「自動運転の目」と呼ばれるLiDARを取り入れない方式での自動運転車開発を行ってきた米EV(電気自動車)大手テスラ。しかし、方針転換することにしたようだ。米Luminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)から210万ドル(約3億3,000万円)相当のLiDARを購入したという。
テスラCEO(最高経営責任者)であるイーロン・マスク氏はかつて、LiDARを「自動運転のための松葉杖」と表現し、LiDARに依存した自動運転開発を行う企業について「破滅的」と述べたことがある。
■Luminarから2,100個のLiDARを購入!?
テスラがLuminarのLiDARを大量購入していたことは、Luminarが2024年5月8日に発表した決算報告書により明らかになった。Luminarにとってテスラは、2024年第1四半期における最大の顧客であり、Luminarの売上高の10%を占めているという。2024年第1四半期の売上高は2,100万ドルである。その10%となると、約210万ドル相当のLiDARを購入したことになる。
▼Financial Results|Luminar Technologies
https://investors.luminartech.com/financial-information/financial-results
LuminarのLiDARは、ソフトウェアを含め1つ約1,000ドルだ。つまり、単純計算で2,100個のLiDARをテスラが購入したということだ。今回の判明した内容により、Luminarの株価は一時急騰した。
2021年5月には、テスラが自動運転のテストや開発についてLiDARを使用するために、Luminarと契約を結んだことが報道された。それによりLuminar株が一時高騰した。しかし、この件についてはLuminarのCEOであるオースティン・ラッセル氏が「ノーコメント」としており、真偽は明らかにされていない。
また、この報道とほぼ同じタイミングで、LiDARが装着されたテスラの「モデルY」の写真がTwitter(現X)で投稿され、話題になった。
もし本当に今回テスラがLuminarのLiDARを大量購入したのであれば、今後LiDARを搭載したテスラ車を見かけることがあるかもしれない。
■LiDAR嫌いで有名なマスク氏であったが…
マスク氏はこれまで、テスラの車両がいかにカメラベースのビジョン・システムだけに頼って運転支援機能を成立させているかなどを語り、LiDAR搭載については否定的な姿勢を崩さなかった。過去には「比較的低コストの推論コンピューターと標準カメラを備えたテスラのソリューションが自動運転を実現できることは明らかだ」「LiDARもレーダーも超音波も何もなくとも自動運転を実現可能だ」といった発言をしたこともある。
Xでは、テスラがLuminarのLiDARを購入していることを報じたニュースを引用して「テスラは松葉杖を買いだめしている!見事な逆転ですね!」とコメントしたことに対し、マスク氏は「We don’t need them even for that anymore(それさえももう必要ない)」と返信している。
その後「それでは、なぜあなた(テスラ)が最大の顧客なのですか?」と問われているが、それにはマスク氏は返答していない。公の立場ではいまだLiDAR否定派を装っているように見えるテスラ、そしてマスク氏であるが、一方でLiDARに対する態度を変えつつあるのは確かなことに感じる。
■レベル2止まりの自動運転開発
テスラ社はADAS(先進運転支援システム)である「AutoPilot」や「FSD(Full Self—Driving)」をすでにリリースしており、随時アップデートしている。ただしこれは自動運転レベル2相当の機能であり、完全自動運転車にはほど遠い。
自動運転タクシーや完全自動運転車を発表するとたびたび発言しているマスク氏であるが、実際に自動運転車が実用化するというニュースはなかなか聞こえてこない。
テスラは早期の自動運転実現のためにポリシーを変えてLiDARの採用に舵を切ったのか、今後の開発状況に注目していきたい。
【参考】関連記事としては「テスラ株に暗雲!ロボタクシー事業、「極めてリスキー」と判断」も参照。