スマートモビリティチャレンジ、2021年度事業の選定結果は?

「地域新MaaS創出推進事業」では14地域を選定

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経済産業省と国土交通省が取り組む「スマートモビリティチャレンジ」の2021年度事業の選定エリア・事業者が決定した。

本年度は、「地域新MaaS創出推進事業」に14地域、「地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用推進事業」に3事業者がそれぞれ選定されており、先進的なMaaS実証などを進めていく。

この記事では、選定された各取り組みを1つずつ紹介していく。

記事の目次

■スマートモビリティチャレンジとは?

スマートモビリティチャレンジは、新たなモビリティサービスの実装を通じて移動課題の解決や地域活性化を目指す取り組みとして、経済産業省と国土交通省が2019年度から取り組んでいる事業で、2019年度は28地域、2020年度は52地域が対象地域に選定され、MaaS実装などに取り組んでいる。

2021年度は、「地域新MaaS創出推進事業」と「地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用推進事業」をそれぞれ進めていく。

地域新MaaS創出推進事業

「地域新MaaS創出推進事業」では、「データの活用・連携基盤の構築」「必要な人材の確保」「マッチング機能の強化」「取組の持続性の確保」といった課題を踏まえつつ、MaaSのさらなる高度化を目指す方針で、以下の5つのテーマのもと実証を行う。

①では、宮城県仙台市、愛知県春日井市、香川県三豊市、佐賀県基山町の4地域が選定され、貨客混載や福祉車両、シャトルバスなどを交えたモビリティサービスの効率化に取り組んでいく。

②では、北海道帯広市、三重県6町連携の2地域が選定され、旅客バスを活用した移動販売や移動診療などに取り組む。

③では、北海道室蘭市、大阪府大阪市、島根県美郷町、沖縄県北谷町の4地域が選定され、ダイナミックプライシングやダイナミックルーティングといった技術の導入などを図っていく。

④では、福島県会津若松市・茨城県日立市と兵庫県播磨科学公園都市の2地域が選定され、商業施設などとの連携に取り組む。

⑤では、埼玉県入間市と福井県永平寺町の2地域が選定され、交通データや走行データなどを活用した取り組みを推進していく。

出典:経済産業省(タップorクリックで拡大できます)
地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用推進事業

一方、「地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用推進事業」では、日本ユニシス、MaaS Tech Japan、SEEDホールディングスの3事業者がそれぞれ選定された。

地域や業種をまたいだデータ利活用上の課題解決をはじめ、新たな付加価値の検証、事業性の検証、住民サービス利用者の社会受容性の検証を中心に実証に取り組む方針だ。

出典:経済産業省(タップorクリックで拡大できます)
■地域新MaaS創出推進事業:他の移動との重ね掛けによる効率化
宮城県仙台市:福祉送迎車両を共同化

仙台市では、MONET Technologiesなどが実施主体となり、福祉車両の非送迎時間を活用した移動支援の提供による事業性向上効果について検証を行う。

現在、各福祉事業者が個別に実施している送迎サービスに対し、一般社団法人の設立などによって共同送迎・一括化を図っていく。また、送迎車両を活用したオンデマンド相乗りによる移動支援を合わせて実施し、車両稼働率の向上や車両数削減効果、事業性の向上効果の検証を進める。

愛知県春日井市:自動運転オンデマンドサービスで貨客混載

春日井市では、KDDI総合研究所らで構成される高蔵寺スマートシティ推進検討会が実施主体となり、自動運転サービスを用いた貨客混載に取り組んでいく。

ニュータウンにおける高齢者の移動手段の確保という課題を自動運転サービスで解決するとともに、実質自動運転レベル2で運行するオンデマンド型自動運転サービスに貨客混載による配達機能を重ね合わせ、住民の利便性や満足度を調査するとともに事業採算性の検証を行う。

香川県三豊市:共同輸送に加え貨客混載も実施

三豊市では2020年度事業において福祉送迎車両の複数事業者による共同輸送などに取り組んでおり、2021年度は貨客混載を交えたサービスの重ね掛けを行う。実施主体にはダイハツ工業らが名を連ねている。

通所介護施設の共同送迎サービスに加え、非送迎時間を活用した利用者への食事配達を実施し、収益獲得や共同送迎サービスの事業性向上に向けた検証を行い、2022年度からの本格的な社会実装を目指す。

佐賀県基山町:同一車両をさまざまなモビリティサービスに活用

基山町では、福山コンサルタントらによるきやま地域創生モビリティ研究会が実施主体となり、通勤・通学送迎サービスなどの一体的運営に取り組んでいく。

時間帯別移動需要に応じて同一車両を高頻度シャトルバスやオンデマンド交通、通勤・通学シャトルバスに割り当てることで町内輸送の効率化を図り、サービス受容性や事業性を検証する。

