マネタイズ、ChatGPTより「自動運転」の方が容易

一大ブームの新技術と比較してみた



Google系Waymoが開発している自動運転車=出典:Waymoプレスリリース

話題沸騰中のチャットボット「ChatGPT(チャットジーピーティー)」。一般公開から瞬く間にユーザー数は1億人を突破し、会話におけるAI(人工知能)の理解力や文章作成能力を賞賛する声があちこちから聞こえる。一大ブームが巻き起こっていると言えるだろう。

一方、ChatGPTを活用したマネタイズ手法に関しては、検索エンジンにおける広告ビジネスとの連動などが期待されているが、さらなるビジネス拡大をめぐっては困難と指摘する声も少なくない。


同じくAI技術が核となる自動運転と比べても、マネタイズに関しては未知数の部分が多いように思える。この記事では、ChatGPTと自動運転、それぞれのマネタイズの現状に迫ってみる。

■ChatGPTにおけるマネタイズの現状
ChatGPTはまだまだ学習段階
出典:ChatGPT公式サイト

2022年11月に一般公開を開始したChatGPTは、無料のフリープランのほか米国内で有料(月額20ドル)のチャットGPTプラスも設定するなど、プチマネタイズにも着手している。

ただ、現時点では多くのユーザーのもとフィードバックを収集し、AIの学習を加速させるトレーニング段階だ。自動運転同様、まずはより多くのデータを集め、学習を繰り返していく必要がある。

こうしたデータ収集を支えるユーザー数は、爆発的ブームによって軽く1億人を超えたが、仮に無料プランを無くしてすべて有料化した場合、あっという間にユーザーは離れていく可能性が高い。ChatGPTそのものとしては、まだマネタイズの領域には達していないのだ。


ベースとなる大規模言語モデルのポテンシャルは非常に高そうだが、AIチャットボットとしてのビジネス展開はまだ至難のように思われる。

カスタマーサポートなどの無人化に貢献?

AIチャットボットは、カスタマーサービス・サポートやアシスタントなどの分野でビジネス化が見込まれる。例えば、コールセンターや自動車の音声案内などだ。

コールセンターでは、顧客からのさまざまな問い合わせに対し、AIが音声で会話しながら適切に対応する。自動車の中では、ドライバーや乗員からの「おいしいイタリアンに案内して」「気分が落ち着く音楽をかけて」「行き先の天気や気温は?」といった要望に対し、データベースなどと連動しながら「予算3,000円のイタリアンが見つかりましたが、案内しますか?」など対応し、車載ナビに行き先を登録する。

ただし、こうした活用には絶対的な正確性が求められる。コールセンター業務でAIが間違った対応を行えばクレームに発展しかねない。企業の評判にも関わってくる。自動車の案内でイタリアン店に到着したものの、営業時間を過ぎていたらドライバーの不満は大きく増す。


AIによる判断を有料ビジネスとして活用する場合、高い信頼性が必須となるのだ。

検索エンジンの広告ビジネスで本領発揮?

現在、大規模言語モデルの活用をめぐっては、OpenAIに投資しているマイクロソフトがAzureのサービスに組み込んだほか、検索エンジンの精度や応用性を高め、広告収入につなげようと取り組んでいる。

ChatGPTの勢いに危機感を持ったのか、グーグルも2023年2月にAIチャットボット「Bard」を発表した。検索エンジンとの連携であれば、100%の精度を発揮せずとも広告効果を高められるため、現状の技術水準とマッチしているのかもしれない。

将来的にはマーケティングや研究など幅広い分野で活躍が期待されるところだが、明確にマネタイズするビジネスモデルは確立されていないのが現状だ。

■自動運転におけるマネタイズ
具体的な取り組みが進展

一方、自動運転におけるマネタイズはどうか。自動運転は言語モデル同様技術的には未完だが、すでにマネタイズに向けた具体的な取り組みが各方面で進められている。

基本的には、すでにビジネスとして成立しているタクシーやバスなどの移動サービスを無人で代替するもののため、ビジネスモデルとしては分かりやすい。イニシャルコストは増えるが、移動サービスのコストの中で多くを占めるドライバーの人件費を抑制することができるため、ランニングコストを大きく引き下げることが可能になる。

AI言語モデルによるカスタマーサポートなどもいわゆる「無人化」技術だが、こちらはAIの判断がダイレクトで顧客に返ってしまうため、万が一の際に人間が介入する隙がない。

