自動運転バスの接触事案、位置推定機器の再起動漏れが要因

2020年12月14日にカードレールに接触

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出典:産業技術総合研究所お知らせ

茨城県日立市内で実施中の中型自動運転バスによる実証実験で発生したガードレールへの接触事案について、実施主体の産業技術総合研究所(産総研)が要因や対策をまとめた調査結果を発表した。

2つの位置推定手法が切り替わるポイントにおいて、必要となる再起動が行われていなかったことを要因に挙げ、今後システム改善を図るとともにさまざまなリスクを洗い出し、必要な対策を行っていくとしている。

この記事では本事案の概要とともに、国内外の自動運転実証における事故や事案例をまとめて説明する。

▼中型自動運転バスによる実証実験(日立市)におけるガードレールとの接触事案の原因調査結果と対策について
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/announce/au20201225.html

■日立市における事案の概要と対策
ハンドルが急旋回しガードレースに接触

接触事案は2020年12月14日、ひたちBRT路線で自動運転バスの実証走行中、ハンドルが急旋回してバスの右前方部分がガードレールに接触したもの。時速約30キロで直進区間を自動走行中、ハンドルが急に切られ、運転手が速やかに介入し手動制御したものの間に合わなかった。一般乗客は乗車しておらず、運転手含め乗員3人にけがはなかった。

【参考】接触事案の概要については「自動運転バスがガードレールと接触 運行中にハンドルが急旋回」も参照。

位置推定機器の再起動忘れが原因

今回の実証走路では、GNSS(衛星測位システム)方式と、GNSSを受信しにくい地点で磁気マーカー方式を用いる2つの位置推定手法を使い分けており、接触事案が発生した地点はこれらの位置推定手法が切り替わる場所だった。

当日、車両開発事業者が走行前に自動運転システムを設定したが、その際GNSSの受信機と磁気マーカーの受信機の両機器を再起動する必要があるところ、1つの機器の再起動を行っておらず、この機器で車両の位置や方向に関する情報を取得できず情報が更新されていなかった。

その結果、事案発生地点で位置推定手法の切り替えが生じた際、更新される前の車両の位置や方向に関する情報がそのまま使用された。それに基づいて車両制御が行われたため、ハンドルが急旋回したという。

日立市での中型自動運転バスの実証走路・事案発生場所およびバス、ガードレールの接触箇所=出典:産業技術総合研究所お知らせ
両機器の再起動要求表示や操舵量の制限など改善

対策としては、今回の事案の直接的な原因となった2つの機器においては、1つの機器の再起動時にもう一方の機器の再起動の確認を要求する表示を出すようシステムを改善する。

また、走行する速度が速い場合や走路が直進である場合には、自動運転システムによるハンドル操舵量が大きなものにならないよう、走行速度や走路に応じた操舵量の指示や制御の制限も行う。

そのうえで、実証実験を行う際は本対策も含め必要な安全対策を実施するとともに、事業化に向け、自動運転システム全体について生じうるさまざまなリスクを洗い出し、必要な対策を行っていく。

なお、事案発生時から自動運転による実証実験の運行は停止しており、今後、上記の対策が適切に実施されているかなど十分な安全対策がとられていることを確認したうえで再開することとしている。

■国内でこれまでに発生した自動運転車の接触事案は?

今回の実証は、経済産業省・国土交通省の高度な自動走行・MaaS等の社会実装に向けた研究開発・実証事業「専用空間における自動走行などを活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」の一環で、産総研が幹事機関として受託している。

実証は、日立市(運行事業者:茨城交通/実証期間10月~3月予定)のほか、滋賀県大津市(同:京阪バス/実証終了)、兵庫県三田市(同:神姫バス/実証終了)、福岡県北九州市・苅田町(同:西日本鉄道/実証終了)、神奈川県横浜市(同:神奈川中央交通/12月~3月予定)でそれぞれ実施されている。

実証における中型自動運転バスは、先進モビリティが中型路線バスを改造したもので、常時運転手が監視し、すぐに手動制御を行うことができる自動運転レベル2で運行している。

同実証では、大津市での実証においても2020年8月30日に接触事案が発生している。自動運転で転回中、曲がり切れないと判断した運転手が手動介入したものの、判断ミスで歩道の柵にセンサーカーバーが接触した。

【参考】大津市での接触事案については「接触8秒前に手動介入、運転手の判断ミスが要因 自動運転バスの接触事案」も参照。

豊田市、大分県大分市、東京都内でも

国内実証関連ではこのほか、愛知県豊田市、大分県大分市、東京都内で発生した事案が報告されている。豊田市では2019年8月26日、市内を走行中の低速自動運転車が、後方を走行していた車両が追い抜きをかけてきた際に右旋回し、接触した。

大分市では2019年9月25日深夜、国道を走行中の自動運転バスが歩道の縁石に接触する事案が発生している。東京都内では、自動運転バスがバス停に停車するため車両を左端へ寄せていく際、路上駐車している乗用車の側面に接触した。いずれもけが人は出ていない。

【参考】豊田市での接触事案については「豊田市の自動運転事故のなぜ 事故検証委の報告内容を考察」も参照。大分市での接触事案については「群馬大の自動運転バス、縁石に接触 人為的ミスとの説明」も参照。東京都内での接触事案については「ソフトバンク子会社の自動運転バス、都内で物損事故  手動走行へ切り替え後に」も参照。

近年公道実証が各地で加速し、走行距離や期間が大幅に伸びているため、ちらほらと接触事案が発生している印象だ。

■海外における自動運転車による事故の事例

公道実証が盛んな米国では、米Uberの自動運転車が2018年3月に歩行者をはねる死亡事故を起こしているほか、アップルやウェイモなどの自動運転車も接触や追突事故などを起こしている。

ウェイモの発表によると、アリゾナ州でこれまでに走行した1000万キロ以上の自動運転走行における車両事故は、無人走行1件を含め18件発生しているほか、セーフティドライバーが未然に防止した事故も推定29件に上るという。

単純計算だが、56万キロに1回事故が発生していることになる。セーフティドライバーの案件も含めると約21万キロに1回だ。これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだが、手動運転と比較すれば、現時点で一定の完成度を誇っていると言えそうだ。

【参考】Uberの事故については「自動運転車の死亡事故、「人間」を訴追 AIに運転任せ動画視聴」も参照。

■【まとめ】インシデントを1つずつ分析し、安全性向上へ

今回の日立市の事案や大津市の事案などはヒューマンエラーに起因するもので、こうした案件を一つずつ解消していくことに実証の本質がある。99%安全なシステムを、99.9%、99.99%……と高めていくのだ。

自動運転による事故は、技術が高度化し実用化した後もゼロになることはない。機械・システムである以上、何らかのエラーが発生することは防ぎきれないものだ。だからこそ地道に安全対策を積み重ね、限りなく100%へ近づけていく努力が必要になる。その最たる例が実証なのだ。

今後も公道実証は加速し、比例して事故や事案が増加する可能性がある。ただし前述の通り、自動運転技術の開発はあくまで自動車の安全性の向上を目指すためのものだ。他社の事案も含め同じ状況とならないよう開発や検証を進めていくことが求められるが、利用者をはじめとした第三者にも中長期的な目線が必要とされる。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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