国の「自動走行ビジネス検討会」が、自動運転レベル4のサービスなどの本格普及に向けた新たなロードマップを2020年5月12日に示した。高速道路や生活道路のほか、工場や空港におけるサービス普及の具体的な目標が示され、自動運転技術の実用化に向けた狼煙が上がった格好だ。
2025年度を目途に少なくとも40カ所以上で低速・中速・高速の自動運転サービスの普及を目指し、2023年度からは生活道路での有償サービスの提供も数カ所で開始させることを目標として定めている。
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自動運転ラボを運営するストロボの下山哲平社長は新たなロードマップの策定・公表を受け、「生活道路で2023年度にサービスを開始するという点は、かなり現実的な『近い将来』の話だ」と強調した上で、「人を運ぶサービスだけでなく、レベル4相当の無人宅配にも応用される可能性があり、注目すべき」と語る。
無人宅配は今年に入ってからの新型コロナウイルスの感染拡大で、世界的に大きな注目を集める。EC(電子商取引)需要の拡大が確実視される中、無人宅配は確実に先進国の労働力不足の課題緩和にも資する。
下山氏は「コロナ禍でタクシーを使った宅配も特例的に解禁された。この流れは今後も続き、自動運転タクシーでの飲食店の料理や小売店の料理を運ぶ貨客混載も確実に前進する」と分析する。
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■官民連携強化、「国から声掛けされる立場に」
自動運転サービスの普及には当然、自動運転車両が必要とされる。自動運転車両はさまざまな技術や機器の集大成として完成するため、AI(人工知能)や画像認識などの要素技術のほか、センサーや通信機器などを開発する企業にとっては大きなチャンスが訪れる形となる。
こうした状況の中、下山氏は「ロードマップの実現に向け、国は要素技術を開発する新興ベンチャーや部品メーカーとの官民連携を確実に強化していく」を指摘した上で、「そのとき、国から声掛けされる立場にあるかないかが、この領域に参入する企業の命運を握るといっても過言ではない」と話す。
内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)に参画している企業は今後も官民連携の主役をなっていくことが考えられるが、2025年度に向けての実証の本格化はまだまだこれからだ。今後新たにこの業界に参入する企業にとっても、十分にチャンスはある。
■「業界内でのポジション獲り」へ発信力強化も
いまの時代はまだ自動運転業界の「黎明期」といえ、この領域で有力とされる企業は存在しているものの、要素技術やセンサー開発でどの企業が最終的に覇権を握れるかはまだ分からない状況だ。たが、実際に40カ所以上でサービス提供が開始する2025年ごろには、勝ち組濃厚となる企業がはっきりしてくるはずだ。
こうしたことを見越し、下山氏は「この波に乗れるような『業界内でのポジション獲り』が重要」と語った上で、「技術力を伸ばすだけでなく自社の能力を業界に発信する力も問われる」と説明する。いままで粛々と技術開発に力を入れてきた企業も、これからは広報業務や渉外業務に力を入れていく必要があるのだ。
新たに発表されたロードマップでは2025年度を一つの節目に自動運転サービスの実現・普及目標を掲げているが、「あと5年」と悠長に構えるか、まさに勝負時がいま始まったと考えるかで、その企業の将来は大きく変わる。戦いの火蓋は既に斬って落とされたのだ。
【参考】関連記事としては「2020年と自動運転、toC時代の幕開け【自動運転ラボ・下山哲平】」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)