改正道路交通法、及び改正道路運送車両法が施行され、自動運転レベル3が事実上解禁された。実際にレベル3システム搭載車両を運転する機会はもう少し先になりそうだが、携帯電話の使用といった運転以外の行為(セカンダリアクティビティ/セカンドタスク)がドライバーにどこまで許容されるのかは気になるところだ。
携帯電話は?食事は?ゲームは?読書は?居眠りは?――と考え得る行為に際限はないが、では「居眠り」は自動運転がどれほどのレベルに達すれば可能になるのだろうか。
今回は居眠りに焦点を当て、ドライバーのセカンダリアクティビティの判断基準に迫っていこう。
記事の目次
■セカンダリアクティビティ:自動運転レベル3では?
自動運転レベル3で可能なことは?
道路交通法、及び道路運送車両法の改正により、自動運転を実現するシステムが「自動運行装置」と位置付けられ、自動運行装置の作動中は、この装置が作動しなくなった際にただちに手動運転に移れる状態であれば、道交法に定める携帯電話用装置などの利用を制限する条項を適用しないことが新たに規定された。
これにより、自動運転システム作動時は、使用条件を満たさなくなった際にただちにそのことを認知し手動運転に戻れる限りにおいて携帯電話やテレビなどの使用が可能になった。
【参考】関連記事としては「ついに幕開け!自動運転、解禁日は「4月1日」」も参照。
居眠りは許されるのか?
では、居眠りはどうか。自動運行装置を使用する運転者の義務に関する規定では、「自動運行装置を使用して自動車を運転する運転者が、当該自動運行装置に係る使用条件を満たさなくなった場合等において、直ちに、そのことを認知するとともに当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にあるなどのときは、当該運転者については、第七十一条第五号の五の規定は、適用しないこととする」とされており、自動運転システムからテイクオーバーリクエスト(運転操作の委譲要求)があった際に、ただちにその要求に応えることが求められている。
この際に居眠りをしていると、要求に対し迅速に応えることは非常に困難と言わざるを得ず、当然ながら禁止された行為となる。
レベル2以下とレベル3におけるドライバーのセカンダリアクティビティの違いは、上記の「道交法第七十一条第五号の五の規定を適用しない」ことに留まるため、ここに規定された携帯電話などの使用以外の行為、例えば読書や食事などについても、レベル2以下の運転時と変わらないものと解釈される。
【参考】関連記事としては「【解説】自動運転解禁への道路交通法と道路運送車両法の改正案の概要」も参照。
今後踏み込んだ議論が進められる可能性
ドライバーのセカンダリアクティビティをめぐっては、今後どのような行為が許容されるのか一歩踏み込んだ議論が進められる可能性が高い。
例えば、現行の道交法において読書は事実上禁止されると解されるため、レベル3においても禁止されると解釈される。しかし、スマートフォンを用いて電子書籍を読むことは事実上解禁されたことになる。
眠気を誘う行為の是非もあるが、電子書籍は可能である一方、紙媒体としての「本」は禁止されていると解釈できるのだ。
また、運転中の飲食についても現行は明確に禁止する条文はなく、安全運転義務違反などその場その場で判断が分かれている。線引きは難しいが、片手で食べることができるパンやおにぎりなど、ただちに運転に戻ることができるものもあるだろう。
いずれにしろ居眠りは厳禁となるだろうが、こうしたセカンダリアクティビティの許容範囲を明確にしていく動きが今後活発化しそうだ。
【参考】自動運転レベル3については「【最新版】自動運転レベル3の定義や導入状況は?日本・世界の現状まとめ」も参照。
■セカンダリアクティビティ:自動運転レベル4では?
