鹿島建設の自動運転事業(2023年最新版) 建機・現場の自動化に挑む

スマートロードプロジェクトにも注目

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建設業大手の鹿島建設。独自システム「A4CSEL」による建設現場の自動化をはじめ、近年はインフラ開発技術を生かした道路交通のスマート化などにより、自動運転分野でもその名を聞くことが多くなった。

同社はどのような自動化技術を有し、どのような分野で未来の事業展開を描いているのか。鹿島建設の取り組みに迫る。

■建設機械・現場の自動化
次世代建設生産システム「A4CSEL」

鹿島は2015年、建設機械の自動運転を核とした次世代建設生産システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」を開発した。少ない人数で複数の自動化建設機械を動かし、安全に施工を行うことをコンセプトとしたもので、これまで作業員の経験や職人技に依存してきた定性的な作業を、生産工学を基にした「定量的」なシステムに変革し、「現場の工場化」を推進するとしている。

最適化された計画に基づく作業データを、自動化改造した汎用建設機械に送信することで、自律的かつ自動的に動作させることを可能にする技術だ。リモコンなどによる建設機械の遠隔操作とは異なり、あらかじめ複数の建設機械に対してタブレット端末で指示を出すだけで、機械が自動的・自律的に運転・施工を行う。

多くの自動建設機械を、少ないオペレーターで同時に稼働させることをコンセプトに据え、安全性と効率性を高めていく狙いだ。

2015年に独自開発した自動振動ローラとコマツと共同開発した自動ブルドーザによる自動施工を実現したのを皮切りに、2017年には自動ダンプトラックの導入試験を行い、ダンプトラックによる「運搬」と「荷下ろし作業」の自動化にも成功した。

汎用ダンプトラックにGPS機器や制御PC、自動化機器などを搭載し、あらかじめ指示した位置までの運搬や指定位置におけるダンプアップを自動で行うものだ。

2018年には、福岡県朝倉市で手掛けた小石原川ダム本体建設工事においてA4CSELを活用した本格的な堤体の盛立作業にも着手した。

2021年には、A4CSELの適用拡大に向け、山岳トンネル工事を対象とした自動化施工システム「A4CSEL for Tunnel」の開発について発表している。模擬トンネルで自動ホイールローダによるずり出し作業や自動吹付機による吹付け作業の自動化を実証した後、実坑道である岐阜県飛騨市の神岡試験坑道で実規模施工試験を開始している。

2023年6月時点で、A4CSELは6件の現場で導入されている。省人化や作業計画最適化による効率化、精度向上による効率化に加え、施工時のCO2排出量の抑制にも効果があることが確認された。単位時間あたりの打設量の増大や建設機械の走行距離短縮が図られ、自動運転でのまき出し作業の燃料使用量を有人運転と比較したところ、CO2排出量を約40~50%削減できたという。

鹿島建設は、自動化施工率を高めるため、引き続き自動化建設機械の機能・性能のさらなる向上とともに対象機種を増加し、A4CSELを多くの現場に継続的に導入していく方針としている。

バッテリー機関車の無人自動運転化も

鹿島建設は2020年、ZMPと新トモエ電機工業、カジマメカトロエンジニアリングとともに、トンネル工事内で使用するバッテリー機関車「サーボロコ」無人自動運転化を行っている。

サーボロコにZMPのステレオカメラや自動運転ソフトウェア、各種センサーを搭載し、高精度3Dマップを使用することなく建築限界の推定や障害物の検出を可能にした。施工現場での完全無人自動運転実現を目指し、他のトンネル工事施工現場での導入も進めていく方針としている。

【参考】ZMPとの取り組みについては「トンネル内のバッテリー機関車、ZMPと鹿島建設が自動運転化」も参照。

■交通分野における自動化・スマート化
HANEDA INNOVATION CITYにおける取り組み

羽田空港跡地第1ゾーン整備事業として建設が進められた「HANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ・HICity)」の全体計画や設計、施工を担った鹿島建設。革新を象徴するこの舞台では、2020年から自動運転車による定常運行が行われている。

2020年に国土交通省のスマートシティモデル事業に採択され、その流れで同年9月、BOLDLYやマクニカ、日本交通とともに「NAVYA ARMA」を活用した定常運行を開始した。

BOLDLYや日本交通が運行管理を担い、鹿島建設は空間情報データ連携基盤「3D K-Field」の提供を行っている。

実証は徐々に本格化し、速度アップや保安要員の撤廃、一時停止後の走行再開の自動化、遠隔地からの緊急停止・発車操作など次々と課題をクリアし、2021年9月には閉鎖空間での無人運行も行った。

このほか、香港PerceptInが開発した自動運転低速電動カートによる実証なども行っている。遠隔地のオペレーターがARMAと合わせて運行管理システム「Dispatcher」で同時に管理する実証だ。

鹿島とBOLDLYは、将来的な定常運行の実現に向けサービスと利便性のさらなる向上や定着化を図っていくとしている。

【参考】HICityでの取り組みについては「自動運転バス、累計88日・599便無事故!羽田空港で運行中」も参照。

トヨタとともにスマートロード開発へ

鹿島建設とトヨタ、NIPPO、東京都市大学、カリフォルニア大学バークレー校は2023年10月、センシング機能を有する道路「スマートロード」の開発に着手したと発表した。

将来の新たなモビリティサービスや自動運転社会の到来を見据えた取り組みで、光ファイバセンサーを活用して歩行者や自転車などの動体把握を可能にする技術だ。

発端はトヨタのようだ。自動運転車や高度運転支援技術はインフラとセットで考えていく必要があることから、「クルマが自動運転に変わったとき、道路はどうあるべきか?」と考え、道路会社や建設会社、大学などの協力を得ながらプロジェクトを立ち上げたという。

