【ルポ】低速自動運転車はトゥクトゥクのような観光資源に!静岡県下田市の実証実験で感じたこと

記者が乗車、軽やかな左折などを体験



記者が乗ったカート型自動運転車両=撮影:自動運転ラボ

静岡県下田市で2019年12月9日〜19日まで、2018年に始動した「しずおか自動運転ShowCASEプロジェクト」の実証実験が令和元年における第2弾として実施されている。

ゴルフカート型の小型自動運転車両を使用して下田駅からの約ワンマイルを低速走行する実証実験で、市民も多数参加する静岡注目のイベントとしても大いに関心を集めている。


伊豆半島の南端に近く、伊豆急行線の最終地である下田駅。駅や駅周辺は、伊豆の観光スポットとしても名高い。温泉や海などをはじめ、駅を少し離れれば「なまこ壁」に囲まれた少しノスタルジックな街並みも魅力だ。

自動運転バスが将来この地域で活躍するようになれば、地元を訪れる訪日観光客の足としても活躍することになり、こうした観光資源が最大限活かせる。こうした可能性を秘めた実証実験だ。

今回記者は実証実験の試乗予約を事前に行い、このカート型の自動運転車両に実際に乗車してみた。その内容をルポにまとめた。

【参考】今回の実証実験は伊豆急下田駅から出発し、平日午前は約1.2キロある下田メディカルセンターまで、平日午後と日曜日は道の駅「開国下田みなと」までの約1.7キロを走行しており、記者は下田駅から道の駅までの実証実験を予約した。実証実験の概要は「静岡県、「令和第2弾」の自動運転実証を下田市で実施へ」も参照。


■自動運転カートにいよいよ乗車!

午後1時ごろに実証実験の場所に着いた。伊豆急下田駅は伊豆半島の東海岸沿いを走る国道を少し右手に入ったところにあり、平日の昼間だったためか人はまばらだったが、駅前には訪日観光客の団体や駅から降りてくる近隣住民などの姿を見掛けた。

実証実験の場所を探してみると、歩道上に「自動運転実証実験乗降場所」というステッカーが貼ってあり、近くにいたプロジェクトの担当者と話しながら、自動運転車両を待った。予約していた乗車時間は午後1時半だ。

撮影:自動運転ラボ

しばらくすると向かってきた大型バスのうしろに、ゴルフカート型の車両が見えた。これが今回乗車する自動運転車のようだ。前列に2人、後列に2人が座れるようになっており、前列にはプロジェクトの担当者らしい人2人、後列には乗客らしき人が1人すわっていた。

■パソコンの画面でセンシングデータを常時チェック
実証走行で利用されたカート型自動運転車両。上部にはセンサーも=撮影:自動運転ラボ

さぁいよいよ乗車だ。前列の左側に乗っていた人は手動運転時にハンドルをにぎる運転手、右側に座っていた人は技術担当のシステムエンジニアで、エンジニアの人はラップトップ型パソコンに映し出された車両周辺のセンシングデータに目をやっていた。


乗車前に話を聞くと、車両はヤマハ製のゴルフカートを名古屋大学が自動運転仕様に改造したもので、それをさらにカスタムして今回の実証実験で使っているという。その後記者は後列に座り、シートベルトを着用するよう促され、出発した。

駐停車のときは安全確保のため手動運転をすることになっているとのことで、運転手がバックをし、下田駅入り口の信号に向かって進んでいった。

その後しばらくするとエンジニアの方からパソコンの画面を指差しながら「このパソコンにルートなどの情報が入っていて、この白い線になっている場所に差し掛かったら自動運転に切り替えます」と説明があった。そして、国道を横切る信号を渡ったあと、「ここから自動運転に切り替えます」と声をかけられ、車両が一旦停止した。

■軽やかに左折、トラックの手前ではいったん停止

手動から自動運転への切り替えは一度停車してからになるようで、信号でもないところで止まったのも不思議な感じがしたが、後続車はこの実証実験の支援車両とのことで、ほかのクルマとの衝突の危険はないようだ。

システムが自動運転に切り替わると、運転手がハンドルに触っていない状態で車両がひとりでに動き、細い小道へ軽やかな左折で入っていった。

その通りは中央車線がなく、車の通りも少ない道だった。その後、小型トラックが路肩に停まってみるのが見え、「あの車が止まっているので一旦止まると思います」とエンジニアの人から声をかけられ、実際そのトラックの近くに行くとカートはその想定通り、危なげなく停車した。

エンジニアの方によれば、そのトラックを避けて通ることもシステム上は可能だが、今回の実証実験では安全を最優先に考え、障害物があった場合には止まるよう設定にしているという。そしてトラックの後ろで止まった後、いったん手動に切り替え車を避け、また自動運転に切り替えてカートは自律走行を始めた。

うしろから見たカート型自動運転車両=撮影:自動運転ラボ
■道行く人が不思議そうに…徐々に広がる認知

その後無事に道の駅に到着し、記者が乗った実証走行は成功した。

10分ほどカート型の自動運転車に実際に乗ってみた感想だが、時速は13キロ程度(ちなみに最高時速は15キロ)で走行していたので、動いたり止まったりという動作でもあまり衝撃などは感じなかった。カート自体も高級仕様のためか、乗り心地は悪くなかった。

走行している中で「自動運転」と説明を受けたのはおそらくトータルで700メートルほどで、交差点や直線道路での自動運転を体験することができた。走行中、道ゆく人が横目で車両をちらりと不思議そうにみていたのも印象的だった。こうして徐々に自動運転車に対する認知が広がっていくのだろう、と感じた。

■【まとめ】自動運転カート自体は観光資源にもなる、という発見も

今回の実証車両はいわゆる「車」とは少し違ったし、走行スピードも速くなかったが、歩くには遠いけどタクシーに乗るほどでもない、という距離には最適だと感じた。のんびりとしたスピードで走るので、観光客や子連れの家族などは風景を楽しみながら乗車してもらえるように思う。

乗った後に何かに似ていると思っていたら、ふと浅草の人力車やアジアのトゥクトゥクを思い出した。こうした移動手段は観光資源でもある。「あ、そうか!」とここで思った。自動運転カートは移動自体だけではなく、観光資源にもなるのだとも思った。

実証実験は12月19日までに実施され、地域住民や観光客が計300人程度が試乗する予定だ。


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