注目度が急上昇!「MaaS×不動産」最新のビジネス事例まとめ

マンション向けMaaSやリゾート向けMaaSも

B!

全国各地で導入に向けた取り組みが進められているMaaS(Mobility as a Service)。異業種参入も盛んで、その急先鋒の1つが不動産だ。移動サービスを完備することで、特定の不動産の価値向上や持続可能な地域づくりを図っているのだ。

今回は、MaaS×不動産の取り組み事例をまとめてみた。

■日鉄興和不動産:モネ・テクノロジーズ開発アプリでマンション向けMaaS実証

日鉄興和不動産は2020年2月、東京都内で自社開発した分譲マンション向けのMaaS「FRECRU(フリクル)」の実証実験を開始した。マンション向けMaaSの利用ニーズや行き先、最適オペレーションなどの検証を進めていく方針だ。

同社は2019年6月、MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)のMaaS事業向け企業間連携組織「MONETコンソーシアム」に加盟。MaaS領域の研究に本格着手し、マンション立地や交通インフラ、マンション専用シャトルバスの在り方などを検討してきた。

実証では、モネ・テクノロジーズの配車プラットフォームと乗車予約ができるスマホアプリを利用し、専用マイクロバスをオンデマンド方式で運行する。乗降ポイントは、駅や病院、公園など当初11カ所を設定し、要望を踏まえて見直しを図っていく。

マンション住民は、利用10分前までにスマホアプリで予約し、予約確定後、予約時間に到着したバスドライバーに名前を伝えて乗車する。複数の配車リクエストがあった場合は、自動設定される最適ルートで目的地に向かう。利用料は乗車1回につき300円で、支払いには事前購入制のチケットかPayPay(ペイペイ)決済を利用する。実験期間は6カ月から1年程度を予定している。

同社はこの実証実験を通じ、マンション向けMaaSの利用ニーズや行き先、最適オペレーション、MaaS導入によるマンション向けモビリティの採算性向上について検証する。

また、周辺施設との連携や車内広告配信、運行休止日の車体を活用したバスツアー企画など、さらなる付加価値向上策を検討し、結果を踏まえ他の新築マンションとの連携や当社物件の集中するエリアでの複数物件へのサービス提供など、サービスエリアの拡大も検討していく方針としている。

【参考】日鉄興和不動産の取り組みについては「「マンション向けMaaS」、実験的に始動!日鉄興和不動産が発表」も参照。

■三井不動産:MaaS Globalと提携 柏の葉キャンパスエリアで2020年中にサービス実証へ

三井不動産は2019年4月、MaaSの生みの親とされるフィンランドのMaaS Globalに出資し、MaaS実用化に向けた協業に関する契約を締結したと発表した。スマートシティ化などで深く関与する千葉県柏市の柏の葉キャンパスで2020年中にも実用実証を開始する予定だ。

同エリアでは、三井不動産や東京大学生産技術研究所次世代モビリティ研究センター、BOLDLY、ヴァル研究所、先進モビリティらが「柏ITS推進協議会」を構成し、地域や市民と連携した実証フィールド次世代環境都市を目指しスマートシティ化に向けた取り組みを推進している。

国土交通省が選定するスマートシティモデル事業・先行モデルプロジェクトの一環として、先進モビリティらが2019年11月からつくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅から東京大学柏キャンパス間の一部区間で自動運転バスの営業運行実証実験を実施するなど、次世代モビリティの実装に向けた取り組みも盛んに行われているエリアだ。

MaaS展開においては、カーシェアやタクシー、バスなど地域の交通事業者とすでに提携しており、交通サービスの統合にとどまらずエリアの物件やまちの行事、観光スポットも含むシームレスな移動体験の提供を目指すとしている。

2020年中にフィンランド発のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」を導入し、柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)をはじめとしたさまざまなパートナーとともにプロジェクトを開始し、数カ月後には月額定額制(サブスクリプション)の実現も目指す方針だ。

【参考】三井不動産の取り組みについては「三井不動産、「Whim」を展開するMaaS Globalに出資」も参照。

■東急不動産:竹芝開発エリアやゴルフリゾートでMaaS実証

東京都港区の竹芝地区で「東京ポートシティ竹芝」を開発する東急不動産は2019年10月、東京都の「MaaSの社会実装モデル構築に向けた実証実験」への参加が決定したことを発表し、竹芝エリアで同年12月から翌年1月にかけてモビリティサービスの実装に向けた実証実験を行った。

