ドイツ議員の決断力!「完全自動運転」条件付きでGOサイン

改正道交法可決で自動運転レベル4解禁へ

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ドイツで2021年5月、自動運転レベル4(高度運転自動化)の社会実装を可能とする道路交通法の改正案が可決された。早ければ2022年までに施行される見込みで、世界に先駆けた法環境の整備に大きな注目が集まっている。

日本国内でもレベル4の実用化に向けた動きが進んでいるが、解禁に向けどのような議論が必要なのか。この記事ではドイツの改正法をもとに、レベル4解禁に向け必要となる論点について解説していく。

【参考】後ほど詳しく説明するが、自動運転レベル4とは、特定エリア内で完全無人の自動運転が可能な段階を指す。詳しくは「自動運転レベル4、ゼロから分かる基礎知識&進捗まとめ」も参照。

■ドイツの道交法改正の概要

ドイツ連邦政府は2021年2月、レベル4を可能とする道路交通法改正法案と自賠責保険法改正法案を閣議決定した。両法案は同年5月に連邦議会の下院、上院でそれぞれ可決された。

各種報道や資料によると、レベル4を可能とするサービス・運行形態として「自動運転シャトル」「自動運転ミニバス」「ハブ・トゥ・ハブ交通」「オフピーク時のニーズに応じたサービス」「ラストワンマイルにおける人の移動やモノの輸送」「自動バレーパーキング」を挙げている。いずれも州法に基づく当局からの許可が必要となる。

初期段階では自家用車におけるレベル4などあらゆる自動運転を許可せず、一定の枠組みのもと安全性を積み上げてから段階的に拡大していく方針のようだ。

対象となる自動運転車には、各々のODD(運行設計領域)内においてドライバーレスで運転タスクを実行することが可能で、道交法を順守できない状況に陥った際は自らリスクを最小化することができること――といった各種技術要件が求められる。

所有者は、車両識別番号や位置データ、自動運転機能の使用回数、代替運転操作の承認回数、外部から送信されるコマンドと情報といったデータの保存義務を負うほか、システムの定期的な保守や技術の監督業務の遂行などの義務が課される。このほかにも、開発事業者の義務や自動運転機能のリスク評価、認可に関する事項などが法案に盛り込まれている。

■運転の無人化対応が最大の焦点に

ドイツの改正法では、ドライバーレス、つまり運転手不在の運転を認めている点や、所有者や管理者、製造・メーカーなどそれぞれに一定の義務を課している点などが要点となる。

レベル3とレベル4の一番の違いは、ドライバーの有無だ。条件付きで自動運転を可能とするレベル3は、自動運転中もドライバーは必ず運転席に着座していなければならない。システムから手動運転の要請があった際、速やかに対応しなければならないからだ。また、突発的なもらい事故など有事の際もドライバーが対応する。

一方、レベル4はドライバーレスの運転を可能にすることが最大のメリットとなる。自動運転システムごとに設定されたODD内において、一切の手動操作を排した自動運転を行うことができるのだ。

日本における現行の道交法は、運転免許の取得・所持が義務付けられるなど、運転においてはドライバーの存在が前提となっている。2020年施行の改正でレベル3に対応し、自動運転を可能にする「自動運行装置」使用時も「運転」に含まれる旨規定されたが、「運転者は運転操作を引き継ぐことができる状態であること」が盛り込まれるなど、あくまでドライバーの存在が前提となっている。

【参考】関連記事としては「改正道路交通法が成立 自動運転レベル3解禁へ」も参照。

レベル4に向けた改正において、最大の焦点となるのがドライバーの存在を前提としない無人化への対応だろう。

無人化により、負傷者の救護義務などドライバーの存在が前提となっていた条項にどのように対応すべきか、一つずつ精査し、解決手段を導き出さなければならない。

事故時・緊急時の対応などを明確に規定する必要性

また、レベル4の自動運行装置にどこまでの機能を求めるかも問われる。ODD内で自動運転を行う機能は当然として、安全走行を継続できなくなった際に車両の安全を保持する「MRM(ミニマルリスクマヌーバ、Minimal Risk Maneuver)」機能や、事故時に遠隔からどのような対応が可能かなど、明確に規定する必要がありそうだ。

場合によっては、自動運転システムの判断能力においてトロッコ問題に代表される倫理面の対応が問われる可能性もある。

【参考】関連記事としては「自動運転にAI(人工知能)は必要?倫理観問う「トロッコ問題」って何?」も参照。

このほか、製造・メーカーや所有者・管理者らに求められる責務なども論点に挙げられる。自動運転システムの許認可制度や自動運転サービス実施者に対する許認可制度、社会実装に伴いそれぞれに課すべき義務、有事の際の責任関係なども精査しなければならないだろう。

不確定要素があまりに多いため、ドイツのようにレベル4の対象を絞る形で社会実装を進めていくのが良策のようだ。

法律で無人運転を認めつつ、許認可制度で一定の移動サービスや物流などへの導入を進め、技術や社会受容性の成熟を待って対象を拡大していく方法だ。

■日本国内における議論の動向
早ければ2022年度までに道交法を改正

国内では、警察庁のもと「自動運転の実現に向けた調査検討委員会」がレベル4実現に向けた課題の整理などを進めている。早ければ2022年度までに道路交通法の改正などを行い、早期実現を図る構えだ。

2020年度の委員会における検討では、最高速度制限や信号機など自動運転システムが自動的に対応できる定型的・一般的な交通ルールに対しては、基本的に運転者に求めるものと同様の対応を自動運転車にも求めることとしている。自動運転車の運行を支配し管理する者に対しては、不適格な自動運転システムを使用しない義務を負わせることで交通ルールの遵守を担保することも可能としている。

一方、緊急自動車の優先走行や交通事故など自動運転システムが自動的に対応することが期待できない交通ルールにおいては、技術開発の状況や交通環境が個別のケースによって異なることを踏まえ、柔軟なルール設定が必要とするほか、自動運転システムのみでの対応が不可能な場合は、運行主体と関係機関や地域との連携、関与者による対応などによってカバーすべきとしている。

【参考】関連記事としては「日本の警察は「自動運転」にどう向き合っている?」も参照。

「官民ITS構想・ロードマップ」における実現目標

なお、レベル4の実現目標については、「官民ITS構想・ロードマップ」で限定地域における無人移動サービスを2020年までに実現するほか、自家用車においては高速道路でのレベル4を2025年目途、物流サービスにおけるトラックの高速道路でのレベル4は2025年以降をそれぞれ目標に掲げている。

無人移動サービスは2020年度までに一応達成しているが、純粋な公道においてはまだ未達成の状況だ。

■【まとめ】国内レベル4の枠組み、2021年度中にも全貌が明らかに?

法律や制度整備におけるドライバーレス対応は、長らく続いてきた道路交通のルールを一変させることになるため、慎重な議論が必要となるようだ。とは言え、慎重になり過ぎても無駄に社会実装を遅らせるだけであることは言うまでもない。安全を最大限担保しつつ、どのような制度設計のもと実用実証を重ね、本格的な実用化に結び付けていくかが問われる。

ドイツの例を参考に、国内ではどのような枠組みでレベル4の実現を図っていくのか。2021年度中にその全貌が明らかになることを期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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