トヨタが、2023年3月1日付、及び4月1日付の役員人事などについて発表した。先日、社長交代人事を発表したばかりだが、組織体制を含めた新体制に移行する人事案件だ。
発表の中で、重点事業の1つに「ウーブン」を挙げ、ウーブン・プラネット・ホールディングスの社名を「ウーブン・バイ・トヨタ」へ変更し、取り組みをいっそう強化していくことも明らかにした。
新体制では、どのような戦略のもと次世代モビリティの領域にアプローチしていくのか。ウーブンの取り組みを中心に、トヨタの新戦略に迫る。
記事の目次
■新体制が掲げる3つの重点事業テーマ
「ウーブン」「アジア」「電動化」を柱に
新体制では、「ウーブンの取り組み強化」「アジアのカーボンニュートラルの実現」「次世代BEVを起点とした事業改革」の3つを重点事業テーマに据える。
ウーブン関連では、ウーブン・プラネット・ホールディングスの社名を2023年4月に「ウーブン・バイ・トヨタ」へ変更し、Arene開発やWoven Cityなどの取り組みを加速する。専任のCFO(最高財務責任者)には、現副社長の近健太氏が就任する予定だ。
ウーブン・プラネット・ホールディングスで代表取締役CEOを務めるジェームス・カフナー氏は、トヨタの取締役・執行役員を退任する予定だが、ウーブン・バイ・トヨタの代表取締役・CEO(最高経営責任者)は継続する。
アジア戦略では、現副社長の前田昌彦氏がアジア本部長 に就き、カーボンニュートラルやCASE技術の社会実装プロジェクトをリードし、新たなアジア地域戦略を推進するとしている。
電動化関連では、現副社長の桑田正規氏がChief Project Leaderとなり、レクサスの「2035年 BEV100%化」に向けた事業戦略などをリードしていく。
佐藤新社長「クルマ屋にしかできない知能化を」
また、トヨタの新社長に就任する佐藤恒治氏は、新体制で目指す進化を「モビリティ・カンパニーへの変革」とし、豊田章男社長の意を継承していくことを強調している。
その上で、クルマづくりにおける3つのテーマとして「電動化」「知能化」「多様化」を据えた。知能化では、「クルマ屋にしかできない知能化」というアプローチを挙げた。
クルマの声をもっと聴き、クルマ屋にしか活用できない情報を高度に統合制御することで、燃費改善や乗り味の変更、安全運転のサポートなど、一人ひとりに合わせてクルマの価値を高められるとし、これを実現するのがソフトウェア基盤のAreneという。
ウーブンの取り組み強化については、クルマの知能化を推進する上で重要な役割を担うとし、今まで以上にトヨタとウーブンが一体となってAreneの開発を加速させるとともに、ウーブン・シティでの実証実験を強力に進めていくとしている。
■ウーブンの変革
社名に「トヨタ」を冠する意味は?
