みちびき(QZSS)実用化で熱!自動運転の肝「誤差数cm」サービス最前線

携帯キャリアから老舗メーカー、ベンチャーも続々参戦

B!

自動運転を構成する要素技術の一つに数えられる位置特定技術。衛星や電子基準点などからの情報をもとに自車位置を正確に把握し、寸分たがわぬ走行を可能にする技術だ。

カーナビなどでおなじみの従来のGPSは、場所によっては誤差が数十メートルに及ぶこともある。気付けば一本隣の道路を走行していることもあり、誤差数メートルであれば許容範囲とされるイメージだ。

しかし、自動運転においては数メートルの誤差は命取りとなる。自車位置や車線などの位置情報において許容される誤差は数センチに収めなければならないのだ。衛星電波が届きにくいトンネルや山間、ビル街なども含め、高精度な測位技術が求められている。

現在、国産の準天頂衛星システム「みちびき(QZSS)」の実用化に伴いより高精度な測位が可能となったことを契機に、さまざまな手法を組み合わせることで誤差を数センチレベルに抑える研究開発が進められており、測位技術開発が熱を帯びているようだ。

今回は、誤差数センチに挑む国内企業をピックアップし、技術やサービスを紹介していこう。

■NTTドコモ:誤差2センチのGNSS位置補正情報配信基盤サービス提供

NTTドコモは2019年3月、GNSSを利用して誤差数センチの高い精度で位置を測ることができるシステム「GNSS位置補正情報配信基盤」の構築に向け技術検証を開始したと発表した。

検証を行う移動局の近くにドコモ独自固定局を設置し、技術検証用の位置補正情報配信サーバーを構築する。実際に移動局で得られる測位データを検証することで位置精度の品質やアンテナの電波干渉、位置補正情報配信サーバーの品質や運用性などを多角的に検証した。

検証の結果、ドコモが構築するドコモ独自固定局と位置補正情報配信サーバーで、目標としていた約±2センチ以内の誤差に収束する測位精度が実現できることを確認し、同年10月にGNSS位置補正情報配信基盤サービスの提供を開始している。

国土地理院により全国に設置された約1300局の電子基準点と、ドコモ独自固定局がGNSSから観測したデータを位置補正情報配信サーバーに集めて加工した位置補正情報を、携帯電話ネットワークを通じて高精度位置情報を必要とする移動局に配信することで誤差数センチの高精度測位を可能にしている。

2020年1月には、自動運転社会実装実証事業として愛知県日間賀島で住宅団地・郊外モデルの実証実験を行っており、高精度衛星測位に向けた独自電子基準点や路側インフラカメラを設置し、自動運転バスなどの位置や走行ルートの交通状況を高精度かつリアルタイムに把握する実験も行っている。

■ソフトバンク:全国3300カ所以上の独自基準点から高精度測位サービス提供

ソフトバンクは2019年6月、RTK測位によって誤差数センチで測位が可能なサービスの提供を同年11月末から法人向けに全国で開始すると発表した。携帯電話の基地局を活用し3300カ所以上に独自基準点を設置したことにより、全国でサービスを受けることを可能にしている。

みちびきなどのGNSSから受信した信号を利用してRTK測位を行うことで、誤差数センチの測位を可能にしており、ソフトバンクの独自基準点が受信した信号を基に測位コアシステムで補正情報を生成し、ソフトバンクのモバイルネットワークを通して農機や建機、自動運転車、ドローンなどに搭載されたGNSS受信機(移動局)へ補正情報を配信する。

安価に導入できる専用のGNSS受信機も独自開発し導入促進を図るほか、GNSS受信機がなくてもクラウド上でRTK測位を行えるサービスの開発も進めている。

サービスの提供は、イネーブラーとの共同出資会社ALESが行っている。

なお、サービスの提供開始に先駆けて、同年7月からヤンマーアグリや鹿島建設、BOLDLYと連携し、農機の自動運転やドローンの自動制御を用いた建設現場管理、バスなどの自動運転の共同実証を行っている。

■KDDI:ジェノバと提携し、高精度測位情報配信サービス提供へ

KDDIは2020年4月、GNSSによる高精度測位情報配信を手掛けるジェノバと誤差数センチのリアルタイム測位が可能な高精度測位情報配信サービスの提供に向けた業務提携契約を交わしたと発表した。

ジェノバは、GNSS測量・測位の補正情報配信に関する特許技術を保有しており、国土地理院が全国に設置している約1300点の電子基準点網を活用した仮想基準点方式によってリアルタイムにデータを収集・解析し、GNSS測位に適したネットワーク型の補正データを配信している。

