クルーズコントロールをはじめとした各機能の標準搭載化が進む自家用車市場。基本的な機能はもはや搭載されていて当り前といった感じで、差別化を図るためにはさらに高度な技術の実装が求められる時代となった。
わかりやすい例は、ハンズオフ機能やレベル3の搭載だ。特にハンズオフは、2030年代にかけADASの主役となり得る機能として注目が高まっている。
日本を代表する自動車メーカーのトヨタとホンダは、ADAS市場においてどのような展開を行っているのか。両社の技術を比較してみよう。
【参考】関連記事としては「トヨタの運転支援機能とテスラのAutopilot、どちらがいい?【自動運転レベル1〜2】」も参照。
記事の目次
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■トヨタのADASの概要
Toyota Safety Senseの概要
Toyota Safety Senseは、安全走行や運転負担軽減を図る各機能をセットにした予防安全パッケージだ。2014年に発表され、翌2015年から導入が始まった。2017年までに日本、北米、欧州のほぼすべての乗用車へ設定していく計画で、2023年7月時点でグローバル累計装着台数は4,050万台に及ぶ。
2017年に第2世代、2022年に第3世代をリリースするなど、継続的に機能強化を図っている。初代では3つに大別されていた機能も現在は10以上に増加した。
当初は、先行車や歩行者との衝突回避支援または被害軽減を図る「プリクラッシュセーフティ(PCS)」、車線逸脱防止に貢献する「レーンディパーチャーアラート(LDA)」、夜間の前方視界確保を支援する「オートマチックハイビーム(AHB)」が中心となっていた。
現在では、レーントレーシングアシスト、レーンディパーチャーアラート、レーダークルーズコントロール(全車速追従機能付)、オートマチックハイビーム、ロードサインアシスト、ドライバー異常時対応システム、プロアクティブドライビングアシスト、発進遅れ告知機能、フロントクロストラフィックアラート、アダプティブハイビームシステム、レーンチェンジアシスト、緊急時操舵支援――といった機能がパッケージ化されている。
レーントレーシングアシストとレーダークルーズコントロールは、高速道路・自動車専用道路で機能するよう設計されており、簡易的なレベル2走行を実現する。
また、最新のスマートアシスト機能として、レーンキープコントロールとアダプティブクルーズコントロール(全車速追従機能付ACC)が設定されたモデルも登場している(新型ライズなど)。
また、スバルと共同開発したGR86には、アイサイトコアテクノロジーの定速/全車速追従機能付クルーズコントロールが搭載されている。
逆に、スバル・ソルテラやスズキ・ランディのように、Toyota Safety Senseを搭載した他社の共同開発車やOEMカーも多数存在する。
レクサス車は、「Lexus Safety System +」がToyota Safety Senseに相当する。
Toyota Teammateの概要
Toyota Safety Senseの上位にあたる高度運転支援システム「Toyota Teammate/Lexus Teammate」も用意されている。トヨタ独自の自動運転の考え方「Mobility Teammate Concept」に基づく技術だ。
主な機能として、「Advanced Drive」「Advanced Park」「Advanced Park(渋滞時支援)」が用意されている。
なお、明確に区分けされているのかは不明だが、カタカナ表記も混在する。MIRAIはToyota Teammate/Advanced Drive表記だが、その他のトヨタ車は「アドバンスト パーク」「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」となっている。レクサス車は、「Advanced Drive」「Advanced Park」「Advanced Drive(渋滞時支援)」と英語表記となっている。
Advanced Driveは、MIRAIとレクサスLSに設定されている。高速道路や自動車専用道路の本線上で自動車の縦方向・横方向制御を強力に支援し、ハンズオフ運転を実現する。トヨタ・レクサスのADASにおいて、最上位に位置する機能だ。
時速5~125キロに対応しており、ナビゲーションで目的地を設定すると、ドライバー監視のもと交通状況に応じて車載システムが適切に認知・判断・操作を支援し、車線・車間維持や分岐、車線変更、追い越しなどを行いながら目的地までの運転を支援する。
ただ、2025年9月現在、LSとMIRAIの公式サイトでは「渋滞時支援」しか選べないようになっており、全車速対応ハンズオフが可能かどうかは不明な状況となっている。