ウーブン・バイ・トヨタに名称を変更する予定のウーブン・プラネット・ホールディングスの前身は、AIをはじめとした最先端技術の研究開発を行う国内拠点として2018年に設立されたTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)だ。
ウーブンは、TRI-ADの事業をいっそう拡大・発展させるための新組織体制として2021年1月に設立された。持株会社の「ウーブン・プラネット・ホールディングス」をはじめ、自動運転技術の開発や実装、市場導入を担う「Woven Core(ウーブン・コア)」、Woven CityやArene(アリーン)、Automated Mapping Platform(AMP)など既存の事業領域を超えた新たな価値を創造する「Woven Alpha(ウーブン・アルファ)」、グローバル投資ファンド「Woven Capital(ウーブン・キャピタル)」で構成されている。
今回のウーブン・バイ・トヨタへの社名変更に伴い、具体的に体制をどのように変えていくかは不明だが、社名に「トヨタ」を冠すること自体が大きな意味を持っているのかもしれない。
ウーブンでは、グループ内における研究開発をはじめ、Woven Cityにおける異業種連携やスタートアップの買収など、外部との連携を強めている。憶測だが、モビリティ・カンパニーへの第一歩として、「トヨタ」の名を冠さないことで自動車メーカーとしてのトヨタを意識しない・意識させない連携を強化していた可能性がある。新たなモビリティ領域においては、「my route」「KIINTO」のように「トヨタ」を使わないケースも珍しくない。
その意味で、今回のウーブン・バイ・トヨタへの改称は、自動車メーカーからモビリティ・カンパニーへの進化を決定づけるような新たな「トヨタ」のイメージを前面に出していく想いが込められているのかもしれない。
つまり、自動運転をはじめとした次世代モビリティサービス領域において新たなトヨタブランド・イメージを確立し、CASEの各分野で勝ち抜いていく意思の表れ――とも受け取れる。
真相はまだ分からないが、モビリティ・カンパニーへの転身を図る上で「トヨタ」のブランドイメージを変えていくシーンは必ず出てくる。社長交代に合わせ、こうした流れを促進させていくのは間違いないだろう。
■ウーブンの取り組み
最先端のモビリティソリューションを開発
ウーブンでは、自動運転技術をはじめ、AreneやAMPの開発、Woven Cityに関する取り組みなどを進めている。
Areneは、最先端のモビリティプログラミングを可能にする、次世代モビリティの基盤となるソフトウェアプラットフォーム(オペレーティングシステム)で、高い安全性とセキュリティを保ちながら迅速な開発とコードの再活用を可能にする。
車両とクラウドを密に統合させた独自のプログラミングプラットフォームを構築しており、このプラットフォームを活用することでイノベーションを実現する壁が低くなり、開発者は新しい方法でアイディアを形にしやすくなるという。
佐藤新社長がたびたびAreneに言及しており、今後のトヨタのクルマづくりに大きく関わってくる技術となりそうだ。
高精度3次元地図の生成技術も
自動運転関連では、トヨタとレクサスの高度運転支援技術「Teammate」の開発を担っているほか、自動地図生成プラットフォーム「AMP」の開発なども手掛けている。
地図関連では、これまで以上に拡張性の高い地図データの収集・分析システムの開発を進めるとともに、高精度3次元地図をベースに変化点の検知・更新技術を組み合わせることで効率的な更新を可能とする技術開発などを進めている。
【参考】AMPについては「AMPとは?トヨタTRI-ADの自動運転向け自動地図生成プラットフォーム」も参照。
AMPとは?トヨタTRI-ADの自動運転向け自動地図生成プラットフォーム https://t.co/C6oUp49vGP @jidountenlab #トヨタ #自動運転 #地図
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) September 10, 2020
Woven Cityによるイノベーション創出にも期待
Woven Cityは、現在静岡県裾野市で建設を進めている実証都市で、未来のモビリティを大規模に実現するためのリアルかつユニークな実証の場となる予定だ。異業種連携のもと、先端技術・サービスのイノベーション発信地となるような取り組みを推進する見込みで、早ければ2024年にも第1期オープンを迎える計画だ。
【参考】Woven Cityについては「Woven City、第1期は2024年開業か 初期住民は360人」も参照。
Woven City、第1期は2024年開業か 初期住民は360人 https://t.co/cEVC9atxPD @jidountenlab #WovenCity #トヨタ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 6, 2022
■【まとめ】ウーブンの変革がトヨタの変革を象徴?
徐々に新体制における戦略が明らかになってきた。今回発表されたウーブンの変革が、社長交代によるトヨタの変革の象徴となるか今後の動向に注目が集まるところだ。
新体制のテーマに「継承と進化」を掲げる佐藤新社長。章男社長をはじめとする歴代社長が築き上げてきた世界一の企業をどのようにモデルチェンジしていくのか。トヨタから目が離せない状況がしばらく続きそうだ。
【参考】関連記事としては「社長退くトヨタ豊田章男氏、「自動運転」で何をした?」も参照。