タクシー会社「倒産ドミノ」か ライドシェア、全面解禁の検討へ

過去10年で最多、経営がさらに圧迫か



出典:帝国データバンクプレスリリース

帝国データバンクによると、2023年度に倒産したタクシー事業者は33件となり、過去10年で最多を記録したという。

コロナ禍を乗り越え各社の業績は上向きに感じられるが、何らかのひずみが生じているのだろうか。苦しい台所事情が想定されるが、2024年4月に自家用車活用事業がスタートし、本格ライドシェア導入の是非をめぐる議論も本格化しており、業界を取り巻く環境は激変していくことが予想される。


仮にライドシェアが全面解禁された場合、タクシー事業者の倒産に拍車をかけることにならないだろうか。本格的な倒産ドミノが始まるのか。自家用車活用事業や本格ライドシェアによる既存事業者への影響について一考してみよう。

■帝国データバンクによる調査結果

倒産件数過去10年で最多、物価高倒産が半数占める

帝国データバンクがまとめた「タクシー業」の倒産動向によると、2023年度に負債1,000万円以上の法的整理を行ったタクシー事業者は33件で、前年度から5件増加した。

これまでの最多は東日本大震災の影響を受けた2011年度の36件で、2012年度に34件を記録して以来11~24件の間で推移していたが、2022年度に28件と増加に転じ、2023年度は過去最多に迫る倒産件数を記録した。

出典:帝国データバンクプレスリリース

同社によると、業界はコロナ禍の利用客減少による売上高の急減から立ち直りつつあるものの、プロパンガスなど燃料代の高騰が収益を圧迫し、経営環境は厳しさを増しているという。


2023年度における倒産のうち、おおよそ半数の48.5%が物価高倒産となっている。また、同年度の業績が判明したタクシー事業者のうち、半数超の57%が燃料高などを理由に赤字や減益など業績悪化に直面しているという。

さらには、需要増にも関わらずドライバー不足で営業が困難になるタクシー事業者の経営破綻も目立ち始めているとしている。ドライバーの高齢化や不足から運行に行き詰まり、事業継続を断念するケースが出始めているようだ。

足元では、タクシーの供給不足に対する代替交通手段として、一般ドライバーと自家用車を活用したライドシェア制度が部分的に解禁され、タクシー業界にとって「ライバルとなる競争相手」か「共存共栄のパートナーか」といった見極めが急務となるとも指摘している。

安心できる移動手段として、タクシー運行をどのように存続させるのか、利用者・タクシー事業者ともに再考すべき時期に差し掛かっているとしている。


労働条件改善圧力も影響?

近年は、タクシー運賃の改定も国内多くのエリアで実施されている。東京都では2022年11月に改定され、初乗額が420円から500円、加算額が80円から100円となった。15年ぶりの改定という。

物価高の高騰とともに、賃金水準の引き上げといった労働条件の改善も迫られていることが背景にある。

都市部や観光地を中心に需要が大きく伸びているものの、これを好機とするには人手が足らず、労働条件も上げなくてはならない。利益率の向上などがカギを握るが、営業費用の7割を人件費が占め、運賃水準も規制で硬直化している経営環境下では、需要増を正のスパイラルにもっていくのは簡単ではないようだ。

■自家用車活用事業による影響

タクシー事業者管理下の新制度がスタート

こうした環境下、2024年4月に自家用車活用事業がスタートした。日本版ライドシェアの第一手で、タクシー事業者の運行管理の下、地域の自家用車や一般ドライバーを活用した有償運送サービスを可能にする制度だ。

自家用有償運送について定めた道路運送法第78条の、第3号「公共の福祉のためやむを得ない場合」を根拠に、客観的にタクシー不足が顕著なエリアや時間帯などを特定し、その範囲内で意欲ある一般ドライバーの有償運送サービスへの参加を可能にした。

一般ドライバーは、有償運送サービスに必要となる第2種運転免許などを取得することなく気軽に参加できる一方、サービス提供主体はあくまでタクシー事業者のため、自家用車活用事業に参加する事業者の管理下に入り、事業者から必要な教育や車両の点検整備、運行管理を受けなければならない。

雇用形態に関しては、今のところ明確な指針は示されていないようだが、大半はパートのような雇用関係を結ぶものと思われる。業務委託形態を望む声もある。

求人サイトを見ると、例えば日本交通横浜は勤務形態をシフト制とし、金曜・土曜・日曜の0時~5時台と、同曜日の16時~19時台を提示している。ノルマなしの時給制で、歩合+ガソリン代(300円)+アプリ使用料(100円)となっている。

東京都内の日本自動車交通は、勤務日数は週1日~5日、勤務時間は1日4時間、週に20時間を上限に、時給1,500円を提示している。やはりアルバイトやパート的形態となるようだ。

なお、勤務可能な曜日・時間帯は、国が示した「客観的にタクシーが不足する」曜日・時間帯に準拠している。

例えば、国土交通省が発表したマッチング率90%を確保するために必要な車両数は、京浜区域(横浜市、川崎市、横須賀市)においては金曜・土曜・日曜の0時~5時台がマッチング率68%で940台不足、同曜日の16時~19時台が82%で480台不足となっている。この時間帯・曜日は、日本交通横浜が示す勤務時間と一致している。

現段階では、働くことができる時間帯が限られているため、「自分の好きな時間に好きなだけ働く」といったギグワーカー的な形態はなじまないようだ。

自家用車活用事業は「タクシードライバーお試しサービス」?