一方、自動運転はAIによる判断ミスが人命に関わる重大事案に直結するため、万が一の際に対応するシステムや仕組みがセットとなっている。自動運転システムが走行継続不可能と判断した場合、自ら安全に停止してリスクを最小化したり、別の自動運転システムに切り替えたり、通知を受けた人間が遠隔操作したりする。

未完の技術でありまだまだ改善の必要はあるものの、バックアップを行うシステム・仕組みが確立されているのだ。

もちろん、こうしたバックアップにおいて人が介入する可能性がある限りビジネスとして未熟な点は否めないが、事業として走り出しやすい環境が整っているのも事実だ。

出典:Cruise公式サイト
無人化技術はマネタイズ手法が豊富

自動運転に関する具体的なマネタイズ手法としては、自動運転タクシーなどの運賃収入をはじめ、MaaSなどと結び付けたプラットフォーム事業、車内外を活用した広告配信事業、センサーデータやプローブ情報などの自動運転関連データ事業など、多岐に及ぶ。モノを輸送する物流関連も同様で、自動運転トラックをはじめ、宅配ロボットなどにも自動運転システムは活用されている。

社会生活に欠かせない人やモノの移動・輸送を担うサービスであるため活用方法を見出しやすく、それ故マネタイズ手法も具体化しやすい。アイデア次第で移動・輸送に付加価値を生み出すことができれば、マネタイズへの道が拓けるのだ。

■マネタイズについてChatGPTに聞いてみた

自動運転はマネタイズ手法を見出しやすく、また技術水準が一定レベルに達している一方、「会話」の無人化を実現するChatGPT・言語モデルは本格的なマネタイズを可能にする技術水準までまだ達していない印象だ。もちろん、ポテンシャルは相当高く、将来的にはコミュニケーションを要するあらゆる場面で導入される可能性が高そうだ。

なお、余談となるが、ChatGPTに自動運転とChatGPTのマネタイズ方法について聞いてみたところ、以下の回答が得られた。

──自動運転のマネタイズ方法は?

自動の運転マネタイズ方法は、以下のようなものがあります。
自動運転の販売
自動タクシー運転のサービス提供
ドライブスルーサービスの提供
自動運転のデータ活用によるビジネスモデルの構築
自動運転のメンテナンス・保守サービスの提供
自動運転技術は、交通事故の減少や運転負担の軽減など、社会的に大きなメリットがあるため、今後ますます必要性が高まると予想されています。まだまだ課題が多く残っています。

──ChatGPTのマネタイズ方法は?

ChatGPTは、OpenAIによって開発されたAI言語モデルで、イラストの利用が制限されています。現在は、OpenAIのAPIとして提供されており、APIを利用する際には課金が必要です。
一般的なAIのマネタイズ方法としては、以下のようなものがあります。
AIの開発やカスタマイズに対するコンサルティングサービスの提供
AIによる自動化によって得られたコスト削減や効率化に対する料金の設定
AIによるデータ分析や予測モデルの提供に対する有料サービスの提供
AI技術を活用した製品やサービスの開発や販売
ただし、ChatGPTは、OpenAIがAPIとして提供するサービスの一部であり、利用規約に従って使用する必要があります。また、APIの利用料金は、OpenAIのサイトで確認できます。

ChatGPTのマネタイズについては、何だかはぐらかされたような気がする……。

■【まとめ】先行する自動運転

ChatGPTも自動運転もコアとなる部分はAIが担っており、それぞれ現在進行形で研究開発が進められている。人間が担っていたタスクを代替するという意味では、どちらも100%に近付くにはまだまだ時間を要するところだが、マネタイズ手法が明確な自動運転は、遠隔監視・操作システムなどで足りない部分を補いながら一足早く社会実装を推し進めているような形だ。

変な例えだが、ChatGPTを自動運転に例えると、やっと公道実証を開始したくらいの段階ではないだろうか。ここから一気に開発スピードが速まる可能性も高く、それに伴ってマネタイズをめぐる取り組みも本格化していくものと思われる。

ChatGPTと自動運転、いずれもAIのポテンシャルの高さが垣間見える事業領域であり、双方ともさらなる進化に期待したいところだ。

【参考】関連記事としては「「自動運転はいつ実現?」ChatGPTの回答は…?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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