「ゴミ収集」を自動運転化!?国が支援を決めた2つの新事業

橋本市がごみ収集過程をスマート化へ



国の「未来技術社会実装事業(2023年度選定)」に、福島県須賀川市と和歌山県橋本市の提案が選定された。いずれも自動運転に関連した事業だ。


須賀川市は都市公園における利便性の向上、橋本市は自動運転やドローンによるごみの収集運搬などをそれぞれ計画している。

人力による作業量が多大なゴミ収集分野への自動運転技術の導入は、注目に値する。両市の取り組みに触れながら、ゴミ収集分野における自動運転の可能性に迫る。

▼未来技術社会実装事業(令和5年度選定)について|内閣府地方創生推進事務局
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kinmirai/pdf/mirai_senteiR05.pdf

■須賀川市と橋本市の取り組み概要
須賀川市は公園内の移動に自動運転を導入

未来技術社会実装事業は、AI(人工知能)やIoT、自動運転、ドローンといった未来技術を活用したもので、革新的で先導性と横展開可能性などに優れた取り組みに対し総合的な支援を行う事業だ。2018年度から2022年度までの5カ年で計53事業を支援してきた。


2023年度選定の須賀川市は、「自動運転を活用した翠ヶ丘公園の利便性、快適性の向上と賑わいの創出」をテーマに据え、快適性、利便性が高く多様な世代が憩い・賑う都市公園づくりに自動運転を活用する。

同公園は、東京ドーム約6個分に相当する30ヘクタールの面積を誇る。起伏もあり、高齢者や障がい者らが園内を移動するのは大変なようだ。そこに自動運転を導入し、誰もが容易に園内を移動できるようにすることで利便性を向上させる狙いだ。

出典:内閣府地方創生推進事務局(※クリックorタップすると拡大できます)
橋本市はゴミ収集車の自動運転化を検討

一方、橋本市は、IoTやクラウドコンピューティング、自動運転、ロボット技術などを駆使し、市民協働型廃棄物処理システムの構築を目指すという。

可燃ゴミからバイオマス利用可能な廃棄物の分別回収をはじめ、センサーや通信機能を搭載したスマートゴミ箱による収集運搬の合理化、自動運転やドローンによる収集運搬の自動化、廃棄物バイオマスのバイオガス化による発電施設の運営などに取り組む方針だ。


同市は2021年、高齢化社会に対応した廃棄物処理システムの構築に向けパナソニックと連携協定を結ぶなど、同領域における取り組みを推進している。パナソニックとの連携では、ゴミの量を内蔵センサーで検知してデータ化し、インターネットを介してクラウド上にデータを蓄積可能な「スマートごみ箱」を新たに開発するという。

こうしたゴミの動向をスマート化するシステムに加え、自動運転技術などによって収集面の自動化・効率化を図っていく狙いだ。

出典:内閣府地方創生推進事務局(※クリックorタップすると拡大できます)
■ゴミ収集における自動運転の効用
ゴミ収集車は短距離移動を繰り返しながら長距離を移動

家庭ゴミの収集は、多くのエリアでゴミ収集車両を用いた人海戦術で行われている。自宅前やゴミ収集所に置かれたゴミを、ゴミ収集車で逐一回って回収している。燃えるゴミや燃えないゴミ、容器包装プラスチックゴミ、ペットボトル、空き缶など、種別ごとにほぼ毎日のように出回っているのだ。

北海道帯広市によると、ゴミ収集車33台が2017年度に走行した距離は計67万キロに上るという。 単純計算すると、1台あたり年間約2万キロ、1日平均で50キロ超を走行することになる。この距離を、ゴミ収集所ごとに停まりながら走行しているのだ。

収集ポイントが密集している地域では、ドライバーがゴミ収集車をゆっくりと移動し、回収員が下車したまま走って各収集所を回る姿もよく見られる。相当な労力だ。

仮にこの作業をワンオペで行った場合、収集車を少し移動して降り、ゴミを積んでまた収集車に乗って少し移動し……を繰り返すことになる。非効率極まりない作業で、2人以上のペアでなければ成り立たない作業とも言える。

しかし、ここに自動運転技術を導入することで、ワンオペが可能になる。密集区域においては、あらかじめマッピングしたルートを収集員の姿を検知しながら追従することで、収集員のペースに合わせた無人走行が可能になる。運転手を収集車に冗長させる必要がなくなるのだ。

ゴミ収集全体のスマート化がカギ

もちろん、ゴミ収集車を自動運転化しても、ゴミを集める人間の手は必要になる。まだまだ多大な労力を要するのだ。ゴミ収集所をスマート化し、収集車に無人でゴミを搬入できるような仕組みや、各家庭から収集所までゴミを運ぶ「ゴミ捨てロボット」などが登場すると面白いかもしれない。

各収集所のゴミ量をリアルタイムで把握し、ルート最適化AIで効率的なルートを導き出しながら走行するシステムなどもそのうち実用化されるかもしれない。

■「ゴミ収集×自動運転」関連の取り組み
三菱ふそうは遠隔操作タイプを開発

三菱ふそうトラック・バスは2020年、自社技術イベント「Fuso Future Solutions Lab」の中で、ワイヤレス式HMIで遠隔操作可能な塵芥車のコンセプトモデル「eCanter SensorCollect」を発表している。

車両にはLiDARや超音波式センサーなどが搭載されており、スマートフォン操作によって作業員を自動追跡する機能などが備わっているという。障害物回避なども可能だ。

三菱電機は自動移動ゴミ箱を開発

また、三菱電機がITやエレクトロニクスの総合展示会「CEATEC 2022」で発表した無人搬送ロボットは、荷物の配送をはじめ自律移動可能なデジタルサイネージやダストボックスといった活用方法も想定しているようだ。G7三重・伊勢志摩交通大臣会合では、三重県多気町の商業リゾート施設「VISON」において「自動移動ゴミ箱」として関係者による視察が行われたようだ。

【参考】三菱電機の取り組みについては「三菱電機、「自動移動ゴミ箱」を開発 準天頂衛星みちびきを活用」も参照。

■【まとめ】需要見越し取り組みが加速?

ゴミ収集はほぼ全ての自治体で多額の予算を組んで実施している行政サービスであり、労力も多大だ。自動運転ゴミ収集車をはじめとしたスマート化の需要は非常に大きいのではないだろうか。

自動運転車やロボット技術が向上し始める今後、こうした分野における取り組みも大きく加速していく可能性がありそうだ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事