「さまざまなMOVEをつなげてクルマの価値を拡張させていく」──。新体制に移行し、モビリティ・カンパニーへの変革・進化を加速させるトヨタ。かじ取りを担う佐藤恒治社長は、新体制方針説明会で目指すモビリティ社会の在り方を「トヨタモビリティコンセプト」とし、トヨタが歩んでいく道筋を示した。
変革期を迎えた自動車産業において、トヨタはクルマの未来をどのように変えていくのか。トヨタモビリティコンセプトを通じてトヨタのビジョンに迫る。
記事の目次
■トヨタモビリティコンセプトの概要
「クルマが進化した先にモビリティがある」
佐藤社長は、クルマが社会に必要な存在であり続けるためにはクルマの未来を変えていく必要があるとし、そのためのテーマとして「カーボンニュートラル」と「移動価値の拡張」を掲げた。
この2つのテーマを柱に、トヨタが目指すモビリティ社会の在り方としてまとめたものが「トヨタモビリティコンセプト」だ。
安全・安心をはじめ、運転する楽しさなどこれまで培ってきたクルマの本質的な価値を基盤に、さらに社会の役に立つ存在へクルマを進化させること、そして誰もが自由に楽しく、快適に移動できるモビリティ社会を実現すること、こうした未来に向け、今後モビリティ1.0~3.0の3つの領域でモビリティ・カンパニーへの変革を進めていくとしている。
このモビリティ・カンパニーへの変革の真ん中にはクルマがあり、「クルマが進化した先にモビリティがある」という。クルマの持つ可能性を広げていった先にトヨタが目指す未来があるのだ。
以下、柱となる「カーボンニュートラル」と「移動価値の拡張」、そしてモビリティ・カンパニーへの変革に向け踏み込む3つの領域について解説していく。
■カーボンニュートラルにおけるビジョン
2050年カーボンニュートラルへ
トヨタは2035年に新車CO2排出量をグローバルで2019年比50%以上低減させていくことを目標に掲げているが、佐藤社長は「クルマのライフサイクル全体で2050年カーボンニュートラルの実現に全力で取り組んでいく」とさらなるビジョンを掲げた。
このカーボンニュートラル実現に向けては、着実にCO2を減らす電動化は欠かせない。佐藤社長は「新興国も含めHEV(ハイブリッド車)の販売を強化し、PHEV(プラグインハイブリッド車)の選択肢も増やしていく」とし、完全電動となるBEVについても「今後数年でラインアップを拡充していく」と説明した。
将来に向けた仕込みとして、普及期に向けた次世代BEVの開発や新しい事業モデルの構築に力を入れるほか、その先の水素社会の実現に向けたプロジェクトも加速していくという。
タイや福島での社会実装や、商用FCEV(燃料電池車)の量産化、モータースポーツの場を活用した水素エンジン技術の開発など、水素を使う領域の拡大を進めていく方針だ。
2026年に次世代BEV投入 航続距離2倍目指す
HEVは新興国を含め販売強化を図っていく。PHEVは、選択肢を増やすとともに電池の効率を上げ、航続距離を200キロ以上に引き上げていくという。
BEVは、2026年までに10モデルを新たに市場投入し、年間150万台の販売を目指す。米国では、2025年に3列SUVを現地生産し、中国では2024年に現地開発2モデルを追加する。新興国では、2023年内にピックアップトラックを現地生産するほか、小型BEVも投入する予定としている。
2026年には次世代BEVを投入し、航続距離を2倍にする。開発・生産の工程を半分まで削減し、開発・生産・事業の全権を委ねたリーダーが率いる専任組織を新設する。コネクテッド技術を活用した無人搬送や自律走行検査など、効率的なラインへシフトし、工場の景色をガラっと変えるという。
FCEV(燃料電池車)は、中型・大型トラックから商用FCEVの量産化を進める。水素エンジンはモータースポーツを活用した技術開発を進めており、2022年に大型商用車向けの基礎研究を開始している。
さまざまな観点から電池の研究開発も
電池関連では、東京電力ホールディングスの「定置用蓄電池の運用技術・安全基準」とトヨタの「電動車用蓄電池のシステム技術」を融合した定置用蓄電池システム(出力1MW、容量3MWh)を開発したと2023年5月に発表している。