当初は監視カメラの活用を検討していたが、死角をぬぐい切れないため光ファイバーに着目した。光ファイバーと聞くと通信網のイメージが強いかもしれないが、橋やトンネルの構造物のたわみを計測し、経年劣化を診断するために利用されるなど、センサーとしての側面を持つ。これを道路に埋め込み、自動車や歩行者などを検知する取り組みだ。

ここで鹿島建設に白羽の矢が立ったようだ。施工した橋やトンネルの構造モニタリングに光ファイバーを使用し、計測技術を確立済みの鹿島建設の参加により、計測データによって路上にいるモノの居場所を可視化することが可能になった。

光ファイバセンサーを埋め込んだ試験舗装フィールドの実証では、道路上の歩行者や自転車などの移動体の位置をデータにより自動追跡できることが確認された。歩行時に発生するわずかな振動やひずみ(伸縮)をしっかりと検知できたという。

出典:鹿島プレスリリース

車両に搭載されたセンサーや路上のカメラなどと比べ、安定したデータの収集を行うことができ、見通しの悪い交差点や悪天候下においても歩行者や車両の動向を把握できる。

こうした技術を発展させることでより安全性の高いモビリティサービスの構築が可能となり、将来の自動運転社会実現にも貢献することに期待が寄せられる。

物流向けの地下トンネル研究も

自動運転ではないが、鹿島建設は財団法人エンジニアリング振興協会の活動を通じて物流用途の地下トンネルに関する研究調査なども進めていた。

首都圏大深度地下物流トンネル構想として、中央防波堤外側ふ頭ターミナルを起点に首都圏中央連絡道青梅インターチェンジ付近までの53.5キロにわたる地下トンネルを掘削し、コンテナ物流などを行うものだ。

物流用途の地下トンネルはスイスで大規模プロジェクトが進んでおり、自律走行可能なモビリティの導入も計画されている。

地下トンネル×自動運転は、Woven Cityや第二青函トンネル構想などでも案が持ち上がっている。地表のキャパシティが限られる中、地下の有効活用を模索する動きが活発化してもおかしくはない。大手ゼネコンとして、こうした研究開発が実を結ぶ可能性も十分考えられるだろう。

【参考】地下トンネルに関する動向については「建設費5兆円!自動運転専用の「スイス地下トンネル」計画、総延長は500キロ」も参照。

竹芝エリアではMaaS実証を実施

開発に携わっている東京竹芝エリアでは、2019年にMONET TechnologiesやJR東日本などとともにMaaS実証に参加している。

東京都が公募した「MaaSの社会実装モデル構築に向けた実証実験」による取り組みで、エリア内の勤務者向けのオンデマンドモビリティサービスや通勤者向け・観光客向けのマルチモーダルサービスなどの検証を行ったようだ。

【参考】竹芝エリアにおける取り組みについては「MONETや鹿島建設、MaaS実証を東京・竹芝エリアで実施 2019年12月下旬から」も参照。

■月面における自動化
JAXAと遠隔施工システムを開発

A4CSELによる遠隔自動化技術は、適用の場を宇宙にも拡大しようとしている。鹿島建設は2016年から、「遠隔操作と自動制御の協調による遠隔施工システムの実現」に向け宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究を進めている。

将来、月や火星に長期滞在型の有人拠点を建設するためには、地球上から遠隔で建設機械を操作する無人化施工技術が重要となる。純粋な遠隔操作では通信に相当の時間がかかり、作業効率や精度の面で課題が指摘されていた。

こうした場面にA4CSELの自動化施工技術を導入することで、超遠隔における施工が可能かどうか検証を開始したのだ。

2019年には、鹿島西湘実験フィールドで、月における無人による有人拠点建設をイメージした2種の自動化建設機械による実験を行い、拠点建設の実現可能性を見出すことができたと発表している。

3~8秒という大きな通信遅延がある場合でも、遠隔操作している建設機械の操作性や安定性を損なわずに作業計画に応じた遠隔操作を可能にする支援機能や、通信遅延により作業中の地形変化などをリアルタイムで把握できず遠隔操作に困難が生じた際、現地で計測したデータをもとに状況に適合した動作を自律・自動的に判断する機能、複数の建設機械への遠隔指示において干渉などの不具合があった際、衝突回避などの応急動作を自律的に行う機能などを実現したという。

2021年には、神奈川県相模原市のJAXA相模原キャンパスから1,000キロ以上離れた鹿児島県南種子町のJAXA種子島宇宙センター衛星系エリアの新設道路等整備工事において建設機械を遠隔で操作し、相模原からの指令で自動運転に切り替え作業を実施する施工実験を行い、高精度での施工が可能なことを確認した。

この研究成果を活用し、鹿島建設はA4CSELを遠隔地から管制する遠隔自動化施工や災害復旧時の無人化施工システムなどを可能にすべく、通信遅延による作業効率の低下を防ぐ技術に展開していく予定としている。

【参考】宇宙に向けた取り組みについては「自動運転技術が月面で活躍!?JAXA、鹿島建設やトヨタと取り組み着々」も参照。

■【まとめ】ディベロッパー的立ち位置でイノベーションを促進

近年のエリア開発はただ単にインフラを整備することにとどまらず、スマート化を前提とする場面が非常に多く、開発を担う鹿島建設もディベロッパー的立ち位置で積極的にイノベーションを促進することが多くなっているようだ。

遠隔制御技術のA4CSELやスマートロードなどの技術は、次世代道路交通や自動運転分野での導入・応用に期待が寄せられる。全国に張り巡らされた道路網のイノベーションやエリア開発におけるイノベーションを担う存在として、今後の動向に引き続き注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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