日産 自動運転の「頭脳」はソフトバンク出資のWayveと仏「売上3.7兆円企業」が握っていた

システム全体を束ねる役は仏のヴァレオ



日産自動車の次世代運転支援技術プロパイロット(ProPILOT)のシステム全体を束ねる統合役に、フランスの自動車部品大手ヴァレオ(Valeo)が指名された。運転の判断を担う「頭脳」には、ソフトバンクG孫正義会長が出資する英AI開発企業Wayve(ウェイブ)のAIが入る。


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■日産の「頭脳」を握るソフトバンク出資の英AI企業Wayve

次世代プロパイロットは、日産が開発を進める運転支援システムだ。ヴァレオの発表によると、ここにWayveの「Wayve AI Driver(ウェイブAIドライバー)」が組み込まれる。周囲の状況を読み取り、どう走るかを決める部分、つまり運転の頭脳の役割を担う。

日産とWayveは2025年12月10日に協業契約を結んでいる。日産はWayveのAIを採用した次世代プロパイロット搭載車の最初のモデルを、2027年度に国内で発売する予定だ。運転の頭脳を外部のAI企業に託す方針は、すでに公表されていた。

Wayveはロンドンに本社を置く英国のAI開発企業で、2017年に創業した。自社で車は造らず、運転AIを自動車メーカーなどに提供する事業モデルをとる。

ソフトバンクグループとのつながりも深い。Wayveは2024年5月に10億5,000万ドルの資金調達を発表し、これはソフトバンクグループが主導した。米半導体大手エヌビディア(Nvidia)と米IT大手マイクロソフト(Microsoft)も加わった。さらに2026年2月には15億ドルを調達し、企業価値は86億ドルとされた。出資者には独メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)、欧州の自動車大手ステランティス(Stellantis)、そして日産が名を連ねる。


頭脳を提供する企業に、日産自身も出資している。「頭脳は外資」といっても、単なる外部調達ではなく、日産は育てる側にも回っている構図だ。

【自動運転ラボの視点】
運転の頭脳を外部のAI企業に託す。日産の選択は、AI時代の自動車メーカーが何を自前で持ち、何を借りるのかという問いを映す。自動運転タクシー(ロボタクシー)市場でも、AIの供給元が勝敗を分ける局面が増えるだろう。

■売上209億ユーロの自動車部品大手ヴァレオ

ヴァレオは、フランス・パリに本社を置く自動車部品大手だ。創業から100年を超える歴史を持ち、パリ証券取引所に上場している。事業の柱は、電動化、運転支援、車内空間、照明の4分野で、世界の自動車メーカーに部品とシステムを供給している。

2025年の売上高は209億ユーロ(日本円で約3.7兆円)。受注額は前年比38%増の246億ユーロに達した。


日産がヴァレオに任せたのは、自動車メーカーに部品やシステムを直接納めるTier 1(1次サプライヤー)の中でも、システム全体の統合に責任を持つ立場だ。ヴァレオはこの案件で、システムTier 1として選ばれたと発表している。

得意分野は先進運転支援システムADASだ。同社は、世界で販売される新車の3台に1台にヴァレオのADAS技術が載っていると説明している。カメラ、超音波センサー、レーダー、レーザーで周囲を測るセンサーLiDAR(ライダー)、そして制御用のコンピューターまで、一式をそろえる。

LiDARでは量産化の先駆けとされ、同社は第3世代のSCALA 3(スカラ3)の受注額が10億ユーロを超えたと2023年に発表している。

ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(Volkswagen)からは2025年、最優秀サプライヤー賞を受けた。MQBと呼ばれる車台を使う次期の車種で、運転支援を自動運転レベル2+まで引き上げる契約も得ている。

今回の案件でヴァレオの役割が部品の供給からシステム全体の統合へ広がるものと予測される。部品メーカーから、AI時代のシステム統合役へ。ヴァレオにとっても転機になる。

【参考】関連記事としては「ヴァレオ(Valeo)の自動運転戦略まとめ LiDAR製品や技術は?」も参照。

■Wayve・ヴァレオ・日産の役割

3社の役割は次のようになる。

Wayveは運転判断を担うAIを提供する。ヴァレオは、センサー、運転支援用のコンピューター、ソフトウェアをまとめ、Wayve AI Driverを載せて量産向けのシステムに仕上げる。そのうえで日産、Wayveとともに検証と量産化を進める。日産は次世代プロパイロットのプログラム全体を主導する。

Wayve AI Driverの特徴は、センサーの情報から運転操作までを一つのAIで担うE2E方式にある。従来の運転支援は、人間が書いたルールや高精度地図(HDマップ)を積み上げて作ってきた。Wayveはデータから運転を学ぶAIで、高精度地図に頼らず、走行エリアをあらかじめ区切る必要もないと説明している。