自動運転レベル4においては、居眠りはどのような扱いになるだろうか。一定領域内においてドライバーを必要としない自動運転を実現するレベル4においては、一見居眠りは許容されるようなイメージを受けるがどうだろうか。
レベル4を考察する場合、システムをパターン化する必要がある。一つは、ODD(運行設計領域)内のみを走行する移動サービスを主体としたレベル4で、もう一つが自家用車におけるレベル4だ。
ODD内のみを走行する移動サービスを主体とした場合
レベル4の大半は移動サービスをターゲットに開発が進められているが、自家用レベル4も、レベル3の上位互換として捉えることで技術的には可能となる。
移動サービスにおけるレベル4の場合、基本的に車両はODD内のみを走行するように運用される。なぜならば、ドライバーを必要としない運用こそがレベル4移動サービスの最大のメリットだからだ。
この場合、居眠りをするドライバー自体が不在のため論じる必要はない。また、当面はセーフティドライバーらが乗車することになりそうだが、セーフティドライバーは自動運転システムを監視する目的で乗車しているため、常に車両内外の状況を把握しておく必要がある。つまり、居眠りは厳禁となる。
なお、乗客については、従来のバスやタクシー利用時と同様居眠りは可能だ。ただし、自動運転車が起こしてくれるとは限らないため注意が必要だ。
【参考】関連記事としては「自動運転における「ODD」って何?「運行設計領域」のことで、言い換えれば「能力値」」も参照。
自家用車におけるレベル4の場合
では、自家用車におけるレベル4ではどうだろうか。従来のハンドルやブレーキを備えているため手動運転も可能であり、また高速道路など特定のODDにおいて、完全な自動運転を実現するシステムだ。レベル3において、システムからドライバーへ運転の権限移譲要求が原則行われないケースを想定するとイメージしやすいだろう。
この場合、自動運転中のドライバーはシステムから運転交代を要求されることもなく、ただちに運転に戻ることができる状態をキープする必要がなくなる。
では居眠りは可能か?と言えば、現実的には厳しいものと思われる。仮に高速道路におけるインターチェンジ間を完全な自動運転で走行することができるレベル4を想定した場合、ドライバーは高速道路走行中においては運転の義務から解放される。
しかし、目的のインターチェンジに到達した際、つまりODDから外れる際にドライバーは確実に運転を引き継がなければならない。システムから運転引継ぎの警告が発されるが、熟睡していて気づかない可能性もあり、その場合は安全に車両を停止させるミニマム・リスク・マヌーバー(MRM)システムが作動して車両は路肩に停止し、それでも反応がなければドライバーの安全を考慮して消防などに自動通報される可能性がある。
【参考】関連記事としては「自動運転における「ミニマム・リスク・マヌーバー(MRM)」とは?」も参照。
また、ODD内における自動運転中も、もらい事故など不測の事態が発生する可能性があることから、ただちに運転動作に戻る必要はないものの、車両の管理者として最低限の監視を行う義務が発生するものと思われる。自動運転中であっても、自家用車を扱う上での運行責任は残るのである。
では、もう一つの自家用パターンとして、ODD内のみを走行する自家用レベル4についても考えてみよう。ODDが高速道路ではなく、市街地の一定区域をエリアとするケースだ。「そんな自家用車はいらない」と言われればそれまでだが、例えば自動運転カーシェアを想定した場合、運転権限が複雑化し、レベル4移動サービスとは異なる扱いとなるのだ。
移動サービスの運行責任は原則事業者にあるが、自動運転カーシェアの場合は、一定の領域内において運行ルートを決めるのはドライバーであり、各運転時の責任はドライバーにかかってくるものと思われる。
この場合は正直判断が難しいが、たとえ運転する必要がなくとも、レベル4の自家用車扱いであれば「運転免許」が必要となる可能性が高い。つまり、運転に対する一定の義務が発生することから、管理責任を全うするために居眠りは許されないものとなりそうだ。
【参考】自動運転レベル4については「自動運転レベル4の定義や導入状況を解説&まとめ 実現はいつから?|自動運転ラボ」も参照。
■自動運転レベル5では?
では、あらゆる場面において完全自動運転を可能とするレベル5ではどうだろうか。レベル5においてはODDの概念が原則として無くなるため、システムからドライバーにテイクオーバーリクエストされることはない。そもそも、自家用レベル5であってもハンドルやアクセルなどの制御装置は備わっていない可能性が高く、ドライバーという概念そのものもなくなる。
この領域に達すると、さすがに居眠りも許容されるものと思われる。ドライバーの概念がなくなるということは、あらゆる場面において乗員は運転の義務を免れることになる。従来の運転免許も必要なくなるため、子どものみが乗車することなども想定される。
もらい事故などの可能性もあるが、運行責任の面で何かを問われることはなく、通常の救護義務などを全うできれば良いものと思われる。
このように考えていくと、レベル5になってはじめて居眠りが許容されることになる。もちろん、居眠りは可能だが、目的に到着した際に速やかに目を覚まさないと場所によっては駐禁の切符を切られる可能性もあるだろう。また、危険が迫った際なども、鳴り響くアラートでしっかり目を覚まさないと自身に危険が及ぶ可能性があることは言うまでもないだろう。
【参考】関連記事としては「【最新版】自動運転レベル5とは?定義などの基礎知識まとめ」も参照。
■【まとめ】居眠りはレベル5待ちの見込み セカンダリアクティビティの議論に注目
自動運転における居眠りの可否を判断する最も有効な材料は、「運転免許」が必要かどうかに落ち着く可能性が高そうだ。実際にハンドルを握るか否かにとどまらず、運行責任を負う立場にあるかどうかも問われるからだ。
レベル5においては、基本的にすべての運行においてドライバーを必要としないシステムとなることから、運転免許保持の必要性がなくなるため、運行責任はシステム開発者側などにすべて移る可能性がある。自家用車扱いであっても、中身はパーソナルな移動サービスとなるのだ。
居眠りに関してはレベル5待ちになりそうだが、近々ではドライバーのセカンダリアクティビティに注目が集まりそうだ。レベル3の実用化を引き金に、各自動運転システムにおいてどのような行為がドライバーに許容されるか――といった議論が大きく進展するものと思われる。
この「セカンダリアクティビティ」の拡大は自動運転システムの高度化と比例するため、こうした観点にもしっかり注目していこう。
【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)