Advanced Drive(渋滞時支援)、及びアドバンストドライブ(渋滞時支援)は、高速道路・自動車専用道路において時速0~40キロの渋滞時、レーダークルーズコントロールとレーントレーシングアシスト作動中にドライバーが前を向いているなど一定の条件を満たすとシステムを作動することができ、システムが認知、判断、操作を支援することでドライバーの運転負荷軽減を図る。渋滞時限定のハンズオフ機能だ。
停車後も、約3分以内に先行車が発進した場合はスイッチ操作することなく発進し、ハンズオフ走行を継続する。渋滞時は頻繁に停車と発車を繰り返すことが多いため、こうした場面で大いに役に立ちそうだ。
アドバンストドライブ(渋滞時支援)は、MIRAI、アルファード、ヴェルファイア、ヴォクシー、ノア、クラウン、クラウン(エステート・クロスオーバー、スポーツ)、ランドクルーザー250、センチュリーにオプション設定されている。
一方、Advanced Drive(渋滞時支援)はLX、GX、RX、RZ、LBX、LS、LMに設定されている。
【参考】関連記事については「トヨタ・レクサス、完成度が高すぎて「ほぼ自動運転じゃん!」と話題に」も参照。
高度駐車支援機能も
チームメイトのもう一つの機能「アドバンスト パーク」は、スイッチを押すだけで駐車時のステアリング、アクセル、ブレーキ、シフトの全操作を支援してくれる機能だ。並列駐車においては、バック駐車、前向き駐車、バック出庫、前向き出庫に対応している。
カメラやソナーによって、周囲を監視しながら駐車を支援し、障害物を検知した場合には警報を鳴らし、ブレーキ制御を行うことで接触回避を支援する。
リモート機能付きであれば、車外から専用スマートフォンアプリ「Remote Park」を操作することで、遠隔駐車、出庫も可能になる。並列・縦列駐車と出庫が可能で、出庫後にトランクに荷物を積みたいときや、広い場所で安全に乗り降りしたいときなどに重宝する。
レクサスのAdvanced Parkも同様で、パノラミックビューモニターのカメラやクリアランスソナーの超音波センサー、夜間の認識性能を確保する赤外線ライトなどで車両の全周囲を高精度で検知し、ステアリング・シフト・アクセル・ブレーキの各操作を制御する。
■ホンダのADASの概要
Honda SENSINGの概要
ホンダは2014年10月、新たな安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」を発表した。年内発売を予定していた新型レジェンドから順次適用するとしていたが、翌年のオデッセイが先行する形で実装が始まった。
フロントグリル内に設置したミリ波レーダーとフロントウインドウ内上部に設置した単眼カメラの2種類のセンサーで構成されたシステムで車両前方の状況を認識するシステムで、より精度の高い認識を可能にしたことで新たに6つの機能を追加したパッケージとなっている。
初期の段階で、衝突軽減ブレーキシステム、路外逸脱抑制機能、歩行者事故低減ステアリング、車線維持支援システム(LKAS)、渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール、標識認識機能、誤発進抑制機能、先行車発進お知らせ機能――の各機能をパッケージ化している。歩行者事故低減ステアリングは、世界初という。
現在は、トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)やブラインドスポットインフォメーション、誤発進抑制機能、後方誤発進抑制機能、近距離衝突軽減ブレーキ、パーキングセンサーシステム、Honda パーキングパイロットなどの機能も加わっている。
トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)は、高速道路渋滞などの低速走行時に車線の真ん中を安定して走行できるようにする機能だ。車線維持支援システムがONのときに作動でき、車速が時速65キロ以上になるとトラフィックジャムアシストから車線維持支援システムに切り替わる。車速が時速50キロ以下になるとトラフィックジャムアシストが復帰する。
渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロールと併用することで、幅広い車速に応じた支援を受けることができる。
Honda SENSING 360や360+も登場
ホンダセンシングの上位バージョンが「Honda SENSING 360(ホンダセンシングサンロクマル)」だ。全方位センシングでシステムの検知範囲を車両の周囲360度に拡大し、死角をカバーすることで安全性能を高めている。2022年に中国で販売されたCR-Vから搭載を開始している。
この全方位センシングにより、前方交差車両警報や車線変更時衝突抑制機能、車線変更支援機能といった新たな機能が加えられたほか、渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロールなどの機能も進化した。
