MaaS実現への8つの論点、検討会の議論を徹底考察

運営コストやユーザビリティ向上、DX人材育成…





MaaS(Mobility as a Service)の開発や実証が全国各地で進められる中、基盤となるデータについて連携する範囲や形式などに関する方向性をまとめることを目的とした「MaaS関連データ検討会」も並行して開催を重ね、議論を進めている。







2019年9月に第1回、10月に第2回が開催され、これまでにMaaSの実施・運営体制やデータ連携、データ生成・デジタル化などについて意見が交わされた。

急ピッチで実証が進むMaaSだが、その実現に向け何が課題となり、どのような方法で解決していくのか。同検討会におけるこれまでの討議(発言)をもとに、考慮すべき点を掘り起こしてみよう。

■関係各団体のメリットの見極めが重要

「MaaSの運営にはコスト構造が重要である。特に、データ連携に当たっては、データ提供のメリットが必要」

MaaSの構築には当然コストが必要となる。大まかに分類すると、MaaSにはプラットフォーム運営者とデータ提供者、交通事業者が関わることになるが、それぞれがどのように採算をとるかによってビジネスとしての継続性が問われることになる。

移動サービスにおけるプラットフォームサービスは、ライドシェアやタクシー配車などが隆盛を極めているが、米配車サービス大手のUberのように投資がかさんで赤字経営が続いているケースも珍しくない。

また、時刻表や運賃などMaaSのベースとなる情報は、その性質から無料提供されているものが多く、こうしたデータが引き続きオープンデータとして取り扱われるのか、また各種データをMaaS用に加工し取りまとめるデータ提供者の収益をどのように図るのか、各事業者に支払われる手数料を除いた運賃がどの程度交通事業者の手に残るのかなど、ウィンウィンの関係を構築すべくさまざまな観点からビジネス性を確かめなければならない。

都市と地方においても、その運用形態が異なる可能性もありそうだ。都市ほど高い収益性が見込めない地方では、自治体が直接、あるいは第三セクターや協議会方式などでMaaSを運用する可能性もある。

従来の交通行政同様、赤字運営を余儀なくされるケースも出てきそうだが、交通利便性を高めつつ少しでも赤字を圧縮していく仕組みは非常に重要となる。

継続性を担保するため、関係各団体のメリットをしっかりと見極めることを忘れてはならない。

■共同規制でルール作りを

「EU等で議論されている共同規制(Co-Regulation)についても参考にしてはどうか。共同規制は、世の中全体が規制緩和に流れていく中で、国等による強制法規と業界の自主規制を組み合わせて規制をつくるものであり、これはMaaSにも参考になるのではないか」

共同規制は、業界団体らによる自主規制の持つ柔軟性などの利点と、政府による規制が持つ確実性などの利点を組み合わせ、イノベーション親和的な柔軟かつ確実なルール枠組みを作り出す手法で、市場環境や問題状況の推移に合わせ、ルール内容や政府関与度合いを変えていきやすい。

さまざまなデータが多種多様なプラットフォーム上で扱われるMaaSでは、オープンに扱われるべきデータや特定の条件のもと一定の制限をかけて扱われるべきデータなどその扱いに関するルールや、データを各プラットフォームで取り扱う上でのデータ形式やプラットフォーム形式、API仕様の標準化などが求められる。

一定のルール・取り決めがなければ、本来クローズドなデータの流出やMaaS外への転用、同一のデータをプラットフォームごとに加工する手間など、さまざまな課題が表面化し、MaaSの実現の足かせとなる。また、バスやタクシーなど運賃に規制がかけられているものについても、MaaSによって他の移動手段と料金が統合されるケースや割引キャンペーン時の取り扱いなど、一定の枠組みを設ける必要があるものと思われる。

このようなルール作りを進める際、すべてにおいて国による規制をかければ、強制力によってルール順守が徹底される反面、改正には大きな手間と時間を要するため必要に応じて内容を変えていく柔軟な運用がしにくくなる。

一方、多くの業界・業種参入のもと新しく構築していくMaaSは、今後しばらくは進化・発展し続けるものと思われる。進化に伴いルールの変更を要する場面も想定さるため、国が定めた大きな枠組みのもと、関係団体らが協調してルールを策定し、運用していくことが適していると思われる。

■交通関連データの収集から分析、加工をどのように行うか

「地域交通を見直す検討にはデータが必要であり、そのデータをどう集め、どう使える形に整備し、ステークホルダーが使えるようにするかが重要」

MaaSに直接用いられる時刻表などのデータをどのように収集・加工し、利用可能なものにしていくかという根本的な工程とともに、各移動サービスの乗客数や過密時間帯など、MaaS構築に間接的に必要となるさまざまな関連データを検討段階で持ち寄り、地域の交通全体としてその在り方を考えていく必要がある。