実証には同社のほかモネ・テクノロジーズや鹿島建設、電通、東海汽船、JR東日本、竹芝エリアマネジメントの7社が参加し、竹芝エリアの従業員向けオンデマンドモビリティサービスや通勤者・観光客向けマルチモーダルサービスの検証などを行った。

また、同年11月からは、リゾート物件におけるMaaSの導入実証も行っている。東京都渋谷と、千葉県大網白里市にある一般住宅地とゴルフ場の複合開発地「季美の森」に所在する「季美の森ゴルフ倶楽部」を結ぶMaaS実証で、タクシー相乗りアプリ開発を手掛けるNearMeが開発するシステムを活用し、相乗り用シャトルを運行する。ルーティング最適化アルゴリズム活用のもと、ユーザーが指定する場所へシャトルが迎車・送迎を実施する。

【参考】東急不動産の取り組みについては「MONETや鹿島建設、MaaS実証を東京・竹芝エリアで実施 2019年12月下旬から」も参照。

■大東建託:賃貸大手が筑波大学教授と研究へ

大東建託は2020年6月、筑波大学システム情報系社会工学域近未来計画学研究室の谷口守教授と「モビリティ・イノベーションと居住環境向上に関する共同研究」を開始したと発表した。

全国で約116万戸の賃貸住宅を管理する大東建託グループは、将来的に入居者の自動運転車によるシェアサービスなどのニーズが高まると予測し、公共交通や都市計画の研究を進める同研究室とサービスの構築や事業化に必要な検討項目を洗い出し、サービス提供地域の選定や収益性、地域社会・自治体に与える影響など、具体的な事項について共同研究を進めていくとしている。

全国に点在する賃貸住宅を対象にシェアサービスをはじめとしたMaaSの研究を進めることで、地域特性に応じたMaaSの在り方などを俯瞰的に捉えることができそうだ。

【参考】大東建託の取り組みについては「大東建託、居住者向け自動運転車シェアサービスを将来展開か 筑波大と研究開始」も参照。

■ファイアープレイス:遊休キャンピングカーを有効活用

店舗運営事業や不動産価値向上事業などを手掛けるファイアープレイスは2019年9月、未使用時のマイキャンピングカーをレンタルする「トラベリングホテル」事業を開始すると発表した。

世界に1台だけのオリジナル移動空間となるキャンピングカーを製作し、未使用時はレンタルキャンピングカーとして動産活用する取り組みで、キャンピングカーのレンタルやオリジナル車両製作などを手掛ける「旅する車キャンピングカーどっとジェーピー」と、輸入自動車販売・修理などを手掛けるルーセントと協働で行う。

MaaS時代、自宅や会議室、宿泊施設といった従来の「不動産」は「動産」となり、いつでも旅をすることができるようになるというコンセプトが込められている。

同社によると、キャンピングカーは年間平均25日程度しか本来の目的に使用されていないという。趣味性が強く遊休状態が多い車両を、多目的かつ有効に活用する注目の取り組みだ。

【参考】ファイアープレイスの取り組みについては「「動産」こそMaaS時代の多目的空間 「トラベリングホテル」をファイアープレイスが展開」も参照。

■KabuK Style:新たな生活スタイルと移動サービスを組み合わせた実証に着手

定額制コリビングプラットフォーム「HafH(ハフ)」の運営などを手掛けるKabuK Style(カブクスタイル)は2020年7月、JR西日本グループと業務提携し、HafH会員限定で新幹線・特急をお得に利用できる実証実験を開始すると発表した。新たな生活スタイルと移動サービスを組み合わせた取り組みだ。

HafHは、月定額で提携ホテルやゲストハウスなどを好きなだけ利用できるサブスクリプションサービス。2020年8月時点で国内外合わせて約200の拠点を構えている。会員はその時々で拠点を移動し、好きな場所で生活することができる。言わば移動を伴う生活スタイルだ。

実証では、大阪~広島間や福岡~広島間、大阪~和歌山・白浜間において、月2往復の料金を割引された定額で利用することができる。期間は9月から3カ月間。

■ADDress:ANAやJR各社とお得な移動サービス提供

KabuK Style同様、月定額でホテルや一般住宅、別荘などを利用可能な多拠点居住サービスを手掛けるADDress(アドレス)も、ANAやJR東日本スタートアップ、JR西日本、IDOMをパートナーに会員限定の移動サービスを提供している。