このサンロクマルをさらに進化させた「Honda SENSING 360+(プラス)」も2023年11月に発表された。新たにドライバーモニタリングカメラを搭載し、高精度地図を採用することで高速道路や自動車専用道におけるハンズオフ運転を可能にしている。
サンロクマル+は2024年に中国市場でアコードから適用を開始しており、国内でも2025年にアコードe:HEVに設定するとしている。
ハンズオフの速度域に関する説明は見当たらないが、高速道路・自動車専用道路において渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロールと車線維持支援システムが作動しているとき、システムが自車の位置を特定するとともに道路情報を取得し、一定条件下においてハンズオフ機能を作動させることができるという。
【参考】関連記事については「ホンダの新ADAS「Honda SENSING 360+」の実力は?」も参照。
かつてはレベル3も実装
なお、ホンダは2021年に最上位版となる「Honda SENSING Elite(エリート)」を新型レジェンドに限定搭載していた。限定のため、現在は販売されていない。
エリートは、自動運転レベル3機能「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」を備えており、国内自動車メーカーの安全システムとしては最高峰に位置付けられる。
ハンズオフ機能付車線変更支援機能も備えており、高速道路で時速65キロ以上で走行中、移動先車線の前方後方に車両がいないときなどに作動できる。
【参考】関連記事については「ホンダの自動運転レベル3搭載車「新型LEGEND」を徹底解剖!」も参照。
Honda パーキングパイロットも登場
高度な駐車支援機能としては、アコードに「Honda パーキングパイロット」が設定されている。ステアリングやアクセル、ブレーキ、シフト操作を自動制御し、駐車や出庫時の運転をアシストする。
並列や縦列、斜め駐車にも対応している。
■トヨタとホンダのADASの比較
ハンズオフ戦略に相違あり
標準ADASとなるトヨタのToyota Safety SenseとホンダのHonda SENSINGに関しては、大きな差は見られない。
一方、上位バージョンとなるToyota TeammateとHonda SENSING 360+を比較した場合、見方によって評価は異なりそうだ。
ハンズオフ機能において、Toyota Teammateは幅広い車速に対応したAdvanced Driveが設定されていたはずだが、現在その姿を消している可能性がある。渋滞時限定のみが実装されているのであれば、Honda SENSING 360+に軍配が上がる。
ただ、Honda SENSING 360+は搭載が始まったばかりで、フラッグシップ的位置づけのアコードe:HEVのみの搭載にとどまる。一方、トヨタは渋滞時支援のハンズオフの他車種展開を早くに開始している。
ここ数年の流れで言えば、トヨタは質よりも量を求め、ホンダは質を追求しているような印象だ。
トヨタは、渋滞時限定ではないAdvanced Driveをどのように展開していく計画なのか。ホンダは、Honda SENSING 360+の展開をどのように拡大していくのか。両社が保有する技術に特段の差異はないものと思われるため、今後の方針次第でADASにおける優位性がどちらに傾いてもおかしくはなさそうだ。
搭載車種が少なく評判は……
SNSなどにおける両社のハンズオフ機能の評判については、比較が難しい。ホンダのハンズオフは一時期のレジェンドとアコードの最新モデルに限られ、事実上出回っていないためだ。一方のトヨタも、Advanced Drive車(MIRAI、LS)はほぼ出回っていない。
渋滞時限定に関しては普及モデルにも広がっており、「ランクル250アドバンストドライブ🚗³₃ 楽ちんすぎて草 長距離移動が多い我が家には最適 山海に行った時の車の性能と帰り道の楽さに変えて良かったとつくづく思った」「トヨタのアドバンストドライブ 高速道路に頻繁に乗る人で渋滞の多い地域に住んでる方はあった方が便利な装備」――など、高評価を得ているようだ。
■【まとめ】米中勢はハンズオフ搭載を推進
自動車メーカー各社がADAS市場で差別化を図るには、レベル2+のハンズオフ機能や駐車支援機能などが中心となる。米国や中国勢はハンズオフ搭載を推し進めている一方、日本や欧州勢はまだ限定的な印象が強い。
レベル4の自動運転同様、堅実かつ慎重になり過ぎると、気づいた時には大きな差を見せつけられることになりかねない。5年後、10年後の自家用車市場を見据え、どう動くべきか。世界を舞台にした駆け引きを意識しつつ、国内メーカーのさらなる一手に期待したい。
【参考】関連記事としては「トヨタの運転支援機能と日産ProPILOT、どちらがいい?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)