つまり、自家用車活用事業においては、一般ドライバーはパートのような形でタクシー事業者と雇用関係を結び、指定された時間・曜日の範囲内でサービスを提供することになる。

ライドシェア的働き方を想定する一般ドライバーにとっては、あまりメリットがないのが実情だ。

一方、タクシー事業者側には大きなチャンスが生まれる。自家用車活用事業に興味を持った一般ドライバーで需給の溝を埋めるだけにとどまらず、そのドライバーに正社員登用への道を用意することで、慢性的なドライバー不足解消につなげることができるのだ。

自家用車活用事業を「タクシードライバーお試しサービス」と捉え、気軽に乗務を体験してもらう機会として位置付ければ、タクシー事業者にとっては大きなメリットとなり得る。

実際の労働環境が悪ければ定着しないが、働きやすい環境を実現していれば正規のタクシードライバーを目指す人も出てくるだろう。

こうした意味で、自家用車活用事業はタクシー事業者にとってプラスの側面が大きいと言える。

■本格ライドシェアによる影響

制度設計次第で影響は大きく変わる

では、本格的なライドシェアが導入された場合はどうなるか。国は、自家用車活用事業の経過を見て2024年6月にもタクシー事業者以外が参入可能なライドシェア事業の在り方について取りまとめを行う方針だ。

これは、Uber Technologies(ウーバー)のような配車プラットフォーマーが直接ライドシェア事業に参入することを想定したものと思われる。

自家用車活用事業においては、ウーバーはあくまで乗客とタクシー事業者間の運送契約を仲介する役割にとどまる。しかし、新法・新制度が施行されれば、タクシー事業者を介することなく乗客とドライバーをマッチングさせることが可能になるのだ。

議論においては、こうしたプラットフォーマーをただの仲介役にせず、乗客と運送契約を結ぶ主体とすることで一定の責任を負わせる案などが示されているが、いずれにしろタクシー事業者を介さない新サービス形態の議論が進められているのだ。

タクシー業界などの猛反発は必至で、どのような形で実現するのか、そもそも実現するかどうかも不透明な状況だが、仮に本格ライドシェアサービスが実現した場合を想定してみよう。

自社が関与しないところで一般ドライバーが旅客輸送を担う……という意味では、競合他社が増えたのとほぼ同義だ。単純に顧客の争奪戦が激しくなるだろう。

ただし、仮に運賃体系が一緒であれば、おそらく多くの日本人は優先的にタクシーを選択するものと思われる。他国に比べ、日本のタクシーは安全でサービスが行き届いているイメージが強い一方、ライドシェアは危険では……?といったイメージが先行しているためだ。

運賃がタクシーより安いか、タクシーよりも捕まりやすいなどのメリットがなければ、大きくシェアを奪われる心配はなさそうにも思える。

また、自家用車活用事業と同様、タクシー不足が顕著なエリア・時間帯などに限るのであれば、少ないパイを取り合うようなことにもならない。

影響が出ないわけではないが、制度設計次第でその影響を最小化することはできそうだ。もちろん、1%でも減収すれば経営に響き、積もり積もって倒産につながらないとは言い切れない。ライドシェアの隆盛を見て、体力のあるうちに会社をたたもうとする動きも出てくるかもしれない。

あくまで制度設計によるところが大きいが、一定程度淘汰が始まる可能性は否定できず、ともすれば倒産増の状況に拍車をかけることも考えられるだろう。

【参考】ライドシェアに対する意向調査については「ライドシェア、日本人の大半「乗らず嫌い」 利用経験あると賛成35%→84%に」も参照。

海外ではタクシー倒産事例も

海外では、米カリフォルニア州サンフランシスコのタクシー事業者Yellow Cabが2015年、ウーバーなどとの競争激化を理由に破産宣告した例がある。ニューヨークなどでもあふれるライドシェア車両に経営を圧迫される事業者やタクシードライバーが出ている。

半ば制限のない形でライドシェアサービスを開始すれば、間違いなくタクシー事業者にとって打撃となるだろう。それゆえ、外国でもライドシェア規制や既存タクシー事業の規制緩和などを図る動きが出ている。

海外ではタクシー事業への参入規制が厳しく、過去にはニューヨークでライセンスが数千万円で取引されることもあったという。こうした規制を緩め、ライセンス取得要件を緩和する動きや、ライドシェア車両の総量規制を設ける動きなどがある。

タクシーとライドシェアのイコールフッティングをどのように図るか……も1つのポイントとなりそうだ。

■【まとめ】制度設計案と是非をめぐる議論に注目

日本では、ライドシェアが解禁されるとしても厳しめの規制が整備されるものと思われるが、どの程度の影響が出るかは正直未知数だ。まずは制度設計案とその是非をめぐる議論の行く末に注目したい。

また、長い目で見れば、将来的には自動運転タクシーが普及し、人間のドライバーによるタクシーやライドシェアは次第に淘汰されていく可能性が高い。ライドシェア解禁云々を抜きにしても、将来を見据えた事業改革を求められることになりそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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