Wayveによると、このAIはエヌビディアのAI向け計算基盤を、マイクロソフトのクラウド基盤Azure(アジュール)上で使って学習している。

日産は最初のモデルを2027年度に国内で発売すると、2025年に発表している。ただし今回の発表では、車種や発売時期、自動化の水準は示されていない。

次の表は、日産とWayveをめぐる主な動きだ。Wayveとの協業が積み上がった先に、今回のヴァレオ指名がある。

時期出来事
2025年4月日産が次世代プロパイロットでWayveと組むと明らかになる
2025年9月Wayve AI Driverを使う次世代プロパイロットの開発試作車を公開。東京・銀座で走行デモを実施
2025年12月10日日産とWayveが協業契約を締結
2026年3月12日米配車大手Uber(ウーバー)、Wayve、日産がロボタクシーに関する基本合意書を締結
2026年8月13日Uberの日本法人が東京のタクシー事業者である日の丸交通と運行面で提携
2026年10月1日ヴァレオが次世代プロパイロットのシステムTier 1に選ばれたと発表

​東京ロボタクシー計画との関係​

日産とWayveの連携は、乗用車向けの次世代プロパイロットだけではない。2026年3月12日、Uber、Wayve、日産は、東京でのロボタクシーに関する基本合意書を結んだ。日産のリーフにWayve AI Driverを載せ、Uberのアプリで乗れるようにする計画だ。

さらに8月13日、Uberの日本法人は日の丸交通と、運行面での提携契約を結んだ。日の丸交通が運行事業者として車両の管理を担い、年内の試験運行を目指す。当初は日の丸交通の乗務員が安全のため運転席に同乗し、無人での運行は規制当局の承認を前提に後から始める。

ヴァレオがこの計画に関わるという発表は、確認できる範囲では出ていない。両計画をつなぐのは、どちらもWayve AI Driverを使う点だ。日産は乗用車向けの次世代プロパイロットとロボタクシーの両方で、Wayveの運転AIを使うことになる。

Uberのロボタクシーがついに2026年後半に実現か 日産×日の丸交通とタッグ

■なぜ自動車メーカーは大手サプライヤーを必要とするのか

完成車を手がける自動車メーカー、いわゆるOEMにとって、運転支援システムはソフトだけでは成り立たない。カメラやレーダーなどのセンサー、AIを動かす制御用コンピューター、車両の制御、そして安全性の検証までが一体になって、初めて量産車に載せられる。こうした全体をまとめて品質を保証する役割を、大手サプライヤーが担う構図が一般的だ。

ヴァレオ自身、今回の案件を、先進的なAIの能力と、量産車に求められる安全性、品質、生産規模を結びつけるものだと位置づけている。

Wayveはすでに別の自動車メーカーとも直接組んでいる。ステランティスとは、同社の運転支援基盤「STLA AutoDrive(エスティーエルエー・オートドライブ)」にWayve AI Driverを組み合わせ、同社が「自動運転レベル2++」と呼ぶ、運転者の監視を前提とした手放し運転の支援を共同で開発している。フィアット(Fiat)の電気自動車500eとマセラティ(Maserati)のSUVグレカーレの開発車両は、統合から路上走行まで、それぞれ4週間足らずだった。初の製品投入は2028年に北米を予定する。ここにヴァレオの名前は出てこない。

9月にはメルセデス・ベンツも、Wayve AI Driverを将来の車種に載せる量産に向けた契約を発表している。

つまりWayveは、Tier 1を介さなくても自動車メーカーと組める。それでも、システム全体の開発負担を抑えたい自動車メーカーにとって、ヴァレオのような大手が丸ごと束ねる形は、導入しやすい選択肢になり得るだろう。

自動車メーカーが特定のAI企業に固定されるとも限らない。ステランティスは9月24日、中国のAI運転支援企業Momenta(モメンタ)と、プジョー(Peugeot)とジープ(Jeep)向けの運転支援システムを共同開発する提携も結んだ。窓口はステランティスの中国合弁会社DSATだ。AIの供給元は複数あり、どのAIをどのサプライヤーが束ねるかは、自動車メーカーごとに分かれていく可能性がある。

■「頭脳」を握るWayveと束ねるヴァレオ 自動運転の勢力図

今回の発表が示すのは、自動運転の競争が「誰が一社で全てを作るか」から、「誰が頭脳を持ち、誰が束ね、誰が車を売るか」という組み合わせの競争へ移りつつあることだ。

日産の場合は、頭脳が英国のWayve、統合がフランスのヴァレオ、プロジェクトの主導が日産という役割になった。日本の自動車メーカーが、運転の頭脳を外部のAI企業と組んで調達する時代に入ったことを示す一例と言える。ただし、その頭脳に日産自身が出資している点は見逃せない。

次世代プロパイロットの最初のモデルは、2027年度に国内で発売される予定だ。ヴァレオが統合する体制がどの車種に載るのかは、まだ明らかになっていない。

頭脳を握るWayveが、ヴァレオのような大手と組んで量産の道を広げるのか。それとも自動車メーカーごとに別のTier 1と組むのか。自動運転ロボタクシー市場を含め、運転の頭脳を誰が握るのかという競争は、これから本格化するだろう。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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