一方、KDDIは、IoTや5Gの活用が期待される自動運転をはじめ、建機の遠隔操縦といった位置測位が重要となる領域の実証実験を実施し、位置情報を組み合わせた新たな価値の創出に取り組んでいるほか、全国に設置された電子基準点のリアルタイムデータの配信を支える通信網を国土地理院に提供している。

両社は、これらの技術基盤を活用することで誤差数センチのリアルタイム測位が可能な高精度測位情報配信サービスを実現し、農業や自動運転、防災・防犯、災害復旧、インフラ点検などIoT・5Gの活用が期待されるさまざまな新規領域で早期提供を目指すとしている。

■三菱電機:移動体向け高精度測位端末「AQLOC」製品化

みちびきの衛星バスシステムの設計・製造を手掛けた三菱電機は、2017年9月に世界初となる準天頂衛星からのCLAS信号を用いた自動運転の実証実験を開始するなど高精度測位分野の開発を積極的に進めている。

CLASは、内閣府が整備する準天頂衛星システムから日本全国に無償で配信される高精度測位値を得るための測位補強情報だ。実証実験では、CLAS信号と高精度3次元地図を活用するインフラ型走行が実用可能なことを確認し、ミリ波レーダーやカメラなどの周辺センシング技術を活用する自律型走行とあわせ、自動運転の実用化を目指すとしている。

補強情報を利用することでセンチ級の測位結果を提供する移動体向けの高精度測位端末として、衛星測位受信機「AQLOC」もすでに製品化しており、従来のGNSSからの測位情報に加えみちびきから配信されるセンチ級の高精度で安定した測位補強情報を受信することで、さまざまな分野へのアプリケーションの開発・応用をサポートすることができる。

移動中にトンネルや高架下のような測位衛星の測位信号が受信出来ない場所でも、受信機に搭載したジャイロと車速パルスによって自律測位を行うことができるという。

■グローバル測位サービス:2020年度を目途に事業化

高精度な位置情報を活用したさまざまなサービスの創出に向け、デンソーや日立造船、日本政策投資銀行、日本無線、日立オートモティブシステムズが2017年に設立したグローバル測位サービスは、高精度測位補正技術MADOCAを用いた技術実証を通じ、2020年度を目途にセンチ級のグローバル高精度測位補強サービスの事業化を目指している。

MADOCAは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発を進める精密衛星軌道・クロック推定技術によるソフトウェアで、実証では世界中に設置したGNSS基準局から測位衛星の観測データを収集し、衛星軌道と衛星時計の誤差を精密に計算するほか、QZSSの「L6E信号」を用いて地上のユーザーに補正情報を配信する。配信されたデータを用いて測位演算を行うことで世界中でセンチ級の測位が可能になるという。

すでに準天頂衛星のL6E信号から技術実証用補正情報の配信が行われており、誰でも利用することができる。また、MADOCAの商用配信サービスに先立ち、2020年1月22日からβ配信サービスを開始している。ユーザー登録を行うことで利用することが可能になる。

■日本無線:自動運転向けのGNSSチップ開発に着手

大手通信メーカーの日本無線は2017年1月、自動運転システム向けのセンチ級GNSSチップ「JG11」の開発に着手したと発表した。

JG11は、L6信号の補強データによる測位を行うことでセンチ級の高精度位置精度を可能にする。GPS L1C/A・L2C、QZSS L1C/A・L2C・L6、GLONASS G1C、BDS B1、Galileo E1などの衛星に対応し、海外の準天頂衛星サービスエリア外では、通信ネットワークを通じた外部補正データを利用したRTK測位でセンチ級の精度を可能にする。

また、トンネルや都市部でのGPS信号遮断環境でも位置を特定するため推測航法に対応するほか、将来の実用化が見込まれる自動運転システムへの組込に備え、車載品質基準も満たすという。

■イネーブラー:GNSS技術開発に特化 屋内や地下における高精度位置特定技術も開発中

位置情報や衛星測位技術開発などを手掛けるイネーブラーは、GNSSに特化した製品開発や製作、販売に力を入れている。

自動車分野においては、道路の縦・横の勾配を高精度に計測し、3次元で直感的・俯瞰的に可視化するシステムが大手自動車メーカーに採用されているほか、屋内GPSとして屋内外シームレスな位置情報と時刻情報の提供を実現する「iPNT」の開発にも成功している。

地下駐車場などGPSが利用できない場所における自動車の高精度自己位置推定の実証実験も進めており、GNS・IMES受信機や加速度センサー、ジャイロセンサー、レーザードップラー速度計といった複数のセンサーデータを独自のアルゴリズムで融合する実験を国内大手SIerと共同で実施した。