また、モビリティ活用によって収益向上などの効果が期待できる事業・施設と貨客混載などの連携を行った際の相乗効果についても検証を進めていく。

出典:経済産業省(タップorクリックで拡大できます)
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■地域新MaaS創出推進事業:モビリティでのサービス提供
北海道帯広市:路線バスにマルシェ機能を付加

帯広市では、十勝バスなどによる十勝・帯広新モビリティ検討協議会(仮)が実施主体となり、マルシェ機能付きの車両による路線バスの収益多角化に取り組む。

交通結節点となる帯広駅から郊外の住宅地・大空団地までの区間を対象に、車両を改造してマルシェ機能を付与した路線バスの運行を行い、交通事業者の収益多角化・事業性改善効果、住民の受容性の検証を行っていく。

路線バス運行時は、乗客が通常通り運賃を支払う。マルシェを行う店舗事業者は、車両使用料やガソリン代といった基本利用料と商品販売の売り上げの一部を運行主体の十勝バスに支払う仕組みだ。

三重県6町:移動診療が可能なマルチパーパス車両導入

大台町、多気町、明和町、度会町、大紀町、紀北町の三重県内6町では、MRTなどが三重広域連携スーパーシティ推進協議会を構成し、広域医療サービスの展開に取り組む。

対象6町における医療費増大の抑制を目的に、移動診療が可能なマルチパーパス車両を共同利用し、高齢者宅の近傍でオンライン診療やオンライン受診勧奨を行い、医療アクセス不良の解消に向け検証を行っていく。

また、複数自治体による広域医療サービスの導入やマルチパーパス車両による公共交通と医療サービスの併用の事業性についても検討を進めていく。

出典:経済産業省(タップorクリックで拡大できます)
■地域新MaaS創出推進事業:需要側の変容を促す仕掛け
北海道室蘭市:AIオンデマンド交通などの適正サービス水準を探索

室蘭市では、公益財団法人室蘭テクノセンターが実施主体となり、需要・供給双方に働きかけたサービス水準の探索を行う。

公共交通サービスが限定的なエリアを対象に、需要側・供給側の双方にとって受容・持続可能なAIオンデマンド交通・相乗りタクシーを導入し、料金や乗降スポットなどの適正なサービス水準を探索していく。

事前、及び実証期間中のヒアリングなどを通じてサービス水準を設定・更新し、それを即座にサービスに組み込めるシステムの構築に取り組んでいく。

大阪府大阪市:集客回復と混雑回避の最適化に向け検討

大阪市では、ADKマーケティング・ソリューションズを代表に大阪商工会議所が実施主体となり、都市部における混雑を回避した集客手法の構築に取り組む。

アフターコロナを見据えた都市中心部の混雑回避を目指し、予約来店システムの導入やモーダルシフトのインセンティブ付与によって中心部への来訪ピークシフトを図り、混雑回避の効果検証を行う。

また、非混雑時間帯においては、情報提供・交通費の一部補助・マイクロモビリティのクーポン提供による外出促進で集客回復効果の検証も実施し、集客回復と混雑回避の最適化に向けた検討・検証を進めていく。

島根県美郷町:定額乗合タクシーの最適な価格水準を探索

美郷町では、バイタルリードらを実施主体に定額乗合タクシーの最適な価格水準を探索していく。

公共交通サービスが限定的な地域において、過去の実績などを元にした価格設定で定額乗合タクシーの実証運行を行い、その事業性を確認するとともに、地域に最適な価格水準の探索に取り組んでいく。

総所要時間の最小化ではなく輸送可能人数の最大化を追求することで、利便性の高い交通環境の実現を図っていく方針だ。

沖縄県北谷町:観光地交通と航空機の接続を最適化

北谷町では、ユーデックなどが実施主体となり、観光地における交通と航空機の接続最適化に取り組んでいく。

観光エリア内における自動走行カートの運行と合わせ、町内にシティエアターミナルを設置してWebチェックインと手荷物検査を可能にするとともに、直行シャトルバスを提供することで空港手続きやレンタカー返却における混雑緩和や町内消費を増加させるハブ&スポークの取り組みを進めていく。

これらの取り組みを通じ、航空機との接続最適化やパッケージプラン化した際の価格受容性、ニーズの検証についても実施していく。

出典:経済産業省(タップorクリックで拡大できます)
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■地域新MaaS創出推進事業:異業種との連携による収益活用・付加価値創出
福島県会津若松市・茨城県日立市:レシート情報活用し広告収入モデルを構築

会津若松市と日立市では、みちのりホールディングスなどが実施主体となり、購買情報を活用した広告収入モデルの構築を図っていく。

地域の交通事業者と地元事業者がMaaS基盤を介して連携を行い、観光収益や店舗における購買活動を活性化させることで、地域公共交通サービスの自立・維持と地元事業者の売上向上を目指す。

