ゼンリンが「MaaS」に照準!取り組みを一挙まとめ

「地図情報×地域情報」が決め手に





地図情報において知らぬ者はいないといっても過言ではない国内最大手のゼンリン。カーナビゲーションを中心に自動車業界との関わりも深く長い。







近年は、ダイナミックマップの基礎となる高精度3次元地図の開発など自動運転分野において著しい活躍を見せているが、MaaS(Mobility as a Service)分野においても徐々に存在感を増している。

地図情報とMaaSの関わりはどのようなものなのか。MaaS分野におけるゼンリンの取り組みを追ってみよう。

■MaaSにおける地図情報の役割

あらゆる移動サービスを結び付け、予約や決済、サービスの提供に至るまで各種機能を一つのプラットフォームに統合するMaaS。このMaaSの構築において、バスや電車、タクシーなど各移動サービスを結び付ける重要な役割を担うのが地図情報・位置情報だ。

通常、MaaSアプリの利用者は、A地点からB地点へ移動するといった形で現在地などから目的地への移動手段を探す。その際に用いるのがデジタル化された地図情報だ。

各移動サービスは、駅やバス停、路線、走行可能エリアといった形で地図情報と結び付けられ、利用者の位置情報や目的地情報などをもとに、所要時間や料金、乗り継ぎ回数などさまざまな条件を満たした最適なルートをアプリが提案する仕組みだ。

自動運転においてダイナミックマップや高精度3次元地図が主要技術とされるように、MaaSにおいても地図情報は絶対不可欠な基盤となる情報なのだ。

■ゼンリンのMaaS分野における取り組み

ゼンリンは、一つの空間上であらゆるモビリティを可視化できる地図データベース「Mobility based Network」(モビリティベースドネットワーク)を構築し、これをMaaSオペレーターに提供することでMaaSの実現に貢献していく方針だ。

モビリティベースドネットワークは2019年10月にシンガポールで開催された「第26回 ITS世界会議シンガポール2019」で初公開された。自動車用ネットワークや鉄道路線、駅構内通路、歩行者用ネットワークなど、 移動に必要なあらゆるネットワークが地図上にレイヤーされ、各ネットワークが交通結節点で接続されることによってMaaSに最適な情報提供を実現する仕組みだ。

こうした地図データベースを一元的な空間情報として提供することで、人々の移動と各種モビリティ、サービスを連携させ、シームレスな移動や移動者の利便性向上といったMaaSの高度化に寄与していくこととしている。

具体的には、以下の3つなどの観点からMaaSオペレーターが利用可能なサービスの提供を目指している。

①移動のきっかけとなる情報提供
②目的地までのルート探索
③移動における課題の解決

①では、観光スポットや飲食店など、地域の生活情報に関するさまざまな位置情報を、地域のあらゆるコンテンツプロバイダーが自分たちで地図に紐づけて自由に編集し、デジタル化できるツールを提供する。

②では、目的地までのルートを可視化してMaaSオペレーター同士の情報共有を図ることで、各サービスとのマッチングを可能にし、一括決済など新たなサービス連携の実現に貢献する。

③では、計画されたルートと実際の移動ログをマッチング分析することにより、交通課題の可視化や新たな移動サービスの創出に貢献するとしている。

【参考】モビリティベースドネットワークについては「MaaSも自動運転向けも!ゼンリンの次世代地図データベース、シンガポールで展示」も参照。

■地図情報×地域情報でMaaSが進化

ゼンリンと他社との協業・連携は数知れない。これまではグーグルやヤフーといったポータル向けに電子地図サービスを提供しているイメージが強かったが、近年は経路検索サービスを手掛けるジョルダンやナビタイムジャパン、ヴァル研究所との連携や、観光情報や地域情報サイトとの連携など、幅広い領域でさまざまな情報と地図情報を結び付ける取り組みが展開されている。

一例が「価格.com」や「食べログ」などを運営するカカクコムとの取り組みだ。ゼンリンは2015年、カカクコムと業務資本提携を交わし、両社が保有する拠点情報や店舗情報、地図データをはじめとした経営資源を融合することで新たな事業を創造できるとし、位置・場所情報と商品・サービス領域で協業を開始した。

カカクコムが運営する街の情報を詳しく知ることができる情報メディア「ちくわ。」では、「街を深く知る」をコンセプトに「知らなかったけど知っていると嬉しい」情報や「地区と地区の繋がり」に関する情報など、おでかけに役立つ情報を提供している。

こうした情報が地図情報と結びつき、MaaSに組み込まれることで移動のきっかけが生まれる。発展系としてMaaSアプリを介して飲食店の予約や観光地のクーポン発行機能なども備われば、食べログのような情報サイトと移動が直接結びつくことになり、大きな相乗効果が生まれるだろう。

地図プラットフォームと情報サイトの連携はMaaSにおいてその効果を最大限発揮することになるため、MaaSの進展とともに両者の連携も加速していく可能性が極めて高い。