実験では、GPS測位ができない屋内駐車場で自動車を蛇行運転しながら周回し、スタート地点とゴール地点での誤差を計測した結果、1分の走行で誤差30センチ以内という結果を得たという。

トンネルや屋内駐車場などにおける自己位置特定技術は、カーナビはもちろん自動運転システムにおいても重要な技術となるため、今後の開発に注目したいところだ。

■ALES:誤差数センチの位置補正情報生成・配信サービス提供

ソフトバンクとイネーブラーが2018年7月に共同出資して設立したALESは、高精度な位置補正情報生成・配信サービスを2019年12月にスタートした。

ソフトバンクの独自基準点が受信した信号をもとに補正情報を生成し、農機や建機、自動運転車、ドローンなどに搭載されたGNSS受信機(移動局)へ補正情報を配信する。

測位コアシステムで生成/配信した補正情報と、GNSS受信機(移動局)が受信した信号を活用してRTK測位を行うことで、誤差数センチの高精度な測位がリアルタイムで可能になるという。

ソフトバンクの独自基準点は全国3300カ所以上に設置されており、利用者自らが基準点を設置する必要がなく、冗長性も担保されている。

■パナソニック:誤差10センチのRTK-GNSS みちびき対応カーナビも

カーナビなどでおなじみのパナソニックは、1周波RTK-GNSS方式の高精度測位システムを早くから実用化しており、独自の衛星測位技術により誤差10センチ程度の測位を可能にしている。1周波RTK-GNSS機能は膨大な演算を伴うため測位演算に時間を要するが、高性能CPUと豊富なメモリー上で結果を迅速に導き出すアルゴリズムを独自開発し、実用的なものにした。

カーナビ分野では、みちびき対応製品も続々と市場に送り出しており、GPSに加え日本のほぼ真上を通過するみちびきの電波受信に対応することでビル街や山間部など測位が難しいエリアでもより正確に自車位置を把握することを可能にしている。なお、サブメータ級測位補強サービスやセンチメータ級測位補強サービスなどには非対応としている。

同社によると、測位精度は測位方式に依存するため、みちびきの使用によって必ずしも誤差数センチで測位できるわけではないという。

みちびきはGPS補完信号と補強信号を発信しており、補完信号はGPS衛星を増やした場合と同等の効果を発揮するもので、測位時間の短縮効果をもたらすが測位精度は向上しない。

また、補強信号は測位補正データのことで、1周波受信機用のL1S(L1-SAIF)と2周波受信機用のL6(LEX)があり、L1Sに対応したアンテナと受信機を使うことで平均1メートル程度、L1・L2・L6の3種類の電波を受信できるアンテナと専用の受信機を使うことで平均6~12センチの精度で測位することができるという。

みちびきの登場によって安易に誤差数センチの測位が可能になるイメージが強いが、測位方式や新技術の重要性は依然変わらないようだ。

■スペースリンク:3周波マルチGNSS受信機を開発

バッテリー領域の革新を目指しエネルギーデバイスの研究開発を手掛けるベンチャーのスペースリンクは2018年11月、センチメートル級のリアルタイム測位を可能とする高性能測位受信機「3周波マルチGNSS受信機」を発表した。産業用ドローンや自動運転車両用途など、さまざまな分野へ活用していく方針だ。

米国のGPSや日本のQZS(準天頂衛星)、欧州のGalileoなどが出力する3つの異なる周波数帯の測位信号を捕捉して測位を行うことが可能で、世界中のほとんどの測位衛星をカバーできるため、都市部・山間部を問わず高精度な測位が可能という。

測位精度をセンチメートル単位まで抑えた超高精度測位も可能なほか、独自の信号処理・測位演算技術によって最大0.1秒に1回の測位も可能にしており、従来の測位受信機の約10倍のリアルタイム性を実現している。

ユースケースとして、高いリアルタイム性と安定性が要求されるドローンの自律飛行や航空管制利用、自動運転車両分野への活用を想定しているという。

■【まとめ】各社乱立の状況 主導権争い勃発か

NTT、KDDI、ソフトバンクといった携帯大手キャリアは、5Gなど移動通信システムを主体に自動運転分野で活躍する姿が目立ったが、移動通信と密接な関係にある位置情報技術を生かした取り組みも今後盛んになりそうだ。

また、日立や三菱、日本無線といった老舗をはじめ、ベンチャーも続々参戦している分野であり、各社の提携・協業なども進行する可能性がありそうだ。

今後、どのような形で自動運転システムに高精度測位技術が組み込まれていくのか。水面下で進む主導権争いが顔を出し、本格的な開発競争に発展する日も近そうだ。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



B!
関連記事