2021年度は、構築済みのMaaS基盤を活用し、地元商店におけるレシート情報を用いた詳細な売上算出に基づき、成功報酬型の広告収入モデルの実装・導入効果の検証を行っていく。

兵庫県播磨科学公園都市:商業施設をはじめオフィスや研究機関ともMaaS連携

播磨科学公園都市では、神姫バスが実施主体となり、多様な主体と連携した新たな移動サービスの実装に取り組む。

自家用車分担率が高い同地域において、都市内利便施設などに関する情報提供を実施するとともに、 MaaSプラットフォーム「西播磨MaaS」と次世代モビリティによるラストマイル交通を組み合わせた新しいモビリティサービスを商業施設・オフィス・研究機関と連携したビジネスモデルによって展開し、人流の変化とサービス事業性の検証を進めていく。

次世代モビリティとしては、超小型EVシェアリングや電動キックボードシェアリング、デマンド交通の導入などを予定している。

出典:経済産業省(タップorクリックで拡大できます)
■地域新MaaS創出推進事業:モビリティ関連データの取得、交通・都市政策との連携
埼玉県入間市:医療機関と連携し福祉政策を推進

入間市では、アイシンなどが実施主体となり、移動・健康データに基づく交通・福祉政策連携に取り組んでいく。

自治体・医療機関・交通業者の協業のもと、オンデマンド交通の活用で外出や運動へのモチベーションを高め、高齢者やリハビリ患者の外出を促進し、要介護・虚弱高齢者の増加を予防・抑制する社会システムの構築を目指す。

2021年度はオンデマンド交通サービスの試験導入などによる外出促進効果・地域住民の健康増進効果を検証するとともに、収集した移動・健康データをもとに交通政策・福祉政策の連携・一体運用に取り組む。

福井県永平寺町:自動運転やデマンドタクシーのデータ活用を模索

永平寺町では、ZENコネクトなどを実施主体に走行データの活用可能性について検証を進めていく。

将来的普及が見込まれるコネクテッドカーや自動運転と連携した町内の移動サービスの高度化を目指し、すでに導入済みの自動運転サービスやデマンドタクシーの知見も踏まえながら、車両走行データの活用や運行時リスクの洗い出しを行う。

これをもとに、自家用有償ドライバーのサービス品質担保や運行システム全体での安全性の向上などの効果を検証していく。

出典:経済産業省(タップorクリックで拡大できます)
■地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用推進事業
日本ユニシス:データ提供受容性などを検証

日本ユニシスは、利用者のデータ提供受容性と持続的ビジネスモデルについて検証を進めていく。

地域アプリなどで収集する移動データの他者提供可能性を調査する実証実験を行い、利用者のデータ提供受容性を検証するとともに地域における付加価値ユースケースシナリオを検討し、移動データの利活用に向けた課題と持続的なビジネスモデルの検証を行っていく。

MaaS Tech Japan:異業種連携ユースケースを具体化

MaaS Tech Japanは、MaaS高度化に向けた異業種連携ユースケースの確立を進めていく。

モビリティデータを活用した異業種連携ユースケースの整理・具体化とペーパープロトタイプ構築を行い、データ利活用による受容性や実用性について検証する。

また、データ連携基盤の導入やサービス構築に必要なアクションプランの検討も進めていく。

SEEDホールディングス:MaaSに外部データを掛け合わせ有効性を検証

SEEDホールディングスは、SNSデータを活用した利用者目線による地域の課題・サービス効果の見える化を図っていく。

地域の統計データや車両コネクテッドデータに目的地別の口コミデータを組み込んだ外部データ基盤を活用し、MaaS利用データを掛け合わせて分析を実施する。

利用者目線から地域の課題やMaaSの課題を可視化し、既存MaaSを改善する提案とその施策の有効性について検証を進めていく。

出典:経済産業省(タップorクリックで拡大できます)
■【まとめ】MaaS事業も新たなフェーズへ、日本版MaaSの進化に期待

MaaS構築に関する事業も3年目を迎え、さまざまな観点からサービスの高度化を本格的に図っていく新たなフェーズに達したようだ。

MaaSは各交通サービスを結び付けエリアにおける交通最適化を図っていくことが主目的だが、利用者の移動には目的を伴う点や地域課題の解決・地域活性化を図っていく観点などを取り込むことで、「移動」を軸にさまざまな業種へサービス連携が波及していく。

日本版MaaSのいっそうの進化に引き続き期待したい。

▼経済産業省「令和3年度スマートモビリティチャレンジおける先進実証を行う地域・事業者を選定しました」
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210824001/20210824001.html

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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