EV用蓄電池を複数台連結させ、既製のPCS(交流電力を供給する設備)と組み合わせて利用可能なシステムで、豊田通商子会社のユーラスエナジーホールディングスが所有する大規模風力発電所「ユーラス田代平ウインドファーム」に導入し、実証試験を行うという。
BEVの本格普及には、蓄電池の大容量化や高い安全性、充電効率、利便性などが欠かせない。2026年に航続距離を2倍にする目標達成に向け、さまざまな観点から研究開発を加速する構えのようだ。
■移動価値の拡張
「さまざまなMOVEをつなげてクルマの価値を拡張させていく」
移動価値の拡張に関して、佐藤社長は「これからのクルマは電動化、知能化、多様化が進み、社会とつながった存在になっていく」とし、「ヒトの心が動く、感動するというMOVEや、ヒトやモノの移動に加えエネルギー、情報のMOVEを取り込み、データでひとつにつながっていく。それにより、他のモビリティと連動したシームレスな移動体験や、社会インフラとしてのクルマの新しい価値を提供できるようになっていく」と語る。
社会とつながったクルマが通信や金融といった人々の暮らしを支えるさまざまなサービスとも密接につながり、モビリティを軸にした新しい付加価値の輪が広がっていくという。
■モビリティ・カンパニーへの変革にむけた領域
モビリティ1.0:クルマの価値を拡張
モビリティ1.0では、さまざまなMOVEをつなげクルマの価値拡張を目指す。例えば、BEVは電気を運ぶモビリティとして新しい可能性を秘めるという。エネルギーグリッドとして社会のエネルギーセキュリティを高める役割を担うことができるのだ。
また、知能化によってクルマや顧客から集まる情報を活用することで、クルマはもっと進化できるという。この新しいクルマづくりのカギを握るのが、ソフトウェア基盤の「Arene」だ。
ソフトウェアプラットフォームのAreneを介して最新のハードとソフトがつながり、クルマとさまざまなアプリも自由自在につながっていくという。
2026年の次世代BEVに向け、Areneの開発を手掛けるウーブン・バイ・トヨタとともに全力で開発を進めていくとしている。
【参考】Areneについては「トヨタ、次世代車載OS「アリーン」を2025年実用化へ」も参照。
トヨタ、次世代車載OS「アリーン」を2025年実用化へ https://t.co/bCY0pt3bjw @jidountenlab #トヨタ #OS
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 14, 2023
モビリティ2.0:モビリティを拡張
モビリティ2.0では、新しい領域へのモビリティ拡張を目指す。フルラインアップのクルマに加え、e-Paletteなどの新しいモビリティやMaaS領域、産業を越えたネットワークなどの強みを生かし、事業範囲を越えて世界中の人々の移動を支えていく。
モビリティ3.0:社会システム化
モビリティ3.0では、社会システムとの融合を目指す。エネルギーや交通システム、物流、暮らしのあり方に至るまで入り込み、まちや社会と一体となったモビリティのエコシステムを構築する。
そこでスポットが当たるのがWoven Cityだ。新しい物流の仕組みづくりをはじめ、まちと一体となった自動運転モビリティの開発、CO2フリー水素のサプライチェーン実証や暮らしの中における水素利用など、それぞれの可能性を広げる実証を進めていく。
■【まとめ】自動運転は移動価値を拡張させていく一手段?
自動運転に対する明確なビジョンは発表されなかったが、EV・BEVがカーボンニュートラルに向けた一手段であるように、自動運転は移動価値を拡張させていく一手段として位置付けられているのかもしれない。
いずれにしろ、BEVも自動運転モビリティも本格普及期に向け開発をいっそう加速していくことに変わりはない。クルマの概念がどのように変わり、そしてモビリティという概念がどのように社会に組み込まれていくのか。トヨタをはじめとした各社の動向に引き続き注目だ。
【参考】関連記事としては「トヨタが「どこでもドア」を開発!?究極のモビリティかも…」も参照。