アイサンテクノロジーの自動運転戦略まとめ 測量技術をダイナミックマップに活かす

ティアフォーやKDDIと提携

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撮影:自動運転ラボ

高い測量技術を武器にさまざまなソフトウェア開発を手掛けるアイサンテクノロジー株式会社(本社:愛知県名古屋市/代表取締役社長:加藤淳)。近年では、自動運転の実現に欠かせない高精度3次元地図・ダイナミックマップの分野でひときわ存在感を強めている。

同社と自動運転との関わりはどのようなものなのか、その技術開発の一端に触れてみる。

■アイサンテクノロジーの企業概要
総合事務機器販売業で産声

1970年、総合事務機器販売業として名古屋市内で株式会社アイサンが産声を上げた。翌年に測量・調査士業向けシステム開発に着手し、1974年に測量計算プログラム「測量計算書」、1977年に測量システム「ABS」を発売するなど、測量分野で業績を伸ばしていった。

1985年にシステム開発部門を分離し、アイサンソフトウェアー株式会社を設立。1988年には、東海地区の販売部門を独立し、子会社として株式会社アイサン東海を、また1991年には、測量用ソフト開発主体の会社としてアイサンテクノロジー株式会社をそれぞれ設立した。

1992年、アイサン東海とアイサンテクノロジーを吸収合併し、称号を現在のアイサンテクノロジー株式会社に変更した(アイサンソフトウェアーは1995年に吸収合併)。

測量CADシステムをはじめとする数々のソフトウェアを製品化し、パソコンの普及やGPS測量など時代の変化に対応した高精度測量システムを開発・提供している。近年は、空中写真測量・レーザー計測に特化した無人航空機(UAV)や自動運転分野の開発にも注力しており、高精度位置情報解析技術を武器に高精度3次元地図の分野を中心に研究開発を推し進めている。

自動運転市場向けの地図データ整備などに注力

2015年から3カ年にわたる前中期経営計画の期間には、自動運転市場向けの高精度3次元地図データ整備や一般道における自動走行実証実験をはじめ、準天頂衛星を用いた位置情報サービスの研究を実施してきた。

また、2018年から3カ年にわたる新中期経営計画では、次世代アプリケーションを見据えた新プラットフォームの開発や3次元空間情報作成ソフトウェアの開発、準天頂衛星「みちびき」などマルチGNSSアプリケーションの開発・地殻変動補正の技術を活かしたサービスの提供などを進め、準天頂衛星の利用によって得られるリアルタイムな高精度位置情報を地図上で最適な位置情報に整合させる技術研究開発や事業化をはじめ、高精度3次元地図の開発と販売推進、自動走行関連システム機器の販売の強化、社会実用化を見据えた取り組みを進めることとしている。

■自動運転関連の取り組み
SIPにも精力的に参加、ダイナミックマップで強み

自動運転・安全支援システムの実現に向け必要不可欠な要素である、静的情報・準静的情報・準動的情報・動的情報を組み込んだデジタル地図「ダイナミックマップ」の開発にも力を入れている。

国が推進する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)にも精力的に参加しており、2014年度の「自動走行システム」で実施された「マルチGNSS調査」を皮切りに、2015年度には三菱電機株式会社、インクリメント・ピー株式会社、株式会社ゼンリン、株式会社トヨタマップマスター、株式会社パスコ、株式会社三菱総合研究所とともに7社でダイナミックマップ構築検討コンソーシアムを組み、「自動走行システムの実現に向けた諸課題とその解決の方向性に関する調査・検討におけるダイナミックマップ構築に向けた試作・評価に係る調査検討」などを受託している。

その後も、2016年度に「自動走行システムの実現に向けた衛星測位情報 活用に係る調査」、2017年度に「ダイナミックマップの試作・整備及びセンター機能や更新手法等の確立」及び「大規模実証実験の実施・管理」をそれぞれ受託しており、SIPにおけるダイナミックマップの研究開発に欠かせない存在となっているようだ。

また、2016年6月には、三菱総合研究所を除くコンソーシアム6社で、自動車メーカー9社とともに「ダイナミックマップ基盤企画株式会社(現ダイナミックマップ基盤株式会社)」を設立。全国の自動車専用道路に係るダイナミックマップの協調領域や高精度3次元地図データの生成・維持・提供をはじめ、高精度3次元地図データを用いた多用途向けビジネスの展開などを図っている。

このほか、国土交通省が実施する「中山間地域における人流・物流の確保のため道の駅などを拠点とした自動運転サービスの実証実験」にも積極的にかかわっており、事前に作製した規定ルートの高精度3次元地図を基に、LiDAR(ライダー)による周囲検知を行いながら走行する車両自律型技術を用いて、自動運転レベル2、レベル4による公道走行実験などを行っている。