単純に各移動サービスを統合することで一定程度利便性は増すが、多くの地域が抱える交通課題の解決には、全体としての思考が当然必要となるのだ。

交通に関するさまざまなデータを収集・分析・加工し、各ステークホルダー(利害関係者)が有効活用できる仕組みの構築は重要だ。

■中小規模の交通事業者自らデータを取り扱える体制を

「データ提供者のデータ生成・オープンAPIを推進するためには、特に中小事業者を対象に、データ生成等を検討できるDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の採用・育成や、そのための資金的な補助等についても検討が必要」

同様の意見が複数出されていた。MaaS関連データのデータ生成には、外部のデータ作成事業者が作成する場合と、交通事業者らデータ提供者が自らデータを作成する場合が考えられるが、細かな時刻表の更新やバス停の変更など、交通事業者自らが実施したほうがより柔軟で効率的な運用を行うことができるケースもある。

こうした際に備え交通事業者自らがデータを取り扱えるようデジタル化を促進していく必要があるが、交通事業者の中には規模の小さい中小企業なども多く、人材が不足しているケースも多いものと思われる。

こうした事業者がITを有効活用できる人材の採用や育成を促進しやすいよう、政府からの支援策などもあわせて検討していく必要があるとする意見が出されている。

■スマートフォン決済以外の手段も検討を

「MaaSの決済手段に関して、QRコード等の様々な手段が台頭する中、ユーザー視点では、既存のICカード等との住み分けや共存等について議論が必要ではないか」

キャッシュレス決済が前提となるMaaSでは、近年「〇〇ペイ」のようなQRコード決済が台頭するなどスマートフォンを活用した決済が主導権を握ることになりそうだが、既存のICカード利用者やスマートフォンを持っていない層への対応も重要となる。

特に高齢者層が多い地方においては、スマートフォン前提のシステムでは利用したくてもできない住民が相次ぐことが想定されるため、ICカードをはじめ回数券のようなアナログな決済手段も含めた対応が求められることになりそうだ。

■プラットフォームを限定せずさまざまなパターンを想定

「MaaSを地方の状況に合わせることも必要である一方で、プラットフォーマーにもいくつかのパターンがあるため、一つのパターンに限定するのではなく、様々なパターンを念頭に置くことが必要である」

データの取り扱いを容易にするためAPIやプラットフォームなど一定の標準化が求められる一方、MaaSには都市型や地方型、観光型などさまざまなパターンがあり、プラットフォームの在り方も同様にさまざまなパターンがある。

将来的には不動産MaaSや医療MaaSなど異業種と連携したMaaSも派生的に誕生していくものと思われ、これらを想定したうえで検討を進めていく必要があるものと思われる。

■プラットフォーム間連携でユーザビリティ向上を

「ユーザーの利便性を踏まえると、MaaSを利用するために様々なアプリケーションやプラットフォームを経由するのは煩雑になる。よりサービスのユーザビリティを向上するためには、プラットフォーム間の連携も重要である」

各地で事業体連合によるMaaSが誕生し、それぞれが独自のプラットフォーム(アプリ)を構築し成長を遂げていくことが想定されるが、利用者目線で考えると、複数のMaaSを利用する際、それぞれのアプリをダウンロードして利用する必要が生じる。タクシーの配車アプリなども同様だが、多くなればなるほど逆に不便なものに感じるケースもあるだろう。

プラットフォーム間で緊密に連携することで複数のMaaSを利用可能なアプリの開発や、別々のアプリとしても、その構成が同一で利用方法も等しく、ストレスなく使用できる環境の構築など、ユーザビリティを意識した開発体制も求められそうだ。

■付加サービスなどの取り扱いにはさまざまな論点がある

「データ連携に関して、交通分野だけ連携する場合と、交通以外を含めて連携する場合では論点が異なるのではないか」

基本的なMaaSを構成する交通事業者のみならず、飲食や観光をはじめ、不動産や医療などさまざまな異業種がMaaSの中に組み込まれ、さまざまなサービスを展開していくことが想定されている。

各種データを整理する上で、こうした付加価値的な部分については、開発段階から一体的に考慮すべきか、あるいは分類して考えていくほうが汎用性が高まるのかなど、その取扱いについてさまざまな論点がありそうだ。

■【まとめ】海外事例も参考にガイドライン早期策定へ

同検討会では、早期のガイドライン策定を視野に、本年度中に「データ」と「MaaS関連データ」の定義や静的・動的データ、予約・決済データのうち提供するデータと提供者の範囲、協調的データ・競争的データの考え方、コスト負担の考え方、セキュリティ、APIの標準形式、プラットフォームにおいて連携するデータや機能の考え方などについて議論していく予定だ。

データやプラットフォーム連携の在り方や標準化などは近々の課題であり、最も重要な点でもあるため、なるべく早い段階で一定の指針を示す必要がある。

フィンランドのMaaS Global社が展開する「Whim」の日本進出など、海外勢の動向も気になるところだ。こうした先行事例を参考に、国際的なデータ連携を考慮しながらガイドラインの早期策定と開発体制のいっそうの強化が求められそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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