次の首相を決める自民党総裁に大きな注目が集まっている。自動運転ラボとしては、各候補の交通施策が気になるところだ。とりわけ、意見が分かれがちなライドシェアに対する見解はどのようなものとなっているのか。
ライドシェアは現在、タクシー会社しか実質的に運行ができない「限定解禁」の状況だが、現時点で立候補を表明済み、あるいは有力視されている候補者のいずれかが時期首相となれば、全面解禁はあるのか。「この人なら全面解禁をしそう」という視点で、自動運転ラボがその可能性をランキング化してみた。
【参考】関連記事としては「自民総裁選、自動運転「実用化が進みそう」ランキング!2位は河野氏、1位は?」も参照。
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■1位:石破茂氏(元防衛大臣)
ライドシェアに関する見解は見当たらず
鳥取県第1区選出の衆議院議員で、当選12回。農林水産大臣、防衛庁長官、防衛大臣、国務大臣、地方創生担当大臣、党幹事長などを歴任してきた。
石破氏は国務大臣を務めていたころ、委員会でライドシェアに関する質疑に応じたことはあったが、議員個人として特に言及した場面は残念ながら見当たらなかった。
政策集で交通関連に言及したものを見ていくと、「地域分散型・多様化社会の構築に必要な交通・物流ネットワーク整備」や「自動運転・ドローンによる免許返納後の高齢者の足の確保や高齢者へのお弁当などの配送サービス実現」――あたりしか見当たらない。
ライドシェアに言及しないということは、少なからず推進派ではない印象を受ける。石破氏に関しては防衛や地方創生などの分野で期待する声はある程度大きいが、ライドシェア関連施策においてはあまり期待できないかもしれない。こうした見方から、「全面解禁しなそう」ランキングで1位とさせていただいた。
■2位:小林鷹之氏(元経済安全保障担当大臣)
慎重寄りの中立スタンス?
千葉県第2区選出の衆議院議員で、当選4回。現在は閣僚に名を連ねていないが、これまで経済安全保障担当大臣や内閣府特命担当大臣(科学技術・宇宙)などを歴任してきた。
ライドシェアに関しては、ビジネスメディア「PIVOT」のインタビュー(2024年8月)で自身の見解を述べている。規制改革に前向きかどうか――という観点でライドシェアに対する考えを聞かれた小林氏は、「丁寧に議論していけばいい」という、中立的なスタンスをとった。
小林氏は「日本版ライドシェアは期待をするところではあるが、進め方について、不便だから何の検証もなく一気に入れてしまえというものはやり過ぎ。一つひとつ確かめながら進めていけばよい」としている。
「反対しているわけではないが、利用者のニーズもあるし、これまで日本が大切にしてきた安全という価値を心配している方も一定数いる。この両方をどうやって両立させていくか、先行している取り組みをきっちりと検証しながら、クリアできるのであれば進めれば良い」と話した。
現在も所属しているかは不明だが、2019年時点で自民党タクシー・ハイヤー議員連盟に名を連ねていた。こうした立場も踏まえると、慎重派寄りの中立派と言えるかもしれない。
「多くの意見を聞き、しっかり検証して」――というのは本来至極真っ当な考え方だが、一国の総理となれば話は変わってくる。移動課題解決に向け、自身の考え、方向性をしっかり示す必要があるためだ。ベクトルを示さず「しっかり検証して」――では、実質的に丸投げとなる。
強いリーダーシップが求められる立場を望むのであれば、もう少し持論を鮮明にしても良いのでは――といった印象だ。
■3位:小泉進次郎氏(元環境大臣)
タクシーもライドシェアも選べる社会を
神奈川県第11区選出の衆議院議員で、当選5回。環境大臣、内閣府大臣政務官などを歴任しており、現在は衆議院安全保障委員会の委員長を務めている。
ライドシェアに関しては、菅義偉前首相や河野太郎氏らが議論を巻き起こした際に小泉氏も敏感に反応し、8月25日のSNSで「最近ライドシェア議論が盛り上がりつつある。タクシー不足の現状を考えれば当然で、今日の横浜での講演でもこの話題に触れた。私の地元選挙区の三浦市では夜7時以降タクシーはない」とタクシー不足に言及している。
タクシー営業に必須の地理試験廃止などタクシー業界の規制緩和案を示しつつ、同月27日には横須賀市において「米軍需要が多い際にライドシェアを解禁したらどうか」とし、安全面を危惧する意見に対しては「ライドシェア解禁という前提の議論の中で制度設計をすれば良い」「タクシーもライドシェアも選べる社会にしたい。タクシー業界の規制緩和と、安全な制度設計のもとでライドシェアを導入することが今の時代の課題解決に繋がる」と見解を示している。
同年11月には、発起人の1人として超党派ライドシェア勉強会の活動を開始し、自身が会長を務めている。12月には、会として斉藤鉄夫国土交通大臣と河野太郎デジタル行財政改革大臣に対し、タクシー規制緩和や一定要件を満たす事業者による自家用車と一般ドライバーを活用した新たなライドシェア制度の創設を申し入れた。
2024年5月、岸田総理がライドシェア議論を期限を設けず継続して進める方針を打ち出した折には、「ライドシェアの法整備に向けた検討を年末に結論を出すこと」を目指すよう進言した。小泉氏は「期限を設けないのはやらないのと同じ」と総理にくぎを刺している。
