーワンはアマゾンのAWS(Amazon Web Service)ですが、アマゾンのクラウドの処理速度が65%アップし、電気代を中心としたオペレーティングコストの40%削減が実現されています。アマゾン社においてはますますアームのチップを使って行くと方針として最近発表されました。

アマゾンの他にも多くの世界中の企業がアームベースのチップをクラウドサーバーとして使うと発表し、世界的な大きな流れになってきています。アームの将来性には非常に期待しています。

■株主価値「減ったことは事実ですがそこまで大ショックを受けるほどで減ったという状況ではありません」

さて、アリババ、ソフトバンクKK、スプリント、アーム、ビジョンファンドの5つの資産があるわけですが、それぞれについてコメントさせていただきました。これらを合計したものが我々の保有株式の価値となります。

12月末で29兆円、純有利子負債は6兆円という状況です。株主の皆様の価値は23兆円でした。

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5月18日現在は28.5兆円に減っており、一方で純有利子負債は6.8兆円に増えています。有利子負債が増えたその理由は3カ月の間に行われた自社株買い、ビジョンファンドへの新たな投資、資金調達のコストが合計で約8000億円かかっています。これが、純有利子負債が増えた理由です。

その結果、株主価値は23兆円だったものが21.6兆円に減っています。1.4兆円減っておりますが、3割も減ったわけではありません。この1ページだけを見ていただければソフトバンクの現況がよくわかります。株主価値が23兆円から21.6兆円、1.4兆円減ったという事実として私は重く受け止めています。

減ったということは大変重要な問題ではありますが、昨今3月末までの状況ではNYダウや日経平均も大きく下げております。冒頭に申し上げたたように、1929年の世界大恐慌の際は10分の1に減ったわけです。ソフトバンクの時価総額も、ネットバブルがはじけた直後の2000年には100分の1に減りました。

そういったどん底の状況に比べると、減ったことは事実ですがそこまで大ショックを受けるほどで減ったという状況ではありません。厳しい言い訳を言いましたが、厳しい状況であることは変わらないと思います。

■「さらなる安全運転を試みようとしています」

厳しい世界の経済状況、コロナショックの中でソフトバンクとしてすでに4.5兆円の資金、資産の処分、現金を手にし、それを使って2.5兆円の自社株買を行うということはすでに発表済みです。

自社株買いはこの数カ月の間、粛々と行っている状況です。今朝2.5兆円のうちの第1弾の5000億に加え、次の第2弾の5000億の自社株買いを、取締役会で先日決議したため、今朝発表させていただきました。

財源はアリババ株式を活用した先渡契約(※将来のある時点であらかじめ定めた価格で特定の商品を売買する予約取引のこと。取引所ではなく店頭取引での現物決済が原則)、フロア契約(※対象とする金利が加減金利を下回った場合に売り手が買い手に超過下落金利相当分の金額を支払う契約)、カラー契約(※株式を売却せずに利益をある程度確定させる株取引の一種)の3つの手法を使い、合計で1.25兆円の資金を調達し、調達した資金で自社株買いなどに当てています。今後予定している資金調達を元にさらなる自社株買いと財務改善に努めます。

そんな中、純有利子負債の保有株式率に対する比率をLTV(ローントゥバリュー)として重要な財務健全のバランスを表す指標として、内部的に行っています。平常時で25%未満を目安に運用しようと内規で定めています。異常時で35%になるように投資活動をしています。

このようなコロナショックの中、より安全運転をしようということで、前回の決算発表では16%でしたが、今日現在は14%です。さらなる安全運転を試みようとしています。

■「0配当もあり得ます」

そのような考えのもと、配当についてもより安全に行こうと考えています。19年度は中間配当22円、期末配当22円、年間44円でこれは発表済みの予定通りです。20年度についてはこのような経済危機の状況ですので、配当については万が一さらに資金が必要になるとも限りませんので未定とします。

ゼロ配当もあり得ます。増配はあまり考えられませんが、従来通りの配当からゼロ配当まで、経営の選択肢としてその幅を持っておこうと思っています。20年度の新年度は上場以来初めてですが、配当方針未定で今回は運用していきたいと考えています。

