空飛ぶクルマ、ヘリコプターとの違いは?

電動化による恩恵で自律飛行も可能に



出典:SkyDriveプレスリリース

実用化を見据えた開発が世界各地で進められている空飛ぶクルマ。垂直離着陸を可能とするeVTOLや、空陸両用のモデルなどさまざまなタイプの開発が進められている。

空の移動や輸送における身近な存在は、これまでヘリコプターが中心だったが、近い将来、空飛ぶクルマがこれにとって代わる存在となるかもしれない。


この記事では、ヘリコプターとeVTOLを中心とした空飛ぶクルマの違いについて解説していく。

■ヘリコプターとeVTOLの概要
ヘリコプターは?

ヘリコプターは垂直軸に配置したローター(回転翼)で揚力や推力を得て飛行する回転翼機だ。エンジンの動力で機体上部のメインローターを回転させて揚力を得るほか、ローターを傾けることで進行方向に向けた推力を得る。原理は竹とんぼと一緒だ。

メインローターのみだと作用反作用の法則で機体が逆方向に振り回されてしまうため、機体の回転を抑えるテールローターを備えている。また、ヘリコプターはメインローターを1つ備えたシングルローターが中心だが、メインローターを2つ備えたツインローターなどもある。

VTOLは?

滑走路を要することなくその場で上下する垂直離着陸や空中で停止するホバリング機能が特徴で、機能上は垂直離着陸機(VTOL/Vertical Take-Off and Landing aircraft)の一種と言える。ただ、一般的にVTOLは固定翼を備えた機体を指すことが多い。


旧来のヘリコプターに対し、飛行する仕組み・構造を変えて高速飛行などを可能にしたモデルを対象とするイメージで、そのためヘリコプターと区別して扱うことが多いようだ。具体例としては、オスプレイなどが相当する。

VTOLを電動化したものが「eVTOL」

このVTOLの動力を電動化したものが電動垂直離着陸機(eVTOL/Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)となる。従来の動力と電気を併用したハイブリッドモデルもeVTOLを名乗るケースもある。

eVTOLは固定翼タイプ、回転翼タイプの区別は特にされておらず、回転翼を3つ以上備えたマルチコプター型ドローンなどが代表的だ。

eVTOLの概念はAgustaWestland(現Leonardo)のProject ZeroやVolocopterのVC1、OpenerのBlackFlyなどを通じて2011年ごろに確立されていったという。


eVTOLのうち、モノの輸送用途など人が乗らないタイプをドローン、人が搭乗することが可能なタイプを有人ドローンや空飛ぶクルマと呼ぶことが多い。こうした新たなエアモビリティを総称し、アーバン・エア・モビリティ(UAM)と呼ぶこともある。

なお、空飛ぶクルマには、eVTOLのほか地上の道路走行と空の飛行を両立させた文字通りの空飛ぶクルマもあり、垂直離着陸はできず滑走路を使用するモデルを含む場合もある。

【参考】関連記事としては「eVTOLとは?「空飛ぶクルマ」の類型の一つ、開発盛んに」も参照。

eVTOLはヘリコプターの進化系?

まとめると、VTOLはヘリコプターのような垂直離着陸を可能にしつつ、固定翼を備えることで高速巡航も可能にするモデルを指すことが多い。言わばヘリコプターの進化系と言える。

このVTOLの概念をそのままに電動化を図ったものがeVTOLで、電動かつ垂直離着陸が可能であれば、その形態に関わらずeVTOLとして扱われている。

極言すれば、垂直離着陸機の代名詞的存在だった従来のヘリコプターの進化系がeVTOLとなる。次世代のエアモビリティサービスを実現する柔軟な飛行を可能にするモデルだ。自動車同様、電動化により当面は航続距離が短くなりがちだが、操作・運用・コスト面などのハードルを下げ、柔軟なサービスを提供可能にする。

従来のヘリコプターは、一部観光やセレブ向けサービスを除きパーソナルな利用は限られているが、eVTOLはこのパーソナルな利用の道を開拓していくエアモビリティとして期待されているのだ。

電動化のメリット

動力の電動化により、eVTOLはヘリコプターに比べ部品数が少なく、整備の手間やコストが下がると予想されている。また、電動化は自律飛行との親和性が高いため、遠隔監視・操作による自動運転の導入など無人化への道も拓ける。飛行時の騒音も低く抑えられる可能性が高そうだ。

■ヘリコプターの開発企業

ヘリコプターの開発企業は、仏エアバスの子会社エアバス・ヘリコプターズや米シコルスキー・エアクラフト、テキストロン傘下のベル・ヘリコプター、レオナルド、ロシアのロシアン・ヘリコプターズ、中国のアビチャイナ・インダストリ・テクノロジーなどがメジャーだ。日本国内では、川崎重工と三菱重工、富士重工が開発・製造を行っている。

