沖縄、自動運転解禁&MaaS実装に「ぴったりサイズ」!?

次世代モビリティ実証では「島」が利点に



日本航空(JAL)が展開する「JAL MaaS」の対象エリアに新たに沖縄が加わったようだ。2022年11月から沖縄地区の多様な交通事業者との連携を開始し、空の移動と陸の移動を結び付け利便性を高めていく狙いだ。


沖縄本島を中心に島で構成される沖縄は、サービス提供エリアを適度なサイズで明確に区切ることができるため、MaaSや自動運転サービスの導入に最適な場所の1つと言える。

この記事では、新たなモビリティサービスを導入する上での沖縄の優位性について解説していく。

■MaaSや自動運転サービスに必須となるエリア設定
MaaSにおけるエリア設定

MaaSは、一定エリア内においてさまざまな移動サービスを統合・最適化し、移動に利便性をもたらす概念だ。

バスやタクシー、鉄道、カーシェア、サイクルシェアなど、エリア内の各サービスを取りまとめた上で一括検索や予約、決済といった各機能を統合したり、交通結節点や路線、運行時刻などを調整し、乗り換えの利便性を高めたりすることで移動の最適化を図る。


多くのMaaSは対象エリアを区切る形でサービスを提供しているが、このエリアの絞り込みが意外と難しい。本州のように地続きのエリアでは、良くも悪くも経済圏が異なる隣接県とつながっており、交通サービスが複雑になりがちだ。

例えば、鉄道を主体としたMaaSは比較的広域に及び、地域の他の交通事業者と連携を図りながらサービスを提供する。利用者となるターゲットの需要や交通事業者との連携具合でエリアを拡大することもできるが、最終的にどこで線引きするか…といったジレンマに突き当たる。やみくもに対象を広げても、コストや労力の増加分を補えるほど利用者が増加するとは限らないからだ。

また、広域に及べば及ぶほどサービスのきめ細やかさが失われがちで、MaaS内の一部エリアではタクシーが連携していない――といったばらつきが生じることもある。

自動運転におけるエリア設定

一方、自動運転レベル3~4に相当する自動運転サービスも、走行可能なエリア・ルートが明確に区切られている。走行速度などとともにODD(運行設計領域)に走行可能なエリアを設定し、事前に高精度3次元地図の作成や走行実証を繰り返し、安全性を高めた上でサービスを提供する。


路線バスなどの場合は、走行する経路が明確なため線引きは容易だが、自動運転タクシーのように不特定の経路を走行するサービスの場合、地理的境界線を仮想的に線引きして走行エリアを決定する(=ジオフェンスと呼ぶ)。多くの場合、安全性を確保しやすい道路・エリアを選定してジオフェンスを設定することになる。

■沖縄の優位性
島そのものがエリアに

四面を海で囲まれた沖縄は大小さまざまな島で構成されており、他県からのアクセスには航空機や船が必須となる。アクセスに制限があるが、それ故、島ごとにMaaSや自動運転サービスのエリアを設定しやすい利点がある。

沖縄本島は東京23区の2倍近い1,200キロ平米の面積を誇り、島とはいえ一定の大きさがあるが、MaaSを提供する上では全体を網羅しやすい。自動運転サービスも、細い私道や市道などを除けば、努力次第で島を網羅することができそうだ。石垣島であれば223キロ平米で、島全体を網羅しやすい。

適度なサイズの島は、島そのものをODDとして設定しやすく、都市計画を進める上でも一体的かつ明確に整備しやすい。

沖縄は観光需要も高く、MaaSや自動運転サービスを展開するメリットも大きい。こうした観点を踏まえると、MaaSや本格的な自動運転サービスの実装を見据えた場として最適ではないだろうか。

■沖縄での取り組み
JAL MaaS

冒頭で触れた「JAL MaaS」は、国内空港を中心とした地上交通での移動において、航空機の移動を含めた経路検索や予約・手配を行えるサービスだ。

沖縄での移動手段を検索する際、エアポートシャトルバスやNearMeが提供するオンデマンド型シャトルなどさまざまな移動手段を提示可能とし、一連の旅程をサポートする。航空会社ならではのMaaSだ。

出典:JALプレスリリース
沖縄MaaS

沖縄都市モノレールや県内の各自治体、ゼンリン、TISなどが一体となって取り組んでいる「沖縄MaaS」は、本島や周辺の離島を網羅しつつ、モノレールやバス、タクシー、船舶、久米島の観光型MaaS「久米島Ha:mo」など、さまざまな移動サービスや観光施設を結び付けている。

2020年12月に実証を開始し、2021年にはフェーズ2に移行するなど実証を重ねている。

八重山MaaSや沖縄スマートシフトプロジェクト

石垣市を含む八重山諸島では、新モビリティサービス推進事業のもと、TISのプラットフォームを活用した八重山MaaSの実証が行われた。離島船舶やバス、タクシーによる観光型MaaSだ。

また、2021年度の日本版MaaS推進・支援事業では、沖縄スマートシフトプロジェクトや宮古島市におけるMaaS実証事業なども採択されている。

沖縄スマートシフトプロジェクトでは、トヨタのMaaSアプリ「my route」を活用して本部町・那覇市・浦添市・豊見城市でサービスを展開している。

宮古島では、ジョルダンなどの参画のもと、相乗りタクシーや定額のサブスクリプションサービスなどを提供している。

SIPのもと各地で自動運転バスの実証

自動運転関連では、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のもと、2016年度に南城市、2017年度に石垣市や宜野湾市・北中城村、2019年度に那覇市・豊見城市で自動運転バスの実証が行われている。

自動運転の性能評価をはじめ、住民や観光客を対象としたモニター実証、法定速度上限での車線維持や減速制御といった技術検証、一般利用者の試乗などによる自動運転バスの受容性評価――といった具合に、着実にステップアップを図っている。

北谷町ではレベル3サービス実用化、SC-1によるMR体験も

北谷町美浜では、2021年3月に遠隔監視・操作型のレベル3を導入した自動運転移動サービス「美浜シャトルカート」を開始している。観光地において公道ルートと海沿いルートを設定し、周遊性を高めている。

このほか、ソニーとヤマハ発動機が開発したエンターテインメント向けの自動運転車両「SC-1」を導入し、次世代MR(Mixed Reality)体験サービスも提供しているようだ。

今後は、レベル4実現に向けた取り組みも進められていく見込みだ。

【参考】北谷町における取り組みについては「自動運転、我が街でも!国のMaaS実証事業、「先進地域」決まる」も参照。

■【まとめ】モビリティ領域で「島」の利点を生かす

MaaSにおける実際の取り組みでは、航空機や船舶を交え「島」の枠を超えたサービスが提供されているが、「沖縄」という一体性は保たれている。

島を網羅する自動運転サービスに関しては先の長い話となるが、「沖縄(○○島)では全域で自動運転サービス実施中」のような周知を図りやすく、他所から来た観光客による混乱も起こりにくいものと思われる。

沖縄に限らず、各地の離島などは「島」の利点を最大限生かし、いち早く次世代モビリティを導入して地域活性化や福祉向上を模索してみてはどうだろうか。

【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでいる?(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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