ADDressは2020年6月時点で、日本各地で50拠点以上の家を管理するほか、ホテルや旅館、ゲストハウスなどの宿泊施設との連携も強化している。

移動サービスでは、ANAと2020年2月から月4便の国内特定路線チケットを月定額で提供している。また、JR東日本は、管内の特急券・乗車券を対象に購入金額に応じてえきねっとポイントを還元している。JR西日本は、山陽新幹線の指定区間をお得に利用できるプランを提供している。

IDOMは、同社のサブスクリプションサービス「NOREL」を活用し、拠点間移動などにおける車移動を可能にするスキーム開発に向け2020年3月まで共同で実証実験を行ったようだ。

【参考】ADDressの取り組みについては「「住まい」も「クルマも」自由に…NORELとADDressが新たな取り組み」も参照。

■akippa:マイルートに実装 駐車場もMaaSの一部に

基本に立ち返ると、駐車場も当然不動産だ。時間貸しや月極駐車場の予約アプリがすでに登場しているほか、同サービスを手掛けるakippaがトヨタ系MaaSアプリ「my route(マイルート)」に参加するなど、移動サービスとの連携も始まっている。

モビリティと密接な関係にある駐車場が、移動をサポートする立場でMaaSに組み込まれていくのも必然の流れであり、近い将来スタンダードな存在として大きく市民権を得ることになりそうだ。

■ニュータウンでもMaaSや自動運転の導入を模索

特定の不動産事業者ではなく、地域として取り組む例も増加傾向にあるようだ。郊外に建設された新旧ニュータウンはその典型例で、愛知県春日井市や兵庫県神戸市などで実証が行われている。

春日井市では、開設から50年を超えた大規模な住宅団地の住民が一斉に高齢期を迎え、タクシー事業者の減少など公共交通サービス衰退が懸念されている。

そこで、自動運転車両やバス・タクシーなどの既存公共交通機関、住民共助型システムによる移動支援など、新たなモビリティサービスと既存交通とのベストミックスを図る「高蔵寺ニューモビリティタウン」を目指し、ニュータウン版MaaSアプリの活用などを進めている。

一方、神戸市でも高齢化が進んだニュータウンを核に、地域内外での移動においてバスやタクシー、乗合デマンドバスなどを盛り込んだMaaSアプリの実証を行っている。

■外国でも先進事例が続々

米サンフランシスコの共同住宅Parkmercedでは、配車サービス事業者との提携のもと「Car-free Living(自動車を持たない生活)」といった取り組みが行われている。

プログラム参加者には、毎月交通費として100ドル分のポイントが付与され、配車サービス大手のUberやほぼ全ての公共交通機関で使用可能という。

スウェーデンのヨーテボリでも、住宅・不動産事業を手掛けるRiksbyggenがMaaS付き住宅を提供している。プラットフォーマーのE2CBが公共交通の電子チケットやカーシェア、サイクルシェアなどを統合したMaaSアプリを提供しているようだ。

■【まとめ】MaaSが不動産価値に変化をもたらす

日鉄興和不動産のように特定の不動産に移動サービスを付加する取り組みや、三井不動産のように一定の商業ゾーンなどの移動を円滑にする取り組みなどさまざまなパターンがあるようだ。

また、拠点となる不動産の在り方そのものが新規性に富んでいるキャンピングカーや多拠点居住サービスなどと移動サービスを結び付ける取り組みなども続々と登場しており、こうした新ビジネスが新たなMaaSを形作っていく可能性もありそうだ。

自動運転ベンチャーであるZMPが掲げているRoboTown(ロボタウン)構想への注目度も、今後高まっていきそうだ。自動走行ロボットや自律走行宅配ロボットによってエリア内の移動や宅配を便利にしようというアプリ提供ベースの取り組みとなっている。

移動の利便性向上は、立地の有利不利を緩和する役目を担う。MaaSの実装により駅近が一等地とされた時代が終わるわけではないが、郊外でも勝負できる時代が到来すると言える。

不動産価値に変化をもたらすMaaSの取り組みに引き続き注目だ。

【参考】関連記事としては「MaaS×運賃無料、この”ダブル革命”が世界を変える」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事