
Googleの自動運転タクシー・Waymo(ウェイモ)が、米国で「人間の壁」に阻まれている。全米の労働組合が、ロボタクシーの普及を全力で食い止めようと動いているからだ。2026年4月14日、イリノイ州議会議事堂の前に数十人の組合員が集まり、「AIは投票しない。私たちは投票する(AI DOESN’T VOTE. WE DO)」というメッセージを掲げた。Googleの親会社Alphabetが出資するWaymoのシカゴ進出を認める州法案を葬ろうとした動きの一端だ。
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■Googleのロボタクシーが「労組の壁」に阻まれる
Googleの親会社Alphabetが出資するWaymo(ウェイモ)は今、米国各地で労働組合の壁に直面している。自動運転タクシーを認める法案に対し、バス・タクシー・トラック運転手を代表する組合が州議会や市長に反対を訴えている。その最前線がイリノイ州だ。
Waymoは2026年2月25日から、シカゴ中心部でカメラ・センサーを使ったマッピングと有人運転を開始。イリノイ州議会では自動運転車のパイロット運用を認める「自動運転車パイロットプロジェクト法(IL SB3392/HB5103)」が審議されている。シカゴのクック郡を含む一部でのAV運用を認め、3年後に州全体への拡大を検討する内容で、Waymoは「強く支持する」と表明している。
これに対し、イリノイ州チームスターズと公共交通労働者同盟(LAPT)が4月15日、州議会議事堂前で抗議集会を開いた。Tom Stiede・チームスターズJoint Council 25議長は「自動運転車は労働者と地域社会にとって悪だ」と述べ、Chris Duncan・Local 727組合員は「議員への問いはシンプルだ。良い生活を支える雇用を守るのか、それとも機械に置き換えるのか」と訴えた。
シカゴが「実験台」を拒む理由
Amalgamated Transit Union Local 241のKeith Hill議長はこう語った。「自動運転車を導入すれば仕事を奪う。仕事をなくした人は誰から物を買うのか。Waymoは西海岸でうまくいっているからといって、イリノイやシカゴにそのまま当てはまるわけではない」。チームスターズも「サンフランシスコやフェニックスで問題が起きているのに、シカゴの冬に対応できるのか」と批判した。法案は現在、下院の審議で止まっており、今会期の通過は難しい見通しだ。
【参考】関連記事としては「Waymoの自動運転タクシー、NYから追放か」も参照。
■イリノイ州民の3分の2が無人車に反対
チームスターズが2026年1月に実施した世論調査(Impact Research社)によると、イリノイ州民の約3分の2が「完全無人車の走行に反対」と回答。ロボットトラックへの反対はさらに高く、78%が反対している。Illinois AFL-CIOのTim Drea氏は「雇用が失われれば税収が減り、学校への資金も減る。すべてに影響する」と語った。
注目すべきは、同調査で有権者の多数が「公共の安全と人命リスク」を最大の懸念として挙げている点だ。反対の動機は「雇用」だけでなく「安全」も同様に重要で、この2つは多くの市民にとって同時に本物の懸念なのだ。Waymoは自社の自動運転技術が人間ドライバーと比較して同様の走行条件下で重大事故を92%以上削減しているというデータで反論しているが、この数字が反対運動を鎮静化させるには至っていない。
ニューヨーク市での構図はさらに政治的だ。2021年にニューヨーク・タクシー労働者同盟(NYTWA)とともに15日間のハンガーストライキを共にした経験を持つゾラン・マンダニ市長は、WaymoのNY市でのテスト許可更新について明言を避け続けた。許可は2026年3月31日に失効し、Waymoは事実上の撤退状態となった。
市のTLC(タクシー・リムジン委員会)は約18万人のドライバーにライセンスを発行しており、UberやLyftドライバー8万人が加盟するIndependent Drivers Guildも自動運転テストとサービスの禁止を求める2万人超の署名を集めた。これだけの有権者基盤が、市長の政治的判断に影響したことは間違いない。
【参考】関連記事としては「自動運転の「連邦法」が米国でついに動き出した。日本への影響は?」も参照。
■安全と雇用の2つの見方
Reason誌(2026年5月1日)はSELF DRIVE Act対Stay in Your Lane Actの対立を分析し、「この争いは安全についてではなく、まったく別のことについてだ」と指摘した。自動運転支持側も反対側も「安全」を主張するが、実際の動機は業界保護と雇用維持にあるというのが同誌の見立てだ。SELF DRIVE Act支持派の背景には「連邦統一ルールで全米展開を可能にしたいテクノロジー企業の利益」があり、反対派のStay in Your Lane Actは自動運転車の走行設計範囲外での動作を禁止することで展開を実質的に制限する内容となっている。
ただし、Reason誌の分析を額面通りに受け取ることには注意が必要だ。チームスターズ自身の調査では、反対派の有権者が「安全と人命リスク」を最大の懸念として挙げており、雇用への懸念と安全への懸念は表裏一体の関係にある。「雇用が本音で安全は建前」という単純な構図ではなく、この2つは多くの市民にとって同時に本物の懸念事項なのだ。
■労組の政治力が自動運転の前に立ちはだかる
「AI DOESN’T VOTE. WE DO」というプラカードが示す戦略は明快だ。チームスターズを中心とした労組は州議会議員に直接こう訴えかける。「私たちの組合員を守るのか、それとも機械を選ぶのか」。選挙区の有権者である組合員たちの票を背景にした圧力は、ロビー資金に勝る力を持つ場合がある。
テクノロジー企業が豊富なロビー資金を持っていても、有権者票を持つ労組には勝てないという構図がNYとイリノイで繰り返されている。連邦レベルのSELF DRIVE Actに対してチームスターズは公式声明を出していないが、自動運転トラックを含む法案化への警戒姿勢は明確で、連邦・州の両レベルでの動向に注目が必要だ。
【参考】関連記事としては「Google無人タクシー、東京都心部で走行開始まで「あと数ヶ月」か?最初は“無人”ではない可能性」も参照。
■技術の問題は解決できても「人間の問題」は解決できるか
Waymoは安全性データで反論し続けているが、今回の各地での反対運動は「データより感情・票」という現実を示している。自動運転の普及は「技術が追いつくか」だけでなく「社会がどこまで受け入れるか」にかかっており、雇用・安全・規制という複合的な課題に向き合う必要がある。
一方でこうした摩擦や議論こそが、自動運転技術が社会に根付くための必要なプロセスでもある。技術と社会が対話しながら着地点を探す過程は、日本でも同様に起きていく。タクシー・バス・トラック運転手の雇用を守りながら自動運転を普及させるという難しい方程式の解を、米国の事例を通じて日本でも考えていきたい。