■「新しい事業を起こしてくれるユニコーン、起業家たちを支援するというのが、我々の役割」

新型コロナは世界的に拡大し、人類に対する大きな危機を与えています。ソフトバンクグループは社会貢献の一環として医療関係者に無利益で一般・サージカルマスク、医療用のゴーグル、防護服、フェイスシールドなどを無利益で提供しています。

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防護服や医療用のガウンがなく、雨合羽やゴミ袋でしのいでいるという、本来なら少なくとも1日1回替えるマスクが3日に1日しか変えられないという異常な状態、お金の問題ではなく調達ができないということを聞きました。

我々が世界中にもつ友人や知り合いなどに協力を依頼しこのような調達をし、我々は創業以来最大の赤字を出しているので、気前よく無料で寄付したいところでしたが、抗体検査キットは今回無料で寄付をしています。それ以外のものは調達コストに倉庫代や配送料の実費を乗せて、1円も利益は取らず提供するという社会貢献をしています。

社会貢献をしたいわけですが、本業を通じて社会貢献するのが一番重要なことです。その本業が新しい時代を作っていく「情報革命で人々を幸せに」という理念を満たしてくれるような新しい事業を起こしてくれるユニコーン、起業家たちを支援するというのが、我々の役割だと思っています。

■「危機が来るほど羽ばたくユニコーンがいると信じています」

ユニコーンも大きく苦戦している状況です。彼らはただでさえ赤字で顧客獲得を増やしている状況ですが、コロナショックの中で売上が急減しています。

旅行業も90%下がっています。そもそも世界中、国と国をまたぐ出張や旅行は国の方針で受け入れないということが様々な国で起きています。さらに資金が必要ですが資金繰りについてもフリーCFの赤字が続いています。

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絵にすると、本来なら登り坂を登り続けるはずが、突然やってきたコロナの谷にユニコーンが落馬している状況で大変な危機です。しかしこのようなところで中には羽が生えた形で超えていく本当のユニコーンも現れるのではないかと、危機が来るほど羽ばたくユニコーンがいると信じています。

■「新しい時代、新しい産業がここで起きるのではないか、それがより加速されるのではと私は捉えています」
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1929年の世界恐慌から25年をかけて産業が回復したと先ほど申し上げましたが、その世界恐慌が過ぎ去り、もう一度順調な経済がやってきたときに、同じ事業が回復したかというと必ずしもそうではなく、それまであった古い産業は相当な打撃を受け倒産、または苦しい状況になった会社がたくさんありました。

世界恐慌の谷の向こうに登場して大きく業績を伸ばしてカムバックしたのは、実はその時代の新規産業であった自動車、電気、石油、製造業、電気、食品加工など新しい産業界でありました。つまり大きな危機の後に復活するのは従来型の産業ではなく新しい産業だったということです。これが「新産業」として新しい時代を牽引したと捉えています。

出典:ソフトバンクグループ

今回のコロナの谷もそこから大きく回復するのは、オンライン会議や、飲食業もフードデリバリー、オンライン教育、オンライン医療、オンラインショッピング、オンラインのエンタメなど、オンラインで人々が物理的に触れ合わなくてもオンライン上で心ふれあうことが広がっていくのではないかなと思います。

新しい時代、新しい産業がここで起きるのではないか、それがより加速されるのではと私は捉えています。ですから現在コロナショックの中で我々のグループ会社のユニコーンも大変な試練を受けていますが、きっと彼らの中から新しく谷の向こう岸に羽ばたき飛んでいくような企業が生まれると私は信じています。

「情報革命で人々を幸せに」という創業以来の一切ブレない理念、ビジョンはコロナショックのもと、ぶらすことなくむしろ原点に立ち返り、さらにしっかりベルトを締めて向かっていきたいわけです。このショックは新しい時代へのパラダイムシフトを加速させると捉えて挑戦していきたいと考えています。

■【まとめ】「新産業」による回復を強調した孫氏

孫氏はコロナショックの中で厳しい状況が続いているとしながらも、この危機的状況から脱する際にポイントになるのは「新産業」であると強調した。

こうした新産業の分野で事業に取り組むユニコーン企業に多額の投資をしているソフトバンクグループ。同社の業績回復にはユニコーンの今後の成功・失敗が大きく関わってくる。

【参考】関連記事としては「【全文】必読!トヨタ2020年3月期決算、章男社長スピーチ」も参照。







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