ヘリコプターの電動化を図る動きもある。ベルは2020年、従来型のテールローターを撤廃し、電動ファンに変える構想を発表している。

また、eVTOL Japanは2020年開催のフライングカーテクノロジー展で、米ロビンソン製のヘリコプターのパワーユニットを換装して電動化した開発機を初公開している。運航データを蓄積し、将来的には自動操縦システムも導入する計画だ。

ヘリコプターをベースとしたモデル以外にも、エアバスやベルなど多くのメーカーが新たなeVTOLの開発に力を入れている。各社とも、次世代エアモビリティサービスを見越した事業シフトを進めているようだ。

■eVTOLの開発企業
航空機やヘリメーカーはじめ新興勢が続々参入

eVTOLの開発は、航空機メーカーやヘリコプターメーカーをはじめ、新興勢の台頭が著しい。米Joby AviationやArcher Aviation、独Liliumなどすでに上場を果たした企業も出始めている。

Archer Aviationはユナイテッド航空から最大200機、Liliumはブラジル航空会社から220機をそれぞれ受注するなど、大型契約も続発している。

【参考】空飛ぶクルマの受注については「空飛ぶクルマ・eVTOL、欧米で100機以上の大量受注続々!」も参照。

国内でも新興勢が台頭、自動車メーカーも注力
出典:テトラ・アビエーション社プレスリリース

国内では、SkyDriveやテトラ・アビエーション、エアロネクストなどの新興勢が活躍中だ。テトラ・アビエーションはすでに販売も開始している。

【参考】テトラ・アビエーションについては「空飛ぶクルマ開発のテトラ、4.5億円新規調達!人材強化へ」も参照。

自動車メーカーも参入に意欲的だ。トヨタはJoby Aviationに出資し、eVTOLの開発・生産で協業を進めている。航空機の開発を手掛けるホンダもeVTOLの開発を本格化させているようだ。2021年に発表した現在取り組んでいる技術開発の方向性の中で、「Honda eVTOL」の存在を明かしている。

HondaJetのノウハウをはじめ、量産車やレース活動で培ったハイブリッド技術などをつぎ込んでおり、垂直離着陸用に8つのローター、推進用に2つのローターを備えたマルチローター構成で、機能を分散化することでより高い冗長性を確保するという。

また、航続距離を大きく延ばすことが可能なガスタービン・ハイブリッド・パワーユニットを搭載し、400キロの航続距離を確保するという。

【参考】トヨタとホンダの取り組みについては「トヨタとホンダ、新たな戦い!空飛ぶクルマ、勝つのはどっち?」も参照。

■ヘリコプターとeVTOLの価格

ヘリコプターは格安モデルで数千万円、高いモデルは数十億円とラインアップは幅広い。

一方、市場化が始まったばかりのeVTOLは、販売実績が高い中国EHangのeVTOL「EH216」が33万6,000ドル(約4,900万円)、米New Future Transportationの空陸両用のeVTOL「ASKA」が78万9,000ドル(約1億1,400万円)、オランダのPAL-Vが開発を進めている空陸両用モデル「Liberty」の最初のロットが75万ドル(1億800万円)となっている。

格安モデルとしては、スウェーデンのJetsonが開発した小型軽量モデル「Jetson ONE」の9万2,000ドル(約1,300万円)もある。

eVTOLはおおむね数千万円~2億円の間となっており、平均価格ではヘリコプターより割安になる見込みだ。また、eVTOLの設定価格が本格量産化を前にした初期段階のものであることを考慮すると、今後価格は落ち着いていくことが想定される。

ヘリコプターに比べパーソナルな利用が可能なため量産ロットも多く、さまざまなエアモビリティサービスが構想通りに実現すれば、価格帯はさらに低下するものと思われる。

■【まとめ】より手軽な利用が可能になる空飛ぶクルマ

現状としては、空飛ぶクルマ(eVTOL)は構造的な違いを背景に、ヘリコプターに比べより手軽な利用ができる新たなエアモビリティとなる。航続距離が短い一方、細かな短距離移動を柔軟にこなすイメージだ。

安全性をはじめ、静粛性の向上などがカギとなるが、離発着場となるターミナルの整備が進めば日常的な中近距離移動の選択肢に空の移動が加わることになる。

また、技術が向上すれば、搭乗人数の増加や航続距離の延長も可能になる。将来的には、これまでヘリコプターが担ってきた役割をそっくりそのまま受け継ぐことも考えられる。

空飛ぶクルマが今後どのような進化を遂げるか、要注目だ。

【参考】関連記事としては「空飛ぶクルマとは?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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