総裁となった暁には、タクシーと共存可能なライドシェア解禁に向けどのようなアイデア・具体策を披露するのか。注目だ。
【参考】小泉氏の見解については「ライドシェア、”小泉新首相”誕生なら「全面解禁」確実か 自動運転タクシーにも追い風」も参照。
■4位:河野太郎氏(現デジタル大臣)
ライドシェア議論の火付け役、規制改革推進会議を主導
神奈川県第15区選出の衆議院議員で、当選9回。外務大臣、防衛大臣、国家公安委員長、行政改革担当大臣、内閣府特命担当大臣などを歴任し、現在はデジタル大臣や内閣府特命担当大臣(規制改革)などを務める。
ライドシェアに関しては、河野氏は議論の火付け役であり、議論を主導する立場にある一人だ。2023年8月ごろ、タクシー供給不足に対し菅義偉前総理が地方講演でライドシェア解禁に向けた議論の必要性に言及したのと同時期、河野氏も出演したテレビの報道番組で地域ごとにライドシェアや自動運転サービスを自動解禁していく独自案を明かした。
その後、デジタル大臣、規制改革担当大臣として規制改革推進会議を主導し、ライドシェア解禁の是非をはじめとした交通課題解決案の検討に本格着手した。
その成果の第一弾が日本版ライドシェアと言われる自家用車活用事業だ。タクシー事業者に配慮する形で安全性を担保しながらタクシー・ドライバーを増やす事業で、「中途半端」という声も少なくないが、ライドシェア導入の第一歩として、また本格版解禁に含みを持たす事業として今後の動向に注目が集まる。
規制改革推進会議の中では現在、日本版ライドシェアのモニタリングと検証をいつまで行い、新たな法整備の議論をどのように進めるのかに焦点が当たっている。
河野氏は「私としては、大事なことは日本全国で移動の足の不足が解消され、移動の自由を確立すること。まずはデータを充実させて各種モニタリングを行いながら、アジャイルに日本版ライドシェア制度の改善を進めていきたい。そして、モニタリングと検証に並行し、タクシー事業者以外の者が行うライドシェア事業について、法制度を含めて事業の在り方の議論を進める。仮に、移動の足不足がすべての地域で解消できないのであれば、速やかに次のステップに移行できるようしっかり準備を進めておく必要がある」としている。
本来は推進派と思われるが、立場上日本版ライドシェアの検証をしっかり踏まえながら判断していく――といったスタンスをとっているように感じられる。
一方、WGではマッチング率を引き上げる不正が行われている可能性について指摘するなど、タクシー事業者に対し厳しい姿勢で臨んでいるのも確かだ。
河野氏が「総裁」という新たな立場を手にした際には、事業が大きく加速する可能性がある。一方、総裁選後の閣僚人事で河野氏が規制改革担当から外れる可能性もある。河野氏の動向・処遇には要注目だ。
【参考】河野氏の動向については「ライドシェア解禁、河野太郎氏にタクシー業界が激怒!「断固阻止」を決議」も参照。
■5位:茂木敏充氏(現幹事長)
解禁明言、シェアリングエコノミーは日本経済の成長に不可欠
栃木県第5区選出の衆議院議員で、当選10回を数える。現幹事長で、過去には経済産業大臣、経済再生担当大臣、外務大臣などを歴任してきた。総裁選立候補の意向を示しており、幹事長の権限を党幹部に委嘱し、近く正式表明する見込みだ。
ライドシェアについては、ビジネスメディア「PIVOT」のインタビュー(2024年7月)で触れている。ライドシェアに関する見解を聞かれた茂木氏は「ライドシェアを含むシェアリングエコノミーは日本経済の成長に不可欠。これが基本的な考え方。シェアサービスの市場規模は現在2.6兆円ほどだが、10年後には遅すぎる規制緩和を前提にしても15兆円に広がる。思い切って規制緩和を進めれば潜在的な市場規模は何倍にもなっていく」と話している。
その上で「成長産業を伸ばしていく最良の策は、新しいビジネスや働き方に対し事前に規制をしないこと。問題が出てからしっかりと対策を考えていく。霞が関の前例主義でやったら物事は進まない。課題があるからやらないではなく、いつまでにどういった方法で解決していくかを考えるのがビジネスの世界」とビジネスの観点を強調した。
2024年6月に長崎県長崎市内で開かれた党の会合でも「全面解禁する方針を打ち出すべきと思っている」と述べている。明確なライドシェア推進派の一人だ。
【参考】茂木氏の見解については「ライドシェアで自民党分裂!タクシー会社限定に幹事長「おかしい」」も参照。
■【まとめ】意見分かれるライドシェア、総裁の意向が反映される可能性あり?
上川陽子氏(静岡県第1区/現外務大臣)、齋藤健氏(千葉県第7区/現経済産業大臣)、高市早苗(奈良県第2区/現経済安全保障担当大臣)、林芳正氏(山口県第3区/現官房長官)などは、ライドシェアに関する情報が見当たらなかった。
推進派としては、小泉氏、河野氏らおなじみの面子に加え、茂木氏が明確にライドシェア解禁を宣言している。一方、小林氏は中立的スタンスを取る印象で、実質的に慎重派に分類できる。ライドシェアへの言及が見当たらない面々も、基本的には慎重派・中立派と言えそうだ。
自動運転に比べ、本格版ライドシェアは与党内でも意見が分かれており、国のかじ取り役となる総裁(総理)の方針が大きな影響を与える。
現在継続的に検討が進められているライドシェア議論に、9月の総裁選がどのように影響するのか。要注目だ。
【参考】関連記事としては「ライドシェアとは?(2024年最新版)日本の解禁状況や参入企業まとめ」も参照。