すでに各地で産声を上げているMaaSにおいても、生活や観光サービスを連携させる動きは活発化しているが、こうした連携も地図情報があってはじめて成り立つのだ。

■MaaS分野におけるゼンリングループと他社との協業
DiDiやみんなのタクシーと提携:タクシー配車サービスのデータ分析進める

ゼンリンとゼンリンデータコムは2019年9月、タクシー配車プラットフォームを手掛けるDiDiモビリティジャパンと業務提携を交わしたと発表した。

取り組みの第一弾としてナビゲーションアプリの共同開発を行うこととし、DiDiモビリティジャパンが提供するタクシー配車プラットフォームのドライバー用アプリ「DiDiドライバー」内で、ゼンリンデータコムのナビゲーションアプリ「Z-NAV(ゼットナブ)」の利用を可能にした。

これにより、「DiDi」を利用する各タクシーは、精度の高いゼンリン製地図を活用した高機能ナビゲーションを利用することができるという。

また、同年11月には、ゼンリンデータコムとみんなのタクシーが業務資本提携を交わした。ゼンリンデータコムが開発した業務車両向けのナビアプリがすでにみんなのタクシーで活用されており、今後は、各車両から収集される各種データと、ゼンリンデータコムが保有するデータを活用したサービスの構築や研究開発などを進め、将来的には両社の資産を合わせたMaaS事業領域での事業展開を目指すとしている。

現在、移動サービスに伴うアプリとして主流となっているタクシー配車アプリだが、こうした個別のアプリにも地図情報は求められる。今後、こうした個別のアプリとMaaSアプリは共存していくのか、統合の道をたどっていくことになるのかなども注目だ。

東京大学との共同研究:地図×人流分析

移動の可視化に向けては、移動に関する人流やモビリティを地図上に重畳し、分析するための技術開発が重要となる。このため、ゼンリンは東京大学の柴崎研究室(柴崎亮介教授)と共同で研究し、地図データベースを活用した人流分析などを進めている。

日本全国の商店街や商業地域の密集地が地図上で可視化できる「商業集積ポリゴンデータ」なども共同開発している。全国の商店街など商業密集地の位置や規模、店舗の業種を網羅しており、従来の商業統計と比較してより正確な場所の把握や現況に基づく精度の高い分析を実現するコンテンツとして、消費者動向予測や不動産土地評価などに役立てることができるという。

個別の店舗情報などをビッグデータとして収集・分析し、地図データに落とし込むことで位置情報と商業情報などが密接に結びつき、新たな価値を生み出す好例だ。人の流れや動線なども把握することで、移動サービスのルート設定にも役立てることができそうだ。

ゼンリンデータコムがライナロジクスと業務資本提携:宅配物流プラットフォーム強化へ

ゼンリンデータコムは2020年4月、物流向けトラック自動配車システムの開発を手掛けるライナロジクスと業務資本提携を交わしたと発表した。

両社は以前から宅配物流業務のラストワンミニット問題の解決に向けたモビリティプラットフォーム事業において提携し、輸配送計画策定から管理まで統合的に運用できるオープンなプラットフォームの構築・提供に取り組んでいたが、パートナーシップの強化を図り、研究・開発レベルから地図データやアプリケーション、プラットフォームの連携をいっそう強化していくこととしている。

Will Smartがモビリティサービスを展開:グループ発ベンチャーがカーシェア事業着手

ゼンリンデータコムから誕生したベンチャーのWill Smartは2018年12月、将来の中核事業である「モビリティシステム事業」などを見据えた成長戦略の実現に向け、JR九州や四国電力など6社と資本業務提携を行うことを発表した。

車両をはじめとする移動体や建設現場など、事業範囲が街全体へと拡大する中、IoTソリューション事業やIoT共創事業に加え成長が見込める「モビリティシステム事業」をはじめとした未来志向の事業に注力することとしている。

2019年10月には、カーシェアサービスを可能にするオールインワン・プラットフォーム「Will-MoBi」をリリースした。カーシェアの予約から解錠までを含む車両の利用をICカードやスマートフォンで完結することができるサービスパッケージとなっている。

ゼンリングループの中から直接モビリティサービスを手掛ける企業が誕生したこととなり、地図情報を主力にスマートモビリティ事業に力を入れるグループ全体においても、新たな価値を創造する重責を担うことになりそうだ。

■【まとめ】MaaSの基盤をなす地図情報が付加価値で大きく進化

地図情報は自動運転やMaaSにおいて絶対不可欠な要素だが、ゼンリンはこの強みに慢心することなく、さまざまな観点から付加価値を探求している印象だ。

MaaSにおいては、特に地域情報サイトとの連携が利用者の支持を集める重要なカギとなり得る。同一地域における移動サービスそのものはどのアプリも横一線になることが予想されるため、こうした付加価値が勝敗を分けることにつながるからだ。

ゼンリンがモビリティサービス事業で描く「地図」は未完で、まだまだ大きな可能性を秘めているようだ。

【参考】関連記事としては「MaaS(マース)の基礎知識と完成像を徹底解説&まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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