自動運転システムの世界的な開発競争が激化する中、「次世代センサー」とも呼ばれる光を用いたリモートセンシング技術「LiDAR」(ライダー)に注目が集まっている。
LiDARの開発・導入に向けた提携、投資、買収など業界を巻き込んだ動きが加速しており、新規参入や需要増などを背景に価格に至っては「桁違い」の大きな変動を見せている。今後も激しい動きが予測される中、現在におけるLiDAR関連企業や業界の動向などを調べ、自動運転車の「目」とも言えるLiDARの価格相場も探った。
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■地質分野で活用されていたLiDAR
LiDARは「Light Detection and Ranging」の略で、光を使ったリモートセンシング技術を用いて物体検知や対象物までの距離を計測するものだ。レーザー光を照射し、それが物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測し、物体までの距離や方向を測定する。
3次元(3D)観測が可能で、従来の電波を用いたレーダーに比べて「光束密度」が高く、短い波長を用いることで、より正確な検出ができる。粒子のような小さな物体にも有効なため、これまでは主に地質学や気象学などの分野で活用されていた。
しかしその観測精度の高さから、自動運転の分野においても注目が高まっていったという背景がある。
■グーグル系ウェイモが採用する米ベロダインライダー製LiDAR
アメリカのベロダインライダー(Velodyne Lidar)社は、いち早くLiDARの開発・製品化を進めてきた企業だ。米フォード社やドイツのメルセデスベンツ社、スウェーデンに本拠地を有するボルボ社などが採用しているほか、グーグル系ウェイモ社の自動運転車両にも搭載されている。
同社のLiDARは、独自に開発した多点レーザー送受信センサーを内蔵し、高速スキャンによりリアルタイム3Dイメージングを可能とする。従来のレーザーを回転してミラーで照射するモデルから、回転機構をなくし小型化・コスト低減を図ったモデルを発表するなど、需要増に対応した商品開発を進めている。
【参考】ベロダインライダー社LiDARの最新情報については、公式ウェブサイト内(英語)の「Our Product THE MOST ADVANCED LIDAR SENSORS IN THE MARKET」ページを参照。実際にLiDARで検出された3Dイメージングを画面上で360°方向から確認することもできる。
■独コンチネンタルAGのLiDARは歪みのない正確さが強み
ドイツのコンチネンタルAG(Continental AG)社はタイヤなどを主力とする自動車部品製造業だが、2016年にAdvanced Scientific Concepts社から高解像度3Dフラッシュライダー事業を買収するなど、近年は自動運転システムにも力を入れている。
同社のLiDARは、音響測深機のように「レーザーインパルス」を介し、正確で歪みのない車両周辺の画像を提供するためのテクノロジーが持ち味で、現在量産体制を急ピッチで整えているという。
【参考】コンチネンタルAGは日本語ページで自社のLiDAR技術などについて、概要や利点を紹介している。詳しくは公式サイト内の「自動運転 要素技術 3Dライダー」を参照。
■検出距離の遠さで他社と一線を画す米ルミナー製LiDAR
新興企業のルミナーテクノロジーズ(Luminar Technologies)社は、業界標準とされるレーザーの波長をより長くし、競合他社に比べより遠方の物体を検出できるようにした。
波長の長いレーザー光を検知するため、レシーバーには安価なシリコンではなく高価なインジウム・ガリウム・ヒ素を使用する。そのため高コストとなっているが多くの注目を集めており、トヨタ自動車も自動運転実験車への採用を決めている。
【参考】ルミナーテクノロジーズ社公式サイト(英語)の「Technology」ページでは、実際に同社製LiDARを使用してリアルタイムに車体の周辺環境を3D化する映像を確認することが可能だ。
■日本のパイオニアはLiDAR開発で光技術やナビ技術結集
日本の電機メーカーであるパイオニア株式会社もLiDAR開発に力を注いでいる。
これまで培ってきた光技術やナビ技術を総結集し、独自のデジタル波形信号処理技術によりノイズの除去精度を高めることで、従来品では難しかった遠方の物体や黒い物体の検出、悪天候時の距離計測も可能になるという。現在サンプル品による動作検証を進めており、2020年代の量産化を目指している。
【参考】パイオニア社は特設ページ「パイオニアの自動運転技術 – Drive into the Future of Autonomous driving –」を開設しており、LiDARを「高レベルの自動運転に欠かせないキーパーツ」として紹介している。パイオニアのLiDAR関連ニュースとしては「パイオニア社の走行空間センサー、NVIDIAの自動運転用ソフトウェア開発キットに対応|自動運転ラボ 」も参照。
■市販車への搭載を意識した小型モデル開発中のリコー
事務機器・光学機器メーカーの株式会社リコーは、市販車への搭載を意識した小型モデルを開発中だ。
2017年10月から2018年3月にかけて秋田県内で実施した自動運転の公道実証実験では、車体の前後左右に同社製のステレオカメラ、バンパーの左右両端にLiDARを装着し、全方位3D認識技術を試行した。
雪国での実用化の検証をはじめ、障害物の多い複雑な環境におけるシステムの判断への支援や、白線や路肩を識別することによる運転可能領域の検出などをおこなったという。
■東芝デバイス&ストレージのLiDARは測定距離が1.8倍に
東芝デバイス&ストレージ株式会社は2018年4月、長距離間での測定においてデータの信頼性を高める計測ロジック技術の開発を発表した。従来に比べ測定できる距離が1.8倍高まり、誤検出の割合も従来より低く抑えることができる。同社はこの技術を実際に実用化する時期の目標を2020年としている。
【参考】東芝デバイス&ストレージ株式会社のLiDARに関する詳しい内容は「周辺環境を把握するLiDARの信頼性向上 自動運転向け技術で東芝デバイス&ストレージ|自動運転ラボ 」を参照。
■LiDAR市場、メーカーが「青田買い」のごとく
IT分野に劣らずスタートアップ企業の台頭が目立つLiDAR市場。いち早く最先端の技術を取り込みたい有力自動車メーカーも青田買いをするかのように、買収や出資、提携を惜しまない状況が続いている。
2017年には、米ゼネラルモーターズ(GM)社が小型で安価なLiDARを開発している米Strobe社を買収し、米フォード社が投資するArgo AI社は米Princeton Lightwave社を買収した。
また、イスラエルのスタートアップ企業Innoviz Technologies社が6500万ドル(約70億円)、カナダのスタートアップ企業LeddarTech社が合計1億100万ドル(約110億円)の資金調達をそれぞれ完了するなど、将来性を見込んだ市場は活発に資金が動いており、今後もしばらくは新技術の開発や提携・買収といった話題に事欠かなそうだ。
■LiDAR、エントリーモデルは1万円台に?
LiDARは自動運転レベル3(条件付き運転自動化)以上の自動運転車をメインターゲットに開発が進められているため、「高機能・高価格が当然」と言われることもある。
グーグル系ウェイモの自動運転車が搭載しているベロダインライダー社製のハイエンドモデルの価格は7万5000ドル(約800万円)と言われており、この水準が一つのベンチマークになってきた。
しかし、新興勢力が続々と産声を上げた結果、技術面の競争は価格面にも広がりを見せており、量販車への採用を意識した開発も進んだことで、エントリーモデルに至っては100ドル(約1万1000円)以下を目安に開発が進められている状況だ。