【参考】ダイナミックマップについては「【最新版】ダイナミックマップとは? 自動運転とどう関係? 意味や機能は?」も参照。

自動運転レベル4実用化に向けて「マイリー」共同開発

ワンマイルモビリティの事業化に向け、2017年8月に名古屋市に本社を構える岡谷鋼機株式会社と株式会社ティアフォーとの3社で業務提携を交わしたことを発表。ティアフォーが開発する自動運転プラットフォーム「Autoware」と、アイサンテクノロジーの「高精度3次元地図」を組み合わせたワンマイルモビリティの実現と、それに伴う新たな技術開発や一般道における公道実証実験をスピーディに進め、愛知県による自動走行実証推進事業を受託するなど実証実験を通じて、新たなビジネスモデルを構築していくこととした。同年9月には、ティアフォーへの出資も発表している。

同年12月には、プロトタイプ初号機「Milee(マイリー)」が完成した。ハンドルやアクセル、ブレーキなどを必要としないラストワンマイル向けの自動運転レベル4(高度運転自動化)相当のEV(電気自動車)で、以後、さまざまな実証実験に用いられている。

また、アイサンテクノロジーやティアフォーらは、2017年12月に全国初となる公道における遠隔型自動運転システムの実証実験を愛知県の幸田町で行っている。

マイリーのほか、トヨタ車をベースにした自動運転車両などを用い、複数台の遠隔型自動運転車両を同時に走行させる実証実験や第5世代移動通信システム「5G」の実験無線局を活用した実証実験などを実施した。

【参考】ティアフォーについては「ティアフォーの自動運転戦略まとめ Autowareとは?」も参照。

モービルマッピングシステム(MMS):高精度3次元地図の作製や自動運転シミュレーションに活用

三菱電機が開発した車載型の移動式高精度3次元計測システム「モービルマッピングシステム」(MMS)において、3次元データを2次元平面図に変換するソフトウェアや走行画像データと点群データを高速補完処理して高精度オルソ画像を作成するソフトウェアなどを製品化している。

MMSは、車両に搭載したGPSやレーザースキャナーカメラなどにより、走行しながら建物や道路の形状、標識、ガードレール、路面文字などの道路周辺の3次元位置情報を高精度で効率的に取得することができるシステム。走行するだけで周辺の3次元形状情報を高速かつ誤差1~10センチ以内の高精度で取得することが可能だ。

トンネル調査や道路台帳図の作成、災害状況の調査など土木や測量、建設分野で活用できるほか、自動運転シミュレーションシステムへのデータ提供やシミュレート用3D地図の作成、自動走行や運転支援に向けたデータ構築などにも利用できる。

アイサンテクノロジーではこのMMS計測技術を用い、高精度3D‐GISマップデータ収集や車両運動モデルシミュレーション、安全運転支援に関わる研究、開発用地図の作成など多方面における利活用を実現している。

■アイサンテクノロジーの自動運転関連ニュース
KDDIと資本業務提携、通信システムや遠隔監視システムなど共同開発

自動走行の実現に必要な高精度3次元地図の構築と、高速通信網を生かした遠隔制御型自動運転の実用化に向けた開発促進を目的に、KDDI株式会社と資本業務提携を交わしたことを2018年8月に発表した。

具体的には、4G・5G通信モジュールやカメラ、センサーなどを搭載した自動運転可能な移動交通手段の開発やソフトウェアの開発、運行管理システムや遠隔監視システム、通信システムなどの自動運行システムの開発、準天頂衛星「みちびき」を活用した高精度位置情報の配信サービスなどに関するシステムの開発などを共同で進めていくこととしている。

なお、資本提携については、第三者割当によりアイサンテクノロジーの新株式28万株をKDDIに割り当て、約6億6000万円を調達している。

自動運転などテーマにインターン実施

2020年3月卒業見込の学生を対象としたインターンシップの場で、同社の自動運転に関わる技術などを説明するとともに、今後の自動運転をテーマに据えたワークショップなどを実施することを発表している。

自動運転の開発と言えば、車両を主体としたAI(人工知能)やセンサーの開発などに目を奪われがちだが、位置情報をはじめとしたデジタルインフラの開発も欠かせない技術だ。そこで、高精度3次元地図などを手掛ける同社の視点から、自動運転の発展に関わる課題や解決策などについて学生が考える機会を提供したようだ。

【参考】アイサンテクノロジーのインターンについては「アイサンテクノロジー、自動運転やダイナミックマップ学べるインターン受付中」も参照。

■ダイナミックマップの需要拡大で好機 ソフトウェア開発にも期待

高精度3次元地図・ダイナミックマップの作製は今後、高速道路をはじめとした自動車専用道路から一般道へ軸が移っていくため、需要はさらに拡大していくことが予想される。同社はこの需要拡大に対応するため、生産体制の自動化や成果品の高品質化などビジネスモデルや生産体制の再構築を進めていくとしており、自動運転関連事業が同社全体の事業に占める割合もますます増加するものと思われる。

また、高いソフトウェア開発能力を有することから、デジタルインフラと自動運転車両が協調するソフトウェアをはじめとした関連機器の分野での活躍も期待できる。

ティアフォーやKDDIをはじめとした協業体制の強化も相まって、自動運転分野における同社の存在感はますます強いものになりそうだ。

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